データの統合・連携がもたらすデジタルヘルスケア ―― 第2回:ハイデルベルク大学病院で始まったプレママの心に寄り添うコネクテッド・ケア


デジタルヘルスケア連載第1回のMercy Healthcare Systemの事例では、医療機関内におけるデータの統合・連携が患者の満足の向上と事業面での成功を両立させた事例をご紹介しました。第2回の今回は、個々の患者 — 妊娠は病気ではないので厳密には患者ではありませんが — と医師との結びつきにITを活用した取り組みをご紹介し、さらに日本での適用について考察します。

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SAP本社のあるワルドルフから最も近い都市、ハイデルベルクは観光地として有名であるだけでなく、ドイツ最古の大学、ハイデルベルク大学があり、がん治療分野においては世界トップクラスのハイデルベルク大学病院があります。がん治療だけでなく、ハイデルベルク大学病院では、出産を控えた女性たちと産科医を結びつける新しいコミュニケーション方法を提供し、妊娠期全体を通しての母子のサポートを始めました。

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新しいコミュニケーション方法とは、

  1. 病院から妊婦へ、妊娠期に必要な情報をそれぞれのモバイル端末に送信
  2. 妊婦から病院へ、日々のコンディションについて情報やスコアを送信
  3. 病院から妊婦へ、受信した情報をリアルタイムに分析し適切な助言を返信、場合によって受診するよう連絡

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妊婦がモバイルアプリケーションを介して病院が用意した質問に定期的に答えることで、医師は妊婦がわざわざ通院しなくても心身のコンディションを把握することができます。特にこのアプリでは妊娠期うつ病の危険性が高い妊婦を特定できるようにしました。見過ごされがちな妊娠期うつ病は慢性化や重篤化の恐れもあり、最近の統計によれば妊婦の10~20%が罹患しています。ハイデルベルク大学では、日頃から妊婦をスクリーニングし、適切な支援を行い、日常生活における悩みの解決を手助けすることが大切、と考えています。

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いまや医師は情報管理者

この新しいコミュニケーションを可能にしているテクノロジーは以下の3つです。

  1. 妊婦と医師、双方にとってわかりやすい直感的なUI
  2. 大量のデータをリアルタイムに処理する安全なクラウド
  3. モバイルアプリケーション

妊婦が質問に答え、送信した最新の情報はリアルタイムで過去に蓄積された情報とともに分析され、その結果を医師が確認、妊婦に対して適切な情報を提供し必要な処置を採ります。医師の知見が予め分析ロジックに組み込まれ、医師にとってもわかりやすいUIによって情報提供がなされるので、こうした新しいコミュニケーション方法が追加の負荷とならず、全体としてむしろ医師が直接妊婦に関わる時間が増え、前回のMercyの例と同様、妊婦の満足度の向上に繋がっています。

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ところで日本では・・・

日本において、妊娠期の母子サポートにどんなテクノロジーが使われているかを調べてみたところ、ハイデルベルク大学病院のアプリで妊婦への質問項目の一部に取り入れられているEPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale)のiPadのモバイルアプリケーションがありました。

ただ、日本では妊婦個人のモバイル端末でこのアプリを使うのではなく、妊婦あるいは産後の女性が外来もしくは入院時に病院内で質問に答え、産科医か看護師に手渡しする場面を想定しているものでした。ハイデルベルク大学病院のように、妊婦から送信された情報を病院側のクラウドでリアルタイム分析して返信する、という双方向のコミュニケーション方法を実現しているものはまだ見られないようです。

 

さらに前へ

ハイデルベルク大学病院が、モバイルアプリケーションを使うことを妊婦用アプリから始めたのは、これを活用の第一弾と考えたからです。まずは、病気ではない妊娠期の母子のコンディションを常にモニターする医療サポート体制の十分な実績・経験を積んだ後、がんや心臓病などの重い病気への適用を目指しているとのこと。進化はまだまだ続きます。

ハイデルベルク大学が求めた①直感的でわかりやすいUI、②大量のデータをリアルタイムに処理する安全なクラウド、③モバイルアプリケーションは、患者と医師を結ぶために必要なIT機能であり、SAPはこれらの要件を満たすソリューションでConnected Careと呼ばれる医療サポート形態を実現しています。

例えば日本において、無医地区と中核医療機関を結びつけること、ご高齢の方々それぞれの健康状態に応じたモニタリングをすることもConnected Careであり、ハイデルベルグ大学の例を参考に基本となる製品・ソリューションをコアとして、それぞれのケースに応じて情報収集に必要な機器を連携し、さらにユーザーが使いやすいUIやコンテンツを用意するのがよいと思います。

日本では他に糖尿病の患者さん用の“セルフ”ケア用のモバイルアプリケーションなどが既にありますが、せっかくのモバイル端末の“繋がる”機能を使わず、スタンドアローン(?)での活用に留めるのはあまりにももったいないこと。ITによって従来の患者と医師の関係が途切れてしまうことは決してなく、これまで通り続きます。むしろITによる双方向コミュニケーション、Connected Careを活用することでその結びつきがより緊密になり、双方にとってより満足のあるものになっていくはず。より早期の実現のために、医療機関任せにするのではなく、患者予備軍の目線で医療分野におけるITの活用を支援していきたいと思っています。

 

 

参考:ハイデルベルク大学病院コネクテッド・ケアで活用したSAPソリューション

Analytics: SAP Lumira                                        http://www.sap.com/japan/pc/tech/cloud/software/data-visualization/index.html

Database & Technology:  SAP HANA Cloud Platform   http://www.sap.com/japan/pc/tech/cloud/software/hana-cloud-platform-as-a-service/index.html

Mobile : SAP Mobile Apps  http://www.sap.com/japan/pc/tech/mobile/software/solutions/applications/overview.html

出典:

Heidelberg University Hospital Connected Care                                https://www.youtube.com/watch?v=tQ8WAQc_RmY&feature=youtu.be