広告費のデジタルシフトでROIを大幅に改善。外食大手すかいらーくのデジタル化戦略


photo1ファミリーレストランの先駆けとして1970年に創業し、現在は「ガスト」「バーミヤン」など、さまざまなブランドの外食チェーンを展開する株式会社すかいらーく。全国で約3,000にも及ぶ同社の店舗は、年間でのべ4億人の消費者が利用し、日々新しいメニューが提供されています。外食産業の不振が叫ばれる中、同社の業績を支えているのが、デジタル技術を最大限に活用したマーケティング戦略です。2015年3月26日に開催された株式会社ダイヤモンド・フリードマン社主催の「リテール・カンファレンス 2015」では、同社で分析チームを立ち上げ、マーケティングROIの改善やデジタル化戦略の策定に取り組んできたマーケティング本部 インサイト戦略グループ ディレクターの神谷勇樹氏が、デジタル技術の活用を通じて、同社がどのように業務改善を実現してきたのかについて講演を行いました。

ビッグデータ分析を通じて、キャンペーンの成果を改善

外食レストランチェーンの競争が激化する中、すかいらーくは広告宣伝費を継続的に積み上げることで売上の拡大を続けてきました。しかし、広告に対する収益率は決して高くはなかったといいます。ボストン・コンサルティング・グループやグリーでのキャリアを経て、2013年からすかいらーくのビジネスに参画した神谷氏がまず見直しに着手したのが、この広告宣伝費です。同氏によると、2012年度から2013年度にかけて、売上高28億増を達成するために前年比17億円増の広告宣伝費が投入されていたといいます。そこで2014年上半期の広告宣伝費を前年同期比で10%以上削減しながら、同時にビッグデータを活用してPOSレジのデータからブランド別キャンペーンの成果を集計、分析、改善した結果、売上高39億円、率にして2.4%の成長という結果につながりました。この数字は、2014年上半期における業界平均の成長率2.2%を0.2%上回る成果です。

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ビッグデータ分析を始める前、同社ではあるブランドのサンクスキャンペーンの内容が顧客の特性にマッチせず、クーポンを配っても思うような効果が上がらないという課題を抱えていました。具体的には、同じクーポンを配信していたAとBの2つのブランドに対し、ブランドAではキャンペーン期間の後半まで客足が落ちないのに対し、ブランドBは後半に失速しています。そこで、その原因を深掘りして調べてみると、ブランドAはカフェ使いが中心で来店頻度が月1回程度の顧客も多いのに対し、ブランドBは食事利用が中心で来店頻度は3カ月、5カ月に1回程度の顧客が中心と、顧客特性がまったく異なることが主要な原因とわかったといいます。

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 「それまでのクーポンは、デザートやサイドメニューが中心でしたので、カフェが中心で来店頻度の高いブランドAのお客様には効果があっても、食事中心のブランドBのお客様には響きませんでした。そこで、ブランドBではグリル中心のクーポンに切り替えました。クーポンを使って単価を下げても粗利は落ちることがないように工夫した結果、売上効果、利益効果ともに4倍の改善効果が見られました」(神谷氏)

POSデータから顧客属性を予測し、メニュー開発の方向性を改善

次に神谷氏が実施した施策は、顧客別のメニュー開発の方針を膨大なPOSデータのクラスター分析によって策定することです。たとえば、POSデータから「平日の昼間に1名で来店し、日替わりランチを注文して38分滞在した男性」という情報が読み取れれば、それはランチを食べたサラリーマンであることが推定できます。これが「平日の昼間にランチとドリンクバーを注文し、2時間滞在した3人組の女性」なら、ランチとおしゃべりを楽しみに来た主婦グループという分類になります。このようにPOSデータを別の視点でセグメントし直すことで、顧客の属性をより詳細に把握することができ、それらをもとにどのような要素のメニューが受けるかを検討すれば、その特性にあった商品がおのずと生まれてきます。たとえば、メニューの属性情報をビーフ、ポークといった「食材」、焼く、蒸すといった「調理方法」といった軸を加えることで、今までになかった新たなメニューの開発手法が可能になるのです。

神谷氏は「メニュー開発の方向性を変えた結果、中華レストランのバーミヤンで実施したフェアメニューの販売数が、従来比で2倍になりました。それまでの中華では『麺』、『飯』などのカテゴリー軸や『オイスターソース』、『麻辣』といった味付け軸などで考えていましたが、今回の分析で今までになかった『とろみ』の要素が重要であることがわかり、メニュー開発の方向性も変わってきました」と話しています。

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自社開発のスマートフォンアプリでROIを劇的に改善

続けて神谷氏は、すかいらーくが行ったデジタル活用の取り組みについても紹介しました。同社が重視したのは、広告の費用対効果です。一般的にレストランチェーンは、宣伝媒体としてテレビCM、新聞広告を中心としたマス広告を採用していますが、顧客1人あたりの獲得利益が高い化粧品業界や自動車業界と比べて、顧客1人につき数十円の利益に過ぎないレストランチェーンが同じ枠を争うことはそもそも効率的とはいえません。さらに消費者のニーズの細分化が進み、マス広告で広くアピールすることも難しくなっています。「そこで、コストベースで活用できる自社媒体、かつ消費者1人1人にアプローチできる媒体として、スマートフォン向けのアプリを自社開発することにしました」と神谷氏は語ります。

2014年10月には、同社の看板ブランドである「ガスト」のアプリをリリース。来店で貯まるポイント、限定クーポンの提供、フェア情報の発信、メニュー紹介、SNSなどの機能を備えたガストアプリは多くのユーザーにダウンロードされ、アプリでのクーポン提供はマーケティングのパワーを劇的に進化させました。

「ガストの広告の7割を占める新聞広告のターゲットと比べて、アプリのユーザー数は10分の1に過ぎません。にもかかわらず、クーポンの利用者数は1.5倍に達しています。コストでいえば新聞の100分の1程度で、マーケティングROIは大幅に改善しました」(神谷氏)

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 アプリのリリース以降、ガストの業績伸長率もグループ全体を上回るようになり、大きなパワーとなっています。ガストアプリがなぜここまでの効果を生み出したのかについて神谷氏は、「セグメントを切り分けて、ターゲットを絞った広告を配信したことにある」と分析しています。たとえば、顧客属性がわからなかったこれまでは、子供を持つファミリー層の顧客に限定して出した方が効率が良い案内でもすべての顧客に向けてしか配信できませんでした。しかし、アプリに切り替えてからは、登録時の顧客情報やキャンペーン情報の閲覧状況などから顧客属性を予測し、セグメントを絞ったメール配信に切り替えています。その結果、クーポン送付者の来店率は4倍になったといいます。

セグメント分析の高度化と情報配信の自動化

今後はガストアプリのダウンロード件数を、5年後に現在の10倍に相当する3,000万を目標に拡大していくとしています。その時にはスマートフォンユーザーが全体の約70%になると予測されており、3,000万という数字は来店客のスマートフォンユーザーの中で6割程度を獲得すれば達成できる水準であり、また現状のダウンロード数のペースは既にその目標を達成するペースであることから、すかいらーくではこの目標は実現可能と考えています。

また2つ目の展望として、セグメント分析をさらに高度化し、顧客の動向を精度よく把握しながら、最適なタイミングで食べたいメニューやフェアの情報を配信するオファーの自動化を挙げています。

「自動化によって、たとえば肉が食べたいがダイエット中というお客様には、野菜中心でありながら肉もたっぷり入ったメニューを紹介し、ランチの時間が早めだった人には夕方のタイミングでおすすめメニューを紹介するといったことが可能になるでしょう」(神谷氏)

とはいえ、自動化を実現するためには、従来のように人手を介して行うのは現実的ではなく、IT技術の活用が欠かせません。そこで同社が自動化を進めるための第一歩として採用したのが、SAPのデータマイニングソリューション「SAP InfiniteInsight」です。SAP InfiniteInsightの採用の理由について、神谷氏は「誰でも簡単に分析できるわかりやすい操作性」を第一に挙げています。

「分析チームのメンバーは、店舗勤務を経てきたプロパー社員がほとんどで、ITや分析に詳しいわけではありません。メンバーの中には40代で初めてExcelを触ったという社員もいます。SAP InfiniteInsightなら、概念さえ理解してしまえば、統計などの知識がなくても誰でも分析を行うことができます」(神谷氏)

最後に神谷氏は講演全体を総括して、すかいらーくがなぜ1年強の短い期間でデータ分析の活用からデジタルマーケティングの立ち上げまでを実行でき、少ないコストで競合他社を上回る成長率を達成できたかについて次のように話し、来場者に向けたアドバイスを送ってくれました。

「私たちは最初からビッグデータやモバイルの活用を第一に考えていたわけではありません。広告の費用対効果の向上という明確な目的があり、結果としてビッグデータやモバイルが出てきたに過ぎません。ただ、初期の段階でヒットを打ち、データ分析の活用に対する信頼を獲得できたこと、さらに私の前職での経験を生かして、ビジネス、分析、ITの橋渡しができたことは成功要因になったと思います。どんなことでも最初はチャレンジですから、皆さんも失敗を恐れることなくまずはやってみることに尽きると思います」

 

次回は、今回のすかいらーくの取り組みに見られるようなオムニチャネル時代の消費者とのエンゲージメントを支援するSAPの最新ソリューションについてご紹介します。ご期待ください。

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