キャッシュフローの改善、組織の効率性、人材の強化、そしてブランドの再構築に成功したアシックス


日本を代表するスポーツ用品メーカーで、ロンドンのブランディングファームが発表した「Japan’s Best Global Brands」で19位にランクされたアシックスは、2000年から海外事業の再編に取り組みました。ヨーロッパがユーロを採用し、拡大基調を続ける2000年代、ヨーロッパ本社を中心とした組織改革、SCM改革、物流改革、IT改革、人材育成といった幅広い領域にわたる改革をわずか4年たらずで実現し、連結キャッシュフローの見える化、販売会社の黒字化、配当の実現など、輝かしい成功を収めています。今回は、この一連の大改革の陣頭指揮を執った代表取締役社長CEOの尾山基氏に、アシックスの変革ストーリーと成長戦略についてお聞きしました。

国別に展開されてきた事業運営、組織、コスト構造の抜本的な見直し

4_アシックス尾山様—-最初にアシックスグループの概要についてお聞かせください。

1949年(昭和24年)に創業者の鬼塚喜八郎が、戦後の青少年が進むべき道を失っていた時代にスポーツによる青少年の育成を通して社会の発展に貢献したいという思いから興したのがアシックスの始まりです。現在、従業員は全世界で7,484名(2014年12月31日時点)、子会社は製造部門を含めて国内11社、海外40社となっています。事業領域としては3つのドメインがあり、まず「アスレチックスポーツ」の分野では、野球のダルビッシュ選手や大谷選手をはじめ多くのスポーツ選手と契約を結んでいます。次に「オニツカタイガー」をはじめとした「スポーツライフスタイル」の分野。この分野では、今年になって「アシックスタイガー」ブランドを復刻しました。3つめが「健康快適」の分野で、足に負担の少ないビジネスシューズや高齢者向けの機能訓練特化型デイサービスなどを提供しています。

—-海外で展開しているビジネスについてお聞かせください。

私がヨーロッパへ赴任した2000年当時、アシックスグループ全体の売上高1,264億円のうち海外の売上比率は33%でしたが、2013年度は売上高3,295億円、海外売上比率が約70%となっています。2015年度の通期予測では、2013年度を上回る約4,230億円の売上、さらに海外の売上比率は73%前後にまで拡大する見込みです。

グローバルのグループは日本の本社を筆頭にアジア、アメリカ、ヨーロッパの3リージョンに分け、その中でアジアには日本、韓国、グレーターチャイナ、ASEANが含まれています。当社は創業当時から海外志向が強く、鬼塚は1960年のローマ以降、オリンピックには毎回参加し、1964年の東京オリンピックではマラソンの円谷幸吉選手やバレーボールチームなどにシューズを提供しました。1972年にはアメリカのシカゴに事務所を開設(翌年、ロスに移転)、その後は1975年にドイツのデュッセルドルフにオニツカタイガーGmbHを設立し、1977年に3社合併でアシックスが誕生しました。また、1979年にはペルーに駐在事務所を開設し、1984年にはブラジルにも進出しました。1994年にはヨーロッパの拠点をドイツからオランダのアムステルダムに移し、統括会社を設立しています。

—-本格的にヨーロッパの事業変革に取り組まれたのは、尾山社長がヨーロッパに赴任された20008月以降ということになりますか。

そうですね。私の着任した2000年当時のヨーロッパ事業は、統括会社と4つの販社があり、販社の独自性が非常に強く残っていました。連結の業績は順調に伸びていましたが、いかんせんP/Lが悪い。さらに、ヨーロッパの通貨がユーロへ移行する直前の状況です。こうした中で、2000年10月にJCC(オランダ日本商工会議所)の講演会でPWCの日本人コンサルタントによる「ヨーロッパにおける経営環境変化と企業の対応」という話を聞く機会があり、EU委員会でEU法の整備が進むこと、2002年1月からユーロがヨーロッパの通貨になること、EUは拡大基調を続けることなどの状況をあらためて認識することになりました。

そこで、ヨーロッパでの事業変革の戦略をまとめて12月に帰国したのですが、経営層に説明しても真に理解できる人がほとんどいない状態でした。これでは仕方ないと、とにかく自分で進めることにしたわけです。事業変革の背景には、通貨統一を契機に加速するヨーロッパ市場の統合がありました。国別に設けられたさまざまな障壁は廃止され、国境の壁はますます低くなります。また、大手小売業は全ヨーロッパ的再編で組織拡大を図り、流通支配を強めていく。それに対してアシックスは国ごとでばらばらでしたので、第1段階として国別に展開されてきた事業の運営組織、コスト構造、財務管理をヨーロッパレベルで見直し、第2段階に向けた体制を整える必要があると考えました。つまり、価格政策での一貫制、業務機能、財務機能をヨーロッパレベルで整え、組織の効率性、事業拡大によるキャッシュフロー面での改善、プロとしての人材の強化策を検討するということです。

機能集中による資金・意思決定の効率化、業務運営の効率化を実現

—-課題解決に向けて、どのように取り組まれたのでしょうか。

まず組織変革の基本方針として、

①アシックスのビジョンを共有し、ビジネスモデルを共有すること、

②事業運営上の仕組みを統合してコスト構造を軽減すること、

③ヨーロッパレベルでナレッジを共有し、人を活かす制度を確立すること

④事業の評価を継続的に行い全社的な戦略方針にあわない事業・製品を見直すこと

の4つを掲げました。そこで新たな課題として浮上してきたのが、経営資源(人・モノ・金)の動きをタイムリーに把握し、資源の再配分を容易にする仕組みの必要性です。そうは言っても、北欧はSAP、南欧は別のシステムが入っていましたので、統合管理は手書きでしていたのが実態で、2001年ごろからまずは全ヨーロッパで他社のERPパッケージを入れ、十分な資金があればSAPを入れようと思いました。

さらに私たちが変えたのは、機能の集中による資金・意思決定の効率化です。2000年当時は、ヨーロッパ本社を設けた上で、さらに各国に販売会社を作っていました。そして、各国販社に販売、マーケティング、顧客管理、販売管理、経理、物流、倉庫、与信管理とすべて任せていたわけですが、するとヨーロッパ本社は口出しすることができず、販社が各々で動いてしまいます。それはまずいということで、ヨーロッパ本社がすべての機能を持つようにし、販社は本来の販売活動と与信管理、回収に専念させるようにしました。するとヨーロッパ本社は、倉庫にどれだけの在庫があって、それがどこにどれだけ出荷されたかがすべてわかります。こうなるとコンピュータシステムの重要性が増してくるわけです。

この他、サプライチェーンも重要な課題でした。実は当社は小売事業の伸びが著しく、個別生産が必要になっており、生産改革も必須の状況です。ここから出てくるデータをもとに商品企画やマーケティングに活かしていくためには、ビッグデータの活用がキーになります。ガバナンス改革も2001年から独自で改革案を進めてきました。具体的には、統括会社内に子会社の管理部門を作り、月次の経理報告を実施することから始めました。さらに、管理部門の担当者を集めて教育し、各国の拠点とヨーロッパ本社の2つでダブルチェックがかけられるようにしています。

—-変革は現在、どのような状況にいたっているのでしょうか。

2004年にはヨーロッパの統括会社がドイツの販売会社の株式を日本から買い戻し、久しぶりに日本の本社が2%程度の配当を可能にしました。イギリスを除く各子会社が4年間で黒字化を達成し、累積赤字も解消してヨーロッパの統括会社が欧州地域の各社から配当を受けるようになりました。現在は物流の統一に向けてSAPの導入による一元管理化を検討中で、全ヨーロッパをカバーする物流ネットワークの構築が進んでいます。そして、ヨーロッパで変革した海外子会社のモデルを全世界に拡大する取り組みを始めています。

直接販売比率の増加と流通革命に向けて、IoTの活用を検討

—-さらなる成長に向けて、現在の取り組みをお聞かせいただけますか。

アシックスは、2011年から2015年までの中期経営計画において、グループ全体でお客様起点の活動を強化する基本方針で取り組んできました。そして、これまでの成果が現れ、2015年の売上高の数値目標として定めた4,000億円は達成する見込みです。ただ、営業利益率10%以上の目標については、ユーロ安や2017年末のカットオーバーに向けたSAPシステムの導入などもあり厳しい状況ですが、確実に軌道に乗っています。

事業領域の戦略についてはまず、ランニングビジネスをコア事業としてさらなる拡大を目指し、ラグビーについては2019年の日本でのワールドカップ開催に向けて、スポンサーチームの活躍を後押ししていきます。スポーツライフスタイルも伸長著しいビジネスで、2016年にはトータルで約500億円の売上高を見込んでいます。当社が自主管理する売り場については、売り場を拡大し、お客様に直接販売する機会の増加を目指しています。直接販売の売上は、2015年の実績で全売上の10%が目標ですが、2014年度時点で、前倒しで目標を達成しました。自主管理売り場の売上を合理的に分析するためにはビッグデータの処理が欠かせません。売り場拡大のためには生産改革も必須です。また、お客様に最適なシューズを薦めるためには、IoTを活用した付加価値がなければ単なるもの売りだけで終わってしまいます。そのためにしかるべきファンドを立ち上げることも視野に入れて、IoTの技術を取り込んでいこうとしています。

—-グローバル組織の構築に対するお考えをお聞かせください。

グローバルのシームレスな組織体制を確立するために、グローバルの本社機能と日本の事業を分離し、アメリカ、ヨーロッパと並列に組織化しました。そして海外の有用な人材を活用するために組織をマトリクス化し、家族と子どもに快適な場所にいてもらいながら、グローバルな組織にバーチャルで参画してもらうようにしていきます。今の時代、すべてを日本に持ってくることは不可能ですので、テレビ会議などを活用してできるだけFace to Faceで仕事ができるようにしていきます。

経営基盤の強化のためには、ITのプラットフォームをお客様起点で変えていくことが重要で、それによって組織や人が自動的に変わっていきます。ITの進化のスピードが早くなる中、お客様が獲得していくITの進歩より先を歩いていかなければ、サプライヤーとして遅れを取り、お客様は離れていってしまうでしょう。そうならないためにもITプラットフォームの強化はアシックスにとって必要不可欠と認識しています。

—-ありがとうございました。SAPとしても、IoTの活用を通じた付加価値の創出を含めて、貴社の変革のお役に立てるように尽力していきたいと思います。

 

※去る7月1日・2日の2日間にわたり、ホテル椿山荘東京にてエグゼクティブ向け招待イベントであるSAP Selectを開催し、1,000人を超えるお客様がご参加いただきました。当イベントは、「日本の稼ぐ力」を取り戻すために日本企業が描くべき成長戦略、変革をテーマに据え、多くの有識者や企業経営者の皆様による討議や講演が行われました。本記事は、SAP Selectにてご講演いただいた内容をインタビュー形式に編集して掲載しています。

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