今、日本に求められる変革の力――第1回:IoTは国際競争力復活の切り札になる


277291_l_srgb_s_gl日本企業が再び成長戦略に舵を切れるのか。経営者は企業経営の現場でどのような問題意識をもち、変革をリードしていくべきなのか。また、変革の現場ではどのようなリーダーが活躍しているのか。この連載では、識者、経営者、ミドルマネジメントという異なる立場から、日本企業の変革の在り方を描く。第1回は、米倉誠一郎・一橋大学イノベーション研究センター教授から、日本企業の競争力が今、どのような局面にあるのかを聞く。

 

─グローバルで見て、日本企業の競争力をどのように見ているか。

米倉 新興市場として注目されているアフリカに大きなショッピングモールを作る計画があると考えてみよう。日本企業で1つのショップを出せるブランドがあるだろうか。以前ならソニーやキヤノン、パナソニックといったブランドが候補にあがったが、現在の日本ブランドでは難しいのではないか。あえて挙げるなら、レクサスくらいか。ユニクロは確かに海外でも強いが、GAP、ZARA、H&Mの隣で魅力的な店を展開していくのは難しいような気がする。

アフリカでは、「日本製」「日本技術」に対するブランド力がない。ヨーロッパ企業が作ってきたブランドが圧倒的に強い。中国製、韓国製、日本製の区別すらついていない。つまり、日本が誇る「技術力」という「利き腕」を使えないということ。「利き腕」ではないところで勝負することが求められる時代だと言える。新興国にとって、ハイエンドである日本製品はオーバースペックで価格が高すぎる。韓国のサムスン・ブランドも同じような問題を抱えている。つまり、ものづくりをゼロから再構築する必要があると感じている。

 

─日本の技術力といえば、自動車産業がその代表だと思うが、競争力が落ちていると思われるか。

米倉 アウディ、BMWはブランド力がある一方で、日本メーカーのブランド力はそれほど強くない。ヨーロッパ企業を中心に、「ぶつからない」自動車の開発が進んでいる。ユーザーにとっても「それ、いいよね」と、非常にわかりやすい。一方、トヨタを始めとした日本メーカーが力を入れているのは、水素。エネルギー問題に取り組もうとしているのは悪くないが、「そんな難しいことをしなくても」と思ってしまう。「水素=危険」というイメージも未だに払拭されていない。

海外に行くと、90年代は日本企業の強さを学びたいと言われたが、最近はめっきり減ってしまった。日本企業の存在感が確実に落ちていることを認識すべきだ。

 

─日本企業が、イノベーションを起こし世界での存在感を高めるためにはどうすればいいと思われるか。

米倉 IoTは、その切り札の1つとなり得る。日本は今まで、ハードやインフラの整備を得意としてきたが、考え方を切り替える必要がある。

たとえば、新興国で今から固定電話網を整備しようという国はない。なぜなら、携帯電話があるからだ。公共交通も同じ。地下鉄を整備しようと思えば大きな投資が必要だが、バスであれば大きな投資は必要ない。中国・南京市では、トラフィックをモニタリングすることで、バスが今どの停留所いるかなどが分かるようになり、バスの運行を最適化している。これも、ハードではなくソフトで解決しようとしている例だろう。鉄道へ投資する分を、教育に投資できるという考え方もできる。ハードではなく、教育というソフトへの投資だ。

日本は財政破たん国家だと認識すべきだ。このままでは財政が均衡することがないのは明白だ。それでも、財政出動して公共投資をし、インフラ整備をし続け、供給過多の状態を続けている。イノベーションを起こし、新たな需要を生まなければ、日本全体の需給バランスはいつまでも均衡しない。このことを、みんながもっと広く認識すべきだろう。

もう一つは、企業が勝てるドメインを見つけることだ。ニコンが「カメラの会社」でとどまるのではなく、「映像を次の世代に残す」とドメインを広げるといった具合に。成功を収めた後にビジネスドメインをどう再定義していくかが重要だ。日本人は箱を深めるのは得意だが、広げるのが苦手な傾向がある。そこを乗り越えないとイノベーションは起こせない。ストーリーをもって世界に展開していってほしい。

人口は中国の方がはるかに大きく、日本の人口はすでに縮小し始めている。そんな中で、日本企業は世界でどうやって存在感を上げていけるか。経営者のみなさんには、存在感が薄れているという危機感をまずは持ってほしい。しかし、日本には高い技術力という希望もまだまだある。タイの新幹線や、鉄道大国のイギリスの鉄道を日本企業が受注しているなどはその証拠だ。しかし、日本に残された時間はそれほど多くないのも事実。どんな選択をするかは、日本企業の選択にかかっている。そのことを今後もしっかり問いかけていきたい。

 

次回は日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏に、強いチーム作りとリーダーシップの在り方を聞く。

 

■略歴
米倉誠一郎(よねくら せいいちろう)
一橋大学イノベーション研究センター教授。日本元気塾塾長。

150120ah2161953年東京生まれ。一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得(PhD.)。1995年一橋大学商学部産業経営研究所教授、97年より同大学イノベーション研究センター教授。2012年〜2014年はプレトリア大学GIBS日本研究センター所長を兼務。現在、一橋大学の他に、Japan-Somaliland Open University 学長をも務める。また、2001年より『一橋ビジネスレビュー』編集委員長を兼任している。イノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセス、組織の史的研究を専門とし、多くの経営者から熱い支持を受けている。著書は、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』、『脱カリスマ時代のリーダー論』、『経営革命の構造』など多数