次世代の保険事業者たる資格とは?――Achmea社の変革を成功に導いた「外部の差別化と内部の標準化」戦略


3月11日に東京で開催されたEXECUTIVE FORUM「保険業を取り巻く環境変化と次世代保険会社の成長戦略」のセッションをダイジェストでご紹介する本連載。3回目の今回は、オランダに本社を構える保険会社であるAchmea社の元CIO兼IT部門ディレクターのエリック・スロイス氏による特別講演を取り上げます。SAPシステムを早くから導入した同社は、激変する保険市場においてさまざまな先進的な取り組みを続けてきました。本講演ではその経験に基づいて、今後の保険会社の変革についての多くの示唆が披露されました。

激変の荒波を受ける保険業界

Achmea_Eric「激変する海外保険市場の最前線から-世界標準プラットフォームが保険業界を変える」と題して行われた講演の冒頭で、スロイス氏は「現在の保険業界には荒波が押し寄せており、サーフィンのようにこの波の頂点に乗り続けていくことは容易ではない」と切り出しました。同氏によると、この荒波には内部の変化の波(社内変革)と外部の変化の波(市場など外部環境の変化)があり、この両方の波を乗り越えるには、標準化されたソリューションプラットフォームの構築が不可欠であることを指摘しました。

現在の市場環境では、成熟市場と新興市場で競争要件が異なっています。成熟市場では、シェア争い、差別化のためのイノベーション(新規商品・サービス開発)、規制対応(新ソルベンシーⅡ、IFRS国際会計基準対応)が、一方の新興市場では、増加する中産階級の取り込み戦略とスケールメリットを得るための多国展開(クロスボーダー対応)が、それぞれの課題になるといいます。つまり変革を実現するためには、これら課題を念頭に置いてビジネスを設計しなければならないのです。

標準化ソリューションを活用して、社内変革の荒波を乗り越える

Achmea社が最初の社内変革に着手したのは1999年です。そこでは以下のような考え方に基づいて、まず財務管理機能と人事機能をシェアードサービスセンターに移管することから始まり、その後の数年間でF&Cソリューション(財務と管理に関するソリューション:連結、事業計画、統制)の完全導入が行われました。ここで特筆すべきは、同社では当初から企業の未来を創るデザイナー、ビジネスの羅針盤としてのCFOの重要度はますます高まるというビジョンに基づいて、財務関連業務の効率化・コスト削減を推進しながら、CFOの意思決定範囲を大幅に拡大するポリシーを徹底していた点です。

  • Ÿ 財務と人事の領域は標準プロセスによる大きな効果が見込める
  • Ÿ 汎用的なビジネス機能は業界による大きな差はない(もしBMWに当てはまるなら、我々にも当てはまる)
  • Ÿ CFOは企業の未来を創るデザイナーである
  • Ÿ フィジビリティスタディから得た確実な手応え
  • Ÿ 強力なガイドラインの原則: SAPを使えば開発は原則不要で、環境設定だけで済む(よほどのことがない限りSAPで検討)Achmea_01

コア保険ソリューションを活用した企業変革

その後もAchmea社は、2002年にSAP Collections and Disbursements for Insurance (FS/CD)というソリューションをいち早く導入して、保険料の収納と保全の変革を実施したり、2006年には標準的な商品エンジンであるSAP Policy Management(FS/PM)をチューニングして小規模事業者向け損害保険ソリューションを整備するなど、コア保険ソリューションを駆使した改革を実施してきました。さらに、2006年以降には大規模M&Aを実施し、統合にはSAPのソリューションを最大限活用したということです。

この変革において参考とされたのが、自動車業界における取り組みです。多くの車種やモデルを製造販売する自動車会社では、基本的には同じ部品を用いて、その組み合わせによってさまざまな仕様に対応しています。これが保険会社にできないはずはないということです。たとえば、従来は別個の商品であった旅行保険や健康保険などを、顧客の目的に応じて組み合わせることにより、さまざまな提案が可能になります。これにより、顧客の要望に最適化された商品提供という新たな変革に成功したのです。Achmea_02

外部は差別化、内部は標準化

このことは、販売チャネルについても同様に当てはまります。直販、銀行、代理店向けにブランドや提案の方向は異なりますが、それを具現化するバックオフィスはすべて標準化された共通組織で構成されるのです。いわば、「外部は差別化、内部は標準化」ということです。

こうした一連の商品モデリングと標準化プラットフォームのアプローチによって、Achmea社はITコストの大幅な削減だけでなく、運用の効率化、イノベーションの実現、販売チャネルの強化にも成功しました。Achmea_03

デジタルオムニチャネル対応は次世代保険事業者たる必要条件

次にスロイス氏は、外部環境の変化への対応にも言及しました。ここで同氏が挙げたのが、次世代保険事業者に求められる以下の3つの挑戦です。

  • Ÿ デジタル技術とオムニチャネルへの対応
  • Ÿ 規制への対応(ソルベンシーⅡ、IFRS4)
  • Ÿ インメモリー技術の活用

ご存じのとおり、保険はもはや単なる商品ではなく、顧客ニーズに基づくサービスとなっています。そして、顧客との一連の接点はオムニチャネルによってなされ、またそこではIoT(テレマティクス接続含む)やソーシャルメディア、ビッグデータ解析などの技術を活用することにより、マーケティング、商品提案、保険料率の算定などが効率的・機動的に行えるようになります。言い換えれば、このような機能を含むプラットフォームは次世代の保険事業者たる資格ともいえるものです。

オムニチャネルに関しては小売業界が先行市場となっていますが、保険業界でも同じ方向に進むものと見られています。小売業でも複数チャネルで顧客に情報を提供するレベルが現時点では圧倒的ですが、最終的には以下の図に示すようなオムニカスタマーの割合が増えることが予想され、最新の技術がそれを可能にします。Achmea_05 Achmea_06

規制変更への対応-レガシー環境における挑戦

欧州において2016年1月に導入が予定されているソルベンシーⅡでは、強固なリスク管理体制が要求され、精緻なリスクの特定とその定量化などが求められます。現在、このようなリスク管理に必要なデータの定義やフォーマットは商品や契約ごとに異なっており、レガシー環境では対応が大変難しくなっています。そこで、SAPソリューション(SAP Accounting for Insurance Contracts、SAP Solvency Management for Insurance、SAP Accounting for Financial Instrumentsなど)を活用した共通のデータモデルが有効性を発揮します。

インメモリー技術により得られる大量データのリアルタイム処理能力は、冗長性を必要としないので、非常に効率的なものとなります。これを活用すれば、1つの生のマスターデータセットだけあれば、あらゆる分析が可能になり、物事が単純化されます。これを実現しているのが、SAP Simple Financeであり、総勘定元帳だけがデータのビューアーになるという画期的なもので、保険に関わるあらゆるデータ管理やリスク管理がリアルタイムで可能になっています。このインメモリー技術があれば、将来的な規制にも容易に対応できるということです。

講演の最後でスロイス氏は、激変する保険市場を生き抜くためにはデジタル化への対応が欠かせないことをあらためて強調するとともに、標準化されたプラットフォームをグローバルスケールで構築するためには、SAPのような業界を熟知した戦略パートナーの存在は欠かせないとも付け加えました。そこで最終回となる次回は、SAPジャパンで保険インダストリープリンシパルを務める宮田のセッション「顧客が求める新しい保険会社像――顧客中心志向の保険経営とそれを支えるIT」から、保険業界のデジタル化を支援するSAPの取り組みについてご紹介したいと思います。

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