元JSUG会長が語るエグゼクティブ向けイベントSAP Selectで見えてきた“気付き”とは?

作成者:SAP編集部 投稿日:2015年10月15日

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去る7月1日と2日の2日間にわたって、ホテル椿山荘東京で開催されたエグゼクティブ向けの招待イベントSAP Select。当イベントでは、SAPが掲げるビジョン「デジタル・トランスフォーメーション」にまつわる各種講演や、インダストリー4.0、IoTといった旬なテーマに関する多くのセッションが公開され、盛況のうちに幕を閉じました。満場の来場者はSAPからのメッセージ、問題提起をどのように捉えたのか。このブログでは、第三者の視点からSAP Selectを振り返るため、かつてジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)の会長としてユーザー会の活動を牽引した都築正行氏(元三菱商事株式会社 理事 CIO補佐。現在はJFEシステムズ株式会社 社外取締役)に、SAP Selectで見えてきたSAPからのメッセージ、またSAPユーザーの今後の課題についてお話を伺いました。

オープン・イノベーションの推進力としての“繋がる”ことの意味

初日と2日目の基調講演と特別講演、また2日目のIoT関連のセッションをすべて聴講したという都築氏は、まずイベント全体を振り返って次のように話してくれました。

「ドイツの国家プロジェクトであるインダストリー4.0とIoTには以前から強い関心があり、そこにSAPが大きく関わっていることから、関連する講演はすべて聴講しました。イベント全体を通じて感じたのは、テーマに沿った的確な講演者やメンバーが集められていたことです。初日の基調講演のパネルディスカッションでは一橋大学 イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏、日立製作所 のCEOである中西宏明氏、また日本GEの CEOを務める熊谷昭彦氏が登壇し、日本のものづくりについての議論が交わされました。特別講演のパネルディスカッションでも、サンリオ 常務取締役の鳩山玲人氏、全日空の田中良基氏が、イノベーションについて考察しています。これらの登壇者はいずれも、まさにビジネスの最前線を自身の体験で語ることができる方々ばかりですので、来場者が得た気付きは相当なものだったでしょう。

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2日間のイベントを通じて、SAPが伝えたいメッセージの輪郭も見えてきました。その1つが“繋がる”ことの意味です。社内をITで繋ぐだけでなく、これからは外の世界と繋がることがより重要だということです。もう1つは、米倉氏の話にあったオープン・イノベーションです。イノベーションを起こすためには必要に応じて外部の力を借りること、特にデジタルの力が必要になることがわかりました」

パネルディスカッションの中では、日立製作所が社会イノベーション事業を英国で展開している話が印象に残ったと都築氏は語ります。そこでは、日立製作所が日本で蓄積した技術、DNAをベースに、海外で鉄道事業を展開している話が語られました。

「日立製作所が英国で行っている鉄道事業の場合、実際のビジネスではできるだけ現地に権限を委譲し、現地の人がビジネスを行っているようですが、そこには日本で培った日立製作所のDNAが確実に生きています。考えてみれば、現在のSAPジャパンも同様で、昨年7月に生え抜きの福田氏が30代で社長に就任し、ドイツ生まれのSAPソリューションのDNAを知り尽くしたうえで事業を展開している。複雑なSAPのソリューションを、肌で知っている人が社長になったタイミングでSAP Selectが行われたことは、意義があることだと思います」

LIXILのイノベーションを支える人材の多様性

同様に都築氏が興味深かったと語るのは、初日の午前中にクローズドで開催されたCEOラウンドテーブルです。CEOラウンドテーブルでは、LIXILグループの代表取締役社長でCEOを兼務する藤森義明氏が、参加したエグゼクティブを前に同社のグローバル化について講演しました。

「藤森氏は2011年にCEOに就任してからの4年間で、次々と海外ブランドを買収するなどでグローバル化を進め、LIXILグループの海外の売上高を400億円から7,000億円に引き上げました。グローバル化のための人材確保・育成にも注力し、現在の役員の半分は外国人で、中途採用が大半だといいます。そして海外の会社も含めブランドを再編し、コア技術をベースに4つの事業領域に組み替えて、グローバル化を実現しました。つまり、多様な人材を集めることでイノベーションを推し進めたわけです。藤森氏はGEの出身で、GE流の教育手法に則って、グローバルに活躍できる人材、特にリーダークラスの人材を育成したと話していました。藤森氏の講演を聞いた日本企業のエグゼクティブの方々が、それぞれの会社にどのようにフィードバックされていくか、今後の興味は尽きません」

2日間の講演とセッションを聞き、改めてSAPが提唱するデジタル・トランスフォーメーションに対する考えを深めることができたと語る都築氏。その中核をなすSAP S/4HANAについては、こうコメントしています。

「SAP S/4HANAにおける『シンプル化』のメッセージは、SAPのDNAを見事に受け継いでいると思います。世界で30万もの企業が導入し、ベストプラクティスが集約されたSAP ERPは、すべての業務をカバーしているがために複雑にならざるを得ませんでした。顧客に対して堅牢かつ良質なシステムを提供しようとすると、どこかで壁に突き当たるものです。それを自ら決断して、SAP HANAをベースに全面的に刷新したのがSAP S/4HANAであり、そこにはSAPのDNAが息づいています。ただし、SAPの場合、初期製品はこなれていない部分もあり、先行して導入する企業が苦労する傾向があるので、早い段階で信頼できるレベルまで持っていって欲しいですね」

SAPシステム構築にカギとなる「こだわり」と「割り切り」

三菱商事の基幹システム開発室長時代の1997年からSAP ERPの導入を手がけ、1998年から参加したJSUGにおいても会長を務めた都築氏は、SAPシステムの構築では「こだわりと割り切りが大切であり、それをトップが自ら判断することが重要」と訴えています。

「こだわりとは他社との差別化要因、競争力の源泉になる部分です。その実現にはアドオンも必要となる場合もあるでしょう。一方、割り切りについては、極端に言えばSAPの標準を使い倒すということ。なぜなら、SAPシステムは世界のベストプラクティスであり、できるだけそのまま使うように設計されているからです。標準といってもAパターン、Bパターンと複数の選択肢が用意され、柔軟性も高いのですが、それをSAPの営業もパートナー企業も十分に咀嚼できていないこともあるので、ユーザーはアドオンがしたくなってしまいます。ですから、時にはドイツ本社などの技術者の支援を受けることも必要です。SAPを標準で使うことでコストが削減でき、要員を最低限に抑えることができます。ただし、こだわりと割り切りのメリハリを適切に付けられるのは経営トップであり、トップがSAPに対する理解を深めることが大切だと思います」

また、都築氏はライセンス保守料で積み上げた資金を積極的に日本に投資し、日本企業の底上げに貢献するうえで、SAPジャパンの役割は大きいと話します。

「SAPのライセンス保守料は、決して安いものではありません。それで提供されるSAP Enterprise Supportは年々充実し、その中のSAP Solution Managerの機能も向上しています。こうした機能をユーザー企業が主体的に使えるようにJSUGでも積極的に広報されていますが、SAPジャパントップからもユーザー企業のトップに働きかけをお願いしたいと思います。また、日本のユーザー企業から集めた保守料を少しでも日本に還元できる様、頑張って頂きたい。さらに、日本企業がオープンイノベーションを起こしていくためには他社との連携が避けられないですが、企業間のパートナーシップの話になれば、トップやそれに近い人たちが表舞台に出てくることになります。特に異なる業界が繋がるとき、関与する企業の業務やシステムなどをよく知っているのはSAPジャパンですから、そのブリッジとしての役割を積極的に果たして欲しいです」

今後の課題はSAPシステムの主体的な理解とトップのコミットメント

都築氏のIoTやデジタル・トランスフォーメーションへの思いは強く、その一歩を踏み出すためには、標準化されたシステム基盤や成熟した組織が必要と述べ、それを支援するSAPジャパンに対して大きな期待を寄せています。

「日本のものづくりのDNAを生かすためには、ベースとなる基盤が不可欠です。そのためにはいち早く基盤を作るのが肝要ですが、そのためにはSAPシステムを上手に活用し、人を育てていかなければならない。SAPジャパンでは、今年の7月に日本におけるIoTの活用およびインダストリー4.0の実現を支援する共同研究開発センターを開設していますが、この取り組みをいち早く軌道に乗せ、今後も人材育成や情報提供、課題解決の面でサポートをお願いします」

最後に、JSUGに対する期待と日本のSAPユーザーへのメッセージとして、都築氏は次のように話しています。

「私がJSUGに関わり始めた1990年代後半は、SAPジャパンが要求に迅速に応えられなかったこともあり、ユーザー会とSAPジャパンとの対立が目立っていました。それが2000年代からユーザー会も同じ船に乗るという協業関係に変わり、SAP本社に対して日本企業が求める開発要求を一緒に行うようになりました。こうした要求から実現したひとつの例が、日本の商社固有の機能を取り込んだSAP GTM(SAP Global Trade Management)で、現在は多くの企業で採用されています。その後もグローバルのユーザー組織であるSUGEN(SAP User Group Executive Network)が設立され、海外のユーザー会と共にSAPの戦略を議論するようになりました。また、パートナー企業がより積極的にJSUGに加わることで財政基盤も安定し、次世代のITリーダーを育成するJSUG Leaders Exchangeも始まっています。JSUGの活動を今後さらに深めていくためには、経営のトップに近い方々のコミットメントが欠かせません。今後はユーザー会のカンファレンスにもSAP Select同様、トップの方に多く参加いただき、議論をさらに発展させていただけたらうれしく思います」

SAPの企業文化、ソリューション、戦略を知り尽くした都築氏によるSAP Selectの振り返りはいかがだったでしょうか。多くの示唆に富んだ同氏の話が、読者のお役に立てれば幸いです。

■略歴

都築正行(つづき・まさゆき)

JFEシステムズ株式会社 取締役。慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート研究支援アドバイザー。

tsuzuki名古屋大学を卒業後、1971年に三菱商事に入社。基幹システム開発室長、経営企画部 情報化担当部長、CIO補佐などを歴任。2004年からの4年間はJSUG会長を務め、SAPに対するJSUGのインフルエンス強化に貢献した。三菱商事を退職後は、JFEシステムズの社外取締役のほか、慶應義塾大学 フォトニクス・リサーチ・インスティテュートの研究支援統括者を務めるなど、産学の視点から日本経済の発展に寄与する活動を精力的に続けている。

 

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