SAP HANAは速さの追求からエンタープライズ・プラットフォームとしての魅力の追求へ


SAP HANAを活用するための周辺技術も進化中

DSC_2349「SAP HANAは、SAPアプリケーション専用のデータベースではありません。すばらしいアプリケーションが、既に数多くSAP HANAの上で開発されています」と言うのは、SAP Labs LLCのVenkata Giduthuri氏だ。彼は、SAP Tech JAMのセッションで「SAP HANAの最新機能とロードマップ」について解説した。

Giduthuri氏もまた、SAP HANAが単なるデータベースではなくプラットフォームであることを強調する。データだけでなくアプリケーションもメモリーの上にある。その結果、従来の100倍から1万倍もの高速化が図られるのだと主張する。SAP HANAでは、位置情報処理、テキスト検索、グラフ機能、予測分析など、アプリケーションに必要なさまざまなデータ処理機能が組み込まれている。

「他のデータベースにもプロシージャや関数はあります。しかし、それらの処理は拡張性に乏しいので、通常はデータベースとは別のアプリケーションサーバーで動かします。SAP HANAは拡張性が高いので、すべてをSAP HANAの上に置くことができます」(Giduthuri氏)

さらに、SAP HANAはオープンなプラットフォームだとも主張する。SAPが用意するものだけでなく、自分たちで自由にアプリケーションを開発してSAP HANAの上に配布できる。また、多くの開発者が慣れ親しんでいるEclipseベースの開発ツールが用意されているので、技術者が容易に開発を始められる。

SAP HANAは単独でOLTP、OLAPのエンジンとしての利用ももちろんできるが、他のデータベースやイベントプロセッシングとの連携、アナリティクスやデータウェアハウスを実現するSAP IQ、モバイルや組み込み型データベースと連携するSAP SQL Anywhereなど、さまざまなシステムと組み合わせて利用できる。

「たとえば、SAP ASEを既に使っているのであれば、SAP HANAをサイドカーのように使って処理を高速化することもできます。またイベントプロセッシングのSAP ESPを使えば、発生しているデータの中で何らかのパターンが見つかれば、瞬時にそれをSAP HANAにプッシュし処理するといったことも可能です。SAP HANAの周りではさまざまな進化が起こっています」(Giduthuri氏)

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ダイナミックティアリングでメモリー容量を超えるデータも扱えるように

SAP HANAの最新版SPS 09では、7つのキーとなる進化があるとGiduthuri氏は言う。マルチテナント機能、スマートデータ・ストリーミング、データロード時のクレンジングと変換、統計手法を使った情報分析活用エンジン、Hadoopとの連携機能の強化、グラフ機能、ダイナミックティアリングの7つだ。

マルチテナントはクラウド時代に対応する機能であり、コンテナを使ってSAP HANAを分割して利用できる。これで1テラバイト程度といった小さいサイズからSAP HANAを始め、それをだんだんと拡張していくことも容易だ。

スマートデータ・ストリーミングはデバイスからのストリーム情報をリアルタイムに処理するための機能で、Sybaseのテクノロジーを活用している。「今後もSybaseの良い機能は、さまざまなものがSAP HANAに取り込まれていきます」とGiduthuri氏。

Hadoopとの連携機能は既に実装していたが、今回のバージョンで分散化された環境のサポートを強化してる。「HadoopとSAP HANAを共存させることで、ペタバイトクラスのData Lakeも活用できます」とのこと。HANA Graphは、最近注目されているグラフデータベースの機能をSAP HANAに取り込んだもの。グラフデータセットをSAP HANAの中で利用でき、別途グラフデータベースを用意する必要はない。SQLからもこのグラフデータセットにはアクセス可能だ。

ダイナミックティアリングは、ある意味インメモリーだけしかなかったSAP HANAを大きく進化させる機能と言えるだろう。

「より大きなデータを扱いたい要望があります。現実的には、持っているデータの20%程度しか頻繁にはアクセスしません。そこでデータを頻繁にアクセスするHotデータとそうではないWarmデータに分け、HotだけをSAP HANAのインメモリーに置きWarmはSAP IQベースのカラム型データベースに置くようにします。アプリケーションからデータへは、これまで通りSAP HANAにだけアクセスすれば自動的にSAP IQからも取ってきます」(Giduthuri氏)

この機能を使えば、限られたメモリー空間しかなくても大容量のデータをほぼレスポンスの低下なく扱える。他のインメモリー型のデータベースから、SAP HANAにはすべてをメモリーに載せなければならない弱点があると言われていたことが、この機能で覆せるというわけだ。

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今後もさまざまな拡張が計画されている

Giduthuri氏がもう1つ強調したのが、クラウドへの取り組みだ。

「クラウドについては、SAP自身が提供するものとAmazon Web Servicesなど他のクラウドの上で使えるものがあります。さらにはマネージドクラウドの形で、データセンターでパートナーやSAPがホスティングする形のものもあります。」(Giduthuri氏)

またSAP HANA Cloud Platformでは、プラットフォーム全体を提供するものもあれば、PaaSとしてデータベースやアプリケーション部分だけを切り出した利用も可能となっている。

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また、SPS 09の新機能以外の拡張としては、仮想化環境への対応もある。これまではハイパーバイザー型のVMwareにのみ対応してきたが、ハードウェアベンダーの提供するハードウェアパーティショニングにも対応を開始した。既に15のベンダーが認証を得ているとのことだ。

さらにテーラードデータセンターということで、アプライアンスだけでなく既存ハードウェアでもSAP HANAを利用できるよう、ハードウェア要件の制限緩和も行っている。認証を受けているハードウェアであればSAP HANAを利用できることになり「これはTCOの削減に有利に働きます」とGiduthuri氏。

今後の拡張の方向性としては、SAPの新たなアプリケーション製品である、SAP S/4HANAに向けたものが充実してくるとGiduthuri氏は言う。また、SAP HANAの中で利用できるアルゴリズムについても、どんどん新しいものが追加されてくるとのこと。

「特にRとのインテグレーション部分は今後さらに拡張される予定です」(Giduthuri氏)

もう1つ忘れてはならないのがセキュリティだ。暗号化テーブルを開発中で、アプリケーションログ、監査ログの機能もさらに強化が計画されている。

またテキストサーチについては、マルチランゲージのサポートが予定されている。グローバルに展開する企業が増えている中、マルチランゲージ化は必須だとGiduthuri氏は言い32言語にまで拡張するとのことだ。

この他にもマルチテナントを使っている際のバックアップの制限やダイナミックティアリングを利用している際のHA構成の制限など、細かい部分での拡張も随時実施される予定だ。

6月には、SPS 10のリリースが予定されている。この日説明されたいくつかの機能強化は、すぐに手に入るものもありそうだ。SAP HANAはSPS 09くらいからデータベースとしての完成度がかなり上がってきた感がある。もちろん歴史の長いデータベースからすれば、まだまだ足りないと感じる部分があるのは事実だろう。しかし、速さの追求だけでなく、ここ最近は確実にエンタープライズで活用するデータベース機能をキャッチアップしてきた。そういった面からも、日本の保守的なユーザーでも十分にSAP HANAを採用できるレベルになったのではと思うところだ。