膨大な修理記録とセンサーデータで予測メンテナンスの高度化に挑むヴェレロ・エナジー


産業分野のIoTにおけるデータ活用で大きな期待がかけられている領域は、予測メンテナンスである。インフラや製造機械は、いったん故障を起こしてしまうと、部品の交換のために稼働を一時中断したり、予想以上に損傷が広がっていたりなど、経営上の損害も小さくない。部品や機械をモニターしながら故障をあらかじめ予測し、オペレーションへの影響を最小限に留めるために、予測メンテナンスが注目されているのである。

SAPとの共同開発プロジェクトで予測メンテナンスを試作

photo1石油の精製や販売を行うグローバル企業であるヴェレロ・エナジーは、SAPとの共同開発プロジェクトで、予測メンテナンスのプロトタイプシステムを試作した。ヴァレロは、毎日合計290万バレルの処理が可能な製油所を15カ所、エタノール工場11カ所の他に、風速発電ファームを抱えている。社員総数は1万人だ。

この共同開発プロジェクトは、SAPでは「Co-Innovation」プロジェクトと呼ばれているもので、特定の顧客企業が直面している問題に応じて、SAPと企業が共同してシステムを試作し、テストして実用性を検証するというプロセスである。ここから顧客のためにカスタマイズされたシステムが作られることもあれば、幅広く利用が可能な標準的製品へと発展することもある。いずれの場合でも、現実的な実用性に基づいて詳細に検討を重ねて生まれたシステムである点が特徴だ。

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ヴァレロは、予測メンテナンスについて2つの側面からアプローチした。実は、予測メンテナンスは、経年して古くなっていく部品があっても、価値ある資産として質を高めるのにも利用することができる。その考え方の一環に属するものだ。

ひとつはメンテナンスデータの分析で、信頼性の低いポンプの装置部品をどう扱うかに関するもの。「信頼性の低い部品」とは、MTBR(平均修理間隔)が2年以下で、過去2年以内に修理が行われたものだ。SAP HANAとSAPのアナリティクスツールを利用することで、修理の必要性を自動的に認識できるようになるのではないかと期待すると同時に、信頼性の低い部品でも、修理の必要がないケースがわかるのではないかと考えられた。

もうひとつは、センサーデータ分析である。ヴァレロでは、重要な装置については装置本体に取り付けられたセンサーからさまざまなデータが記録され、通常の稼働の枠からはずれるような状況が起こると担当者に報告されてきた。しかし、それ以外の装置については部分的にしかセンサーが取り付けられていないなどの理由で、稼働状態を適切に追跡するための方法がなかった。SAP HANAとSAPのアナリティクスツールを用いて、メンテナンス履歴とセンサーテータをつなげることで、こうした装置においても故障に先立って起こる兆候を特定することができるのではないかと期待された。

過去の膨大なメンテナンスデータをビジュアル化し新たな側面も発見

メンテナンスデータの分析では、過去のポンプ修理記録のテキストをSAP HANAに取り込み、テキストマイニング、ルールエンジン、データマッシュアップで分析を行った。このルールエンジンで抽出されたものと、従来マニュアルでリスト化されていたものの法則性を比べると85%がマッチしており、これは満足のいくレベルだったという。また、信頼性の低い部品においても同様に80%マッチした。

それ以外にも、この分析では役に立つKPI(重要業績評価指標)も見つかったという。たとえば、「修理までの時間」や「修理にかかった時間」だ。こうした相関性はマニュアルで探し出すには時間がかかるが、SAP HANAが膨大なデータの中から抽出したわけだ。

出てきた結果をビジュアライズすると、また新たな側面が発見できる。たとえば、プラントごとにMTBRと修理までにかかった時間、実際のコストを分布図にしてみると、MTBRが短く修理まで時間もかかりコストも高いプラントが明らかになる。こうしたプラントのデータをさらに分析していけば、そんな状況を生み出している原因が突き止められるだろう。

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メンテナンスデータの分析によって得られたのは、次のような成果だ。

  • ポンプ修理の必要性を自動的に予測できるルールが特定できたこと
  • 標準的なメンテナンスルーティーンから、修理までの時間や修理にかかった時間、コストについてのルールを導き出せたこと
  • プラント間の比較がすぐできるようになったこと

センサーから得られるデータで試行錯誤

センサーデータ分析では、ある水素化分解装置で用いられているポンプが対象とされた。ここでポンプが頻繁に故障していたからだ。ポンプのセンサーは、機能状態ではなく、温度やバルブの開閉などのデータを取得したものである。それらのデータを活用することで、適切なデータモデルや、予測に貢献する変数を求めて試行錯誤が繰り返された。そして、今後データモデルの質を向上させるために、ビジネスプロセスの専門家やデータサイエンティストの知見を借りてさらにデータ分析を行い、さらには他の部品データを組み合わせて分析に利用することも有用である、と考えられているようだ。

ヴァレロは、今後社内で統合システム担当者を置き、データサイエンティストを養成することが必要だという。また、この予測メンテナンスプログラムを社内で部門化し、バラバラだった装置分類も整理するなど改善を行えば、相乗効果が得られるはずだという。こうした取り組みは、経営部門や事業部門などビジネス側からの協力も必要で、ビジネスプロセスからデータマイニング、意思決定までをデータに基づいて行うビジネスプロセスの再定義も重要だという。

予測メンテナンスでは修理時期を予測し、必要部品を手配し、場合によってはこれまでのメンテナンスを見直したり、質の悪いサプライヤーを特定したりといったこともできる。ヴァレロの今回のプロジェクトはかなり探求型で、目的を設定してデータ分析を行う中で、他の有用なKPIが発見できたり、データモデルの向上が求められる部分がわかったりした。

これは、予測メンテナンスの高度化につながる一例としても興味深いが、Co-Innovationプロジェクトの性質がよく伝わる例でもあると言える。その意味では、研究とテストと実用性の間に今後の可能性が潜んでいることが感じられるものだ。

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