「SAPは高嶺の花」はすでに過去の話。「ガリガリ君」の赤城乳業がSAP ERPで挑む経営基盤の革新


img_gari年間で5億本以上を売り上げるかき氷アイスのヒット商品「ガリガリ君」でおなじみの赤城乳業株式会社は、従来から季節変動の影響が大きいアイスならではの「原価管理」「経費削減」が継続的な経営課題となっていました。そこで、同社は各部門に分散していた基幹システムを統合し、商品の製造から在庫、販売までのプロセスを最適化するために、国産のERPパッケージを中心に17社にRFIを送付した中から、最終的にSAP ERPの採用を決断しました。当初、国産のERPにこだわっていた同社が、なぜ土壇場で方針を転換するにいたったのか? 2015年3月13日に東京で開催された「勝ち抜く製造業セミナー」において、同社の財務本部 情報システム部 部長を務める吉橋高行氏がその内幕を明らかにしました。

売上の70%が4月から9月まで集中するアイス業界

IMG_7731アイス専業のメーカーとして昭和6年に創業した赤城乳業は現在、コーポレートスローガンに「あそびましょ。」を掲げ、人気の「ガリガリ君」をはじめ、「赤城しぐれ」「濃厚旨ミルク」「ドルチェTime」など約200種類の商品を一年間で世に送り出しています。製品の生産は、埼玉県深谷市と本庄市の自社工場で総数の8割を超えるのですが、ここにはアイス業界ならではの生産調整の難しさがあると吉橋氏は話します。

「アイスは7月後半の梅雨明けから8月上旬をピークに4月から9月までの期間に、売上全体の70%が集中する特殊な商品です。当社の場合、夏場は生産許容量を販売数が大きく上回ることになるため、見込み生産によって春先に在庫を備蓄しています。ところが、春先の在庫数を増やし過ぎると、それだけ倉庫保管料がかかり、経営を圧迫することになります。1カ月の保管料は原価の約2%を占めるため、春先の在庫コントロール次第で収益が大きく左右されることになるのです」

中期経営計画で「売上390億円、利益率10%」の実現を掲げている同社は、この目標の達成に向けて、より俊敏できめ細かな経営管理基盤を求めていました。しかし、それまでのシステムは、生産、販売、在庫、会計などの各部門が独自に構築・運用を行っていたため、システム間の連携がとれていません。そこで、同社は2010年7月に社内のキーパーソンを集めた「IT統合化委員会」を発足させ、システムに関する課題や問題点を洗い出し、対応方針の検討を開始しました。

IT統合化委員会で現状の課題を把握した後、2011年6月からは本格的にシステム統合を検討する「赤城ITグランドデザイン」の立案フェーズに移行。経営課題や現場課題のヒアリング、現状のシステム調査、業務改善策の検討を重ねていきました。

「社内に14あった業務プロセスを、のべ45部門にヒアリングをした結果、各部門内でのデータの抱え込みが顕著で、Excel資料の作成など多くの作業負担が現場で生じていました。そこで業務フローを整理し、問題点を把握したうえで、5年後の『あるべき姿』をイメージしながら業務プロセスを定義していきました」(吉橋氏)

SAPは高嶺の花」はすでに過去の話

スコープを明確化し、ERPパッケージによる業務プロセスの統合を決定した赤城乳業は、続くシステム選定フェーズに移行し、2011年11月にRFI(情報提供依頼書)を17社のERPベンダーに送付しました。

この経緯について、吉橋氏は「当初は価格や品質面なら国産ERPパッケージのほうが優れているという思い込みがあり、選定の過程ではまず国内ベンダー15社をピックアップしました。2社の外資系ベンダーの製品を加えたのは、あくまで国産パッケージとの比較が目的でした。特にSAP ERPは大企業が使うシステムというイメージが強く、当社のような売上高350億の企業には高嶺の花だと思っていました。何となく使いづらそうで、導入に失敗するリスクが高いパッケージではないかいう懸念もあり、手が出しにくかったのです」と振り返ります。

ところが、310の機能要件に対する各社製品のFit率を算出してみると、SAP ERPのFit率が予想以上に高いことが判明。さらに、導入パートナーのNTTデータウェーブ社が提案した食品業界向けテンプレートを採用することで、低コストで導入できることもわかりました。

「SAP ERP のFit率はRFIの回答を寄せた13社中で4位でした。また、食品業界で多数の導入実績があること、単品管理の機能が充実していることもはじめて知りました」(吉橋氏)

そこで、次のステップでNTTデータウェーブを含む6社にRFP(提案依頼書)を送付。最終プレゼンを経て、SAP ERPの採用が決定しました。システム選定には、商品開発本部、営業本部、生産本部、財務本部の4部門からキーマンが参加。システムの製品軸とコンサルタントの人軸の2つに、価格を加えて総合的に評価しましたが、「国産ERPパッケージに対する評価が、当社の4つの事業部門で大きく分かれていたのに対し、SAPについては製品軸、コンサルタント軸それぞれで満場一致で合格の判定でした。大切なことは、全社一致で決まったことにあり、スタート段階で全社の協力体制ができたことが、その後の導入をスムーズに進める大きな原動力になりました」と吉橋氏と話します。

基幹システムを一元化で製販在の見える化を実現

SAP ERPの選定後、2012年3月から導入プロジェクトが本格的にスタート。より詳細な要件定義を経て、同年8月にプロトタイプを作成し、システム化の範囲を確定した後、2012年10月から本格的なシステム開発に着手しました。8カ月にわたる開発の後、結合テスト、統合テスト、ユーザーテスト、ユーザー教育を経て、2014年1月にカットオーバーし、新システムの運用を開始しました。プロジェクトは大きなトラブルもなくスムーズに進んだといいます。吉橋氏は「構築時のキーワードに『全員参加』を掲げ、全体最適、現場視点、責任意識を重視しながらプロジェクトを推進したことが成功要因です」と振り返ります。

SAP ERPによるシステム化の範囲は、会計(FI/CO)、生産(PP)、販売(SD)、在庫(MM)で、既存の生産実行系システムや商品開発システム、BIシステムなどと連携することで、開発から生産、在庫、販売、会計まですべての基幹システムを一元的に管理・運用する業務基盤が実現しています。

数字で証明されたSAP ERPの導入効果

稼働から1年経った昨年(2014年)末時点で、開発した製品配合数3,580、受注伝票の数23万4,000件、運んだトラックの数1万4,000台、入荷した原料の数3億7,000万個、作った製品の数3,058万ケース、承認伝票数2万4,000件、集計したデータ数7,160万件と、システム稼働率で99.89%を達成しています。

導入効果としては、単品別原価管理の計算回数が、手作業による年1回から自動集計による月次に増加しています。システム処理時間も短縮され、割振り在庫照会の時間が従来の10分から1分以内に短縮されるなど、業務の効率化が進みました。また、手入力の削減により入力ミスも激減し、整合性が確保できるようになりました。さらに、在庫情報からクリック操作のみで該当伝票へデータが移行できるようになり、受注業務も大幅に効率化されています。「受注時に欠品があった時、従来は紙の伝票を手作業で確認していましたが、現在はシステムでドリルダウンしていくだけでその原因がわかるため、時間が勝負となる受注業務を効率化できたことは大きな成果です」と吉橋氏は強調します。

SAP ERPの導入で、システム処理効率は大きく向上し、約半数の業務で50%以上の時間削減が進んでいます。同様に、業務書類作成の効率も向上し、約6割の業務で50%以上の時間削減ができました。統合処理システムのためヒューマンエラーによる処理ミスはほぼゼロとなり、稼働してから外部影響による重大インシデントも発生していません。

今後は現状の基盤を生かして活用レベルを高めていく方針で、SAP ERPの機能活用により製販在を強化し、利益貢献の高いシステム運用を目指していく考えです。また、柔軟性の高さを生かして、SFAやCRMのモジュールもSAP ERP上で稼働させながらコストパフォーマンスを最大限に発揮させ、さらにはSAPシステムのクラウド化も模索していくとしています。

売上と利益率の向上を目指して始まった同社のシステム化のチャレンジは、柔軟性と拡張性の高いSAPシステムの基盤上で今後も加速していくことなりそうです。

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