SAP流スタートアップ支援の取り組み――第2回:市民目線でまちづくりを考える、鯖江市におけるオープンデータ活用の取り組み
作成者:奥野 和弘 投稿日:2015年1月26日
こんにちは、SAPジャパンの奥野です。今回のブログでは、SAPを推進するスタートアップ支援の取り組みについて、3回シリーズでお届けしています。前回の吉越からバトンを受け、今回からは私が具体的な取り組みの事例として、福井県鯖江市におけるスタートアップ支援活動についてお話しします。
鯖江市と聞くと、「メガネフレームの製造で有名なまち」と思われた方が少なくないと思います。確かにその通りなのですが、実は鯖江市は、行政データを公開し、それを広く市民の皆さんに自由に活用してもらう「オープンデータ」の取り組みにおいて先駆的な自治体でもあります。同市は、オープンデータ活用を通じた「市民主役の街づくり」や「アントレプレナーシップ(起業家精神)の育成を目的にさまざまな活動を展開し、いくつかの面白い成果を上げつつあります。たとえば、女子高生(JK)の目線から生活に役立つソリューションを提案する「鯖江市役所JK課」という組織を立ち上げたのも、こうした取り組みの結果の1つです(詳細は後ほどご説明します)。
しかしその一方で、このような活動をスケーラブルかつ継続的に実施していくためには、いくつかの課題があることも事実です。SAPは欧米などグローバルでの動向を背景に、鯖江市におけるこのような取り組みが日本におけるスタートアップ支援のプラットフォームとして有望と考え、積極的な支援を行っています。今回はその具体的な取り組みについて触れてみたいと思います。
行政オープンデータ活用の意義とは?
まず、今回SAPが着目している行政オープンデータについて簡単にお話しします。オープンデータは、自治体が保有する地理情報、公共交通機関情報、防災情報、統計情報といった公開可能な公共データを、一般市民に自由に活用してもらおうという考え方ですが、こうしたデータは非常にデータ量が多く、その活用はあまり進んでいません。しかし、行政データを有効活用することによって、生活者にとって役立つ情報や利便性が新たに得られる可能性があります。また、その活用の検討過程において新たなサービスやビジネスのアイデアが生まれたり、行政に対するフィードバックが得られることも期待されます。
実際、世界に先駆けてオープンデータの取り組みを進めている米国のニューヨークやシカゴ、ボストンなどでは、すでにいくつかの成功例も報告されています。これらの事例では、「Code for America」というNPO団体が自治体と市民の間に入り、自治体が公開したデータを「アプリ化」したり、「サービス化」して使えるようにしています。そして、このような活動の中核となるのは「フェロー」と呼ばれるフリーのエンジニアで、企画、制作、実行、全体調整、ポリシー策定などをほぼ無償で行っています。
それにしても、なぜフリーのエンジニアがこのような活動を無償で行えるのでしょうか。実は、米国ではこうした活動を行うエンジニアが、その実績に応じて外部からの高い評価を得ることできる環境が整っており、その後の起業や資金調達がしやすくなるというメリットがあるからです。残念ながら、日本においてはこのような仕組みが未成熟なため、現時点においてCode for JapanとSAPではその代わりに「コーポレートフェローシップ」という仕組みを作り、企業からの人材を受け入れる体制を提案しています。いずれにせよ、行政オープンデータの活用には、市民、自治体、起業家が集うエコシステムを構築できるという大きなポテンシャルが秘められているのです。
女子高生の目線でまちづくりを考える「鯖江市役所JK課」
このような課題意識に基づいて鯖江市は、日本で初となるオープンデータ化に取り組みました。「ITのまち さばえ・データシティ鯖江」と題したこのプロジェクトは、鯖江市に拠点を置くスタートアップ企業「jig.jp(ジグジェイピー)」の代表を務める福野氏の構想から始まりました。jig.jpはオープンデータ活用基盤を民間で作ろうとして、米国の「Code for America」に従って、「Code for Sabae」という団体も設立。そして、jig.jpが提供するオープンデータ利用推進プラットフォームである「オープン・データ・プラットフォーム(open data platform)」の基盤にSAP HANAを 提供し、実証実験の段階からプロジェクトに参画したのが私たちSAPです。
では、なぜ鯖江市だったのでしょうか。もともと同市は、平成15年10月施行の「鯖江市市民活動によるまちづくり推進条例」や平成22年4月施行の「市民主役条例」などといった条例を制定し、市民参加による住民自治や新しいまちづくりを早くから進めていました。また、同市の牧野市長はITリテラシーが高く、本プロジェクトに対しても構想段階から非常に前向きでした。
こうして市役所においては、すでにご紹介した「鯖江市役所JK課」というプロジェクトが発足し、行政から最も距離があると思われる女子高校生(JK)目線で、日々の生活課題を解決する市民協働推進プロジェクトを進めているほか、活動面においては地元のNPOや福井工業高等専門学校も積極的に協力するなど、市民の参加も日に日に拡大しています。まさに鯖江市全市民をあげての、まちぐるみのアントレプレナーの姿がここにあるのです。
これまでにない市民目線のさまざまなアプリが誕生
では、女子高校生目線から生まれたサービスやアプリには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。これまで、民間の手により80以上にのぼるアプリ(2015年1月時点)が提供されていますが、「鯖江市役所JK課」のアイデアに基づいて、jig.jp、SAPが共同開発したアプリ「図書館便利アプリSabota(さぼた)」は、その代表例の1つです。これは、女子高生が図書館に行って、座れる机がないと嫌だなという悩みに応えるもので、図書館にある数少ない勉強机に赤外線センサーを取り付け、空席情報をリアルタイムで収集、公開します。机11席分にとりつけたセンサー代は2万円という、費用対効果の高いアプリになっているということです。
これ以外にも、1日の運行本数が少ないバスの現在地情報を表示して、市民に重宝されているアプリ「つつじバス」や、AEDの設置場所、消火栓の場所表示(冬場は雪に埋もれてしまいわからなくなるので、便利)などが、人気のアプリということです。
このように、市民目線のさまざまアイデアからオープンデータ活用の緒に就いた鯖江市ですが、実はいろいろな課題が山積みです。特にSAPが目指すエコシステムの実現に向けては、解決しなければならない課題がまだまだあります。そこで次回は、データシティを標榜する鯖江が発展していくための課題について、具体的にお話ししていきたいと思います。
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