ソニー生命の成功から学ぶ「経営とIT」のあるべきグランドデザインとは?


去る3月11日にEXECUTIVE FORUM「保険業を取り巻く環境変化と次世代保険会社の成長戦略」と題する保険業界向けセミナーが東京のベルサール半蔵門で開催されました。本連載では4回にわたって、当日のセッション内容をダイジェストでお伝えしていきたいと思います。第1回の今回は、ソニー生命保険株式会社の代表取締役を務める嶋岡正充氏による基調講演を取り上げます。嶋岡氏は大学院修了後、6年間石油会社に勤務した後、1984年にソニー・プルデンシャル生命(現ソニー生命)に入社し、現在はIT技術者としてのキャリヤをベースに経営者としての手腕をふるわれています。セッションでは同氏のこれまでの経験に基づき、「経営目標を達成するためのITマネジメント-経営視点とIT視点 経営とITのリレーション から考える」と題して、経営におけるITの重要性についての豊富な知見が披露されました。

経営とITをめぐる理想と現実のギャップ

SonyLife_Shimaoka嶋岡氏はまず、「経営者もIT部門もお互いにその重要性は認識しているのだが、現実は残念ながらそうなっていない場合が多い」と語り始められました。「経営とITは表裏一体」「経営戦略とIT戦略は密接な連携が必要」というのが経営者サイドの理念ではあるものの、実際のところは「とにかくコストが高い。コスト削減が必要」「IT部門は説明責任を果たしていない。ブラックボックスになり判断に困る」などというような不満が多いのが現状です。

一方、IT部門としても「ITの専門家として経営への提言を求められる立場になるべき」「開発や運用はアウトソーシングして企画こそ期待される機能である」といった方向性を示していますが、現実は「ITの業務経験だけでは経営について理解が及ばない」あるいは「現実的な課題としてはコスト削減が最優先」というような状況なのだと指摘されました。つまり、お互いに頭ではわかっているのですが、なかなかその理想を体現することができず、結果として「ITは必要ではあるが、まずコストを減らさなきゃならない」という問題意識に終始しているのです。

では、なぜ経営とITの間にはこのようなギャップが生まれるのでしょうか。そして、どうすればそのギャップを埋めることができるのでしょうか。

ソニー生命における経営とIT

ソニー生命は設立が1979年8月、開業1981年4月ですが、2013年度末ベースで社員数6553名、保有契約件数633万件(個人保険・個人年金保険)、総資産額6兆6249億円という規模にまで成長しています。従来の生命保険会社とは異なり、ライフプランニングやコンサルティングによるオーダーメイド保険設計や、PCを活用した営業スタイル、アフターフォロー重視などが特長となっています。「お客様への保障の提供」という不変の経営フレームワーク(理念)と、そのための絶えることのない改革を標榜し、一貫して卓越した企業でありたいという経営の思いが貫かれている会社であると嶋岡氏は説明されます。これは、ソニーの創業者である盛田氏が常々、「優れた企業文化を作りなさい」「先を見なさい」という言葉に裏打ちされており、その結果、「生命保険を変える」ことに成功したのだとも付け加えられました。

では、ソニー生命をここまで成長させるにあたり、ITはどのように扱われ、どのような役割を担ってきたのでしょうか。開業当時は、オーダーメイドの生命保険を提供するにあたり、海外の生保パッケージを活用しようとしました。しかしながら実際は、パッケージとしての機能をなかなか生かせず、独自開発の追加機能の山になってしまったということです。そこで、90年代に入ってからは自社開発を行い、基幹業務システムを刷新しました。また96年以降は、Windows PCとモバイルネットワークを導入し、顧客と対面を基本とするIT装備と営業スタイルが確立し、直行直帰体制が確固たるものになったということです。90年代後半からは保険契約件数ならびに総資産額が大幅に伸び始めたのですが、この90年代のIT環境の整備が現在のシステムの基盤になったと同時に、ITとの向き合い方を大きく決定づけたものだと同氏は指摘されました。

2000年代に入ると、システム開発も一段落し、改善主体の取り組みとなりました。経営品質活動というレビューを行い、継続的な経営改革を実施できる体制を作り上げられたのが、この時期です。

ソニー生命での経験から得た教訓

これらの一連の経緯を振り返ると、システム基盤を作り上げた90年代にIT活用の方向性を確立させ、将来に向けたグランドデザインを作り上げることができたことは、大きな礎だということです。2000年以降は、よりビジョンの実現にコミットする形にはなったものの、開発という面においては、新プロジェクトや開発量が減少したことにより、開発の弱体化が若干進んだことも事実です。このようなことから、経営に追随するためのITに関して得た教訓は以下のようにまとめることができます。

・基本は開発能力の維持向上
開発の谷間ができると技術の継承が難しくなるなど、開発の弱体化も起きやすいので、とにかく開発案件をある一定レベル以上に維持することが重要。提案も重要だが、開発請負にあえて重きを置くことも必要。

・グランドデザインに基づくインフラの開発
経営としての将来ビジョンやビジネスの変化を先取りしたシステムをデザインすることが確固たる基幹部分の構築に重要。一方で柔軟なインターフェースを持つことにより、さまざなま環境変化へも対応できるようになる。

・コスト管理に加えて必要資源の確保を計画的に行う
IT部門が主体的に将来の開発需要やニーズに対して備えることが、単なるコスト削減以上の価値を生み出す。

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一方、経営者におけるITへの理解度は、かなり重要な要素であると嶋岡氏は付け加えられました。そのためには、システム投資に対する明確な成功体験を持つことが大切です。ソニー生命においては、このような成功体験を得ることができたのです。そうでないと、システム投資に対して常に懐疑的になりやすいということです。そして、このような経営者とIT部門のギャップを埋めるためには、個別ミーティングなどを含むダイレクトコミュニケーションをもっと行うべきだとも指摘されました。経営側ももっと積極的にITをサポートするという意思表明すべきだということです。SonyLife_02

ITの価値継続をシステム化する

嶋岡氏は、これまでの経験からITの価値を継続的に経営に提供していくためには、以下のようなことを検討すべきではないかと話されました。

・人材育成、世代交代(開発専門家の確保)
開発力の維持向上のためには、企画スタッフだけでなく、開発の専門家を常に擁することが重要。ビジョンをシステムというレベルで実現するためには、専門家の力が欠かせない。

・経営のフレームワークを維持
一方で属人的な能力でなく、組織として能力を維持できる仕組みが必要。そのためには、組織内での風土の醸成、ビジョン、基本理念の共有などが課題。

・説明能力の改善
開発の規模が大きくなったり内容が複雑化すると、説明能力が低下しがち。すると経営サイドがITに関して懐疑的になるので、それを食い止めなければならない。そのためには、システム投資効果についての説明様式の標準化などを実施すべき。

・定性効果の評価
今後のIT投資は、従前のようなコスト削減や効率向上という直接的な効果が発現する余地が小さくなる。代わりに売上増加、サービス水準の向上、顧客満足度などといった準定量効果が評価されなければならない。これこそがまさに経営との接点であり、これを含めた定性的な効果も評価できる様式を持つことが効果的。一方で、経営者も正確な効果の評価よりも経営判断を適切にできることが重要。

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最後に嶋岡氏は、「良いシステム機会に恵まれた」ことと「良い経営者に恵まれた」ことでソニー生命はここまで成長できた。さらにこの方向性を維持していきたいと締めくくり基調講演を終えられました。

次回は第2回として、SAPのパートナー企業であるボストンコンサルティンググループによる「2020年の保険サービス -新たなブレークスルーを引き起こすテクノロジーの活用」と題した講演についてのダイジェストをお届けします。

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