自動車部品サプライヤーに求められる新たな成長戦略――第2回:組織を横断した「品質情報コックピット」の確立

作成者:山﨑 秀一 投稿日:2015年2月27日

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Industrial designer using CADSAPジャパンの山﨑です。グローバル化する時代に求められる自動車部品サプライヤーの成長戦略について考える連載シリーズの第2回。前回はリコールの件数が年々増加し、自動車メーカー1社あたり毎年数百億円から数千億円のワランティ支払額が収益を圧迫する自動車業界において、厳しい監査対応を迫られている部品サプライヤーの現状をお伝えしました。そこでは、部品調達から製造、販売、アフターサービス、保守を含む製品ライフサイクル全体での情報共有と一元管理、すなわち品質情報の統合管理が不可欠であり、またこうした仕組みを支える人手に依存しないソリューションが必要となります。では、この品質情報の統合管理を実現するためのソリューションとは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

SAPでは、自動車業界の監査対応を支援するソリューションとして、以下の2つを提供しています。自動車業界で培った豊富な知見をベースに標準化されたソリューションの活用によって、部品サプライヤーは監査対応を早く、安く、的確に実行することができます。

1. SAP Manufacturing ExecutionSAP ME

  • 工場の工程レベルの監査対応に有効。
  • 受発注業務や生産計画業務などで発生する伝票/指示書、品目コード、部品表などのマスターデータとシームレスな自動連携が可能であり、製造現場における製造プロセス全体のコントロールや分析、レポートをリアルタイムで実行する。

2. SAP Quality Issue ManagementSAP QIM

  • 業務や組織横断型の品質監査対応に有効。
  • 企画、開発、調達、生産、営業、アフターセールス、設計変更管理など製品ライフサイクルに関連するすべての業務や工場間での品質情報の一元管理や、自動車メーカー/原材料サプライヤー/外注先との品質情報の共有ハブとして機能する。

SAP MEで年間約1.5億円のコスト削減を実現したグローバル電装機器メーカー

工場単位の監査で重要となるのは、製品のシリアル番号ごとに部品の出所、製造条件、環境が紐付けられて管理されていることです。カーナビゲーションや音声通信機器のようなインフォテイメント関連製品の場合、リール巻で提供される半導体部品、たとえばそれぞれのICチップが、いつどこで製造されて、それがどのリール(シリアル番号)のもので、どのプリント基盤にマウントされ、どのカーナビゲーションシステムにいつ組み込まれたのかといった情報が管理されていなければなりません。さらに、その際の工場の温度や湿度などといった環境データなども併せて記録しておく必要もあります。

工場内におけるトレーサビリティで求められる主な要件としては、以下が挙げられます。

  • 原材料/部品から半製品を経て製品にいたるまでの、製造ライン別、工程別、品目別情報の一元管理
  • 原材料/部品起点、製品起点の両方向から、人手を介しない情報追跡
  • リール部品のロット管理、リールに付与されているすべての電子部品のきめ細かな粒度の記録、製造機械や治具情報の記録、製造された状態の記録(温度や湿度など)
  • 水平方向(部品サプライヤーから自動車メーカーまで)と垂直方向(トップフロアーからショップフローまで)までのリアルタイム情報連携
  • 自動車メーカーの新規工場展開に遅延なく、自社工場展開の足かせにならずに工程トレーサビリティシステムを横展開できること

従来、これらの情報は部分的に人手を介して管理されているケースがありましたが、自動車業界の現状をみる限り、今後はもうそれでは済まされません。網羅性、正確性、それと迅速性が何より重要になる自動車業界のトレーサビリティにおいては、ITの力が不可欠なのです。

グローバルで事業を展開する海外の電装機器メーカーでは、SAP MEを導入して、自動車メーカーの監査対応体制を実現しています。この企業は、事業拡大のために新製品を投入して量産を活発化させたいという意図の一方で、新製品につきものの品質不良を防ぎ、リコール時には迅速に対応、また同時に多数の顧客の要求に柔軟に応えるための条件もクリアしたいと考えていました。SAP MEを用いて、トレーサビリティ、柔軟な製造手順の設定、SPC(統計的工程管理)分析、生産情報移転、SAP ERPとの統合、自動データ収集、テスト/修繕を実現しました。その結果、品質向上、材料費節減、生産性向上、不具合・リコール撲滅といった明確な効果が現れ、そこから生まれたコスト削減効果は1つの工場あたり年間で1~1.5億円にも上るといいます。

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SAP QIMを活用した組織横断型の「品質情報コックピット」

品質情報の統合管理を支えるソリューションは、別名「品質情報コックピット」とも呼ばれています。ここでは工場の製造現場にとどまらない、製品企画、開発、調達、生産、営業、そしてアフターセールスまで、すべての業務/拠点での横断的な品質情報管理が不可欠です。それを支援するのがSAP QIMなのですが、こうした横断型の監査対応の要件を挙げると以下にようになります。

  • 原材料、部品、製品に関連する品質情報の一元管理
  • エンジニアリング部、調達部、生産管理部、品質保証部、営業部など品質情報に関わるすべての部門からのタイムリーかつ使いやすいアクセスの実現
  • 問題解決のためのプロジェクト定義、組織編成、タスク・スケジュール定義、進捗管理
  • 8Dプロセスに対応
  • 複数の品質情報システムとの情報連携やシステム横断的な原因究明や問題分析
  • 仕入先との共同問題解決や自動車メーカーへの適切な品質情報の提供

SAP QIMは、品質に関わる情報共有と解決策を模索するプロジェクト化が容易に形成できるので、非常に機動的です。コックピットという俗称のとおり、品質およびその改善に関するプロセスが可視化されるのです。

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部品サプライヤーの競争力を左右する最優先の経営課題

自動車メーカーによる部品サプライヤーへの監査は、黒船の如く突然やってきます。ここで合格ラインに達することができないと、緊急措置のための新たな投資が発生し、指定期日までに社内外の関係者がその対応に追われることになります。最悪の場合には、取引停止や新規車両への入札ができなくなることもあり、部品サプライヤーは常にこうした準備を怠ることができないのです。つまり、ITを活用した品質情報の統合管理は、今後ますます部品サプライヤーの競争力に大きな影響を及ぼす重要な経営課題だということです。

さて、この連載も次回で最終回となります。ここまでの2回は、リコール件数が増加する自動車業界の現状、部品サプライヤー側の監査対応の重要性、またこれらを支えるSAPソリューションについてお話をさせていただきましたが、最終回は監査対応をネガティブな守りの対応に終わらせず、攻めの成長戦略につなげていくための施策についてお話したいと思います。

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