繋がる世界であらためて問われる、日本の強みの再定義とビジネスの再創造
作成者:SAP編集部 投稿日:2015年10月26日
地球上でインターネットに繋がっているモノの数がすでに100億個とも言われ、5年後にはこの数が500億個にまで拡大する予測される現在、SAPは2015年2月のSAP S/4HANAのリリース以降、クラウドをベースとしたIoTとの融合によるデジタル戦略のビジョンをより鮮明にし、新たな価値創造に向けた提案を強化しています。製造業を強みとして高度成長を遂げてきた日本が、ビジネスのグローバル化の中であらためて日本の強みの再定義と再創造を迫られている現在にあって、SAPはお客様に対してどのような価値を提供しようとしているのか。
今回は7月1日-2日に開催したビジネスエグゼクティブイベント「SAP Select」でSAPジャパン 代表取締役社長の福田が「繋がる世界と再創造」と題して行った講演をインタビュー形式に編集してお届けします。
—- IoTのビジネス利用が拡大していますが、ネットワークを介して「繋がる」ことが私たちの生活やビジネスに急速な変化をもたらしつつあります。
20年位前を振り返ると、まだインターネット接続されていないPCが多く、個人で電子メールのアドレスを持っている人も少ない時代でした。その当時のPCは、いわばワープロや表計算マシンだったわけです。しかし、ひとたびインターネットに繋がるようになると、新たなコミュニケーションの方法が生まれ、企業もホームページを続々立ち上げるなど、その状況は大きく様変わりしました。
昔の待ち合わせなども、例えば渋谷駅で8時ときっちり決めなければ、仲間と会いそびれてしまうものだったのが、今は携帯電話やモバイル端末で繋がることで、リアルタイムで集合場所や時間を決められるようになっています。また、Facebookも日常的なツールとなり、いとも簡単に昔の友人や知らない人までが簡単に繋がれる時代となっています。
一方、企業の状況を見てみますと、企業内はかなり繋がっているのですが、企業間ではまだまだ繋がっていないところが多いように見受けられます。海外から「繋がる」ことに関する多くの事例が報告されており、このことは日本経済の再創造に向けて大きな意味を持っています。
—- IoTの活用で成功を収めている具体的な事例をお聞かせください。
ドイツにKaeser社というコンプレッサーの製造・販売企業がありますが、この企業の取り組みは経済産業省の「ものづくり白書2015年版」においてもIoTを活用したビジネスモデルの変革事例として取り上げられています。コンプレッサーというのは、差別化が難しく、価格競争になりやすい製品です。また機器が故障した場合は、いつでも駆けつけ、顧客サポートをしなければならない点も、こうした製品の特徴です。そこでKaeser社では、自社製品のコンプレッサーにセンサーをつけ、10秒単位で温度や空気の圧縮レベル、消費電力といったデータを確認しながら、故障を起こしにくい使い方をユーザーにアドバイスしました。それだけでなく、ユーザーに代わってコンプレッサーを保有・管理し、ユーザーに利用した空気の量だけを使用料として徴収するサービスでビジネスモデルの変革を実現しました。もともと自分たちの製品なので、最適な利用方法は熟知しているわけで、単に製品を販売するモノ売りからサービス提供するビジネスモデルに移行することにより、大幅なコスト削減を実現しました。さらには、ユーザー側の満足度も向上し、まさにWin-Winの関係を構築することができたのです。
—-IoTの活用については、二の足を踏んでいる企業も多いと思います。IoTの最大のメリットはどこにあるのでしょうか。
IoTのメリットとその活用度という視点からみると、大きく以下の3つのレベルがあると考えられます。
レベルⅠ:今までにない頻度と詳細さでデータを獲得できる
レベルⅡ:獲得したデータを分析することにより、モノの最適化が可能になる
レベルⅢ:最適化した結果をビジネスモデルに反映させ、ビジネス自体を変革、最適化する
このKaeser社の事例は、このレベルⅢに相当するもので、まさにビジネス自体の変革に成功した事例です。このレベルⅢを実現させるためには、業務そのものの変更が必要になります。サービス形態への移行を決断したこの事例では、それまでの機器販売という形態にはなかった、利用した空気の量に対する課金という新しい仕組みへの対応が必要になりました。まさにレベルⅢこそが、IoTのメリットを最大限に享受できる姿と言えるでしょう。そして、この活用に向けてはSAP HANAの存在が大きな役割を果たしています。
—- SAP HANA と言えば、ブラジルで開催されたワールドカップサッカーでのドイツ代表チームの優勝に貢献したことでも知られています。
実はこれまでもサッカーの世界では、試合のデータを解析して、その結果を戦略に生かす取り組みは行われていました。しかしながら、捕捉するデータはドリブル、パス、シュートなどといったボールの動きが中心で、1試合で収集されるデータは90分のゲームで2000くらいのものでした。
しかし、現在では高精細カメラやセンサーを活用することにより、1試合で4000万件ものデータを取得することが可能になっています。つまり、ボール以外の周辺データや、ボールの有無にかかわらず、すべてのプレイヤーの動きを捕捉することができるのです。従来の分析では、ある選手がうまくパスが出せなかったという特定の事象しかわからなかったことが、パスを出す先に選手がいなかったからパスが出せなかったという、ボールを保持していない選手の事情がわかり、状況の解析がより多面的になりました。試合における全体の動きを選手個々に把握できるので、個別の選手の得手不得手などのデータもとれるようになり、これをコーチが活用し、選手一人ひとりのトレーニングをカスタマイズすることも可能になりました。
「サイバー・フィジカル・システム」という言葉があるのですが、これは、現実世界の状況をデータで捕捉、サイバー(デジタル)化し、それを分析・予測します。そして、その結果を現実世界にフィードバックし、効率化や変革を実現するシステムを指します。まさにこのサッカーの例は、サッカーの試合という現実世界をIoTによりサイバー化し、その分析結果を現実世界のトレーニングや試合での効率化、変革に繋げているのです。これは、先の事例におけるIoTのレベルⅢにあたるもので、やはりレベルⅢへの昇華が重要ということになります。
—- IoT活用を支えるSAP HANAの役割について、企業のビジネスに置き換えてお聞かせください。
例え話として、今はほぼなくなってしまったカセットテープを思い出してください。カセットテープを使っていた時代は利用する状況に応じて楽曲をダビングすることが当たり前でした。アーティスト毎やジャンル毎は言うに及ばず、例えば海へのドライブデート向けには、それに合わせた楽曲を選んでダビングするような使い方が当たり前でした。ただし、状況が変わったり、聞きたい曲が変わったりしても、楽曲をすぐには取り出せないという不便さがありました。なんといっても、状況ごとに何回も何回も楽曲をダビングしなければならないという技術の限界がありました。これがカセットテープです。一方、現在では楽曲がスマホなどのメモリーに格納され、タグづけされ、名称やキーワードですぐに検索できて、欲しい楽曲を取り出すことができます。一連の楽曲を連続再生するときもダビングの必要はなく、タイトルリストだけを編集するだけで良いのです。これが現在の姿です。
企業においても同様なことがいえます。企業の基幹データはERPなどに格納され、しっかりとしたDBで管理されています。大量かつ重要なデータなので、利便性よりは信頼性を重視して管理されているのが普通です。そして各部門などで活用する際には、必要な部分をコピーして、別のシステムで加工、展開して活用することが従来でした。これはまさに、先ほどのカセットテープの例と同じ状況です。従来の企業システムにおける記憶媒体の処理速度という技術的な限界により、このようなことになっていたのです。
これに対してSAP HANAは、インメモリーのDBを基本とし、処理速度を大幅に向上し、データを利用する際”ダビングレス”で使えるようにしました。これにより、企業データの多面的活用が容易に可能になるのです。例えば、従来はフロントエンドとバックエンドは別のものというのが常識でしたが、SAP HANAを使えば、フロントエンドとバックエンドは同じプラットフォーム上に存在するのです。これは何を意味するかというと、フロントエンドでの変更をリアルタイムにバックエンドに反映することができ、またバックエンンドでの最適化をフロントエンドにリアルタイムにフィードバックすることができるのです。
—- 最新のテクノロジーを手にしても事業変革を起こすのはなかなか簡単ではありません。変革を志すにはまずどういった取り組みから着手すればいいのでしょうか。
SAPではイノベーションを生む方法論として「デザイン・シンキング」を推進しています。これは、ビジネスに対するマインドセットとフレームワークを組み合わせて提供し、皆でアイディアを出し合うという活動です。科学的な思考に基づきソリューションを考え出し、しかも拡張性のある形に仕立て上げていこうという手法です。例えば、「なすべきことは何か?」という問いかけなどがとっかかりとなります。先のKaeser社の事例では、顧客が求めているのはコンプレッサーではなく、目的に応じて圧縮された空気が欲しいということから、圧縮空気の測り売りといった概念が生まれてきたのです。「お客様が欲しいのは何か?」という命題に対するアプローチなのです。このように正解のないテーマへのアプローチを行う際に有効な手法として、SAPは多くとのお客様と「デザイン・シンキング」を実践し、成果を上げています。
—- IoTが当たり前の時代が訪れるまで、それほどの時間は要さないと思われます。
日本の企業はそのような世界にどのように対峙すべきなのでしょうか。
私たちは、日本の強みの再定義と再創造を今一度考え直す必要性があると考えています。日本の強みと言えば、勤勉さ、基礎能力の高さ、気遣い、均一さ、一貫性、熱意、我慢強さなどでしょうが、一方で新しい技術はこのような強みのいくつかを不要としてきています。ですから、繋がる世界における日本の強みを再定義する必要があるのです。よく、「匠」や「おもてなし」は、機械やITでは再現できないという言葉をよく耳にします。我々もそう信じています。しかしながら、その再現できないものとは具体的に何なのか。それがまだよくわかってないと思うのです。そこを明確に紐解くことが再定義へのヒントではないでしょうか。
これはある意味、日本にとってピンチのように見えますが、大きく変わるためのチャンスとも言えます。日本の強みの棚卸しを行い、それに基づくビジネスモデルの変革をすすめていくことが必須です。そして、このような「コトづくり」を実践するための人材育成も必須であり、ここにデザインシンキングが役立つと考えています。
※去る7月1日・2日の2日間にわたり、ホテル椿山荘東京にてエグゼクティブ向け招待イベントであるSAP Selectを開催し、1,000人を超えるお客様がご参加いただきました。当イベントは、「日本の稼ぐ力」を取り戻すために日本企業が描くべき成長戦略、変革をテーマに据え、多くの有識者や企業経営者の皆様による討議や講演が行われました。本記事は、SAP Selectにて講演された内容をインタビュー形式に編集して掲載しています。
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