ボストンコンサルティンググループが考える2020年の保険業界――新たな保険サービスを生み出すテクノロジーとは?


3月11日に東京で開催されたEXECUTIVE FORUM「保険業を取り巻く環境変化と次世代保険会社の成長戦略」の内容をダイジェストで紹介する本連載。2回目の今回は、SAPのグローバルパートナーでもあるボストン コンサルティング グループ(BCG)によるセッションを取り上げます。BCGは、日本で活動する多くの戦略コンサルティングファームの中でも、保険業界に特化した専門組織を有する唯一の企業です。本セッションでは、「2020年の保険サービス-新たなブレークスルーを引き起こすテクノロジー活用」と題し、同社の保険プラクティスのコア・メンバーである、 パートナー&マネージング・ディレクターの堀川隆氏、同じくプリンシパルを務める高部陽平氏が、テクノロジーを切り口とした保険ビジネスの将来像について語りました。

テクノロジーがブレークスルーを与える成長産業

BCG_Horikawa堀川氏は冒頭で、保険ビジネスの将来像について「現在の保険業界の環境を見ていると先行き真っ暗と思われるかもしれませんが、私たち、BCGの保険を専門とするグローバル・チームでは、これだけ不確実性が高まる時代の中でも、保険業界は成長産業であると見ています」と話されました。ただし、そのためにはイノベーションが必要で、そのブレークスルーになるのがテクノロジーであると指摘されました。

その一例として、同氏はビデオで将来の保険業界のサービスイメージを紹介されました。ある一人暮らしの女性が海外出張している間に自宅で水漏れが発生したとします。すると、まずその女性のスマホに連絡が入ります。同時に、契約している保険会社にも自動的に故障情報が伝わり、保険会社の管理のもと水の元栓が閉められ、さらに契約先の工事業者が宅内に入り、事故対応をします。一連の対応は、保険会社から当時者の女性に状況の報告や確認をしながら進められ、結果、大きな被害にならず事故を最小限に食い止めることができます。このように、将来の保険サービスは単に損害を保障するものではなく、テクノロジーを通じて、一連の幅広いサービス対応を行うようになると予想されます。

保険業界が注目すべき新たなテクノロジー

続いて堀川氏は、保険業界におけるブレークスルーを加速化させる、4つのキーワードを示されました。それは、(1)通信・端末、(2)顧客、(3)ソフトウェア、(4)情報です。

1.通信・端末:スマートフォンとウェアラブルに注目

まず着目すべきなのが、スマートフォンの浸透率の驚異的な上昇です。いわゆる初期のデジタルデバイスであるPCやガラケーの普及率80%には届かないものの、スマートフォンは短期間で急激な普及率の上昇を見せています。2011年には29%だった普及率は2013年に63%にまで拡大し、インターネットへアクセスするデバイスの比率を見ても、2011年の主流であったガラケー、PCを抑えて、2013年にはスマートフォンからのアクセスが最も高い割合となっています。

さらに新たなウェアラブル端末も多数登場しています。血圧、体温などのバイタルデータを自動的に取得したり、リハビリを支援したりする機能のある端末が開発されています。また、住宅の天井に設置された3次元距離センサーで人の動きを感知し、人の危険度をモニタリングするデバイス、フォール・プレディクト・カーペットというカーペットに埋められたセンサーで人の歩き方や挙動を把握して、転倒を予測するといった新機能も目白押しです。転倒を防止したり、転倒した際の衝撃緩和などの装備がされていれば、保険のカバレッジを変えたり保険料率の調整をするといったことの検討も可能になるということです。

2.顧客:デジタルネイティブを注視せよ

次に、消費者の変化も重要な要素です。堀川氏によると、今後は物心ついたときからネットやPC、携帯電話などがある「デジタルネイティブ」が消費者の大半を占めるようになるということです。現時点では30代半ばまでの人々がデジタルネイティブに当たり、とりわけ中国、インド、米国ではかなりの人口を占めると見込まれます。こうしたデジタルネイティブのソーシャルメディア利用時間の長さは特筆すべきものとなっています。2013年の数字ですが、1日あたりのソーシャルメディアとの接触時間で比較すると、30代以上の数分から13分程度に対し、10代、20代ではなんと45~48分と数倍の差になっています。

従来、保険商品の購入を決定する要因に関しては、広告宣伝によるイメージよりもライフステージや更新のタイミングなどに合わせた商品の機能訴求自体の影響が大きいと言われてきました。しかし、これから主体となるデジタルネイティブの消費者は、ソーシャルメディアなどを通じてパーソナライズされた情報を受け取ることができる環境にあるだけに、保険会社としても、消費者の感覚に訴えるなどの新たなマーケティングを実施していくことが有効となる可能性が高いと指摘されました。BCG_01

3.ソフトウェア:効率化と適正化にむけたブレークスルー

ソフトウェアという視点でも、現在はさまざまなサービスや機能が登場しています。決済の分野では、スマートフォンなどで決済ができるようになることで、従来の高価なカード決済端末が不要になり、劇的なコスト削減が実現しています。端末から自動的に情報を送るなど、事故への対処も簡単になっています。さらに新しい試みとして、薬にRFIDチップが埋め込まれ、飲んだ後の体内での状況やバイタルデータを記録し、効果の把握などを行う例があります。この仕組みは医師の処方通りに薬が飲まれているのかどうかを確認するのに有効なだけでなく、薬の無駄を減らしたり、体内の異常を的確に早期発見して治療をすることで医療効率を上げ、さらには適正な保険料を導く効果も期待されています。

4.情報:異業種連携によるビッグデータ解析がイノベーションを生む

BCG_Takabeここで、講演者が高部氏にバトンタッチされました。高部氏が最初に指摘されたのは、全世界の情報・データ量の変化です。最大のポイントは、ネットワーク化された情報・データ量が爆発的に増加する点です。IDCの予測では2020年までに35ゼタバイト(Zettabytes)という耳慣れない単位の規模にまで膨れ上がるということです。

これまでも、保険会社はさまざまな情報やデータを活用してきましたが、顧客情報の管理や顧客接点のデジタル化までは進んでおり、一部でビックデータの活用を行っている事例が出てきたという状況です。。しかしながら、このようにネットワーク化された情報・データが増加することにより、ビッグ・データ解析の余地は大幅に広がり、これを有効活用できるかどうかが1つの鍵になるでしょう。そして、そのデータ解析をビジネス改革や異業種との連携などを含むイノベーションにつなげることが、将来の保険会社にとって必要不可欠になると述べられました。

ある米国の保険会社では、過去の請求データや医療保険データ、治療データ、契約内容などの個別内部データのみならず、外部の事故データや疾病データをトータルに解析して、保険料率の適正化や対応の効率化などを試みています。典型的なパターンを割り出すことにより、即座に必要な対応をアドバイスし、医療サービス自体の効率化にもつなげられ、医療費や保険料金も適正化されるということです。さらには、SNSへの投稿なども含めて分析し、より精度を上げようとしています。

思いがけないことがわかってしまう?

また、別の自動者保険会社では、運転距離、運転の仕方、制限速度以上での運転傾向、運転時間帯などのデータに基づいて保険料を算定している例もあります。これに関連してある研究機関では小売のデータと重ね合わせて、「赤身の肉を買う人は事故率が低い」であるとか「炭水化物をたくさん食べる人は事故率が高い」などといった報告もあるとのことです。このように異業種とのデータを使って新たな相関が見つかる可能性も高いとのことです。

顧客情報を集めることにより、意外なことがわかってしまった事例も取り上げられました。米国のスーパーでのことですが、娘を持つ父親から「何故、うちの娘にベビー用品などの宣伝を送ってくるのか?」というクレームが入ったそうです。実は娘は既に妊娠しており、購買行動も妊婦に似たものになっていたので、店舗側が自動的にそういった宣伝を送っていたということです。父親はまだ本人から報告を受けていなかったため、思いがけないところから妊娠が発覚したという笑い話にもなる例です。

ポイントは、このような消費者の行動パターンの変化を捉えることによって、保険会社もマーケティングの機会を得られるということです。そのためには、異業種との連携をより進めていくことが肝要であり、データに示されるさまざまな相関関係を調べることによって、新たな糸口がみつかるのではないかとも付け加えられました。

保険会社経営におけるテクノロジー活用の方向性

次に高部氏は、アイデアと同時に必要となるのがフレームワークであり、各保険会社においてできていること、できていないこと、何を変えていかなければならないかといったことを明確にし、具体的なアクションにつなげていくことが重要であると指摘されました。そのポイントは、以下の5つであると述べられます。

・顧客起点(Customer Centricity):顧客対応という視点をどこまで徹底できているか
・オペレーション高度化(Operational Excellence):オペレーションの追求という観点からどこまで対応できているか
・イノベーション(Innovation):新たな技術などを取り入れるような環境がどの程度整っているか。推進するチームやプロセスは整備されているか
・IT(IT):上記をサポートするような柔軟なITアーキテクチャになっているか
・組織・文化(Employee Culture):失敗を受け止められているか。新しい取り組みが推奨されているか

BCG_02最後に高部氏は「とはいえ、このような活動は従来の枠組みでは難しいことが多い」と指摘されたうえで、「各検討事項が既存部門の責任範囲をまたいでることが多いので、簡単に結論が出せない。だからこそ、関連する部門が集まり、議論し、責任者を決めて取り組みを実施していくことが必要不可欠」であることを強調し、講演を締めくくられました。

次回は第3回として、Achmea 元CIO兼IT部門ディレクターであるエリック・スロイス氏による「激変する海外保険市場の最前線から-世界標準プラットフォームが保険業界を変える」と題した特別講演についてのダイジェストをお届けします。

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