今、日本に求められる変革の力――第5回:変革の第2ステージを支えるコミュニケーションの重要性
作成者:SAP編集部 投稿日:2015年10月25日
日本企業が再び成長戦略に舵を切れるのか。経営者は企業経営の現場でどのような問題意識をもち、変革をリードしていくべきなのか。また、変革の現場ではどのようなリーダーが活躍しているのか。識者、経営者、ミドルマネジメントという異なる立場から、日本企業の変革の在り方を描く本連載。今回は、7月1日-2日に開催されたビジネスエグゼクティブイベント「SAP Select」で行われたパネルディスカッションの内容をお届けする。
タイトル:
変革者は誰だ。変革者が語る真実のストーリー
モデレーター:
中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター)
パネリスト:
鳩山玲人氏(株式会社サンリオ 常務取締役)
田中良基氏(全日本空輸株式会社 レベニューマネジメント部 データベースマーケティング マネージャー)
福田譲(SAPジャパン株式会社 代表取締役会社長)
変革のリーダーシップをめぐる日本の課題
中竹氏:まず最初にグローバル企業の日本法人を束ねるお立場にいる福田さんから、日本人のリーダーシップはグローバル企業からどう見えるのかお伺いしたい。
福田:7〜8年前のことだが、SAPグループでさらなるグローバル化を目指し、新興国市場に新たに650人の人員を配置するというイニシアティブがあった。すべての従業員にチャンスが与えられ、自ら手を上げ、それが受け入れられれば新興国に転勤になるというものであったが、日本からの応募はゼロで、しかも先進国の中で応募ゼロは日本だけだった。これを聞いて、日本人の変革の意識はどうなっているのかと思ったことがある。もともとSAPには、グローバルで空きポジションが出ると公示され、すべての従業員が応募できる制度があるが、多くの日本人はその機会を利用しておらず、応募をしてもほとんどが選外となっている。この理由は、応募に際して「どうしても行きたい」という意思表示が弱く、どこか受け身であることがわかった。よく日本人は困難なことがあると、”It’s difficult(難しい)”と言ってしまうが、外国人は”It’s challenging(挑戦だ)”と言う。まさにこのメンタリティが日本人と外国人の根本的な大きな違いだと思う。
さらに、外国人のリーダーと日本人のリーダーとの違いを感じることもある。外国人のリーダーはトップの意向をしっかり汲み取り、咀嚼し、その上で部下に指示を出しているのに対し、日本人のリーダーは上から言われたことをそのまま部下に言っているだけのことが多々見受けられる。日本人に対して批判的なことばかり言うようだが、日本人は口数こそは少ないが、ここぞという時に本質を見抜く力に長けていて、一度方向性が決まり、理解されると、とても強い動きを発揮する。このような強みを生かして、弱い点をいかに補うかが重要なポイントだと思う。
中竹氏:同じ質問だが、鳩山さん、田中さんのご意見を伺いたい。
鳩山氏:私の場合、最初は米国子会社へ入って、その後日本の本社に移ったので、日米の両方を知っている。日本では、あくまで決められた枠の中で苦悩ししている状況が多く見られるが、米国だとオポチュニティをどんどん拾って前向きに活動するという姿勢の違いがある。
田中氏:私の部下にも米国人がいるが、彼は日本企業の調和を重んじる文化は高く評価している。ただ、通常時はそれでも良いが、変化をしようという時には足かせになると話していた。
中竹氏:自身が所属する企業のグローバル化について、どのように感じているか。
田中氏:グローバル化の実感は、正直なところあまりない。これまでも努力はしてきているが。
中竹氏:日本人には、グローバル化におけるジレンマのようなものがあるのか。
福田:日本かグローバルかという二者択一の話ではなく、どちらにも良さがあると思う。例えば、英語を話す自分は表現もストレートで別人格のようになれる。これはある意味で良い面である。それと同じように、日本人としての良さを発揮する機会はたくさんあると思う。
鳩山氏:ここで1つ思い出したことがある。リーダーは優れたリスナーになる必要があると言われるが、カルロス・ゴーン氏は日産の改革の際、最初の3カ月は人の話をよく聞いたと評価されている。しかし、フランスでは人の話を聞かずに怒鳴ってばかりで不評なのだそうだ。ゴーン氏は日本語が話せないので、日本に来た当初は話を聞かざるをえなかったというのが本当の話のようだが、結果的に良いリスナーになれて改革もうまく進んだという話だ。
中竹氏:皆さんはいろいろな変革を経験してきているが、その際にどんな障壁があったのか。
鳩山氏:米国で手がけたライセンスビジネスと同様の変革を国内でも期待されているが、とても難しい。海外での変革は新たな挑戦という前向きなものであったが、国内の変革は結局のところ事業再生のリストラに終始し、赤字部門の黒字化に尽きるところがある。これは後ろ向きの改革で現場部門からも嫌われてしまうので、一時的には成果が出ても続かなかった。つまり、一時期の実績を持続させるためのフォロワーがいなかった。思い返せば、国内の30数部門のうち黒字だったのはたった3部門で、ほとんどすべての部門から嫌われしまったのだから、これは今でも悔やんでいる。
中竹氏:田中さん、福田さんは変革途上で一番辛かったこととして、どういうことが挙げられるか。
田中氏:辛かったことはたくさんある。いつも心が折れそうになっていた。特に新しいものを導入するときは、なかなか理解が得られないので、多くの敵を作ってしまい、耐えるしかなかった。しかし、立ち止まったら負けと自分に言い聞かせ、一生懸命耐えた。そういうときにこそ、フォロワーが必要なのだと思う。
福田:グローバル企業では、常に上から槍が降ってくる。心が折れそうになることもあるが、日本人は粘り強く立ち向かっていく人が多い。我慢強く、チームとして課題を解決するように努めた。
中竹氏:変革を起こす人にとって、心が折れそうになることは避けられない。理解されないという言葉が端々にあったが、みんなが理解していることを行うのは変革ではないはず。理解されていないことを実行するのが変革である。
変革の第2ステージに不可欠なコミュニケーション
中竹氏:変革を実現し、それを持続していくためにはいろいろな壁があると思う。この変革の第2ステージにおいて、何が最も重要だと思うか。
鳩山氏:このことを考える上で、私もかつて考え違いをしていたことがある。これはリーダーシップ論におけるPower of Resourceの議論である。変革を起こすためには、何かを強みにして組織を動かす必要がある。1つの考え方として、組織内の役職、権限によって人を動かしていく方法があるが、まずこれは間違い。もう1つは、実績をかさに組織を動かそうというもの。これも間違い。他の人の話を聞いていると、コミュニケーションやフォロワーシップの重要性に気づかされる。つまり、人がついてくるかどうか。これこそが組織を動かす重要なポイントで、変革を長続きさせる秘訣だ。これに照らすと、私が行った変革は一時的なもので永続性を得るに至らなかった。自分にとって中長期的変革へ向けた努力はまだまだ続くと考えている。
田中氏:周囲から理解されない背景には、やはりコミュニケーション不足があると思う。つまり、相手の立場や考え方を理解できていない。変革を持続的なものにするということは、次の世代にバトンを渡していくことだと思う。ただし、ここで気をつけなければならないのは、優秀な若いスタッフは真似ることが非常に上手であるということ。真似ることと変革は本質的に異なるので、よくよく伝えないと伝わらない可能性が高い。ここは見逃してはならない重要なポイントだと思う。
福田:4代前の日本法人の社長は南アフリカ人だった。南アフリカで入社し、その後米国、日本、そしてドイツと渡り歩いた出世頭だったが、その人から「お前はマネージャーになりたいのか、リーダーになりたいのか」と質問されたことがある。最初はその意味があまりわからなかったが、要はマネージャーというのは任命されれば誰でもできるが、リーダーには周りが自然とついていくフォロワーシップが必要ということだった。もちろん、私はリーダーになりたいと考えていたし、皆にもそうなってほしいと思っている。また、もし自分の肩書きがなくなった時に、リーダーシップを発揮できるかと自問してみると、必ずしもそうとは思えない。その意味で、自分自身もまだまだ変革の途上。グローバルでリーダーシップを発揮できる人になりたいし、そう思う日本人がもっともっと出て来れば良いと思う。
中竹氏:次の変革者を作っていくためには、次世代をどう育てていくべきか
鳩山氏:自分がフォローした副社長はとにかく変革を望んでいた。その思いの中、海外で好きにやっていいと言われ、電話1本で米国現地法人の社長にしてもらえたことは驚きで、そのためには結果を出そうと自分を奮い立たせた。しかし、1年半前に他界されてから自分には部下がおらず、これまでの変革を伝えることができない状況にある。もう一度ゼロから立ち上げる覚悟が必要だと思っているが、部下には思いっきりやってみるだけの環境を整えてあげることと同時に、変革への強い思いを持てるように指導したい。
中竹氏:引っ張る行動と支える行動の両方が必要ということですね。さて、最後に一言ずつメッセージをいただきたい。
福田:コミュニケーションなどについて考える機会がもっとあると日本はさらに強くなると思う。
田中氏:アジアに比べると日本は元気がない。でも、日本の強みは数知れずあって、適応能力も高いので、力を発揮するに違いない。そのために、経営層は若い世代とよく話すことが必要で、そうすれば日本は元気になれると思う。
鳩山氏:日本人は海外でもっとチャレンジすることが必要だと思う。また、私自身はそこでいろいろな日本企業とコラボをしていきたいと考えている。
中竹氏:変革は孤独。しかし、それを乗り越えて日本が一丸となってやっていくという思いは重要である。本日はお集りいただき、ありがとうございました。
次回は、本シリーズの最終回。引き続き対談形式で「変革のラストチャンス」と題して、日本にとっての変革の核心に迫る。
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