IoTを牽引するイスラエル発スタートアップ企業――第3回:テニスコート上のデータで未来のタレント発掘を可能にするPlaySight


「IoTを牽引するイスラエル発スタートアップ企業」をご紹介する連載も最終回となります(過去掲載はこちら。第1回第2回)。今回は、テニス競技におけるスタートアップ企業のご紹介です。ちょうど本日2015年4月20日(月)から26(日)までスペインのバルセロナにおいてATP(男子プロテニス協会)のツアートーナメント「バルセロナオープン2015」が開催されています。直近行われた2試合(BNPパリバ・オープンの後、マイアミ・オープン)は男子シングルスランキング1位のノバク・ジョコビッチが制覇し勢いに乗っています。そんなノバク・ジョコビッチが期待を寄せるサービスSmart Court(スマート・コート)を手がけるのが今回ご紹介するPlaySight Interactive Ltd. (プレイサイト)という会社です。同社がSmart Courtでどのようにビジネスにつなげようとしているかご紹介していきたいと思います。

PlaySight Logo

「世界でサーブのスピードが最も早い選手は誰か」も瞬時に把握

PlaySightが提供するSmart Court は、プレイする選手のさまざまなパフォーマンスを数値化し、選手自身やコーチがその場で確認・分析することができる仕組みです。その場ですぐに確認できるのはもちろん、試合後にリプレイや統計数値による比較分析行うなど、より詳細な分析にも活用されます。こうしたデータを収集するのは、テニスコート四方に設置されたカメラ5台とネット脇のキオスク端末です。利用するにはPlaySightのホームページでユーザー登録を行ったあと、キオスク端末にログインするだけです。そうするとプレイ中の動きをカメラが捕捉し、サーブ/フォアハンド/バックハンドといったフォームの判別もソフトウェアが自動的に行います。そのため個々のプレイの記録や分析を担当するスタッフは不要です。さらにはライン判定までもカメラが行うため、必要に応じてキオスク端末上でカメラ映像と共にその場で確認することが可能です。(出典1)

PlaySight Kiosk PlaySightCamera PlaySight Overview

では、Smart Courtでどういった項目のパフォーマンスデータが得られるか気になるところですが、まずはイメージしていただくために下記のログイン後に表示される画面をご覧ください(残念ながらこの仕組みはまだ日本に進出していないため、実際に行われたプレイに基づくパフォーマンスデータではありません)。

PlaySight Comp PlaySight MyDashboard 2

特筆すべき点は、コート上で計測できるパフォーマンスデータの活用範囲(リプレイ、数値比較、コーチの指導ツール)にとどまらず、世界中に設置されたすべてのSmart Courtからデータを集約し、ランキング形式で表示することができることです。PlaySight Leaderboardと呼ばれるダッシュボードを使えば、「サーブのスピードが最も早い選手は誰か」といった情報を容易に把握できます。たとえば、「米国の10歳以下の男子の中で、試合中最もサーブスピードの早い選手は誰か」という検索を簡単に行うことができるのです。このようなデータを活用すれば、将来有望なタレントを発掘するのに役立ちます。一方、個々の選手にとっては、自身の詳細なパフォーマンスを客観的に把握できるため、今後の目標設定やトレーニングの指針決めることができるようになります。

PlaySight Leaderboard 2

PlaySight成長の歴史

PlaySightは2010年に現CEO Chen Shacharと現CTO Evgeni Khazanoによって設立されました。イスラエル軍が利用するフライトシミュレーターや3Dモデリングに長けた2人が着目したのはテニス競技でした。世界スポーツ連盟の調査によるとテニスの競技人口は約1億人と言われています。これは、バスケットボール(約4億5000万人)、サッカー(約2億5000万人)、クリケット(約1億数千万人)につぐ4位です。得意な技術を生かしつつ競技人口が多い競技という観点でテニスからスタートしましたが、現在は室内で行われるスカッシュ(ラケットを用いるインドアスポーツのひとつ)にも取り組んでいます。(出典2)

同社は、事業拡大に併せて2回投資を受けています(2012年1月に$1.5M、次に2014年5月に$3.5M)。2回目の投資の際には、男子世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチや女子テニス界のレジェントであるビリー・ジーン・キングが出資を行ないました。他にも著名な投資家であるビル・アックマンが参加しています。

PlaySight Invest 3.5M USD PlaySight Smart Court Locator 2
Smart Courtの設置場所は、全世界で35個所(うち米国19個所、2014年5月時点)あり、ハーバード大学、カリフォルニア大学バークレー校、プリンストン大学といった教育機関への導入も盛んです。近いうちにフロリダ、ニューヨーク、他拠点などに展開し100拠点に展開予定です。ちなみに、3月に開催されたBNPパリバ・オープンの会場であるIndian WellsにもSmart Courtが設置されています。大会期間中に多くの有名選手のコメントを集めることができたことがYouTube動画でも確認することができます(ノバク・ジョコビッチ、錦織圭、マルチナ・ヒンギスなど)。(出典3)

Smart Courtの構成要素

IoTは一般的に物理的なモノに組み込まれたセンサーやカメラ、そしてITサービスで構成されます。アイデアも大事ですがきちんと知的所有権を守るための活動も必要となります。PlaySightの場合は、(WO2013124856) A SMART-COURT SYSTEM AND METHOD FOR PROVIDING REAL-TIME DEBRIEFING AND TRAINING SERVICES OF SPORT GAMES という形で国際特許出願がなされています。(出典4)

以下の図は、PlaySightのSmart Courtがどのような要素技術で構成されているかを説明した出願書類です。大きくはCamera(130)、Data Communication Link(136)、Server(オンライン機能)(155)、本体中核機能(190)の4つで成り立っています。本体中核機能のデータベースとしてSAP HANAが利用されています。元々は別のデータベース製品が使われていましたが、パフォーマンスの観点やプログラミング言語の見直しという点でSAP HANAに変更となりました。

PlaySight Architecture

アプリケーション領域は随所に工夫がされています。イスラエルの兵役期間中にフライトシミュレーターを開発していたPlaySightメンバーの知識を転用して、3D画像によるリプレイ機能が実装されています。併せてリアルタイムのライブストリーミングもサポートされています。こういった機能の前提になるのがトラッキングカメラになります。200km/h(124mph)以上の速度で動くボールを、1cm誤差でリアルタイムにトラッキングし、最大30m の距離からでもサーブ、バックハンド、フォアハンドといったすべてのフォームを識別可能です。これを特定用途向けではなく汎用的な産業用カメラで行なっている点がカメラ技術の大きな進化と言えます。(出典5)

PlaySight 3D Basler PlaySight Livestreaming 1
Smart Courtワンセットを導入する際の初期コストは10,000USDと言われています。有力選手をかかえる名門クラブや有力大学ならば比較的取り組みやすい金額ですが、財政事情が厳しいトレーニング施設などでは資金を捻出するのは大変かもしれません。最近は、クラウドファンディングという多数の参加者から資金募集する仕組みが定着してきたことで、コートでの利用権を付与する形でスポンサーシップの有志を募っている例もあります。(出典6)

今回ご紹介したのはイスラエルのスタートアップ企業の取り組みですが、これとは別にSAPは、WTA(女子のプロテニス協会)と共に選手のパフォーマンス向上に繋がる分析やコーチング機能の強化を図っています。今後は両者の良い部分を取り込みながら、データモデルの洗練や分析手法の向上を図っていく予定です。

共に新たな発想を生み出しましょう

「IoTを牽引するイスラエル発スタートアップ企業」の事例をこれまで3回にわたってお伝えしてきました。「事例を読んだがもう少しじっくり話を聞いてみたい」「事例の業界とは異なるがこういったアイデアを転用する、またはこういう発想を社内で生み出してイノベーションを起こしたい」という方がいらっしゃればぜひご連絡をいただければと思います。お伺いしてご説明すると共に意見交換をしたいと思っています。

(出典1)
PlaySightのホームページ
http://www.playsight.com/

SmartCourt: Tennis Tech Backed by Ackman & Djokovic (Jun 10 2014)
http://www.bloomberg.com/news/videos/b/d5917588-2a5c-43a9-a8bb-33438c67ae0b

PlaySight SmartCourt – Offer your members substantial added value
https://www.youtube.com/watch?v=Dxy9acCUn0s

 (出典2)
スポーツの競技人口ってどんなのが多いの?(2012年12月9日、マイナビニュース )
http://news.mynavi.jp/c_career/level1/yoko/2012/12/post_2753.html

(出典3)
PlaySight Closes $3.5m Investment to Fund Global Roll-out of Game-Changing Sports Technology
http://www.businesswire.com/news/home/20140519005401/en/PlaySight-Closes-3.5m-Investment-Fund-Global-Roll-out#.VS43CKOCjZZ

Playsight at Indian Wells – BNP Paribas
https://www.youtube.com/watch?v=v3hV0Djw7Vk

PlaySight Kei Nishikori (錦織選手へのインタビュー)
https://www.youtube.com/watch?v=udKID2AQSeI

(出典4)
国際特許出願:番号WO2013124856
https://patentscope.wipo.int/search/ja/detail.jsf;jsessionid=79ECB5CA4A68785B3488978ADD002C39.wapp2nB?docId=WO2013124856&recNum=268&docAn=IL2013050162&queryString=%22social%20network%22&maxRec=8515

(出典5)
Basler社のカメラ適用事例紹介「PlaySightのSmartCourt、Basler aceおよびIPカメラでテニスプロになる!」
https://www.baslerweb.com/media/documents/BAS1407_SuccessStory_Tennis-Pro_JP.pdf

http://www.blogsrelease.com/index.php?module=Board&id=3997

(出典6)
Pivvit 社が運営するスポンサー募集ページの情報(Sponsor a PlaySight Court Camera System)スポンサーを募っているのはJTCC (Junior Tennis Champions Center)
https://www.pivvit.com/campaign/sponsor-a-playsight-court-camera-system

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