将来のビジネスモデルを見据えて、SAP S/4HANAに移行した最新事例。大学、ヘリコプター・サービス会社、衛生設備メーカーなど


自社のコアとなるITシステムのアップグレードを検討する企業にとって、懸案事項はいくつもある。新しいシステムの有用性やコストはもちろん、移行の方法やそれにかかる時間も大きな心配の種である。

2010年に発表されたインメモリーデータベースSAP HANAの評価が広まり、今年2月にSAP HANAに最適化されたSAP Business SuiteとしてSAP S/4HANAがリリースされた現在、その導入に関心を持つ多くの企業が体験談に基づいた情報を求めている。SAPPHIRE NOW + ASUG ANNUAL CONFERENCEでは、そうした要望に応えるためのセッションが大小いくつも開かれていた。

SAP S/4HANAへの移行に踏み切った理由とそのインパクト

スイスに本社を持つ衛生設備関連メーカー、ゲベリットは、世界42カ国に6300人の社員を抱えるグローバル企業だ。同社は、1992年からSAPを導入しており、販売は100%SAPのシステムで処理されてきた。SAP S/4HANAとSAP Simple Financeへの移行を決めたのは、ビッグデータに対応できる企業としての準備をしておきたい、コストを下げたい、決算処理を速めたい、現在のUIに不満足などの理由があったという。

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SAP HANAのランタイムライセンス契約を決定したのは2013年9月。その後、移行と統合の作業は2013年4Qから始まった。2015年2Q中に大部分の作業を終え、2016年までに残りのSAPシステムをSAP S/4HANA に完全に移行する見通しだ。

移行の際のダウンタイムは、オラクルからSAP S/4HANA へのデータ移行(1.7テラバイトを1テラバイトに圧縮:約59%)が13時間18分、SAP Simple Financeが8時間30分だったという。

移行後のスピード向上は明白に感じられた。品目ごとのトランザクションについては、注文が10分から18秒に短縮、コストセンターの実績/計画/差異分析は24分から20秒に短縮された。また、「インターフェースをデザインするためのSAP Fiori Appsの使い勝手がよかったのには驚きました」と、ゲベリット傘下のシカゴ・フォセットのITマネージャー、マリウス・レック氏は語った。

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SAP S/4HANAはメンテナンスの手間があまりかからず、ポテンシャルを感じているという。SAP Simple Financeに対して、リアルタイムかつオンデマンドに分析ができること、またそのUIが格段にいいことを評価している。

同社は、今後のステップとしてSAP Simple Finance でマスターデータ管理やプランニングを可能にし、SAP Fiori Appsを全面的に展開し、さらにBusiness Intelligence(BI)を統合したいと考えている。

大学運営もSAP S/4HANAでデジタル化し、作業時間を20%短縮

オーストラリアのラ・トローブ大学とヘリコプター・サービスのブリストウ・グループもSAP S/4HANAに移行した。この2社を囲んだパネルディスカッションでは、その経緯が議論された。

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まず、SAPエグゼクティブ・バイスプレジデントのヴィーランド・シュライナー氏がSAP S/4HANAの特徴を紹介。シンプルなデータ構造で、ビジネスモデルの変更にも対応すること、IoTやホームオートメーションにも最適であることを説明した。同じくSAP S/4HANA担当ジェネラルマネージャーのマルクス・シュヴァルツ氏は、コアアーキテクチャーで処理の待ち時間がないため、センサーデータをトラッキングするのにも向いており、IoTやインダストリー4.0時代に合っていると付け加えた。テクノロジーのデータ構造もシンプルになり、データフットプリントも小さい。「ただビジネスプロセスが変化するのではなく、ビジネスモデル自体の転換をサポートするもの」と強調した。

ラ・トローブ大学は学生数3万5000人。大学運営の効率化を図りたいというのが、SAP S/4HANA導入の理由だ。SAPシステムをクラウド(SAP HANA Enterprise Cloud:HEC)へ移行した結果、財務と管理部門では、書類の処理がすべてデジタルになり、作業時間は20%短縮。6、7日かかっていた月次決算は2日に短縮した。現場にスピード感が出て意思決定が早くなった。作業よりも経営面にもっと時間を費やすことができるようになったと、同大学のCIOであるピーター・ニコレタトス氏は評価している。

当初は、オンプレミスでの利用を考えたが、大きな初期投資をなくしたかったのと、ビジネスプロセスが変わる可能性も見込んでクラウド(HEC)を選んだ。大学のような研究機関が特殊な点は、多数の論文を保存したり、海外の学生が入学の応募をしてきたり、在学生の落第を防いだりといったさまざまな目的に対応しなければならないことだ。学生の成績が思わしくないことがデータによって早めにわかるようになれば、対処も可能だ。

ヘリコプター・サービスの将来像を描いた時に、SAP HANAが発表された

一方、ブリストウ・グループは、今ちょうど自社のビジネスモデルを変えようとしている時期にあると、同社の情報セキュリティー・リスク・コンプライアンス担当ディレクターのボビー・ジョセフ氏は説明した。同社は350台のヘリコプターを保有し、主に石油・ガス産業で利用されている。しかし、今後は災害救済や援助にもビジネスを広げていきたい。ITインフラの向上が必要だと感じていた時に、ちょうどSAP HANAが発表された。ヘリコプターからは将来たくさんのデータが生まれるので、これがふさわしいと決定した。

2015年1Q(1~3月)中にデータをSAP HANAクラウドに移行し、2Q中にそれをアップデート。今後4Qにかけて在庫管理、調達、サービス管理などの機能性を足していく予定だ。

シュヴァルツ氏は、たとえばヘリコプターの場合には、次のようなデータの利用方法が考えられるという。ひとつは、機体から得られるセンサーデータを計測することで故障を予測し、メンテナンスやサービスに役立てられること。もうひとつは、生産現場では部品の在庫管理にデータが利用できることだ。そのため、欠品などの遅れなしに生産を推進できる。IoTではバリューチェーン全体を貫いてバッチ処理を行い、ヒト、モノ、カネなど、そこにコネクトされたすべての現状を把握することも可能になる。

シュライナー氏は、現状のデータで見えたことに対して素早く対処する重要性を強調する。しかも、データの力を借りれば、先の状況も「予測」できる利点もある。現状を把握するデータ分析と、先の状態に備える予測アルゴリズムが2本立てになるわけだ。

ラ・トローブ大学は、今後ITシステムを専門に担当するCIO職も必要になると考えているという。研究や教育の現場でも、単なるデジタル化、クラウド化を超えて、その向こうにデータドリブンな運営が想定できるのは、非常に興味深いことだと感じられた。また、ゲベリットやブリストウ・グループのような中規模企業が、急速な学習カーブを描きながらデータを使った新しい経営パラダイムにシフトしていることもわかる。SAP HANAの技術によってデータが効率的に利用できるようになれば、業種や規模の大小に関わらず、その結実はデータの使い方次第ということになるのだろう。

【参考】 SAPPHIRE NOW 2015 Replays
Reimagine Your Business with SAP S/4HANA
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/15939
Run Simple with Our Next-Generation Business Suite, SAP S/4HANA
http://events.sap.com/sapphirenow/en/session/15946

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