顧客が求める新しい保険会社像――顧客中心志向の保険経営とそれを支えるIT

作成者:SAP編集部 投稿日:2015年4月21日

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

3月11日に東京で開催されたEXECUTIVE FORUM「保険業を取り巻く環境変化と次世代保険会社の成長戦略」のセッションをダイジェストでご紹介する本連載も、今回でいよいよ最終回です。今回は、SAPジャパンの保険インダストリープリンシパルを務める宮田格のセッション「顧客が求める新しい保険会社像 ―顧客中心志向の保険経営とそれを支えるIT」から、現在の日本の保険業界が迫られている課題と、そこからの変革を支援するSAPソリューションについてご紹介します。

労働人口の低下がもたらす保有契約高の減少

Insurance_Forum_SAP_Miyata宮田がまず取り上げたのは、日本の人口動態の変化による保険会社への影響についてです。日本の人口は2006年の122,741千人をピークに、その後は減少傾向となっています。これは単に人口が減っているのではなく、労働人口の占める割合が急速に低下していることも大きな特徴で、それが生命保険の保有契約高の大幅な減少(ピークに比べ半分強程度)につながっていると指摘します。これに伴い、生命保険会社の関心は、死亡保障から生存保障へと変化し、老後をいかに充実させられるかという商品が増加傾向にあるということです。また、この保有契約高の影響を受けて、対面販売を行う生命保険営業職員の数も激減しているとのことです。

Insurance_Forum_SAP_01また損害保険においても、明確な変化が現れているということです。特に自動車保険においては、若者が自動車を保有しなくなっている一方で、高齢者の比率が高まると同時に事故率が高まっているため、損害率が悪化しています。損害保険の約半分を占める自動車保険ですので、業界に対する影響は少なくありません。保険の販売チャネルに目を向けると、損害保険においては自動車関連業の比率が圧倒的に高いのですが、近年の傾向として、銀行や信金などでの銀行窓販チャネルが存在感を増しています。

端的に言ってしまえば、少子高齢化に代表される消費者の構造やニーズの変化が、既存の保険会社にとって大きな負担となり、市場全体としての伸びが抑制される主因となっているのです。しかし、その一方で消費者のニーズに適した商品や新たな販売チャネルの伸長などを見るにつけ、顧客志向での対応が保険会社にとっての対応の糸口になるのではないかと、宮田は問題提起しました。さらに、日本の保険会社が成長するためには、新興国など海外市場へ進出することも重要で、そのためには法規制などのグローバル対応を行うことが必要だとも指摘しました。Insurance_Forum_SAP_02

日本の保険会社の未来はどこへ? -デジタルへの挑戦

では、顧客志向たる保険商品やサービス、ひいては保険会社とはいったいどのようなものなのでしょうか。これまでの振り返りから考えてみると、1.魅力ある商品、2.割安な保険料、3.デジタル化による優れたユーザーエクスペリエンス、の3点にまとめることができます。そして、これらはデジタル技術をいかにうまく活用できるかがポイントと指摘しました。では、こうした商品やサービスを実現するためには具体的にどのようなことを検討していけば良いのでしょうか。

そもそも、消費者は保険会社とのデジタルベースでのやりとりに満足していません。オンラインバンクや検索エンジンなどとは異なり、接触する頻度も機会も限定的です。しかし、必要なときにはシンプルできっちりとした対応が求められます。また、デジタル技術を有効活用しているところでは、従来手法と比べて契約獲得時に約10%、保険金処理時には約8%もの経費削減効果があるという報告もあるとのことです。そして、ここにIoTやビッグデータ技術を組み合わせることで、顧客にとって魅力ある商品やサービス、料率などを提供することが可能になるのです。

ある自動車保険会社では、車にドライブレコーダーを設置し、そのデータを提供することにより、最適な料率や安全性を担保する運転方法などをアドバイスすることを始めました。また、スマートメーターやヘルスITなどを活用し、安全や健康管理に気を配っている消費者には、割安な保険料を提供するといったことも検討されています。このように従来の枠組みを越えたデジタル技術の活用が、保険会社として目指すべきものではないかと指摘しました。

イノベーターの動きを参考にせよ

海外では、すでにデジタル技術などを活用する保険業界のイノベーション企業が出現しています。では、日本の保険会社と海外の保険会社、そしてイノベーターとは何がどの程度異なっているのでしょうか。そこで、コンバインドレシオと呼ばれる保険会社の比較指標を見てみました。コンバインドレシオとは、事業費率(経費/保険料収入)と損害率(保険金支払い/保険料収入)を加えた値ですが、日本の保険会社はグローバル企業に比べ、事業費率が高いのが特徴です。グローバルではどこも30%未満ですが、日本だけは30%を超えています。これは、日本の保険会社における人件費の高さ、オペレーション標準化の遅れ(無駄が多い)、ITシステムの維持費の高さ、マネジメントの意識(必ずしも経営のプロではない)などに起因する部分が多いとのことです。さらに、通販チャネルを活用するイノベーターと比較すると、事業費率は10ポイント以上も差があり、何らかの手を打たねばならないとも付け加えました。Insurance_Forum_SAP_04 Insurance_Forum_SAP_03

イノベーターとしての取り組みには、個々に差があるものの、いずれの企業においてもIT投資がその中心をなしているということです。以下にいくつかのイノベーターの注力ポイントについてまとめます。

  • Ÿ オールステート:ウェブサイトを通じた保険料請求システム、顧客とのコミュニケーション強化など
  • Ÿ セント・ポール・トラベラーズ:システム刷新(レガシーシステムの移行)など
  • Ÿ プログレッシブ:インターネットと音声の統合など
  • Ÿ AIG:新商品開発速度アップのためのITのスピードアップ

保険業界におけるSAPの取り組み

このようにデジタル技術を中心に変革を迫られている保険業界ですが、SAPでは海外を中心にかなりの実績を有しています。40カ国に1,000社以上の顧客を有し、コアインシュアランス、インフラ、BIなどあらゆるレイヤーでサービスの提供を行っています。再保険領域ではシェア100%、財務資金管理ソリューションも大幅成長、統合リスク管理も注目を浴びています。インフラは、インメモリーのSAP HANA、フロントではhybrisによるオムニチャネルソリューションを提供しています。また、契約管理システムは、欧州がメインだったのが、最近ではアジアでの伸びが著しくなっています。

コアインシュアランスでの事例

この領域では、SAP Product Lifecycle Management for Insurance(FS-PRO)というソリューションで迅速な保険商品開発のサポートを行います。これは、自動車製造をさまざまな部品の組み合わせで実行するのと同じことを、保険商品に対して可能にするものだということです。これにより、業務/IT/組織の統合、グローバルIT基盤共通化(M&Aやグローバル展開を容易にする)、商品市場投入スピードの向上、レポーティングの迅速化などを実現します。この成果は、すでにドイツ、オランダ、オーストリアなどの保険会社の実績で証明されています。Insurance_Forum_SAP_05

オムニチャネルでの事例

オムニチャネルの領域においては、hybris insurance acceleratorを用いて顧客の保険購入をシンプルにしたり、契約管理や取引履歴の管理もあらゆるデバイスから可能になるということです。また、分断された複数のウェブサイトを統合することもできるので、これまで分散していた顧客インターフェースの整理もできます。あるイギリスの保険ウェブサイトでは、22のサイトを統合し、バックエンドと連携させることにより、商品推奨や管理を一元的に実施できるようにし、売上を2.5倍にしました。また、導入まで4カ月という短時間で実現したとのことです。ちなみに、このサイトでは代理店チャネルと直販チャネルとのコンフリクトを減らすために、直販でもあえて近くの代理店を紹介するというような機能も備えているということです。

SAP HANAでの事例

インフラの領域では、増大するデータを管理、高速処理する目的で、保険業界でのSAP HANAの導入も進んでいます。ドイツの健康保険基金では、加入者の満足度を上げるために病気予防健康診断サービスと疾病管理プログラムを提供しています。そのための分析エンジンにSAP HANAが多大な貢献をしています。また別の保険会社では、代理店に支払われる手数料の誤りを正すために、SAP HANAを用いてリアルタイムで分析を実施しているそうです。あるいは米国の保険会社では、台風などの天災が起きたときに、即座に収支インパクトを予測するためにSAP HANAが用いられています。さらに、テレマティクス情報としてのIoTを活用して、自動車保険の料率計算や運転履歴の管理にもSAP HANAは使われています。Insurance_Forum_SAP_06

不正検知の事例

保険業界における収益性を左右するもう1つの大きなポイントが、不正検知です。従来の手法では、10%程度の検知率、確定はその半分の5%程度だということです。SAP Fraud Managementを用いることにより、膨大なトランザクションデータの中から異常値を即座に検知することが可能になります。これもSAP HANAをインフラとしたソリューションです。また、これまでの蓄積に基いて事前定義テンプレートが用意されているので、短時間に立ち上げられることも大きな特長ということです。ちなみ、このシステムは非SAPのデータベースにも対応可能ということで幅広く活用できる点もアドバンテージとなっています。Insurance_Forum_SAP_07

デジタルを駆使して顧客に求められる新しい保険会社を

最後に、保険会社の未来はオムニチャネルの採用であったり、顧客嗜好を分析し早期に魅力ある商品を市場投入をすることが求められています。デジタル技術を駆使して顧客に求められる新しい保険会社を作ることが、これからの変革を目指す日本の保険会社にとって大切なことだと宮田はあらためて強調して講演を締めくくりました。

連載記事一覧
第一回:ソニー生命の成功から学ぶ「経営とIT」のあるべきグランドデザインとは?
第二回:ボストンコンサルティンググループが考える2020年の保険業界――新たな保険サービスを生み出すテクノロジーとは?
第三回:次世代の保険事業者たる資格とは?――Achmea社の変革を成功に導いた「外部の差別化と内部の標準化」戦略

ご質問はチャットWebからも受け付けております。お気軽にお問い合わせください。

●お問い合わせ先
チャットで質問する
Web問い合わせフォーム
電話: 0120-554-881(受付時間:平日 9:00~18:00

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

連記事

SAPからのご案内

SAPジャパンブログ通信

ブログ記事の最新情報をメール配信しています。

以下のフォームより情報を入力し登録すると、メール配信が開始されます。

登録はこちら