SAP ERPの海外ロールアウトを1拠点平均3カ月で行う音響機器メーカーのTOA


Technician in Recording Studio

製造業を中心に積極的な海外進出が進み、グローバルビジネスの最適化に向けた基幹システムの見直しを実施する企業が増えています。業務用の音響機器と映像機器の専門メーカーであるTOA株式会社も、こうした企業の1つです。世界5地域で「地産地消モデル」を推進する同社は、グローバルでの情報統合、業務の標準化を目的にSAP ERPを採用し、海外販売拠点のワンインスタンス統合を図るに際して、SAPコンサルティングサービスを活用し、1拠点につき平均で3カ月というスピーディなロールアウトを実現しました。海外の販売会社への展開は2017年を目処に終了する予定で、同社ではさらにSAP FioriやSAP HANAなどの活用も視野に、グローバルビジネスを新たなステージに押し上げようとしています。

コードの統合、標準業務ルールの統合に向けた「グローバルマネジメントシステム(GMS)」を構築

1934年の創業以来、業務用の音響機器、映像機器の製造・販売を手がけるTOA。拡声器として知られている「電気メガホン」を世界で初めて開発した企業としても知られ、公共施設で使用される放送設備では高いシェアを獲得しています。80年代には音響ビジネスで培った技術を生かし、防犯カメラなどのセキュリティの分野にも進出。2015年度には2017年度までの中期経営計画で「Smiles for the Public ―人々が笑顔になれる社会を作る― 」を同社の社会的価値として、ハードからサービスへのビジネスの変革を図り、「人々の社会生活にかけがえのない価値を提供する強い会社」であり続けることを目指し、事業を推進しています。

その技術力は海外からも高く評価され、現在は世界120カ国で販売活動を展開しています。近年は海外で企画・生産した製品を、海外で販売する「地産地消」のビジネスを拡大しており、2009年度から2014年度までの中期経営計画では、日本、アメリカ、欧州・中東・アフリカ、アジア・パシフィック、中国・東アジアの5地域に密着し、それぞれの地域での販売拡大を推進してきました。

しかし、海外のグループ会社は拠点ごとのプロセスに則って業務を行い、システムも個別に運用されていたため、ここでは情報の整合性の面で課題がありました。経営企画本部 情報システム部長の松室慎二氏は、「コード体系もデータ取得のタイミングも拠点ごとに異なり、本社でデータを集計しようとしても、品目コードを変換したり、データの粒度を確認したりする作業に追われてしまい、情報分析のための集計をあきらめざるを得ない状況でした」と振り返ります。

そこで同社は、情報システムのグローバル対応を進めるべく、「グローバルマネジメントシステム(GMS)」を構築し、グループ内の情報を可視化することにしました。また、将来IFRSが適用された場合に備えて、勘定コードの統一と会計プロセスの標準化を進める方針とし、連結における海外グループ会社の売上のさらなる増加に備えてシステムの標準化を図ることにしたといいます。

SAPの標準遵守」と「海外ワンインスタンス統合」を方針に販売拠点にロールアウト

海外グループのシステム統合を検討したTOAは、2012年9月からERPパッケージの選定を開始し、SAP ERPを採用しました。SAP ERP採用の理由を松室氏は「日本国内では15年以上にわたってSAP ERPを利用していること、また新たなUIを提供するSAP FioriやSAP HANAなどの機能がフルサポートされる付加価値を考えると、最新の機能が包括的に利用できるよう新たなライセンスの導入が賢明であると判断しました」と説明します。

導入プロジェクトは2013年10月からスタート。経営層との議論を重ね「SAPの標準機能遵守」と「海外販売拠点のワンインスタンス統合」の2つを目標に定め、グローバルテンプレートをベースに、重要拠点からロールアウトする展開方針としました。導入パートナーにはRFPを送った複数のベンダーの中から、SAPコンサルティングサービスを選択します。

「SAP ERPを熟知したコンサルタントによる、SAP Best PracticesとSAP World Templateを活用した導入提案が、標準機能を維持してアドオンを減らし、コストを抑えたいという当社の要望にマッチしていたことが最大の決め手です。パッケージ選定前の事前調査の段階で、当社の主要海外拠点への同行をSAPに依頼した際、SAPのコンサルタントが現地のスタッフと英語でコミュニケーションを図り、的確に業務や商流を把握していたこともSAPのコンサルタントを利用する要因になりました。当初SAPにプライムでコンサルを頼むことは念頭にはありませんでしたが、予算内で吸収できることも採用を後押ししました」(松室氏)

1拠点平均3カ月のペースでロールアウトを推進

約1年間のグローバルテンプレートの構築とパイロット展開を経て、2015年1月に重要拠点の第1ターゲットに定めたシンガポールとマレーシアで稼働を開始。作成したアドオンの本数は、Exit、インターフェースや帳票、マスター登録を除くと10本以下と、標準機能をほぼ維持した導入が実現しています。さらに稼働後のSAPアプリケーションの保守には、SAPのAMSサービスであるSAP Managed Servicesを採用し、海外からの問い合わせに英語で対応しています。

「SAP Managed Servicesを採用した理由は、ヘルプデスクだけでなく、カスタマイズやアドオン機能の開発までカバーされていたことです。さらに開発から保守へのスキルトランスファーもSAPのコンサルタントがSAPの保守要員に直接行うため、移行にかかる当社の負担が軽減され、私たちはロールアウト作業に集中できることもポイントになりました」

海外拠点へのロールアウトは、第1ターゲットとしたアジア・パシフィックの重要拠点となるシンガポール、マレーシアに続き、2015年4月にはベトナムへのロールアウトが終了。現在はドイツ、フランス、ポーランド、アメリカ、中国、ロシアへの展開が進められています。2016年度以降も個別拠点に展開を継続し、2017年度中に海外販売拠点への展開を終える計画です。

テンプレート化により、ロールアウトの期間は1拠点約3カ月、半年間で3拠点のペースで進める目処が立ちました。現地に出張しロールアウトに関わるスタッフもTOA本社情報システム部で数名と、少ない要員で対応ができるため、負担の軽減につながっています。システム統合による情報の見える化、情報分析については3拠点への展開が済んだばかりということもあり、「本格的な活用や分析はこれから」(松室氏)としながらも、販売システムが統合されることで、人が変わっても、販社がどこでも、時間が経過しても、規模が大きくなっても常に全世界で同じ管理ができるようになる予定です。

松室氏は期待する効果について「地産地消のビジネスにおいて、各拠点の販売実績がリアルタイムで把握できない点は大きな改善課題でした。海外拠点がワンインスタンス統合されたことで、これからはマーケット情報も加味しながら数値を分析し、各国の販売戦略に生かすことが可能になります。また業務やシステムの標準化やガバナンスの強化により、内部統制の対応と、業務品質の向上も実現します」と語ります。

連結会計についても、IFRSベースでの会計勘定コードを統一したことで、今後は2011年に導入した連結会計システムSAP Financial Consolidationとの連携による、財務会計情報の集計や分析の迅速化が期待されています。

海外グループに導入した標準化の考え方を国内向けのSAP ERPのリプレースに反映

SAP ERPによる海外拠点のワンインスタンス統合を実現した今、TOAでは次のステップとしてSAP ERPの最新機能の追加を検討しています。その構想の1つが、SAP Fioriを活用したマルチデバイス対応です。松室氏は「ヨーロッパ圏では在宅勤務の社員も多いため、自宅でも顧客情報の参照や在庫の把握が可能なワークスタイル変革にもチャレンジしていきたい」と語ります。

一方で、日本国内においては1999年に導入したSAP ERPの運用が15年以上にわたって続いていることから、ERPを全面的に刷新する計画で「今回のGMSプロジェクトで海外グループに導入したSAP ERPの標準化の考え方、顧客接点の獲得のための仕組み、営業スタイルの新しい形に関するノウハウなどを、逆輸入する形で国内向けの基幹システムにも反映させていきます」と松室氏は語ります

国内1インスタンス、海外1インスタンスの2インスタンス制を採用するTOAは、今後もグローバルベースでの生産計画、物流、販売管理、収益・原価管理の一元的な把握を目指してSAP ERPの活用を図っていくとしています。

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