経理・財務部門が素晴らしい職種であり続けるためには


IMG_64322015年3月26日、日本CFO協会の主催により「CFO Executive Forum」が開催されました。本連載では3回にわたり、当日の内容をダイジェストでお伝えします。第1回は、スリーエム ジャパン株式会社代表取締役副社長執行役員の昆政彦氏による「効果的な経営支援へのCFOの役割と課題」と題した基調講演の内容をお伝えします。同社は本講演で、企業におけるCFOや財務・経理部門の役割と具体的な取り組みについて取り上げました。

「執行責任」との意味を持つアカウンタビリティ

経理・財務部門の役割は、会計手法(アカウンティング)を使って経営を支援することで、アカウンティングの派生元であるアカウンタビリティの意味を問うと、ほぼ100%の方が「説明責任」と答えるそうですが、実は、アカウンタビリティには「執行責任」という意味もあります。「米国系企業ではこうした捉え方が強く、目標を達成できない理由を説明するだけではなく、達成できなかった責任を追及されます。当事者意識を持たない限り、変化する世界に対して経理・財務が魅力的な仕事であり続けるのは難しいでしょう」と昆氏は、冒頭で語られました。

CFO(最高財務責任者)を含めた経理・財務部門が今後も素晴らしい職種であり続けるには、「社長」「市場」「事業部隊」の3つと同じ視点に立つことが大切であるとし、スリーエム ジャパンにおける具体的な取り組みを、それぞれに紹介して頂きました。

PDCAのすべてに経理・財務担当者が積極的にかかわる

企業理念やビジョンに向かって中期経営計画を立て、PDCA(Plan、Do、Check、Action)サイクルをモニタリングしながら遂行するのが一般的な経営の在り方ですが、財務・経理部門は往々にして予算をチェック(Check)し、結果を確認することだけに終始してしまいがちです。しかしながら「社長と同じ視点に立つには、すべてのステージにおいて、経理・財務の人間がかかわることが大変重要です」と昆氏は語ります。

スリーエムには「技術」「製品」「イノベーション」の3つのビジョンがあり、さまざまなストラテジーを駆使しながら「Portfolio Management」「Investing Innovation」「Business Transformation」といった3つのレバーを通じてビジネスを展開されています。「Portfolio Management」は、事業構成のマネージメント、「Investing Innovation」は、イノベーションをとにかく忘れないこと、そして「Business Transformation」は上記2つを効果的にするための取り組みで、その柱としてSAP ERPをグローバルに展開されています。

「各国のスリーエムでは社会情勢のメガトレンドを探りながら3つのレバーを捉え、事業・企業戦略を立案します。中期5カ年計画を策定し、5年後を見据えながら1年目の予算を策定しますが、この時点で1人ひとりの営業担当者の売上目標まで細かく落とし込みます。その後は予算の継続的なモニタリングをしていきます。こうした一連のプロセスの中で経理・財務担当者は、予算の数字が持つ意味を各事業部にきちんと伝達しなければなりません。ただ、数字だけを伝えるなら機械でもできます。人間がやる以上は、“この人が言うから理解できる”といった影響力を持つことが大切で、ここが経理・財務担当者の重要な責務といえます」(昆氏)

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事業本部ごとに専属のビジネスカウンセルを配置

スリーエム ジャパンでは経理・財務組織の中に、ビジネスカウンセルという部署が意図的に経理部や財務部とは離れたところに存在します。ビジネスカウンセルは各事業領域の専属アナリストとして、事業責任者と一緒になって戦略を組み立て、施策を打ちます。「経理しかやったことのない人間に具体的な営業戦略を立てることまでは求めていません。価格設定や原価低減といった戦略を、事業部に立てさせるサポート役となることが仕事です。きちんと連携を図るためにも、影響力が行使できるかが大切なのです」(昆氏)

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「CFOは過去を見ることと未来を見ることの両方が必要ですが、経理・財務部門の個々人が両方の仕事を同時にやるのは、かなりハードルが高い。2つのチームに分けてしまうほうが効率的にできます。ビジネスカウンセルには将来をずっと見通す思考を求めています」(昆氏)

社長と同じ目線に立つためにCFOに求められるスキルや経験は、マクロ経済の理解力やマーケット動向への感受性、加えて、事業部の持つあいまいな情報の中から、きっちり数字に落とし込む決定力が重要で、これは経理・財務の人間でないとできない仕事であると昆氏は捉えています。

将来視点でキャッシュを見極める力が大切

また市場と同じ目線というのは、端的に言えば「キャッシュベースで物事を考えること」だと昆氏は捉えられています。これは会計とは相反する考え方であり、日本ではなかなか文化として入り込めていないことが課題となっています。根本には「トレジャリー(Treasury)」を表す的確な日本語が存在しないという問題があります。企業が捉えるトレジャリーの領域は幅広く、経理とは対象項目が異なるのです。

トレジャリーは、「キャッシュ・マネージメント」「リスク・マネージメント」「経営管理」「税務戦略」の4つの機能に分けられます。「キャッシュ・マネージメントでは、あまり価値を生まない業務はアウトソースする必要があります。リスク・マネージメントでは、地政学的リスクにもっと注意を払うべきです。経営管理については、投資におけるファイナンス分析を社内できちんと見る視点を大切にすること。税務戦略では、トレジャリー部門の下に税務を置くことで戦略的な発想を強めることが必要です」(昆氏)

スリーエム ジャパンでは対外的に、長期経営目標について4つの数字を公表されています。「ROIC(Return On Invested Capital)とFree Cash Flow Conversionがトレジャリーの扱う項目です。決して会計知識を否定するわけではありませんが、金融市場への理解力が重要性を帯びてきています。会計が作った数字をキャッシュフローに展開するだけではトレジャリーとして機能しません。将来視点でキャッシュを見極める力が重要です」(昆氏)

事業戦略支援において数字を見る際も、トレジャリー領域でキャッシュベースで物事を考える際も、将来を見据えて、確からしい数字を見極める力が、経理・財務部門には必要となっているのです。

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価値創造プロセスから6つの資本を把握する

最後に昆氏は、企業の戦略を実行する事業部隊と同じ目線に立つための取り組みを紹介されました。重要なのは、企業の価値創造プロセスをきちんと理解することで、IIRC(国際統合報告機構)が打ち出している6つの資本という概念を元に、そのフレームを考えられています。「私たちは、6つの資本が価値創造にどう結びついているか理解しようとチャレンジしました。スリーエムが重視している価値は、製品ではなく技術です。なぜなら製品がなくなっても技術があれば他に転用できるからです。そのため技術と製品は離しておく必要があります。スリーエム ジャパンでは40を超える技術基盤を管理するプラットフォームを持っています」(昆氏)

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「高精細表面加工技術を例とします。これはフィルムの表面を細かく刻み光を屈折させる技術で、初めはOHPプロジェクターのガラス面に用いられました。PCが登場したことでOHPプロジェクターはなくなりましたが、この技術は交通標識を下から照らすライトに引き継がれました。次に展開したのが液晶テレビです。光を制御して残像を生まない画面を生みました。少ない発光で明るい光を出すフィルム加工はいま、スマートフォンに活用されています。こうした価値創造プロセスを、3つのレバーの1つであるPortfolio Managementにおいて、どのように展開されているかをロジック・ツリーとして整理します。大きく製品と経営管理の軸に分け、必要な能力、そして求められる項目へと細分化します。それぞれが6つの資本のいずれに重きが置かれているかを把握することで、プロセス全体が理解できるのです」(昆氏)

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事業組織を財務的価値創出に導くに、リーダーシップも大切となります。「事業部のメンバーの能力や性格を理解して、その人の打ち出す数字を読み直さなければ適切な利益管理はできません。総体的な影響力をCFOなり経理・財務部門がいかに持つかがカギを握っているのだといえます。」(昆氏)

次回は、第2回として、SAP SE、ファイナンスソリューション、グローバルシニアディレクターのステファン・カールによる「経理財務の変革をサポートするグローバル ファイナンス プラットフォーム~SAP Simple Financeとお客様事例~」と題した講演内容をお伝えします。

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