インテリジェント・エンタープライズ化を促進させるデジタルコア:SAP S/4HANA 1909リリース(前編)


SAP S/4HANAはオンプレミス版であれば年に一度、マルチテナント(パブリッククラウド)版であれば四半期に一度、新規リリースを提供しています。このリリース方針に従って、先月20日にオンプレミス版の最新リリースとなるSAP S/4HANA 1909が一般リリースとなりました。2015年11月に最初のリリースが出されてから、5回目の新規リリースとなります。既に英語では下記のようなブログやYoutube動画でご紹介されていますが、本ブログでも概略をご紹介していきたいと思います。

・ブログ: Intelligent ERP: SAP S/4HANA 1909 Release

・概要ビデオ:SAP S/4HANA 1909 Product Launch Video with Sven Denecken

・リリースハイライト紹介ビデオ:
SAP S/4HANA 1909 – Release Highlights with Yannick Peterschmitt

下図はリリースごとの代表的な拡張を記載したものですが、当初のリリースでは機能の高度化およびERPの周辺にあった機能や業界向けアドオンソリューションの取込が多く見られました。

図1

そして2018年の「インテリジェント・エンタープライズ」コンセプトの提唱を境に、①機械学習などの技術を活用した機能の提供が増加しています。SAP S/4HANA 1909でもそれは継続されており、今後もこの流れは続いていくものと思われます。

また、当然それだけではなくインメモリーデータベースであるSAP HANAの能力を生かして②業務の高度化を図る機能も継続して提供されています。

SAPジャパンブログではSAP S/4HANA 1909の概要を2本に分け、前編で上記①、後編で②のカテゴリに入る機能の一例をお伝えいたします。

インテリジェント・エンタープライズの実現に向けた自動化・効率化関連機能の強化

インテリジェント・エンタープライズとは端的に言ってしまうと「従業員がより価値の高い成果に集中できるように人工知能 (AI)、機械学習 (ML)、モノのインターネット (IoT)、アナリティクスなどの最新テクノロジーを活用する企業」のことを指しています。

そのような企業の実現を支えるため、SAPは下記のようなソリューションをご提案しています。

インテリジェント・エンタープライズ概要
ソリューション群のポイントとしては以下の3点にまとめられます。

  1. アプリケーション連携による一気通貫での業務処理(インテリジェント・スイート)
  2. アプリケーション内外からの大量データ取扱&アプリケーション開発基盤(デジタルプラットフォーム)
  3. 機械学習や分析機能を業務プロセスに取り込むことによる業務効率化・高度化の促進
    (インテリジェント・テクノロジー)

そのうち1や3に関連するものとして、下記のような機能がSAP S/4HANA 1909で提供されました。

① SAP Fiori3:複数業務アプリケーションのさらなる統合性

SAP S/4HANAになってからユーザ向け画面として提供しているのがSAP FioriというUIです。タイル型のUIで直観的な操作を実現するだけでなく、後述するEmbedded Analytics(組込型の分析レポート)を通じてSAP S/4HANAの特徴の一つである「基幹系(OLTP)と分析系(OLAP)の統合」が提供されています。また、機械学習など新たな技術を活用した新機能もSAP Fioriベースでの提供です。

今回のリリースではSAP Fiori3という新しいUIに切り替わりましたが、これはSAP S/4HANAだけでなく他のSAPアプリケーションにも適用されていくものとなっています。これにより、今後は例えば購買業務を行っている際、それがSAP AribaなのかSAP S/4HANAなのかをユーザの方が意識することなく、一貫性のある画面で業務を行っていただけるようになっています。

図3② Embedded Analytics:組込型の分析レポートの追加・拡充

ユーザがより早く状況を把握するためにSAP S/4HANAで提供されているのがEmbedded Analytics、すなわち組込型の分析レポートです。従来はユーザが自分から関連レポートを見に行く必要がありましたが、これにより、いち早く対応が必要なものへの気付きを早めることができます。2年前のリリース(SAP S/4HANA 1709)では合計で356本の業務・業種向け組込型レポートが提供されていましたが、リリースごとに新たなレポートの追加を行っており、1909では合計で824本のレポートとなっています。下記は購買領域において追加された組込型レポートの一例です。

購買領域におけるEmbedded Analyticsの例また、事前定義済のレポートだけでなく、CDSビューからKPIの設定、レポート定義、レポートにアクセスするためのタイル作成までできるメニューも新たに提供されました。なお、SAP Fioriベースのものだけでなく、クラウド型の分析アプリケーションであるSAP Analytics Cloudとの連携も強化されていっており、「業務で発生した状況にいかに早く気づき、対応していくか」というテーマに対する機能拡張は今後も継続されていくものと思われます。

③ 機械学習を活用した業務シナリオの追加

2018年のSAPグローバルイベントであるSAPPHIRE NOWでインテリジェント・エンタープライズのコンセプトを打ち出して以降、機械学習を組み込んで業務処理の自動化・高度化を図るアプリケーションが数多くリリースされてきました。SAP S/4HANA 1909でも例えば遅延が発生しそうな要素(仕入先、プラント、リードタイム、発注量など)システムが過去の実績から学習して遅延見込みを算出するなど、新たな機械学習アプリケーションがいくつか提供されています。

提供されている機械学習系アプリケーションの一例④ Situation Handling:例外処理などに対する気付きの通知

また、業務処理の自動化・効率化という意味でリリースされたのがSituation Handlingです。MRPの例外処理などいくつかの処理に対してテンプレートが提供されており、設定することで特定の条件を満たしたアクション(例:MRP実行)実行時に関係者にアラートを配信することができます。組織や仕入先など、細かい条件を設定して通知の発信を行うことで、より的確・迅速に気付いて対応してもらいやすくなっています。テンプレートには数量契約消費予測など機械学習系アプリケーションも含まれているのですが、機械学習処理と組み合わせることにより、業務の自動化をさらに促進させることができます。

⑤ SAP Intelligent Robotics Process Automation(iRPA):自動化による業務効率化

ここ数年、業務効率化というキーワードで取り上げられているのがRobotic Process Automation(以下RPA)です。SAPでも、システムとのやり取りを高度化する会話型AI(Conversational AI)や機械学習と並ぶ形でSAP Intelligent RPAの提供を開始しています。

会計仕訳のアップロードや購買発注の確認など、いくつかはSAP Best Practiceと呼ばれる事前定義済コンテンツとして定義されており、初期設定工数の削減を図ることができます。

前編のまとめ

前編にあたる本ブログでは、SAP S/4HANA 1909の新機能のうち①機械学習などの技術を活用した機能の提供に該当するものとして、

・複数のSAPアプリケーションを統合させるUI(Fiori3)

・組込型分析レポートの追加(Embedded Analytics)

・機械学習アプリケーションの拡充

・特定条件を満たした状況に対するプッシュ型の通知(Situation Handling)

・自動化による業務効率化(Intelligent Robotics Process Automation)

をご紹介させていただきました。ここでご紹介させていただいた機能を活用することで、業務処理の自動化や効率化が推進され、従業員はより付加価値のある業務にシフトしていくという「インテリジェント・エンタープライズ」の姿に近づけるのではないかと考えております。

 

後編では会計や生産など、業務領域におけるSAP S/4HANA 1909のハイライトをご紹介していく予定です。どうぞお楽しみに!