産業界で起きているビジネスモデル変革のうねり――第1回:現場で起きているレベニューイノベーション


Testing the shops' assortment of laptopsこんにちは、SAPジャパンの柳浦です。産業界では今、競合ひしめく市場で優位に立つべくビジネスモデル変革のうねりが急速に高まっています。この連載では、産業界で起きているビジネスモデル変革を整理するとともに、従量課金ビジネスといった“レベニューイノベーション(売上構造変革)”が起こっているその背景や、それを加速させているテクノロジーの側面についてもお話していきたいと思います。

連載第1回は、ビジネスモデル変革がいま確かなうねりとなっている背景について、産業界のビジネスにおける課題とともに明らかにし、それに対して取り組んでいくべきポイントについてお話します。

モノ売りの限界 (売り手の視点)

まずはビジネスモデル変革が起こっている背景について、「売り手」と「買い手」それぞれの視点に分けてみていきましょう。まずは売り手の視点です。

私たちの周りにある家電製品や情報通信機器を見てもわかるとおり、技術革新が進んでいる現在では、製品そのもので他社と差別化するのが難しくなってきています。モノのコモディティ化が進んでいる先進国では、すでにモノ売りが限界に近づきつつあるのが現実です。技術力を落とさず、さらに維持進化させていくためには、絶え間ない製品のイノベーションは必要となるでしょう。もちろんこれは非常に重要なのですが、製品の高機能化は必要以上に高価格化を招き顧客の購買意欲をそいでしまいます。さらに、高機能製品を他社に先んじて開発したとしても、すぐに2番手、3番手のフォロワー企業にキャッチアップされてしまい、先行者メリットを享受できる期間はそう長く続きません。そうした新興国やフォロワー企業が急速な勢いで追い上げてくる中、視点を変えてミドルレンジの製品で勝負をしても、競争環境は高機能製品市場以上に熾烈であり、たちまち疲弊してしまうことになるでしょう。

他社と差別化するのが難しくなってきているのは、顧客との関係を築いたり、それを維持したりしていくことについても同様です。旧来の「モノ売り」の場合、顧客にその都度提案をしたり、価格の見積もりを出したりと、顧客との間で毎回同じようなやりとりが発生します。継続的な関係の維持しながら長い期間、自社の商品やサービスを利用してもらうためには大きなパワーを要するものです。特にB2Bのように、顧客との間に販売パートナーを挟んだり、アフターサービスを別会社が担当したりする場合、顧客との関係は希薄にならざるを得ません。

こうした限界点をクリアするためには、それまでの常識を振り払い、売り手が価格競争から脱却するすべ、ゲームチェンジを本気で考える必要が出てきているというのが産業界全体の課題といえます。

顧客が欲しいのは「モノ」ではない (買い手の視点)

次に買い手の視点です。買い手の立場からすれば、できるだけ良い品質や機能の製品を購入したいのは当然です。しかし、本当にそこまで必要かどうかわからないものに対して、最初から高いコストをかけるのはリスクになります。

一方、コストを削減するために、代理店などを通して割安の値段で買ったり、保守費用を節約したりしてしまうと、十分なサービスレベルを維持することができなくなり、ビジネスに支障が起きかねません。特に製造機器、医療機器、工作機械やオフィス機器などでエラーやトラブルが発生すると、その機器を使う自社の業務やビジネスに多大な影響を与えてしまうリスクを常に考えておかなければならないでしょう。

では顧客(買い手)が求めているものは何でしょうか?機器などの「モノ」ではなく、その機器などを使用して得られる「価値」や「アウトプット」、場合によっては「体験」ということになるのではないでしょうか。

産業界で起きるビジネスモデル変革“レベニューイノベーション”とは

以上のように、産業界でビジネスモデルの変革が起きつつある中で、市場で今注目されているのがレベニューイノベーション(売上構造変革)です。レベニューイノベーションとは、製品やサービスに対するアウトプットやパフォーマンス、成果に対価を支払ってもらう新しいビジネスの形で、いわゆる「Pay per use」や「Pay per performance」といわれる課金型のビジネスに相当します。究極的には、初期導入費用は不要で、売上は実際に使われてからパフォーマンスや成果に応じて払う。こうした方向に進化していくことは間違いありません。

ただし、このモデル自体は決して新しいものではありません。私たちが日常生活で使っている電気、ガス、水道などの公共インフラや、電話やプロバイダー、タクシー料金など、周りを見渡すと昔から従量課金型のビジネスが多数存在しています。しかし、B2Bの世界では、こうした従量課金ビジネスは最近までそれほど存在しませんでした。実は、産業界では1990年代のゼロックスがこのビジネスモデルの先駆者で、プリンター単体売り、消耗品売り、アフターサービス売りといった従来型のモデルから、1枚の印刷に対していくらという従量課金型に改めて成功を収めました。それがきっかけで、プリンターメーカー以外にも従量型のビジネスモデルが波及することになり、今ではあらゆる企業や業界がこぞって従来型モデルを採用し始め、成功を収めています。ちなみに、日本でも2014年8月にエプソンが初期導入コスト0円、月額課金の「スマートチャージ」を開始して話題になったことも記憶に新しいと思います。

フィリップスLED照明のレベニューイノベーション

プリンター以外のユニークな課金型のビジネスというと、電動歯ブラシや調理家電でおなじみのフィリップスのLED照明が挙げられます。LED照明は白熱電球や蛍光灯と比べて消費電力が圧倒的に低いというメリットがある反面、初期費用が高いというデメリットがあります。フィリップスでは、この初期費用を0円にする代わりに、毎月の利用量に合わせて課金する従量型モデルを採用しました。

アメリカのワシントン首都圏交通局(WMATA)はこのサービスを利用して1万3,000台の照明機器をLEDで一気に入れ替え、年間200万ドル(2億4,000万円)のコスト削減を実現しています。フィリップスはLED照明を初期費用無料で提供する代わりに、電力料金の何%分かの料金をWMATAに請求し、なおかつ10年間という長期契約を結ぶことで安定した収入を確保しています。フィリップスから見れば長期の大型契約が実現し、WMATAから見れば年間200万ドルの電気料金が削減できる、まさに両者にとってWin-Winのビジネスモデルということになります。

 

以上のように、製造業における課金型のビジネスモデルは、買い手に大きな満足度を与えるものであり、買い手にとっても効果的にビジネスの成長が期待できる新たな潮流と捉えることができます。現場で起きているレベニューイノベーションに乗り遅れないためにも、産業界の事業者はいち早く価格競争から脱却し、ゲームチェンジに乗り出す必要があるのではないでしょうか。

次回は、レベニューイノベーションが企業にどのようなインパクトをもたらしたのか、製造業で成功を収めている事例を通して、より具体的に考察していきたいと思います。

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