製造現場業務と基幹業務を繋げることで予測品質管理を実現したモホーク・インダストリーズ



図3
世界のカーペット総生産量はどのぐらいでしょうか?なんとグローバルで年間25億㎡を超えるそうです。すべて敷き詰めると、東京全体の面積よりも大きくなります。その総生産量の半分以上を生産する北米で、大きくビジネスを拡大している企業がMohawk Industries(以下モホーク社)です。モホーク社は住居用および商業用の床材メーカーで、カーペットをはじめとして木材、タイルなどを販売しています。ここ数年で約1.5倍の成長を遂げ、売上高約80億ドル、従業員数約35000人のリーディングカンパニーとなりました。

SAPブログではこれまでもマスカスタマイゼーションを実現したハーレー社、“空気売り”へビジネスモデルを変革したケーザー社など製造業の先進的なIoTの事例について取り上げてきました。今回はモホーク社のIoT事例に着目してみましょう。モホーク社が目指したことは”予測品質管理(Predictive Quality)”です。本ブログでは、モホーク社が予測品質管理に取り組んだ背景、その具体的な内容、そしてその可能性についてお伝えします。

なぜ品質管理の高度化に取り組んだのか?

モホーク社は予測品質管理の“Co-Innovation”プロジェクトをスタートしました。Co-InnovationとはSAPの研究開発部隊と共同でシステムを試作する取組みです。モホーク社は製造装置にセンサーを設置し、その情報をもとに装置のパラメータなどを定期的に調整することで、潜在的な品質問題を分析する仕組みを構築しました。モホーク社が品質管理業務の高度化に着目した理由として、直面する素材業界の特徴が挙げられます。

・コモディティ市場であること

カーペットをどのような基準で選びますか?素材業界は一般的にコモディティ市場であり、製品ごとの差別化が難しく、激しい価格競争に陥ることが少なくありません。利益率を維持するためには、高い品質の製品を提供してワランティクレーム(保障期間内に欠陥や問題があった場合の返品・交換要求)を減らすことが重要なポイントとなります。

・複雑な生産工程であること

ここでは最も流通量が多いタフティングカーペットを例にとって、その製造工程を簡単に取り上げます。まずプラスチックペレット(プラスチックを粒状にした素材)を成形して繊維にし、糸を製造します。その後にパイル糸(ループ上の糸)を基布に植え付けるタフティングを行います。そして染色機で染色した後に、パイルが抜けないように接着剤をコーティングすることでカーペットが出来上がります。ここでポイントとなるのは、組立製造業などと異なり、製品工程において原材料から仕掛品、最終製品までの工程数が多く、その形状や単位も大きく変化するということです。複雑な生産工程であることが、品質問題の原因や影響を特定することを困難にしており、それゆえ大きな改善余地が残されているのです。

図2

品質管理の高度化をどう実現したか?

モホーク社はインメモリデータベースHANAと分析ツールを使い、業務システムや 品質管理システム、センサーデータを収集したPLCなど、様々なデータの統合基盤と予測分析基盤を構築しました。これは製造現場業務と基幹業務のIoTによる融合です。

実験の第1ステップとして、染色工程を対象としました。染色工程はカーペットの製造プロセスの中でも特にクレームの原因となりやすいためです。分析イメージを深めるために、その一例をみてみましょう。

① SPC(統計的工程管理)の高度化

図4安定した生産のためには、製品品質が仕様を満たしているかどうか、生産プロセスに異常が起きていないかどうかを監視する技術が必要になります。この異常検出を統計学的な方法で実施するための技術をSPC(統計的工程管理)と呼びます。モホーク社のSPCの対象は限定的で、色別やロット単位など細かく分析しようとすると手作業が発生し、数時間かかる課題がありました。しかし今回の取組みでデータ準備が効率化され、様々な切り口で遥かに早く分析できるようになりました。

② ワランティクレームの相関分析の実現

図5

従来はセンサーデータとクレームを紐付けることは非常に多くの工数を割かなければなりませんでした。なぜならセンサーデータは現場の製造装置に、クレームは基幹システムに存在するため、別次元のものだったからです。しかし今回の取組みで、それらの指標を統合的に可視化し、生産体制と品質問題の相関を分析できるようになりました。そのデータを用いて機械学習を行うことで、クレーム発生確率を予測する統計モデルを構築することにも取り組んでいます。

 

IoTがモホーク社にもたらすもの、今後の可能性とは?

今回構築する仕組みを通してモホーク社はどう変わり、どのようなビジネス効果の創出を目指しているのでしょうか。いくつかの項目に切り分けて考えることにします。

(1)既存業務の効率化 → 品質問題の早期アラート発信や根本原因発見までの時間短縮

モホーク社では品質を維持するために様々なレビューミーティングが定期的に開催されます。そこでは問題の根本原因が議論され、品質を高めるためのアクションプランが検討されます。分析ユースケースの①で見たように、これまでマニュアル作業によって時間がかかっていたものが短期間で繰り返し仮説検証できるようになるため、既存業務の効率化が期待できます。グループ全体に適用すると、200~300万ドル規模の工数削減が見込めます(SAP試算 ※1)。

(2)品質管理プロセスの変革 → ワランティクレーム減少や顧客満足度向上

膨大なデータを活用して統計的に何が起こるかを予測することで、品質管理業務のあり方が変わります。実際にクレームが発生してからその原因を究明するリアクティブな対応から、予めクレームの発生を予測したプロアクティブな対応に変わります。これは製造現場と基幹業務のデータが結びつくからこそ、製造現場で起こっていることと、これから起こりうることを結び付けることができるのです。この取組みによって、グループで1000~2000万ドル規模のコスト削減の可能性が見込めます(SAP試算 ※2)。さらにクレームの減少は顧客満足度を向上させ、彼らのビジネスを加速させることも期待できます。

(3)品質管理に紐づいて、様々な業務プロセスの変革 → 各業務のKPI改善

ここからは可能性の話になりますが、さらに想像してみましょう。品質管理は様々な業務プロセスと繋がっています。品質と生産工程の相関分析結果を製品開発業務に活かし、さらに問題が発生しやすい原材料を特定することで、サプライヤーの選択や交渉の材料とするといった調達業務に活かすことが可能です。コールセンターで顧客の声を集約して品質改善に生かす一方、同様の品質問題のパターンを素早く見つければ、顧客への対応もスムーズになります。これまでは製造現場のなかで閉じていた品質情報が、IoTによってデジタル化し、あらゆる業務と“行き来”しながら連携することで、様々な業務の再構築が可能になります。

図7

SAPソリューションを通して、モホーク社は更なる高品質な商品を追求し、すばらしいカーペットを世界中の顧客に届けていきます。

 


(※1)品質管理業務の担当者をグループで100名程度(全従業員の約0.3%)、1人あたり人件費を10万ドル、業務改善率を20~30%と仮定して推定

(※2)モホーク社のワランティコストを5800万ドル(SAPベンチマークによる推定値)、クレーム改善率を20~30%と仮定して推定

※本稿は公開情報をもとに筆者が構成したものであり、モホーク社のレビューを受けたものではありません。