今、日本に求められる変革の力――第3回:強いリーダーシップがもたらした変革と後遺症

作成者:久川 桃子 氏 投稿日:2015年6月22日

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277302_l_srgb_s_gl日本企業が再び成長戦略に舵を切れるのか。経営者は企業経営の現場でどのような問題意識をもち、変革をリードしていくべきなのか。また、変革の現場ではどのようなリーダーが活躍しているのか。この連載では、識者、経営者、ミドルマネジメントという異なる立場から、日本企業の変革の在り方を描く。前回に続き第3回では、サンリオで海外事業を中心に、物販からライセンスビジネスへの大転換を断行した、サンリオ常務取締役の鳩山玲人氏に変革とリーダーシップの在り方を聞く。

 

物販からライセンスビジネスへの大転換を断行

組織において、変革者とは一体誰だろうか。強いリーダーの存在が必要なのか、それとも組織に所属する一人一人がオーナーシップを持つことだろうか。「なかなか難しい問いですね」。鳩山玲人氏はサンリオに入社してからの7年間の変革を振り返り、遠くを見つめながら答えを絞り出す。

鳩山氏は三菱商亊に勤務していた2004年、サンリオとの提携を担当した。その経験もあり、その後ハーバードビジネススクール在学中はサンリオを徹底的に分析していた。そんな鳩山氏の状況を知り、サンリオの創業者の息子で、当時、副社長だった辻邦彦氏から米国法人COOへの誘いを受けた。鳩山氏は迷わず、すぐにサンリオへの入社を決意した。2008年のことだ。

それからの鳩山氏の変革者ぶりはすさまじい。老舗企業の慣習を躊躇することなく否定し、改革を進めていった。その代表例が物販からライセンスへのビジネスモデルの転換だ。当時のサンリオといえば、直営店でキティちゃんグッズを販売することがメインビジネス。直営店が増えれば、売上が増える。だから直営店を増やす、という戦略だった。

ところがこの戦略では店舗拡大の速度に限りがあり、大きく成長することができない。在庫や人員を抱えるというリスクもある。事実、鳩山氏が入社したサンリオは100億円近い未償還の優先株や、200億円地近い純負債を抱えており、当期利益の水準は今の10分の1以下だった。

鳩山氏はこの戦略をゼロから見直し、ライセンス方式に転換した。他業界とのコラボレーションを進めることで、さまざまなキティちゃんグッズが世界中に広がり、サンリオはそのライセンスフィーを収入として得られるようになった。もちろん、在庫リスクもない。こうして、鳩山氏が率いる海外事業はサンリオ全体の利益の大半を得るまでになった。

順風満帆かに見える鳩山氏だったが、不幸な転機が訪れる。鳩山氏をサンリオに招聘した副社長、辻邦彦氏の急逝だ。辻邦彦氏という後ろ盾を失った鳩山氏は、徐々に社内での求心力を失っていった。

成長したからこそのジレンマをどう乗り越えるか

海外事業が主力でなかった2008年当時は、誰も海外事業をやりたがらなかった。だからこそ、鳩山氏は自分の考えをすぐに行動に移すことができた。ところが、いざ軌道に乗り利益が大きくなると、日本本社から監視の目が厳しくなる。「日本のことをわかっていない」といった声も鳩山氏の耳に届くようになる。逆に、15人のボードメンバーのうち、海外部門の担当者が海外法人から一人も常用されないことに、海外拠点からは不満も漏れる。「社内の壁がどんどん高くなることを感じている。成功したからこそのジレンマ」と鳩山氏は表現する。

創業者で現在も社長の辻信太郎氏からは、「物販事業を中心とした創業以来の事業モデルを壊してしまった」と指摘を受けることもあるようだ。全国に直営店を広げ、どこに行ってもサンリオショップがあり、大切にキティちゃんというブランドを育ててきた創業者にしてみれば、ウォルマートなどの量販店で大量のライセンス商品が置かれている姿に違和感を覚えるのだろう。

鳩山氏にしても、ライセンスがすべてだとは思っていない。すでにキティちゃんのライセンス事業だけでは持続的成長は難しいと鳩山氏は読んでいる。

巨艦ディズニーも、ミッキーマウスだけのビジネスをしているわけではない。映画スターウォーズなどを展開することでビジネスを拡大している。「サンリオもキティちゃんだけに頼るのではなく、M&Aでキャラクターを拡充していくべき」というのが鳩山氏の考えだ。しかし社長の辻信太郎氏は、M&Aやライセンスの拡大で企業として成長することよりも、物販という創業の原点への回帰を目指すべきだと決算説明会などで力説している。この数カ月、辻信太郎氏、鳩山氏の意見は平行線のままだという。

「私も今より7歳も若かったし、かなり強引に変革してきた。その結果、社内に敵を作り、『反鳩山体制』ができてしまったのも事実。やってきたことに後悔はない。でも、もし、今のような状況になることがわかっていたら、もう少し、反発が起きないような中間的な方法があったのでは、という思いもどこかにある」。鳩山氏の口調はどこか自分に言い聞かせているようにも聞こえる。

「振り返れば、私は、サンリオにイノベーションを起こそうとする辻邦彦副社長のフォロワーだった」と、鳩山氏は述懐する。辻邦彦副社長亡きあと、辻信太郎社長の率いるサンリオで鳩山氏は自らの今後のポジショニングをどうとるべきか考えあぐねているに違いない。変革の当事者だからこそ、変革にはフェーズがあり、そのフェーズによって求められるリーダー像が異なることを鳩山氏なら語れるのかもしれない。

 

次回は、全日本空輸マーケティング室レベニューマネジメント部データマーケティングチームリーダーの田中良基氏に、変革に求められるミドルマネジメントのリーダーシップについて聞く。

 

 ■略歴
鳩山玲人(はとやま れひと)
サンリオ常務取締役

鳩山さんプロフィール写真エイベックスやローソンなどでメディア・コンテンツビジネスに従事。その後、海外に渡り、2008年にハーバードビジネススクールでMBAを取得。同年、サンリオに入社し、10年、取締役事業戦略統括本部長就任。現在、経営戦略統括本部、全社統括室を担当。著書に『桁外れの結果を出す人は、人が見ていないところで何をしているのか』(幻冬舎)。サンフランシスコ在住。

 

 

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