プロトタイプを作り使ってみて体感することがデザイン思考では重要だ


アイデア出しに留まることなくプロトタイプを作るべし

DSC_2483今回のSAP Tech JAMのセッションの中で、かなりユニークなセッションがあった。それがSAPジャパンの舟木将彦氏が行った「デザイン思考とExperience Prototyping – ハードもソフトも体験をクイックプロト -」と題したIoTの実現をイメージしたセッションだ。

「SAPは、じつはデザイン思考を先進的に利用している会社です。なのでこのセッションでは、デザイン思考風に進めてみます」と舟木氏は切り出した。デザインシンキングは、共感から考えることが重要だと言う。たとえば、自転車を放置されて迷惑しているときに「自転車を置かないで」と張り紙をしてもあまり効果はない。ところがその場所に「不要自転車です」と張り紙をすれば、自転車の放置はなくなることに。とはいえ、こういった発想に至るのは、なかなか難しいと舟木氏は指摘する。

たとえば、子どもたちの病気を防止するために「手を洗いましょう」と張り紙をしても、それだけではなかなか手を洗うようにはならない。ではどうしたらいいのか。デザイン思考の1つの試みとして、セッケンの中におもちゃを入れてみた。そうすると、子どもたちは早くおもちゃを手に入れたいので積極的に手を洗うようになる。「さらには手だけでではなく、顔も頭も洗うようになります。これは目的に対しoverachieve(予想を超えた成果)となります」と舟木氏。

実際にデザイン思考を進めていく際には「Look」「Think」「Do」というサイクルを繰り返すことになる。Lookで情報を得て、Thinkでアイデアを創出する。そこからインサイトを得て、その気付きを見える形にするのがDoだ。このサイクルを進めようとする際に陥りやすい罠がある。ついつい、アイデア出しのところに終始してしまうことだ。じつはアイデアがいくらたくさんあっても、このデザイン思考のサイクルは先に進まない。

「SAPではアイデア出し大会のようなことはやめています。アイデアをインプリしてプロトタイプを作って始めて意味があるからです。それをペルソナの視点で評価するようにしています。アイデア自体にはイケてるもイケてないもありませんから」(舟木氏)

デザインシンキングは、考えるよりも「Do」することが重要だと言う。なので、Experience Prototypingを提唱し、アイデア出しではなくプロトタイプを作ることに重きを置くのだと。

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littleBitsとSAP HANAを使ってIoTを体感する

そんなプロトタイプ、特にIoTのプロトタイプを作る際に利用できるものがある。それが「littleBits」だ。これは電気回路を簡単に作れるもので「レゴブロックの電気回路版です」と舟木氏。ブロック状のパーツが磁石でくっつくようになっており、磁石の極性を利用し間違った接続ができないようになっている。

「最近は、これを使ってIoTのデザインシンキングをやっています。IoTで何をしたいかを決めれば、これを使ってすぐに試行錯誤しながら進めることができます」(舟木氏)

littleBitsのセンサーを使って、得られたデータをWi-Fiネットワーク経由でSAP HANA Cloud Platformに渡すといったことが簡単に実現できる。そしてクラウドにセンサーからのデータを集めるだけではなく、集めたデータをもとに予測分析を行い、結果をデバイス側に送り返して制御することも可能だ。「これを特にプログラミングすることなしに、すぐに実験できます」と舟木氏。机上であれこれ考えるだけでなく、IoTを体感できることが重要だと言う。

「そもそもIoTとは何なのか。センサーがあって、クラウドにデータを流し、クラウドから何かが戻ってくる。インプットとアウトプットの間にクラウドがあります。クラウドにデータを溜めることで、顧客が欲しているものを返すこともできます」(舟木氏)

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SAPではこういった実験をするための仕組みを、クラウド側に無償で用意している。たとえば、ソーシャルメディアのつぶやきのデータを使って、インフルエンザの流行状況を予測するという話がある。つぶやきを検索してインフルエンザに関するものを地図上にリアルタイムにマッピングすることで、感染の広がり状況が把握できる。これを花粉症についてもできないか。さらにIoTを使ってできないかを考えてみると舟木氏。そこでプロトタイプとして作ったのが、折れ曲がる状況をモニターするセンサーをティッシュの箱に付け、ティッシュの利用状況をモニターするという仕組みだった。

この仕組みから得られるティッシュの利用状況データをクラウド上のSAP HANAに溜める。取り出しのタイミングや頻度、速さなどが分かり、そこから時間あたりどれくらいのティッシュを消費したかが計算できる。その状況を分析すれば、花粉症の症状がどのような広がり方をしているかを予測できるというわけだ。クラウド側では、ティッシュの消費ペースを計算し、ティッシュがなくなる時期を予測することもできる。

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「花粉の量が増えたと判断できれば、その情報をlittleBitsに渡しファンを回して花粉を吹き飛ばすこともできるでしょう」と舟木氏。このIoTのストーリーは、もちろんジョークも含まれている。しかし、IoTというものを実感するのにはいい例だろう。構築した仕組みではデータの受け渡しにはlittleBitsのAPIを利用しており、データを送る際にはセキュリティを確保するための認証トークンなども用意されている。つまりIoTの実現に必要なものは、一通り揃っていることになるのだ。

こういう仕組みを目の当たりにすることで、クラウドに溜めたセンサーからのデータをどうやってマネタイズしたらいいかといったことも、リアルに想像できるようになる。舟木氏は、IoTの活用なりを考える際には自分たちの「顧客にとっての顧客の視点」が大事だと言う。

作って使ってみれば新たな気付きがあり常識を覆すようなものも出てくる

舟木氏はデザインシンキングのワークショップでは、実際に作ってみて使ってみることが大事だと言う。

「そこから新たな気付きがあり、常識を覆すようなものが出てきます。アイデアを評価するのではなく、作って使ってみる。出来上がったプロトタイプは、人間と技術の両方の面から評価する必要があります」(舟木氏)

ものを生み出す開発者にとっては、必要な道具が3つあると舟木氏は言う。それは「人」「テクノロジー」「ビジネス」で、人のところは欲求でありそれが製品に対するニーズとなる。そしてテクノロジーがそのニーズの現実性の部分であり、ビジネスのところでそれが経済的で実行可能かを証明する。

「これについて頭で考えるのではなく、アジャイルに取り組みます。やってみて違えば、すぐに変更してまたやってみる。Look、Think、Doでやることが重要です」(舟木氏)

確かにたくさんのアイデアを出してそれを評価することで、何かをやった気になってしまうことは多い。それだけでは、じつは何も新しいことは動き出していない。アイデアからプロトタイプを実際に作って試してみる。デザインシンキングというのは、考えることではなく試してみることだ。試してみてから考えればいい。それでこそ、新たなソリューションが生まれる。デザインシンキングということを普段意識していなくても、このセッションに参加したことでこれからはどんどんプロトタイプを作って見るべきだなぁと思うところだ。