IoTを牽引するイスラエル発スタートアップ企業――第1回:患者の長期入院を抑止する医療機器メーカーEarlySense


最近、IoT(Internet of Things)という言葉を耳にする頻度が多くなったのではないでしょうか。IoTは、あらゆるものがインターネットに繋がることを表現している言葉ですが、センサーやカメラがモノの状態を捉えてヒトに何らかのアクションを促す、というのが典型的なシナリオです。社会インフラとしてのIoT、産業界がリードするIoTというのもありますが、スタートアップ企業(ベンチャー企業)によるイノベーションが近年のIoT活性化のカギを握ると言えます。

SAPもスタートアップ支援として、「SAPスタートアップ・フォーカス・プログラム(SAP Startup Focus Program)」をグローバルレベルで展開し、今では57カ国、1900超のスタートアップ企業の支援をしております。主にビッグデータ、予測やリアルタイム分析の領域でSAP HANA上で稼働する新しいアプリケーション開発を促進しております。(出典1)

startupfocus

本連載では、SAP スタートアップ・フォーカス・プログラムを通して急速に成長するスタートアップ、中でも「イスラエル発」の斬新なスタートアップ企業の成長ストーリーをご紹介していきたいと思います。SAPは、欧米・インド・中国・日本を含む多くの地域でスタートアップ企業の支援を行っているわけですが、そもそもなぜイスラエルなのかにまずは少し触れてからいくつかの事例をご紹介していきたいと思います。

イスラエルってどんな国

イスラエルは人口817万人(2014年3月)、面積2万2072㎢(日本で2番目に大きい岩手県の約1.4倍)という小国ですが、1人あたりのGDPは3万7035米ドル(2013)と日本とほぼ同じぐらいの国です。直接投資の動向をイスラエルの国際収支統計でみると、2013年の対内直接投資(*1)は前年比24.5%増の118億400万ドルに拡大しました。対内クロスボーダーM&A(*2)の件数は37件、国別では米国が26件と約7割を占めています。米国の割合が大きい理由としては、米ナスダック市場での国別上場件数でイスラエル企業が上位に位置していること、イスラエル企業が米国の会計基準を採用していることなど、米国企業がM&Aを実施しやすい状況にあることが挙げられます。(出典2)

israel map

イスラエル企業には、優秀な人材と次世代技術を有するベンチャー企業が多いのですが、その技術、ノウハウ及び人材を獲得するため、欧米、中国、韓国企業などによる企業買収および研究開発拠点の設立が続いています。日本企業も2013年8月にバイオブースト、武田薬品工業と米ジョンソン・エンド・ジョンソンが共同出資するベンチャー育成施設の設立を発表、2013年9月には安川電機が福祉機器を開発するアルゴメディカルテクノロジーズとの資本提携および戦略的協業に関する契約を締結、2014年2月には楽天がモバイル・アプリケーション・ベンチャーのバイパー・メディアの買収を発表するなど、イスラエルのベンチャー企業に対する日本企業の姿勢に変化が伺える状況です。以下で具体的な事例を見ていきましょう。

IoTで患者の長期入院を抑止する医療機器メーカーEarlySense (アーリーセンス)

バイオテクノロジー、センサー技術を融合した医療機器市場において成長著しいスタートアップ企業が、EarlySense(アーリーセンス)です。この会社は2004年イスラエルで創業し、その後アメリカ・マサチューセッツ州にも拠点を設けており、現在は米国・カナダ・欧州を中心に事業展開をしております。

事業のコアは、マットレス下に設置するパッドサイズの非接触型モニタリングデバイスを用いた病院向けのソリューションです。パッド型のセンサーは呼吸、心拍数、ベッド上での動きをモニタリングします。患者の体に接触させて計測するわけではないので、患者側のストレスは少なくて済みます。取得されたデータは、ベッドサイドやナースステーションのモニターに表示されるだけでなく、必要な警告メッセージが看護師の携帯電話にリアルタイムで通知されます。

元々は看護師が4~5時間おきにチェックするぐらいの重篤度の低い患者向けですが、ベッド脇の設定画面でナースコールが必要な状況を段階ごとに設定できるため、患者の求める介護レベルに柔軟に対応できます。蓄積されたデータを元に、たとえば患者の心拍数がしきい値を超えた場合にアラートを発するなど、継続的なモニタリングによって患者の容態悪化を未然に察知することが可能です。最近ではモニターを集中管理室に統合し、ベッド脇の機器を取り去り病室をすっきりさせて快適な病室環境の向上にも努めています。(出典3)

earlysense pad how to work

EarlySenseのソリューションによりさまざまな効果が報告されています。入院患者の健康管理として、落下や転倒、褥瘡(じょくそう:床ずれとも呼ばれる)や感染症の管理は重要です。入院患者の3%が落下を経験するとされており、そのうち30%は重大な怪我に結びついているというデータもあります。褥瘡は全入院患者の5%に起きるとされ、寝たきりや感染症など長期の入院に繋がるとされています。こういった課題にEarlySenseを用いることで、患者の落下頻度を62%削減、褥瘡の発生数を75%削減、平均入院期間を13.8%削減し、容態急変によるハイレベルのケアに移送される数を60.5%削減しました。(出典4)

EarlySenseは、従来は病院向けのソリューションでしたが、最近は一般家庭向けに最適化されたソリューションとしても展開しています。一般家庭向けのサービスに展開していくためには、病院内だけでないオープンネットワークに接続可能であり、一般ユーザーが操作可能なユーザーインターフェース、世界中で発生する大量データを処理する必要があります。そこでEarlySenseは、SAP HANAをクラウド環境で利用するSAP HANA Cloud Platform(HCP)に着目しました。(出典5)

image1

earlysense mobile

EarlySenseがSAP HANA Cloud Platformを選択した理由としては、以下4つをあげています。

  1. グローバル規模で利用可能なPaaS(platform as a Service)で提供されていること
  2. ウェブ、モバイルの両方に対応し、容易に拡張可能なSAP UI5(HTML5)ベースのインターフェースを持っていること
  3. リアルタイム処理と機能拡張性に富んだSAP HANA上で稼働すること
  4. 信頼性の高いアクセス制御のメカニズムを持つこと
  5. バックエンドのSAP CRMやSAP HCMとの接続性に卓越していること

earlysense hcp

電子機器メーカー大手のサムスンも参入

2015年1月、米国ネバダ州ラスベガスにおいてCES(Consumer Electronics Show、通称セス)が開催されました。サムスンエレクトロニクスによる基調講演の中で、同社CEOのBK YOON氏がEarlySenseに触れていました(出典6)。2015年のCESはIoTのエッセンスを取り入れた製品サービスの紹介が満載でしたが、その中でサムスンがEarlySenseを取り上げた背景の一つには、$20Mのファイナンシングラウンドにサムスンベンチャーが参加($10M)したこともあります(出典7)。医療関係のビジネスには政府による許認可が伴いますが、韓国にも市場参入することができるようになったというニュースが2015年2月に公表されました(出典8)。これらの事業を後押しすると共に、EarlySenseがグローバルで成長していったときに、医療関係者が利用する携帯端末としてサムスンの製品が売れる、という思惑もあることでしょう。

earlysense CES2015

スタートアップの勃興、その中で有望な会社と提携する大手企業、これからますますこういった話が増えていくことが予想されます。新しい技術によるブレークスルー、業界を超えたビジネスモデルのイノベーションなど、さまざまな形でSAPは関わっています。イスラエル・スタートアップ支援を紹介する本連載ですが、次回もまた別のスタートアップ企業を取り上げたいと思います。

(出典1)SAPスタートアップ・フォーカス・プログラム(SAP Startup Focus Program)
http://startupfocus.saphana.com/

(出典2)ジェトロ世界貿易投資報告・イスラエル
https://www.jetro.go.jp/world/gtir/2014/pdf/2014-il.pdf

*1 対内直接投資:経営参加や技術提携などを目的に国外から行なわれる投資。 直接投資は通常、国内企業へのM&A(合併・買収)や現地法人設立などの形をとります。 直接投資によって雇用の創出や輸出拡大、国外からの技術移転などが期待できるため、 新興国はとりわけ積極的に直接投資を受け入れています。(https://www.daiwa-am.co.jp/guide/pdf/etc_130806.pdf)

*2 クロスボーダーM&A:M&Aの当事者のうち、譲渡会社または買収会社のいずれか一方が外国企業であるM&A取引のことを指す。

(出典3) Early Sense Systemの説明動画
https://www.youtube.com/watch?v=GJo7rQOKLvE

(出典4)Welch Allynによるレポート
http://www.welchallyn.com/content/dam/welchallyn/documents/upload-docs/Research/Proof%20Point/Welch-Allyn-EarlySense-Consolidated-Proof-Points.pdf

(出典5) SAPプレスリリース:Healthcare Check-Up: Patient Monitoring with SAP HANA Cloud Platform
http://www.news-sap.com/earlysense-patient-monitoring-sap-hana-cloud/

SAP Technology提供の動画
https://www.youtube.com/watch?v=7qKhJ2o2QjU

(出典6) 2015 CES KEYNOTE ADDRESS by BK YOON EarlySense
https://www.youtube.com/watch?v=cyv4DalCh38

(出典7) EarlySense Secures $20 Million In Financing From Round Led by Samsung Ventures
http://www.earlysense.com/news-and-events/news/jan-20-2015/

(出典8) EarlySense Further Increases Its Presence in Asian Markets with Regulatory Clearance and a New Leading Distributor in South Korea
http://www.earlysense.com/news-and-events/news/feb-25-2015/

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00)