良品計画が挑戦するデジタルマーケティング。CRMを駆使して「顧客時間」に入り込む


RetailConf_RyohinKeikaku奥谷氏店舗、ネット、モバイルなどすべてのチャネルを連携させ、消費者に向けた新たな購入体験の提供を目指す小売業のオムニチャネル化が加速しています。その中で注目を集めているのが、「無印良品」を展開する株式会社良品計画です。
2015年3月26日、株式会社ダイヤモンド・フリードマン社の主催により開催された「リテール・カンファレンス 2015」では、デジタルマーケティングへの挑戦を続ける同社のWeb事業部長を務める奥谷孝司氏が、ネットとリアルの融合をテーマに講演。ITを駆使してネットとリアルのチャネルコンフリクトを克服する同社の施策を紹介しました。

ネットで購入しない顧客との時間の共有

無印良品のネットストアのスタートは今から15年前、2000年にまでさかのぼります。その後は着実に売上げを伸ばし、2006年には実店舗の有楽町店を抜いて最大店舗となったほか、2011年以降は3年連続で2ケタ成長を続け、現在では全社の連結売上げの7%をネットストアが占めるにいたっています。しかし、すべてが順風満帆だったわけではありません。奥谷氏がWeb事業部に配属になった2010年当時、オンラインストアとリアル店舗はいわば敵対関係にあったといいます。「店舗のオーナーの中にはネットに客が奪われるのではないかという疑念から、夜10時以降はオンラインサービスを中止して欲しいという人もいました」と同氏は振り返ります。

こうした誤解を解くためには、「ネットとリアルの融合」が最優先の課題であると考えた奥谷氏は、ネットサービス(MUJI.net)の会員動向を調べてみることにしました。そこで明らかになったのが「4:6の法則」です。過去2年間で1回でもネットストアを利用したことがある会員の割合は38%で、そのうち半年以内に利用した人はわずか17%に過ぎませんでした。つまり、会員の60%以上が過去2年間一度もネットストアを利用していなかったということです。現在のネット会員は約500万人ですが、今でもこの4:6の法則は変わっていません。

「つまり、オンラインストアの売上げが、必ずしも会社の業績やお客様満足に直結しているわけではないということです。それならばソーシャルメディアやCRMツールを活用してお客様の懐に入り込んで、無印良品とのエンゲージメントを強化しながら、満足度を高めるほうが重要ではないかと考えました」(奥谷氏)RetailConf_RyohinKeikaku_01

そして、組織も以前はEC課を中心とした組織から、ソーシャルメディアデジタルマーケティングを担当するコミュニティ課を企業全体のWEBコミュニケーション担当とし、現在はEC課とコミュニティ課の2トップ体制でオンラインの売上を拡大しつつ、デジタルコミュニケーションは全社施策と連動して進めています。

目的の実現に向けて、奥谷氏がまず着目したのは「顧客時間」を大切するということでした。顧客の買い物体験は、「検討→購入→使用・消費」という3つのプロセスで成り立っており、購入の時点だけをスポット的に見ても答えは出てきません。そこで、3つのプロセスをウェブやソーシャルメディアを使って把握し、顧客の時間に入り込むことに注力し、さらにオンラインストアの売上げだけに固執せず、実店舗の顧客や、TwitterでつぶやいたりFacebookで情報発信したりするだけの人も、自社の顧客と捉えて全体最適を図ることを意識したといいます。

「4:6の法則を考えれば、ネットストアを利用しない6割のお客様をどのようにして店舗に送客するかが重要です。そのために、店舗、ネット、お客様個人のブランド体験のすべてにおいて共有する時間を増やし、顧客満足度の向上を図る方針としました」(奥谷氏)RetailConf_RyohinKeikaku_02

重要なのは店舗送客とお客様とのコミュニケーション

奥谷氏は、良品計画のWeb事業部の役割には、(1)店舗への送客、(2)ネットストアによるお客様の無印良品への購入アクセス、(3)お客様とのコミュニケーション、の3つがあると説明し、(1)と(3)は特に重要だと指摘します。RetailConf_RyohinKeikaku_03

(1)の店舗への送客について、奥谷氏は「メルマガに代表されるように、ネットからの店舗送客は決して新しいものではありませんが、メルマガだけでは実際に店舗で誰が何を買ったかまではわかりませんでした。デジタルマーケティング時代に求められるのは、ネット技術を活用してKPIを検証してPDCAを回すことにあります。つまり、数値からは絶対に逃がれることはできないのです」と述べています。

その取り組みの一環として、同社では2011年にSNSを使った有楽町店10周年キャンペーンを実施し、facebookや、Twitterでつぶやいた人に有楽町店だけで使える割引クーポンを発行したところ、売上げ全体の3%がSNS経由の顧客だったといいます。また、2011年に始めたネットで注文した商品を店頭で受け取れるサービスは年々浸透し、今では年間5億円もの売上げになっています。「店頭受け取りサービスは売上げが店舗に計上されるため店舗側は喜び、Web事業部ではそこにいたるまでの顧客の行動データが把握できるので、双方にメリットがあります」と奥谷氏は説明します。RetailConf_RyohinKeikaku_04

(3)のお客様とのコミュニケーションについてはSNSを活用して、2009年にTwitter、2010年にFacebook、2011年にmixi、2013年にはLINEと、無印良品のページを順次開設してきました。

「マーケティングの基盤はソーシャルメディアに確実にシフトしています。Web事業部の直近の活用テーマは、ただ『いいね!』をもらうだけではなく、お客様との距離を縮めて、お友達まで一緒に店舗に連れてきてもらうことです。次世代ソーシャルメディアを活用したブランドコミュニケーションで大切なことは、企業が持ち得ない『購買』以外のデータ(行動データや非構造化データ)を持つソーシャルIDを活用し、自社メディアと関連付けることに尽きます」(奥谷氏)RetailConf_RyohinKeikaku_05

アプリとの連動から生まれたヒット商品

続けて奥谷氏は、良品計画が2014年に実施したビッグデータの活用事例について紹介しながら、「ビッグデータとマーケティングは親和性が高く、有効に使える」という認識を示しました。同社では、無印良品の人気商品アイテムであるカレーの販促に会員のデータ分析を適用。スマートフォンのアプリと連動したキャンペーンを実施して、アプリ会員のみが利用できる試食コーナーなどを店舗内に設けたところ、カレーの販売増につながりました。奥谷氏は「テレビ広告などに比べて低予算で多くの顧客を獲得できた好事例だった」と手応えを語ります。

また心地よさが評判を呼んで、SNS上で「人をダメにするソファ」として話題になった無印良品のソファと同じ素材を使ったネッククッションと、睡眠サポートアプリを連動させるキャンペーンを2014年に実施しました。アプリは、キャンプファイヤーや川のせせらぎなど、6つの音が用意されたサウンドアプリで、ネッククッションと一緒に使うことでリラックスして寝られることをアピールしていったといいます。13カ国語に対応したアプリは海外にも展開。キャンペーンサイトの動画はYouTubeでも1,000万回以上再生され、店舗での売上げも伸ばしました。

「大切なことはリアル店舗における買い物の楽しみと非日常性、新たな発見のお手伝いをソーシャルメディアとデジタルデバイスを使って行うことです。伝え方を変えることで息を吹き返す商品が尽きないことに、私たちも徐々に面白さを覚えていきました」(奥谷氏)

オムニチャネル専用のスマートフォンアプリ「MUJI passport

上記のように良品計画のWeb事業部では、ソーシャルメディアやメールマーケティング、アプリケーション開発を通じて店舗送客施策を実施してきましたが、それでも全店舗をサポートするまでにはいたっていませんでした。そこでマーケティングによって作り上げた顧客の関心度、顧客との関係性を維持し続けるための土台が必要と考え、オムニチャネル専用のスマートフォンアプリ「MUJI passport」を2013年5月にリリースし、デジタルマーケティングの戦略をさらに一歩進めています。

MUJI passportは、ニュース配信、デジタル会員証、店舗の在庫検索など6つの機能を搭載したアプリで、なかでも最寄り店舗の在庫検索する機能が人気で、店舗への送客を推進する役割を果たしています。また、マイレージ型のポイントプログラムも導入し、レジでスキャンしてもらうだけでマイルが貯まるようにしました。その結果、アプリのダウンロード数は2015年3月時点で370万人を突破。キャンペーン時には1週間に7万人も増えたことがあるといいます。「ポイントカードと異なり、アプリなら好きにダウンロードでき、肌身離さず持ち歩くスマホとも相性がいいので、ダイレクトメールを敬遠するユーザーでも、能動的に使っていただけます」と奥谷氏は語ります。

MUJI passportには、店舗の半径600m以内に入って操作するとマイルが貯まる「チェックイン」と呼ばれる機能があり、現在2割のユーザーが月に4回程度利用しているといいます。無印良品のリアル店舗での売上げ1位は有楽町店ですが、アプリのチェックインで一番多いのは通勤時間帯の朝7時頃、日本一電車の乗降数が多い新宿エリアです。ここから読み取れる行動パターンは、通勤中に電車内で情報をチェックしておき、退社後に最寄りの実店舗で購入するということです。

「これは従来のオンラインショッピングでいわれていた『ネットで情報を見てから30分以内に購入する』という顧客行動パターンと異なることがわかります。アプリはGPSとも連動しているので、どの店舗で購入したかも把握ができます。こうした機能を通じて、私たちはお客様から多くのことを教えていただくことができました」(奥谷氏)

これらの事例からわかるのは、マイレージサービスはセールスからエンゲージメントへと進化することで、新たなEコマース、エンゲージメントコマースが始まったといえるかもしれません。奥谷氏は「大切なことは、オムニチャネル時代における新しい経営数値から逃げず、データと向き合うことです」と強調しています。

良品計画では今後、DMP(Digital Marketing Platform)、マーケットの自動化に取り組んでいく方針で、MUJI passportやレコメンデーションツールを活用して店舗派の顧客にお勧め商品を自動的に紹介するマーケティング戦略を進めていくとしています。最後に奥谷氏は「今後もITの力でお客様との関係を強化し、マーケティング施策の可視化と効果予測を実現させていきます」と語って講演を締めくくりました。

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