SAP HANAは単なるデータベースではない、アーキテクチャから見直したオープンプラットフォームだ


SAP HANAというプラットフォームを提供するSAPはいま、開発者を重視する

2015年5月20日、SAPジャパンは技術者向けカンファレンス「SAP Tech JAM」を開催した。SAPはこれまで、ERPアプリケーションのリーダーとしてソリューションよりのイベントは何度も開催してきた。今回はSAP HANAという新しいプラットフォームを扱っている技術者、それに興味のある技術者に向けた技術カンファレンスを開催した。米国開催の年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW」では、SAP HANAの技術面にフォーカスしたセッションは多数行われる。しかし、日本でこれだけ大規模にSAP HANAプラットフォームの技術者向けイベントを開催したのは初の試み、海外でもこれだけの規模での開催は珍しい。当然ながら、主催者サイドは集客にはかなり不安もあっただろう。

ところが開けてみれば、事前登録者は580名を越えた。当日も大勢が会場に詰めかけ大盛況、各セッションではどの部屋も入場を待つ長い列ができた。ハンズオンセッションにも多数の参加があり、実際にSAP HANAに触れる機会を得た参加者は、今後の開発の良いきっかけを掴んだだろう。SAP HANAに関心を持っている技術者がこんなにもたくさんいて、かつ真剣に情報を得ようとしている姿には、正直、少し驚かされた。

DSC_2316イベントの冒頭、挨拶を行ったSAP SE President Global Partner OperationsのRodolpho Cardenuto氏は「ここに参加した皆さんがSAPジャパンを支えています」と賛辞を贈る。SAPはERPアプリケーションの提供で長い間顧客に提案を続けてきた。「SAP HANAの登場で、これからさらに10倍規模のソリューションを提供できます。それはパーフェクトなエンタープライズに向かっており、シンプルで使いやすいものになります」と。

この「パーフェクトなエンタープライズ」を実現するには、リアルタイムなプラットフォームでなければならない。その上でリアルタイムな開発も行えなくてはならない。それを唯一できるのがSAP HANAだと言う。SAP HANAはITシステムをシンプル化する。それにより業務がシンプル化する。結果的にユーザーは、ITを維持することではなく、業務を革新することに集中できるとCardenuto氏。

このSAP HANAプラットフォームで実現する新しいITの仕組みは、SAPだけで実現できるわけではない。他との連携、接続性も重要性であり、その部分で活躍するのが会場に参加している開発者。「開発者は極めて重要であり、彼らと共に日本の顧客を支えていきたい」とCardenuto氏は言う。

旧来のデータベースを速くするためのインメモリーではない

DSC_2324続いてキーノートセッションのステージに立ったのは、SAP SE EMEA & MEE Chief Technology Officer Rolf Schumann氏だ。彼は、SAP HANAプラットフォームで大事なのは「真実は1つでなければならないこと」だと言う。これは、1つでないとリアルタイム処理が行えないからだ。ところが現実の多くのITシステムでは、コピーが氾濫し冗長化している。そしてコピーを作るために、他システムからデータを取ってくるのに長い待ち時間もある。

「SAPは、そもそもリアルタイムとは何かを考えインメモリーにたどり着きました。旧来のデータベースを早くするためにインメモリー化したのではありません。冗長性をなくしインメモリーで高速処理する。これこそが他との差別化です」(Schumann氏)

もう1つSchumann氏が指摘したのが、SAP HANAはデータベースではなくプラットフォームだと言うこと。これまでのデータベースは、性能の制約で多数の集計テーブルや中間テーブルをあらかじめ用意する必要があった。そのせいで処理の負荷が高くなり、管理手間もストレージ容量も増える。なおかつ、あらかじめ集計しなければならないので、予測されている検索は素早く行えるが、未知な問い合わせにはなかなか答えられない。

SAP HANAは、集計や中間テーブルを作るロジックだけを内部で持ち、問い合わせがあったときに「On The Fly」で実行し答えを返す。なので、常に1つの真のデータだけが存在し、それだけを使って答えを導き出すのだ。これでアドホックな質問にも、真の答えをすぐに返せる。

内部に持てるロジックは単純な集計だけではない。予測分析や地理情報の処理などもインメモリーの上で行える。「他のベンダーのインメモリーは、ロジックのところまで変更するわけではありません。データベースのチューニングに過ぎません」とSchumann氏。つまりアプリケーションサーバーの機能までインメモリーの上に取り込んでおり、だからこそSAP HANAはプラットフォームだと言うわけだ。

「SAPはアーキテクチャから考え直しました。SAP HANAでアプリケーションの会社から、オープンプラットフォームの会社になりました」(Schumann氏)

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このオープンプラットフォームは「SAP HANA Cloud Platform」という形でクラウドでも提供する。オンプレミスでは実装するのに時間がかかるSAP HANAの革新部分も、クラウドではSAPの手でどんどん追加できる。企業にとって変革したいことをどんどんこのクラウドに実装すれば、より迅速なビジネスの革新につながる。

このSAP HANAのリアルタイムプラットフォームによる革新は始まったばかり。今後20年くらいはこのトレンドは続くとSchumann氏は言う。その間には、これを活用する新たなプレイヤーも登場し、ビジネスの世界は大きく変革するだろうとも。

「リアルタイムなプラットフォームで、世の中のデジタル化がさらに加速します。これは、技術者にとっても面白い世界だと思います」(Schumann氏)

この新しい時代を牽引するのが、技術者だとSchumann氏は言う。高速なデータベースではなく、SAP HANAを新世代のプラットフォームとして捉える。そのように考え方を変えられれば、技術者は今後積極的にSAP HANAを活用することにもなりそうだ。

SAPの戦略を牽引するエキスパート「マイスター2.0」を表彰

キーノート終了後には、これから活用が期待されるSAP HANAをいち早く活用している技術者のアワード表彰が行われた。ステージにはSAPジャパン 代表取締役社長 福田 譲が登場、ITに携わる人たちにとっても面白い時代がやってきたと言う。そんな世界で新たなイノベーションを起こすには「マインド」「スキル」「ツール」の3つが必要だと指摘。マインドは新しいものを生み出そうという意識、ツールはSAP HANAに代表されるようなもので「これはだいぶ整ってきました」と。そしてもう1つ重要なのがスキルで、リアルタイムなプラットフォームを使いこなすための技術力が当然いる。

SAPの認定コンサルタントの中でも、この3つを極めているあるいは極める高い意識を持っているのが「マイスター2.0」と呼ばれる存在。この称号は、SAPの最新の戦略に掲げている専門領域において、高い知識と経験を兼ね備え、SAPのイノベーションを牽引するエキスパートの証しでもある。

今回、2015年第1回のアワードとして3名のマイスター2.0が決定した。「マイスター of ビックデータ 2015」として、アクセンチュア株式会社 テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネス インテグレーショングループプリンシパルの家田 恵氏、アビームコンサルティング株式会社 プロセス&テクノロジー 第二事業部エキスパートの長井 孝治氏の2名が選ばれた。そして「マイスター of シンプリフィケーション 2015」として、アビームコンサルティング株式会社 プロセス&テクノロジー 第1ビジネスユニット FMCセクター エキスパートの野口 壮裕氏が選ばれた。

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このようにテクノロジーエキスパートの表彰がSAPによって行われるというのも、SAPがオープンプラットフォームの会社に変わった1つの象徴的な出来事だろう。福田氏は彼らとともに「世界に誇るイノベーションを日本からも」と意気込んだ。実際に技術者からの支持をどれだけ得られるかが、今後のSAPの成長を大きく左右することになりそうだ。