数字を見て考えよう・行動しよう − 第2回:日本企業の生産性を高めるためのヒント


Businesspeople Working in Car日本の労働生産性が低いということがメディアに取り上げられることがしばしばあります。公益財団法人日本生産性本部が出している「日本の生産性の動向」によれば、 2013年の日本の労働生産性は、73,270ドル(758万円)で、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国中22位、また、主要先進7カ国では1994年から20年連続で最下位となっているそうです。

ここでいう「労働生産性」は、「労働投入量(人数または労働時間)1単位あたりの生産量」として定義されています。生産量(GDP)を労働者数(または総労働時間)で除したものであり、マクロ的な指標です。日本における労働生産性を向上するためには、労働者一人ひとりの生産性を高めることが必要であることはいうまでもありませんが、企業レベルに落としこんで施策を考える場合に、「労働生産性の向上」とはどう捉えればよいのでしょうか。たとえば、日本企業においては「工場現場の生産性は高い 」であるとか、「ホワイトカラーの生産性は低い」というような指摘をよく耳にします。これらの文脈では、「単位時間あたりの生産能力」、あるいは「一人あたりの残業時間」といったような指標を用いて施策を検討することもあるでしょう。

前回の記事では、「決算早期化」を例として、SAPベンチマーキングが企業経営にどういった示唆を与えうるものなのかを見てきました。「決算処理スピードの速い企業」、つまり、高いパフォーマンスを発揮している企業ほど、少ない工数で業務を遂行している、という結果を得ることができたわけですが、このことは経理部門の「生産性」を 考えていく上でのひとつの材料であると言えると思います。今回は他の業務領域におけるベンチマークデータを取り上げながら、「生産性を高めるためのヒント」について探ります。はじめに、「人事」業務について見ていきましょう。

従業員満足度が高いほど人事業務要員が少ない?

グラフ1は、「従業員満足度・仕事意欲(Employee Engagement)」のベンチマークデータを示しています。国内外668社の全体平均は「7.1」ポイントとなっており、上位25%、つまり成績上位層の平均は「8」ポイント、一方、下位層の平均は「6」ポイントとなっています。

“Employee Engagement”は、近年、目にする機会が多くなった言葉だと思います。第三者機関に依頼するなどし、自社のパフォーマンスをベンチマークしている企業も少なくないのではないでしょうか。SAPベンチマーキングプログラムでも、参加企業に”Employee Engagement”を計測する項目に1~10のスケールで回答していただいています。

Graph1

前回取り上げた会計・経理業務では、「決算処理日数」と「決算業務に係る要員数」の2つの指標から決算業務のあるべき姿について検証しました。人事業務においても同様に、この「従業員満足度」と「要員数」の2つの指標を見ていきます。グラフ2は「人事業務要員一人あたりの従業員数」のベンチマークデータを示しています。

Graph2

成績上位層の企業ほど、より少ない要員でより多くの従業員に対する人事業務をカバーできていることを示しています。ただ、この指標のみで成績上位層の「生産性が高い」とは、必ずしも言い切れないでしょう。生産性のひとつの側面をあらわす指標であるとは思いますが、成績上位層が必ずしも高い「従業員満足度」を生み出しているかは分からないからです。冒頭にも触れた通り、「労働生産性」は「労働投入量1単位あたりの生産量」です。より有意な分析を行うために、なにをもって「生産量」とするかは注意が必要です。

前回は、「決算処理日数と要員数の相関関係」を分析し、「生産量」をより有意に捉えようとしました。単純に要員数(=投入量)が少ないというだけではなく、より速い決算処理スピード(=生産量)を求めるべきと考えたわけです。今回は「従業員満足度」を「生産量」として捉え、要員数との相関関係を見て行きましょう。実際に分析した結果をグラフ3に示します。

Graph3

左の棒グラフが示す「従業員満足度」が「高い」グループ(Top Quartile)は、人事業務要員一人で「114人」の従業員に対する人事業務をカバーしています。一方、右の棒グラフが示す「従業員満足度」が「低い」グループ(Bottom Quartile)では、人事業務要員一人がカバーする従業員数が「105人」と少なくなっています。

「決算処理日数」における考察と同様、「従業員満足度」のベンチマークデータにおいても、よりよい結果を得ている企業は、より少ない要員数で業務を行っているという相関関係が明らかとなりました。より少ない工数で、より高い価値を実現している、つまり、「生産性が高い」ということが言えると思います。

業務プロセスの生産性に関するベンチマーキングからの洞察

このように、SAPベンチマーキングプログラムでは、さまざまな業務領域から収集したデータを、さまざまな角度から分析しています。「決算処理日数」と「従業員満足度」については、順を追って数字を見てきましたが、それ以外の業務領域についても、ベンチマークデータから得られた洞察をいくつかあげてみたいと思います。

グラフ4は、調達業務要員数が少ない企業ほど、より多くの調達オーダーを処理していることを示しています。ここでいう「調達業務要員数」は 、比較可能性を担保するため、企業規模に関わらず「支出1億ドルあたり」に必要な要員数として換算した上で分析しています。要員数の詳細なデータの紹介は省きますが、3つの棒グラフの見方 は、先のグラフ3と同様です。すなわち、左の棒グラフが示す「調達業務要員数」が「少ない」グループ(Top Quartile)は、調達業務要員一人で「2423」の調達オーダーをカバーしており、右の棒グラフが示す「調達業務要員数」が「多い」グループ(Bottom Quartile)より高い生産性を実現している、と言えます。

Graph4

調達業務には、仕入先との調達オーダーのやりとりだけではなく、仕入先の発掘・選定や評価、契約管理、また、集中購買といった戦略立案やその実行など、多くのプロセスが含まれます。調達オーダーの処理は、仕入先マスタデータの整備や仕入先とのデータ自動連携(調達オーダー、請求など)によりプロセスの効率化が図られます。成績上位層は、それら「トランザクション業務」に割く工数を極力少なくし、「生産性」を高めていると捉えることができます。より戦略的な業務にシフトすることが目指せる状況にあると言えるでしょう。

グラフ5は、 納期遵守率が高い企業ほど、受注・請求・回収に係る業務要員数が少ないことを示しています。ここでいう「受注・請求・回収に係る業務要員数」は 、先程と同様、比較可能性を担保するため、企業規模に関わらず、「売上高10億ドルあたり」に必要な要員数として換算した上で分析しています。

Graph5

「納期遵守率」を高めるためには、適切な製品ポートフォリオとあわせ、適正な在庫レベルを維持する必要があります。また、そのために需要計画や生産計画を含むサプライチェーン計画業務を高度化する必要があります。成績上位層は、「受注・請求・回収」といったトランザクション業務からシフトし、トータル業務コストを抑えながら、より高度なプロセスに取り組んでいるということがうかがえます。

グラフ6は、詳細日程計画(製造)の見直しを頻繁に行う企業ほど、サプライチェーン計画業務要員数が少ないことを示しています。「詳細日程計画の見直しを頻繁に行う」には、多くの要員が必要と想像される読者の方も多いのではないでしょうか。生産現場で、ホワイトボードに計画を示し、いくつもの「特急」オーダーが付箋で貼られ、何度も計画の組み換えが行われているような場面を想像すると確かにそうかもしれません。お客様からの要望に応えるためにも、必要な業務であることはもちろんです。

Graph6

そういった業務をより少ない人員で遂行するためには、顧客オーダーと生産オーダーの紐付けがリアルタイムに連携できていること、あるいは、部材や能力の制約を考慮したスケジューリングを素早く実行できることなどが必要となってきます。成績上位層は、それらの業務・システムを実装し、高い生産性を実現しているものと受け止めます。

「生産性が高い」ということを、ベンチマークデータを頼りに紐解いてきましたが、いかがでしたでしょうか。上記以外にもさまざまな分析結果がありますが、一貫して見えてくるのは、高いパフォーマンスを発揮している企業ほど、少ない工数で業務を遂行している、ということです。いまの業務プロセスを見直して、よりシンプルなものにしなければと考える読者の方もいるでしょう。また、より高度な・新しい取り組みにチャレンジしている読者の方は、限られた人員・工数をいかに有効に配分するか、ということに思いを巡らせたかもしれません。「日本の労働生産性が低い」ことに対する「打ち手」を探る中で、個々の企業におけるさまざまな業務の生産性向上を検討する際のヒントとなれば幸いです。

SAPベンチマーキングプログラム

SAPが提供するベンチマーキングプログラムは、会計・経理、人事・給与、タレントマネジメント、調達、製造、サプライチェーンといった数多くの業務領域をカバーしています。業務領域ごとのベンチマーキングサービスは無償でご活用頂けるサービスであり、日本においても多くのお客様からの参画をいただいております。このサービスを活用することで、自社のパフォーマンスを客観的に測定しながら、「次の打ち手」を検討することにつながります。ご興味をお持ちの方は、SAPジャパンにお問い合わせをいただければ幸いです。

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