今、日本に求められる変革の力――第2回:「日本一オーラのない監督」が唱えるリーダーの条件

作成者:久川 桃子 氏 投稿日:2015年6月19日

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Action during a rugby match日本企業が再び成長戦略に舵を切れるのか。経営者は企業経営の現場でどのような問題意識をもち、変革をリードしていくべきなのか。また、変革の現場ではどのようなリーダーが活躍しているのか。この連載では、識者、経営者、ミドルマネジメントという異なる立場から、日本企業の変革の在り方を描く。前回に続き第2回では、日本ラグビーフットボール協会の初代コーチングディレクターを務める中竹竜二氏が考える「リーダーの条件」を聞く。

 

フォロワーシップを引き出せるリーダーとは

組織にはリーダーがいて、そのリーダーについて行くフォロワーがいる。変革のために必要なのは、強いリーダーシップなのか、それともフォロワーシップなのか。数々のリーダーシップ論がある中、フォロワーシップの重要性を早くから提唱した人物こそ、中竹竜二氏だ。

中竹氏は、2008年、フォロワーシップという言葉を早稲田大学ラグビー蹴球部に根付かせて、大学選手権で日本一へ導いた。フォロワーシップとは、リーダーの指示に従うのではなく、自ら考え判断する力のことを指す。

中竹氏の前任は、現在ヤマハ発動機ジュビロの監督を務める清宮克之氏。清宮氏が強烈なカリスマ的リーダーだったのに比較し、中竹氏は、学生やまわりのコーチから「オーラがない」と言われ続けた。体格が特に大きいわけでもなく、集団の中で目立つわけでない。それを卑下するわけでもなく、「日本一オーラのない監督」というキャッチフレーズを気に入ってさえいるという。なぜなら、オーラのないリーダーはフォロワーと目線を合わせやすく、素直に意見をもらうことで情報をたくさん仕入れることができるからだ。周りから過剰な期待を受けることも、周りに過剰な期待をすることもなく、自分なりのスタイルを貫くにはオーラがない方がやりやすいというわけだ。

フォロワーシップをうまく引き出し、強い組織をつくるにはリーダーはどうすればいいのか。「最も大事なことは、明確なゴールを設定し、共有し、チーム全員に共感してもらうことだ」と、中竹氏は言う。30年かけてゴールにたどりつけばいいのであれば、誰でもできる。たとえば、1年で達成するというゴールを共感させることができるかどうかが重要だ。「とりあえずゴールを掲げるだけのチームは多い。でも、心から理解している人はそれほどいない。だからこそ、一人一人がそのゴールに主体的に向き合えるように導くのがリーダーの役目だ」と、中竹氏は話す。

最近も、そのことを中竹氏が強く感じたエピソードがある。中竹氏は昨年度からプロ野球、横浜DeNAベイスターズのチームビルディングに参画している。当初は、ラグビー界の指導者である中竹氏に対して「野球のことを知らない人間に教えてもらうことはない」という雰囲気だった。「目標は優勝」と掲げたところで、昨年まで9年連続Bクラスと低迷が続くベイスターズの中で、真剣に優勝が目標だと認識しているメンバーはほとんどいなかった。しかし、回数を重ねるにつれ信頼関係は高まり、コーチ、フロントスタッフ、スカウト、トレーナーといった球団内のメンバー同士のコミュニケーションにおける潤滑油として、機能し始めた。

そんな中、中竹氏が繰り返し、「チームが機能するためにはどうするべきか」とメンバーに問い続ける中で、勝つためにできることを一人一人が真剣に考え始めた。その結果、ペナントレースが始まってみればベイスターズは快勝を続け、今や、セリーグ首位(2015年5月の取材時点)。チームの中で、「今年は優勝できる」というムードが生まれているのは言うまでもない。「どんな人でも変われる」、「対話がすべて」が中竹氏の持論だ。

スポーツもビジネスも課題は同じ

ラグビー、プロ野球といったスポーツだけにとどまらず、中竹氏の元には企業からの講演やコンサルティングの依頼も多い。結果への強いコミットが求められる厳しいプロスポーツの世界と、安定的に給料をもらえる企業内でリーダーの役割に果たして共通点はあるのだろうか。

「企業の場合は、スポーツのような明確な勝ち負けがないので、目標設定が難しいケースはある。しかし、プロスポーツでも毎日クビがかかっているという危機感がある選手やスタッフはほとんどない。リーダーの役割は、目標を設定し、チームで共有し、それをチームの一人一人が共感するように導くこと。これはスポーツでもビジネスでもまったく同じ」と中竹氏は言う。

もちろん、リーダーのスタイルはさまざまだ。清宮氏のようにカリスマ性のあるトップダウン型のリーダーもいれば、中竹氏のように繰り返し繰り返し対話を続ける中で、メンバー一人一人の当事者意識を芽生えさせていくスタイルもある。その人なりのスタイルを見極め、そのスタイルを実践できることが強い組織に必要なリーダー像と言えそうだ。

 

次回は、サンリオの海外戦略で改革を実行したサンリオ常務取締役の鳩山玲人氏に、変革とリーダーシップの在り方を聞く。

 

■略歴
中竹竜二(なかたけ りゅうじ)
(公財)日本ラグビーフットボール協会
コーチングディレクター/U20日本代表ヘッドコーチ。
株式会社TEAM BOX代表取締役。

中竹さんプロフィールカット1973年、福岡県生まれ。早稲田大学人間科学卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育くむ」という自律支援型の指導法でとして多くの実績を残す。日本で初めて「フォロワーシップ論」を展開した人のひとり。現在は、日本ラグビー協会コーチングディレクター(初代)として、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力している一方、ラグビー界の枠を超え、民間企業、地方公共団体、教育機関、経営者団体を始め各方面から、分かりやすく結果を出す講師として講演会・研修・セミナーなどへの出演依頼多数。次世代リーダーの育成・教育や組織力強化に貢献し、企業コンサルタントとしても活躍している。主な著書に『自分で動ける部下の育て方—期待マネジメント入門』(ディスカヴァー新書)、『部下を育てるリーダーのレトリック』(日経BP)など。

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