自動車部品サプライヤーに求められる新たな成長戦略――第1回:監査対応基盤はグローバルビジネスの新たなライセンス

作成者:山﨑 秀一 投稿日:2015年2月20日

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Car Workers Inspecting Production LineSAPジャパンの山﨑です。昨今の自動車業界が直面する度重なるリコール問題については、報道などを通じてご存じの方も多いかと思います。こうした問題は電子的に制御される自動車部品の高度化や仕様の多様化など、急速な技術の進化に起因するものが多く、自動車メーカー(完成車メーカー)のみならず、部品サプライヤーを含めた自動車業界全体の大きな経営課題となっています。ここ数年に発生した大量リコールの例では、製造プロセスや個別部材などの原因も指摘されており、今後は広範な製造者責任の全うがより強く求められるようになることは間違いなく、自動車メーカーから部品サプライヤーに対する監査要請も強まっています。

またビジネスのグローバル化に伴い、部品サプライヤーが業界における持続的な成長を維持するためには、特定の自動車メーカー以外との新たな取引を模索しなければならない状況も大きな課題といえます。しかしながら、一括りに自動車メーカーと言っても、やはりメーカーごとに内示/確定/納入指示サイクル・粒度、品番指定方法、設計変更情報のやりとり方法などの違いがあり、これまで系列取引を通じて培った高度なノウハウを最大限に活用しても、一朝一夕にはいかない多くの側面があります。いずれにせよ、部品サプライヤーは市場の最先端のニーズに応えつつ、安全・安心を担保する必要性に迫られるわけですが、それを担保する仕組みとしての監査対応(トレーサビリティ)と新規取引先の開拓という課題を同時に突き付けられているのです。

自動車業界の収益を圧迫するリコール対応とワランティ

現在、自動車業界におけるリコールの件数及び対象台数は年々増加する傾向にあります。リコールにいたらないまでも、個別の不具合に対してはワランティを支払う必要があり、その金額も高止まりしている状況です。なかにはワランティ支払額が年間で数千億円規模に及んでいる自動車メーカーもあるだけに、この負担を削減するだけでかなりの収益性の改善が見込まれます。自動車部品メーカーとしてはリコールによる業績悪化や経営危機に直面する可能性がある一方で、不具合撲滅に限りなく近づくことで事業収益改善だけでなく、ドライバーが安心して運転できる自動車づくりへ挑戦する自動車メーカーの信頼を高めることにつながります。

一方、こうした不具合は早期に発見できればできるほど、保証費用を削減することにつながります。以前のブログにも書きましたが、現在では故障診断情報やSNSを活用して不具合の早期発見が可能になっています。そして、その要請は部品サプライヤーにも及んでいます。

関連記事:自動車・組み立て製造業のイノベーション最前線―第2回:品質/ワランティ面でのコスト競争力を目指して

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出所)国土交通省 「自動車のリコール・不具合情報」
http://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/data_sub/data004.html

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 必須となる一気通貫の“品質”情報の統合管理

この問題は、自動車メーカーと部品サプライヤーだけが協業体制を強化すれば解決するほど簡単な話ではありません。自動車は販売した後のサポートも非常に重要ですので、ディーラー、販社、メーカー、部品サプライヤーまでを含めた組織横断的な情報の共有と一元管理が必要となります。そこには、車両1台ごとの問題発生から解決にいたるまでの担当者のアサイン、プロセス、ステータス、ドキュメントなど、さまざまな要素が管理の対象となります。

ここから期待される効果としては、ディーラーに入庫した車のオーナーからの問題報告、販社での問題認識、メーカー内の品質保証部や開発・エンジニアリング部門による問題解析・原因究明・解決方法の提示までの一連のプロセスのタイムラグがなくなり、早期の問題解決が可能になる点が挙げられます。また蓄積された情報をFAQ化することにより、ドライバーや車のオーナーへのレスポンスタイムを短縮させ、顧客ロイヤルティが改善されるという効果も期待できます。

こうした一気通貫の体制強化に向けた取り組みは、すでに海外では具体的な動きとして広がり始めています。特に不具合の直接の原因ともなりえる部品サプライヤーに対しては、設計・製造のプロセス全般について多大な要請が寄せられるようになっています。かつての自動車は機械の塊だったわけですが、現在の自動車は車体の大半が電子的に制御される、いわばITの塊です。度重なるリコール問題をみても、センサーや自動制御システムの性能を過信することは大事故を招きますので、こうした観点から自動車メーカーは部品サプライヤーに対して、厳格な監査対応を求めているのです。“品質”情報の統合管理においても、すべて部品の原材料調達/製造工程/出荷に関わる膨大且つ詳細な情報のトレーサビリティ(品質・製造履歴)をしっかり把握するためのソリューションが、今後ますます重要になってくることは間違いありません。

新たな成長を支えるビジネス基盤としての監査対応

また、業界のグローバル化や新しい国や地域への対応では、日本の部品サプライヤーは海外の自動車メーカーと取引する機会が増えてくると思います。というよりも、新たな取引先を増やさないことには持続的な成長目標は達成できない状況がすでに生まれつつあります。こうした業界の過渡期において、海外の自動車メーカーから求められる監査対応の仕組み、業界の新たなスタンダードを確立できていなければ、未来の成長の見通しは立てにくくなります。こう考えると、もはや監査対応はやむを得ないルール対応といったネガティブな課題ではなく、その成否がビジネスの収益に直結する新たな成長基盤ともいえるものなのです。

実際の取引においては、自動車メーカーごとに思想や考え方の違いがあることから、個別対応が必要になる部分も出てきます。たとえば、日本のメーカーでは納入する部品の数量やスペックなどは事前に内示、確定されることが常識なのですが、ドイツのメーカーなどでは車に取り付ける直前まで確定しないことがよくあります。このように在庫管理や変更管理に関して、異なる対応が必要になることも重要な留意点です。これ以外にも営業、販売から品質管理にいたるまでマイナーな個別対応が必要となるケースもありますので、新たな取引先との仕事においては、こうした差異を吸収していく柔軟性も求められることになります。

ドイツが世界に誇る自動車メーカーとの取引を通じて、さまざまな経験を培ってきたSAPでは、世界の自動車メーカーが直面するこれらの課題に対しても、最新のソリューションを通じて解決策を提言しています。次回は、部品サプライヤーにとって必須となる監査対応に有効なソリューションの具体像に迫ってみたいと思います。

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