今、日本に求められる変革の力ーー第6回:変革のラストチャンス


グローバルビジネスの時代を迎え、日本の強みの再定義とビジネスの再創造が求められる今、日本企業は再び成長戦略に舵を切ることができるのか。経営者は企業経営の現場でどのような問題意識を持ち、変革をリードしていくべきなのか。識者、経営者、ミドルマネジメントといった異なる立場のキーマンをお迎えして日本企業の変革の在り方を探る本連載。最終回である第6回は、7月1日-2日に開催されたビジネスエグゼクティブイベント「SAP Select」で行われたパネルディスカッションの内容をお届けする。

タイトル:
最大、最後の好機到来。持続的成長に向けた変革へ日本は舵をきれるか

モデレーター:
米倉誠一郎氏(一橋大学イノベーション研究センター 教授)

パネリスト:
中西宏明氏(株式会社日立製作所 代表執行役 執行役会長兼CEO)
熊谷昭彦氏(日本GE株式会社 代表取締役社長兼CEO)
内田士郎(SAPジャパン株式会社 代表取締役会長)
馬場渉(SAPジャパン株式会社 チーフ・イノベーション・オフィサー) 

第四次産業革命の本質とは?
1_基調講演パネル(米倉さん)

米倉氏:技術力の面ではこれまで高く評価されてきた日本ですが、今やその技術においても世界に遅れをとり始めている。そこで、まずドイツにおいてIndustrie 4.0やIoTといったものがどのように捉えられ、どのように取り組まれているのかについて伺いたい。

馬場:Industrie 4.0には、大きく2つの意味合いがある。1つはドイツの国策として、もう1つは第四次産業革命という意味合いだ。第四次産業革命という観点では、センサーや通信などのコストが劇的に低下したことに加えて、大量のデータのリアルタイムな処理が可能になったことで、これまで不可能であったことが可能になったことが転機となっている。

第三次産業革命とされるIT革命と第四次産業革命のどこが違うのかというと、第三次産業革命ではいわゆるIT企業が勃興し、IT自体の産業化が確立された革命である。一方、第四次産業革命では、そのITによる現実世界の変革という点が大きく異なる。第四次産業革命のシンボリックな事例が、UBER(ウーバー)であり、Airbnb(エアビーアンドビー)だと考えている。ウーバーはITを活用して世界中の車を繋ぐことで、世界最大規模のサービスを実現したタクシー会社だ。エアビーアンドビーは、世界中の不動産の空き室を手配できる世界最大のホテル会社となっている。しかし、面白いことにいずれの会社も従来の企業が保有していた車や不動産といった物理的な資産を一切保有していない。まさにソフトウェアを活用することによって作り上げた新業態だ。

また、ここでは「サイバー・フィジカル・システム」というコンセプトが肝となっている。現実世界の情報をセンサーなどでデジタルデータ化したものをサイバースペースで分析し、その結果を現実世界にフィードバックする仕組みである。こうしたシステムが第四次産業革命の隆盛を支えている。

米倉氏:このような流れの中、GEはインダストリアル・インターネットという概念を掲げて変革を試みている。これは具体的に何を指しているのか。

熊谷氏:現在、「Future of Work」というスローガンのもと、新たな変革を進めている。これまでの多角化した事業を絞りこみ、インフラに関わるテクノロジーに焦点を絞っている。以前のコアであったプラスチック事業はすでに売却、放送事業も売却、そして今やキャピタル事業をも売却しようとしている。では、どのような方向で事業を特化しようとしているのかというと、以下の3つのドライバーで示すことができる。

  1. インダストリアル・インターネット
  2. アドバンスト・マニュファクチュアリング
  3. グローバル・ブレイン

1. インダストリアル・インターネット
GEでは、これまで世界中の顧客に数々の機器を販売してきたが、現在はセンサーを通して機器の情報収集を行い、それを有効活用する事業を進めている。これにより、顧客の事業に対する有効なソリューション提案・提供を行っている。例えば、GEのタービンが使われている風力発電プラントでは、その日の風向き、強さなどに応じて、個々のユニット毎に微調整を行えば、パフォーマンスが向上する。ドイツの例では、このような微調整を施した結果、発電効率が5%も向上した。

2. アドバンスト・マニュファクチュアリング
新しい製造技術を積極的に取り入れることを目指している。具体例として、金属を扱える3Dプリンターの採用が象徴的である。航空機エンジンの燃料ノズルは従来、ろうづけや溶接など非常に多くの工程を必要とするものであった。しかし、3Dプリンターを採用することにより、工程は簡略化し、性能も向上、しかも短納期という良いことずくめとなった。オイル・ガス産業で必要とするバルブ部品などにおいては、従来3カ月のリードタイムを必要としたものが、なんと2週間で済んでしまうという画期的なものだ。

3. グローバル・ブレイン
これは、いわゆるオープン・イノベーションとほぼ同義である。外部の力や知恵を積極的に活用しようとしている。一例として、米国のQuirky社というベンチャー企業とタイアップし、新製品のアイデア開発を行った結果、冷蔵庫用卵の鮮度センサー、iPhoneによるエアコン制御などといったアイデアが生まれ、採用に至っている。また、GrabCAD社という企業ともタイアップを行い、世界レベルでジェットエンジンの開発コンテストを行っている。ここで最も高い評価を受けたのは、なんとインドネシアの学生のアイデアだった。従来は考えられないようなところの、考えられないようなアイデアの取り込みに成功している。

これらはいずれも、デジタル化がドライバーとして機能することで実現した取り組みであることはおわかりいただけると思う。このように「Future of Work」というスローガンのもと、デジタルが可能にする新たな製造業を目指しているのが、現在のGEの姿である。

米倉氏:このお話には変革に対するGEの姿勢が明確に示されていると感じるが、なぜそこまで変化に貪欲なのか。

熊谷氏:GEを取り巻く環境はいつの時代でも変化を繰り返している。変化するのであれば、変化を先取りしようというのがGEの経営哲学である。

米倉氏:これはGEだからこそできる変革なのか、それともGEでさえこうしないと生き残れないということなのか。この取り組みの一環として、シリコンバレーに研究所も設立しているとのことだが。

熊谷氏:シリコンバレーの研究所では、1,000人以上のソフトウェア研究者を雇っている。それだけでなく、GEのマネージャークラスがシリコンバレーでベンチャー企業の姿勢を学ぶこともある。最初はジーパン・Tシャツの若造からレクチャーを受け、「何を生意気な」と思っていたが、話を聞くにつれて、その合理性に納得せざるを得なかった。Fast Workという言い方があるが、まさに速さは重要で、それが今のシリコンバレーの強さだ。

第四次産業革命におけるSAPの役割

米倉氏:SAPは第四次産業革命において、どのように動こうとしているのか。

内田:SAPはERPの企業としてスタートしたが、現在そのERPの売上比率は30%程度にまで下がっている。現在の注力点は、デジタル化を支援する活動で、IoT関連での支援が多い。ドイツのIndustrie 4.0、米国のインダストリアル・インターネットとくると、では日本はどうなっているのかという話になるが、我々は国に関係なく、グローバル規模でお客様の活動を支援していくことが重要だと思っている。

1つの方向性は、従来のマス・プロダクションが第四次産業革命下においては、マス・カスタマイゼーションへ向かうということだ。例えば、アディダス社は靴のデザインやパーツ、色を細かく選べるようにしている。その組み合わせは1兆通りにもなるそうだが、そういったオーダーをインターネットで受け付けて消費者に販売を行っており、世界に1つしかないアディダスをマスに提供している。従来の大量生産の概念では成し得なかったことを、ITを活用することで実現させている。

また、大型バイクで有名な米国のハーレーダビットソン社においても、マス・カスタマイゼーションの仕組みを導入している。昔の油まみれで潰れかけていた工場をデジタル化し、世界中からカスタムメードの受注をネットで行い、世界中のマニアを喜ばせている。しかも、そのリードタイムは以前は21日だったものが、今では6時間にまで短縮されている。実はこのシステムの裏側は、すべてSAPのモジュールの組み合わせでできている。デジタル化によるマス・カスタマイゼーションを後ろから支えており、これこそがSAPの目指す方向である。

もちろん、このようなことを可能にするためには、お客様である企業の課題意識も重要である。例えば、デジタルカメラが出現し、銀塩フィルムの将来に危機感を持ったフジフィルムは、デジタルカメラの可能性を徹底的に追求し、今なおリーディンング・カンパニーとして君臨している。一方、初期のデジタルカメラの画素数の少なさを見て、それを驚異とせずに放置したコダックは、ほぼ見る影もなくなってしまった。デジタイゼーションの速度は速いので、それに乗り遅れると致命的だ。一方、それを機会と捉えることにより、復活のチャンスともなる。ハーレーの工場は、まさに復活したのだ。

中国の南京市においては、8,000台のタクシーにセンサーを取り付け、そのトラフィックデータを収集・分析することにより、信号をどこにつけるか、渋滞を制御するためにはどうしたらよいかなどの検討を行っている。また、機器が壊れる前にその予兆を把握し、予防保全を行うということもシステムとして提供している。ここでは、SAP HANAによる大規模データのリアルタイム処理技術が大きく貢献している。

ビジネスの再創造に向けた日本の課題

米倉氏:GE、SAPの取り組みを見てきたが、肝心の日本はどうなのか。

中西氏:日立の考え方についてお話をすると、ITのパラダイムが明確に変わってきていることが、すべての前提となる。これまでのITは効率化や省力化を実現するためのものだったが、今のITはデジタル化、インテリジェンス化、人の知的創造支援など付加価値創造型のものへと変わってきている。日立が手がけている事業というのは、エネルギーや水、都市といった社会に関係が深いものが多いので、ITのパラダイムシフトに従って、事業の方向性も「社会イノベーション事業」という言葉で転換を図っている。具体的には、①データ収集、②分析・予測、③サービス創造、④フィードバックという循環からサービスを作り上げていくという考え方だ。これに基づいて、社会に必要とされるものをソリューションとして提供することを目指している。

米倉氏:日立の事業はB2Bが多いが、その先には必ずエンドユーザーが存在する。その点についてはどのようにお考えか。

中西氏:例えば、鉄道事業を考えてみると、できたから終わりというわけにはいかない。それを利用するエンドユーザーの利便性を念頭に置いたサービス提供が必要となってくる。また、鉄道事業には利用客以外にも多数のステークホルダーがおり、そのすべての利害関係をきちんと管理していかなければならない。そのためには、ビッグデータ分析が欠かせない。

米倉氏:飛行機も売り切りではなく、売った後のオペレーションデータを収集分析してメンテナンスに繋げないと継続的なビジネスにならない。単発売りは続かないという概念が広がる中で、どのような対応を考えているのか。

中西氏:まず組織や人の在り方を変えようとしている。日立の売り上げの約半分は海外からのものである。一方、人員構成的には日本の比率が高くなっている。これまでは日本からの目線で海外事業を見ていたが、現在は海外事業の現場に権限を移譲し、そこで管理したり、関連する海外事業同士が海外で直接連携するような形態に変えている。多様化を推進することで、世界が広がるような仕組みを作りつつある。

米倉氏:日本が第四次産業革命の中で変わっていくためには、何が課題になるか。

熊谷氏:やはり危機感が重要だと思う。環境が変化するなら変化を先取りするしかないというGEの考え方は、いわば危機感から生まれたもの。常に危機感を持ちながらポートフォリオの変更を行っている。

米倉氏:日本はややもすると日の丸軍団という発想があるが、これは危険な発想。もっと外部の知恵、世界の知恵を利用すべきではないか。

熊谷氏:GEには米国の会社という発想はない。グローバル企業という意識だ。だから、どこの国の知恵とか、外国という発想という考え方はなく、あまねく世界で活用できるものは活用していくという発想。日本の企業にもこのような発想が求められるのではないか。

内田:SAPは顧客にとってのソリューションパートナーであると自らを位置づけている。そのためには、自ら課題を発見し、ソリューション提供を行うアントレプレナーシップが必須と考えている。「7万人すべてが起業家たれ」というスローガンを掲げているが、このような発想も日本に求められるものだと思う。

米倉氏:今こそ、日本が変わるラストチャンス―。今回のお話から得られた重要なポイントは、まずグローバルなナレッジコミュニティを活用していくこと。自前主義と決別し、外部の力に頼ることである。そして、日本という国、あるいは国民のポテンシャルは非常に高いのだが、このままのやり方では非常に危険。思い切って変革していくことが必須である。そして、そのタイミングはまさしく「今」。今が「変革のラストチャンス」である。持ち前の高いポテンシャルを生かして大胆な変革を行えれば、逆に大きなチャンスとなることは間違いない。第四次産業革命を契機に、日本は変革を試み、大きな飛躍を迎えることが期待されている。

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