インダストリー4.0の実現で重要なのはワンプラットフォームとリアルタイム性だ


IoTによるデータ活用を前提としたインダストリー4.0という考え方

DSC_2378「第四次産業革命」あるい「インダストリー4.0」と呼ばれる世界をご存じだろうか。これは「IoT、モノのインターネットを活用し、ネットワークを前提として双方向コミュニケーションをすることでビジネスそのものを自動化する世界です」と言うのは、SAP Tech JAMで「SAP HANAがもたらすITイノベーション」と題してセッションを行ったSAPジャパン プラットフォーム事業部 第一営業部長 大本修嗣氏だ。

インダストリー4.0の動きは、ヨーロッパ、特にSAP本社があるドイツの政府や企業で積極的に取り組まれている。「モノを作るだけでなく、輸送なども含め効率的で無駄のない社会を作る取り組みです」とのこと。そのためにSAPはもちろん、シーメンスやボッシュ、コンチネンタルなどヨーロッパの有名企業が参画し、IoTのためのデバイスやプロトコルの標準化、セキュリティリスクへの対応などを行っている。

インダストリー4.0で目指しているものに、たとえば工場などを自動化、効率化する「スマートファクトリー」がある。これについては「すでに具体的なあり方を示すレベルに至っています」と大本氏。このスマートファクトリーは、従来の工場のIT化とどう違うのか。

「これまでのIT化では製造業向けITシステムの導入やファクトリーオートメーションなど、パッケージ化できるところを中心に進めてきました。これで個々の生産ラインの動きなどは自動化できても、工場全体を把握し効率化するには至りません。インダストリー4.0では、まさにそこを狙っています」(大本氏)

製造なりのあるプロセスをERP化するのではなく、現場の人の活動そのものをERP化する。それにより工場全体を効率化し自動化を目指すのだ。

IoTでビジネスのサービス化へのシフトが可能に

今やIoTの概念も浸透し、さまざまな機械、自動車やスマートフォンがインターネットに繫がる。今後はさらに各種家電もネットワークに繫がることになるだろう。その際にインダストリー4.0的には、それらが個々にネットワークに繫がり情報を集められるだけでなく、機器なりが稼働する家全体、ビル全体、社会全体が抱える課題を集めた情報を活用し改善していくことだ。

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「現状は実証実験的に取り組んでいます」と大本氏。各種デバイスから包括的に情報を集め、それを企業が持っているERPのデータと合わせて分析する。そこから高い精度でビジネスプロセスの効率化、自動化を実現する。もちろんその際のリアルタイム分析は、SAP HANAのプラットフォームでというのがSAPのシナリオだ。

SAP HANAには統計解析やテキストマイニングなどの機能が揃っており、データさえ集まればさまざまな分析がすぐに行える。このプラットフォームはクラウドでも提供しており、SAP HANA Cloud Platformにデータを取り組むための各種アダプターなどが「IoTエディション」という形で用意されている。「先日米国で行われたSAPPHIRE NOWでは、シーメンスがIoTエディションを使ってインダストリー4.0に取り組む事例が発表されました」と大本氏。この例では、IoTでセンサーから各種情報を収集し分析するだけでなく、既存ERPのビジネスプロセスと連携させ発注業務の自動化を実現しているのが特長となっている。

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このインダストリー4.0の動きは、今後15から20年先に実現が本格化すると大本氏は指摘する。今はそのスタートラインを越えたくらいのところで、いくつかの領域で先行した動きが見られる。進んでいる領域がマーケティング、アフターサービス、金融の不正探知などだ。ユニークなところでは、スポーツとエンターテインメントの世界がある。「これはSAPが新たに取り組んでいるところで、F1のマクラーレン、ヨットレース、テニス、アメリカンフットボール、サッカー、バスケットのNBA、アイスホッケー、野球などでデータ活用が始まっています」と大本氏。

この他にもインダストリー4.0的な先進事例について大本氏は解説した。予知保全の例として紹介されたのが、アフリカのケニアできれいな水を供給するためのポンプ装置の事例だ。センサーを使って情報を集めポンプのライフサイクル管理を行い、ポンプが故障する前に予知する。ポンプの停止は地域の生活にとって死活問題、いかに停止時間を短くするかは重要だ。迅速な予測には、データを蓄積しバッチ処理で分析するのでは遅い。リアルタイムな処理が必要でありその部分をSAP HANAが担っている。また、ポンプ利用状況のデータは、故障予測だけでなく地域の水利用状況の把握にも役立つ。その情報と外部情報を合わせて分析すれば、地域の人々の健康状態までが把握可能となる。

同じセンサーデータの活用でも、ドイツのケーザー・コンプレッサーの取り組みは興味深い。こちらはセンサーで機器の状況をモニターするだけではなく、利用状況の把握からビジネスモデルを変革したのだ。センサーからのデータでユーザーが利用している圧縮空気の量を把握できる。そこで機器を販売するのではなく、利用した圧縮空気量で課金するサービスを新たに始めた。

「利用状況もモニターしてなるべく故障が発生しないように管理します。そうすることで、メーカーは効率よくサービスを提供できます。サービス型への移行は、顧客やメーカーにとってさまざまなメリットを生んでいます」(大本氏)

輸送効率化では、ドイツのハンブルク港の事例が興味深い。ハンブルク港は川の上流に位置し周辺道路の渋滞などの課題があった。荷物を積んだ船が到着したら、なるべく短時間で揚げ降ろしをして運び出したい。そのための船の位置管理、トラック配置管理の最適化をIoTとビッグデータ分析で実現している。この取り組みでは、従来は数時間におよぶトラックの待ち時間を極力なくすようにしているとのことだ。

【参考記事】
世界の人々の生活インフラを「止めずに」支えるSAPのイノベーション
https://www.sapjp.com/blog/archives/4190
“空気を使った分だけ払う” サービスへビジネスモデルを変革させたケーザー・コンプレッサー
https://www.sapjp.com/blog/archives/10641
IoT活用で渋滞解消と処理能力アップを狙うハンブルグ港湾局
https://www.sapjp.com/blog/archives/10757

IoTからのデータを分析するだけで終わらない

大本氏は、インダストリー4.0の取り組みをする際にはIoTでデータを集め分析をする部分、従来のERPの部分とでプラットフォームが分かれていてはうまくいかないと指摘する。すべてが1つのプラットフォームで実現できるからこそ、IoTからのフィードバックをスムースにビジネスプロセスに反映させ効率化、自動化に繫げられる。さらに、IoTで莫大なデータを集める際には、プラットフォームがクラウドであることも重要だと言う。「ワンプラットフォームでできるからこそ、企業データと付き合わせて企業がやりたいビッグデータ活用が可能になります」と大本氏。

たしかにIoTで集められるデータを分析するだけでは、今どういうことが起きているか把握できるところ止まり。それらの因果関係と既存ビジネスの情報を付き合わせて分析することで、ビジネスの次なるアクションが判断できる。さらに、その判断に時間がかかっていたのでは、なかなか実際のアクションにはならない。全体の効率化、自動化までやろうとすれば、リアルタイム性は重要なのだ。IoTの大量データを分析できるところから、すぐにアクションにトライできるところまでやる。それができるかどうかが、IoTの、いやインダストリー4.0の成功の鍵となりそうだ。