SAP流スタートアップ支援の取り組み――第3回:鯖江市から始まる未来に向けた地域エコシステム創出のうねり


SAP AG Month of Service bei Anpfiff ins Leben in Ludwigshafen am 11.10.2013こんにちは、奥野です。3回シリーズでお届けしているSAPのスタートアップ支援の取り組みについての最終回です。前回は、行政オープンデータ活用の意義と鯖江市における先進的な取り組みについてご紹介しました。行政オープンデータの活用は、市民、自治体、起業家が集うエコシステムの創造にもつながり、鯖江市はその受け皿として大きなポテンシャルを秘めていることがおわかりいただけたかと思います。図書館アプリ「Sabota」などの有用性の高いアプリも開発されており、その将来性が期待されるところです。しかしながら、今後その勢いを加速させ、エコシステムとしてのポテンシャルを開花させようとした場合、いくつかの課題が浮かび上がってきました。ここでは、その解決に向けた施策について迫りたいと思います。

海外の自治体にみる行政オープンデータの先進事例

まず、SAPが鯖江市のプロジェクトに参画するにあたって最初にしたことは、現状のレビューでした。関係各所、デベロッパー、市役所などからのヒアリングを約1カ月かけて実施しました。その結果わかったのは、総じて鯖江市の皆さんはボランティア精神にあふれた方が多く、ITリテラシーも高く、実際に市民目線のさまざまなアプリが開発されるなど、プロジェクトは活性化しているようにみえるのですが、問題はその大半はあまり使われていないということでした。本当に有効なものは何なのか。それが依然としてわからないまま、次々と思いついたこと、できることをボトムアップでやり続ける状況が続いていました。なかには「Sabota」のようにヒットした企画があったものの、なぜそれが必要だったのかという理由などを共有するまでには至っていませんでした。つまり、市民のアイデアで開発されたアプリについての利用者からのフィードバックを集約する仕組みが欠如していたということです。

次に実施したことは、米国を中心に一定の成果を上げている自治体での事例をレビューし、何を鯖江市に取り込むべきかについての検討でした。ここで主に参考にしたのが、米国ニューヨーク州の事例です。ニューヨーク州では、OPEN NEW YORKという行政オープンデータのためのポータルサイトがあり、あらゆる公開情報が一元管理されています。また、このサイト内では、Open Data Handbookというものが公開されており、ニューヨークにおけるオープンデータ活用のガイドラインが提供されています。なぜデータ公開をするのか、どのようにして活用するのか、といった市民の啓蒙にもつながる内容が網羅されています。

この他にも、米国シカゴ市や日本の福岡市の事例も参考にしました。福岡市では、行政データを市民に向けて公開することを基本原則としており、さらにデータを公開するときは編集可能なデータとして提供しなければならないというルールがあります。つまりPDFなどの形式はダメで、利用者が自由に編集・加工できることを公開の前提としているのです。

こうした関係者からのヒアリングや他の自治体の成功事例のレビューを2カ月弱で行った結果、以下のような3つの施策をとりまとめるにいたりました。

①ポータルサイトの構築
②データ公開手引きの整備
③定期的なアイデアソンの実施

①   ポータルサイトによるオープンデータの統合管理

他の先進的な自治体がそうであったように、鯖江市においても行政オープンデータ活用に関する統一された窓口を作ることは最優先の課題でした。現状でもポータルらしきものはあるのですが、技術者以外の人にとって不親切なものなので、すべての人に開かれたポータルにするという意味合いもあります。ここでは、オープンデータの一覧、オープンデータの意義、そして市民からのフィードバックを得られるような仕組みも備えることになっています。

②   データ公開の透明性を担保する手引きの整備

データ公開に関して、鯖江市ではこれまで個別対応を行ってきました。しかしながら、職員数が他の自治体に比べて少なく、業務量が増えると円滑な処理ができなくなることから、データ公開に関するガイドラインを設定。業務の標準化を図り、業務負担が増えないようにする必要がありました。また、他の自治体の例にみられるのですが、データ公開の透明性を担保し、ロジカルな説明責任も果たす必要があり、このような手引きがあれば、その役割も担うことができるのです。

③   市民参加による定期的なアイデアソンの実施

鯖江市ではこれまでも、市民参加による年に1度のアイデアソンを実施していました。しかし、かなり大がかりで準備の手間や予算もかさみ、一定の開催頻度を維持することができませんでした。シカゴ市などでは毎週実施し、どんどんと新しい試みやアイデアを生み出していることからすると、年に1度では頻度が少なく、小回りでお金のかからない集会を開くことが重要との結論です。

デザインシンキングの手法を活用したアイデアソン

定期的なアイデアソンの実施に関して、SAPはイノベーションを生み出すための思考法のフレームワークである「デザインシンキンング」の活用を提案しました。そして、2014年の11月にその第1回目を実施し、活況を呈しました。市民17名、市役所職員12名、SAP11名という布陣で、「若者が住みたくなる、住み続けたくなる街」「外国人観光客に感動をあたえる街」という2つのテーマで実施し、133の新しいアイデアを得ることができました。「若者が住み続けたくなる町」というテーマは牧野市長の発案。また河和田地区は鯖江市のものづくり拠点であり、メガネフレーム以外の工芸品や製品などのプロモーションが目的です。さらに、2015年2月には次のアイデアソンの実施も予定しています。テーマはなんと「アイデアソンを根付かせるために」という、アイデアソンのあり方、効果的な進め方を議論するものです。

最後に、鯖江市におけるオープンデータの取り組みを強力に推進している牧野市長からコメントをいただきましたのでご紹介します。

Photo奥野さんありがとうございました。Code For Japanコーポレートフェローシップで、はじめて鯖江に来ていただき、2カ月、市の課題抽出に始まり、ヒアリング、世界の先進地の状況を分析、デザインシンキング、そして、核心をついた提案報告書をまとめていただきました。グローバル企業の最前線で日々しのぎを削っておられるトップセールスマンの仕事振りに感服しています。そして、仕事に対するその姿勢、人柄にも、職員には大いに刺激になったようです。

私は、ITを市の3大地場産業(1500年の漆器産業、1400年の繊維産業、110年のめがね産業)に続く、これから100年を支える産業への成長を期待しています。そのかすかな光がオープンデータ、スマートグラスには見えています。提案報告書を羅針盤に明るい鯖江市、エコシステムの定着を目指していきます。Code for Japanの関さん、SAPジャパンの馬場さん、Code For Sabaeの福野さんにもお世話になりました。自治体は“進化が早いIT”に取り残されがちですが、多くの自治体でこの事業を活用して課題解決、住民福祉の向上が進むことを願っております。

鯖江市長 牧野百男

鯖江市から始まる行政オープンデータの大きなうねり

以上、3回にわたってSAPのスタートアップ支援の概略と具体的な事例としての鯖江市におけるオープンデータの取り組みについてお伝えしてきました。SAPのスタートアップ支援の目的は、起業家精神の高揚とそれに伴うイノベーションの創造にあります。そして、それは単一企業の支援という枠にとどまらず、イノベーションを起こすエコシステムを作り上げることを目標としています。鯖江市におけるコーポレートフェローシップの取り組みは、そのプロトタイプとも位置づけられるもので、同様の取り組みを他の地域にも広げ、日本中に大きなうねりを作り上げられればと考えています。このような取り組みには多くの方々のご協力が不可欠です。今後もSAPのスタートアップ支援に積極的なご参画をお願いするとともに、SAPとしても皆様のお役に立てるよう引き続き活動を続けてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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