戦略的購買におけるグローバルネットワークの重要性 -最新の購買ネットワーク理論とAribaの価値-

作成者:SAP編集部投稿日:2015年11月6日

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Photo1購買・調達部門には、常に無駄なコストの削減、調達・購買業務の効率化につながるプロセスの見直しが求められています。その中で、これまでも注目を集めてきたのが「戦略的購買」の発想です。現在、世界的に浸透している戦略的購買は、一橋大学 イノベーションセンター 教授の西口敏宏氏が1994年にアメリカで「トヨタ生産方式」を説明したことから始まる理論で、購買・調達の世界に革新をもたらしました。そこで、今回は戦略的購買の基本的な考え方を西口先生にうかがうとともに、ゲストとしてお迎えした医療機器メーカーで購買・調達に関わるテルモ株式会社 調達部 調達部長の酒井信幸氏、調達・購買関連のコンサルティングファームの株式会社アジルアソシエイツ 取締役社長の野町直弘氏のほか、モデレーターとして株式会社日本アリバの小野寺富保が参加し、「間接材」「コスト削減」「コンプライアンスの強化」「グローバル」などの観点から、戦略的購買のあり方についての意見交換を行いました。

徹底した協業を通じた体系的な「戦略的購買」プロセスの確立

小野寺 西口先生はペンシルバニア大学のウォートン・スクールで助教授として教鞭を執られ、1994年に世界で初めて「戦略的購買」を提唱された方です。そこでまず、戦略的購買の概念について簡単にご説明いただけますか。

西口氏 戦略的購買とは、組織の支出をあらゆる角度から分析する協業的で体系立ったプロセスのことです。その情報を活用して、製品やサービスに関するビジネス上の意思決定を下すと定義されています。戦略的購買の歴史は、1980年代の日米自動車業界の比較研究を行ったことから始まります。当時のアメリカの調達・購買は、品質を度外視した、価格ありきの製造と供給が行われていました。サプライヤーとの契約は1年単位とされ、常に複数社を競い合わせることで優位な取引を行っていたのです。その結果、品質が著しく低下し、欠陥車が多数市場に出回ることになりました。

この反省から生まれたのが、「戦略的購買」という概念です。当時、日本のトヨタではアメリカのBIG3(ゼネラルモーターズ、フォードモーター、クライスラー)とは対称的な方法論を採用していました。それが「トヨティズム」と呼ばれるもので、メーカーとサプライヤーの関係は競争関係ではなく、社内外を含めた協業関係であるべきという考え方で、1次サプライヤー以下、全階層でムリ、ムダを省き、徹底した協業で品質の向上を図りながら、価格の最適化を実現していたのです。

もう1つ大切なのが、メーカーとサプライヤーとのネットワークです。サプライヤー間が小さなネットワークでつながることで、メーカーとも有益な情報の共有が可能になります。実際、トヨタのサプライヤーの1社で火災事故が発生し、部品調達ができずに生産がストップした時も、異なる業種のサプライヤーのネットワークによって、わずか9日間で生産を通常ベースに乗せた実績があります。

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こうしたサプライヤー間のネットワークは、中国の温州で日用品販売の世界で大きなビジネスチャンスをもたらしました。また、2012年10月にアメリカで発生したハリケーン・サンディで、アメリカ赤十字が1千万ドル超の救援物資の調達を迫られた際、515枚もの発注書をAribaネットワーク経由で発行し、30万個のランドリーバッグ、30万枚の下着類などを72時間以内に被災地まで届けた実績があります。

【参考記事】
「予測不可能なサプライチェーン」をアリバ・ネットワークで構築、被災者支援に即応するアメリカ赤十字

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つまり、協業的で体系立ったプロセスである戦略的購買とは、新旧情報を統合して、ビジネス上の決定と運用をより優位に行うための取り組みということになります。そして、サプライヤーとカスタマーのサプライチェーンにおいて、通常の相手だけでなく非連続的な相手先ともネットワークでつながることで情報の活性化をもたらし、品質と生産性の向上と価格改善の達成を目指していくことを意味しています。

システムで購買・調達を「見える化」して統制を強化

小野寺 野町さんは、調達・購買のコンサルタントとして、日本の多くの企業とお付き合いがありますが、戦略的購買をどのように捉えていらっしゃいますか。

野町氏 日本企業が購買改革に取り組み始めた2000年頃は、1980年代のアメリカの自動車産業のような「競争」さえも行われていませんでした。しかし、ここ数年で「集中」「競争」「集約」の視点から、戦略的購買への注目が集まっています。その理由は2つあります。1つは日本企業のグローバル化です。日本国内で調達力が強かった企業でも、海外に出ればまったく通用しない。なぜなら競争相手が中国とかASEANの急成長会社になるからです。日本企業がいわゆる「買い負け」をすることも珍しくありません。あとは近年の人手不足や需給の逼迫です。サプライヤーは軒並み人手が足りず、バイヤー企業により優秀なサプライヤーの囲い込みが始まっています。これからはサプライヤーとの関係性をいかに築くかが重要で、サプライヤーのモチベーションマネジメントが求められています。今後の調達購買を表すキーワードは「協働」と「サステナビリティ」で、日本企業もこの2つは無視することができません。

小野寺 戦略的購買という言葉は90年代前半に出てきますが、野町さんが言うように日本はまだまだ遅れていて、本来の意味での戦略的購買は実際には行われていません。この点について、実際の企業の側はどうなのでしょうか。テルモ様はAribaネットワークを2014年8月に導入されていますが、お使いになった感想をお聞かせください。

酒井氏 医薬品や医療機器は自動車や電化製品とは異なり、生産を止めることが許されません。そのため在庫も確保しなければならないため、ムダが発生しやすい状況です。そこで私たちが現在取り組んでいるのは、サプライヤーとの協働体制です。間接材についてはAribaによって見える化し、必要以上のムダを発生させないようにしていこうと検討しています。

小野寺 実際、テルモ様の間接材の調達はどのように行われているのでしょうか。

酒井氏 間接材の調達は現在、生産管理システムによる処理、ワークフローによる請求書の処理、手書伝票による処理の3つのプロセスがあります。そのため、どこで、何を、いくら買ったかといったことが統一して見ることができません。この課題を解決するためにAribaの導入を決めたのですが、テルモの場合、直接材と間接材の比率はほぼ50:50となっています。原材料となる直接材は注目度が高く、適切な購買が行われているのですが、反面、間接材の購買は各部門に分散し、全社的なガバナンスが効きにくい状況にあります。

小野寺 私はAribaに入社する前は、マイクロソフトやジュピターテレコムなどで23年間、購買業務に携わってきましたが、90年代後半になるとリバースオークション、協調的購買の考え方が出てきて、その後Aribaネットワークが登場して、トランザクションを一元化する動きが生まれました。日本の調達購買では間接材と直接材を区別するところがありますが、実際のところ間接材も直接材も一緒でいいと思います。直接材と間接材の違いは製造業では見えやすいと思いますが、野町さんはどのようにお考えですか。

野町氏 日本は間接購買の取り組みは、ここ10数年の取組みで歴史はまだ浅いです。間接購買は、企業のマネジメント層がコスト削減をしなさいと2、3名のチームやプロジェクトで始めることがほとんどです。そして、まずは分析から開始し、社内調整がしやすい品目からコスト削減を目指します。しかし、3年ほど経つとジョブローテーションでチームメンバーが入れ替わり、またゼロからのスタートになる。結果として新しいメンバーが又手を付けやすいものからコスト削減を開始するというパターンの繰り返しであまり進歩が見られません。

そもそも間接材の改革には目的が3つあり、1つがコスト削減、2つめが業務効率化、3つめが統制の強化となるわけですが、私はコストだけでなく統制に目を向けるべきと思っています。基本は「継続的に適正購買ができる企業」を目指すことであり、そこをゴールに定めるべきです。しかし日本はかなり遅れているようで、昨年アンケート調査で可視化比率を調べたところ、アメリカが82.7%であるのに対して、日本は56.4%と大きな遅れがあることがわかっています。

戦略的購買の実現には、サプライヤーとメーカー間のグローバルネットワークが必須

小野寺 協調関係や戦略購買にしても、ベースとなるシステムがないと見える化が進みません。そこで着目したのが、西口先生のお話にあったネットワークです。先ほどはトヨタの事例やアメリカ赤十字の事例をお話いただきましたが、リアルタイムで起きていることを見える化する、共有化するとなると強い連携が必要です。このサプライヤー間のリアルタイム連携がこれからますます重要になっていくと思いますが、テルモ様ではAribaネットワークを使って、どのようなことをされているのでしょうか。

酒井氏 1つはカタログ化です。ネットワークはサプライヤーとの関係ばかりでなく、社内のネットワークも大切です。テルモの場合、以前まで間接材については隣の部署が何を買っているかもわかりませんでした。そこでAribaネットワークを導入してマスターを統一し、カタログ化できた時、間接材の見える化、統制、グローバル対応が実現します。2つ目は、下請けチェッカーや社内決裁のルールチェッカーを適用することで、コンプライアンスも強化することができます。

小野寺 酒井さんからお話があったように、コンプライアンスは重要なキーワードです。最近はコンプライアンスへの対応で疲弊しているという話もちらほら聞かれますが、CSRやコンプライアンスがクローズアップされてくると、ますます企業として何もしないわけにはいかなくなります。ビジネスネットワークの話では、バイヤーとサプライヤーの関係が強化され、海外ともランダムにつながれるようになると、西口先生が言うところのスモールワールド・ネットワークに行き着きそうですが、西口先生の目から見て、Aribaネットワークはどのように映りますか。

西口氏 新しいタイプのプロダクトは、想像力を活かしたクリエーションであるべきと考えています。その意味では私たちのネットワーク理論に、Aribaネットワークをビルドオンする形で未来志向のプロダクトを開拓していただければと思います。 

小野寺 野町さんはコンサルタントとしてAriba以外のソリューションを見てきて、Aribaの良いところと悪いところを感じていらっしゃると思います。

野町氏 海外の企業はユーザー事例に学びながら、次期のシステムリリースに機能強化を図りますが、日本のシステムはそこが弱い。その点、Aribaはグローバルで活用する面では一日の長がある思います。 

小野寺 酒井さんはAribaネットワークを使ってみて、どのような印象をお持ちですか。

酒井氏 私たちは、Aribaネットワークを導入するにあたり国内の複数のクラウドやオンプレミスのシステムを含めて検討しましたが、Aribaのカタログの作り方については柔軟性の高さを感じています。日本のユーザーにとっては若干使いづらい面はありますが、全体的には優れたソリューションであると評価しています。 

小野寺 今回、西口先生の提唱された「戦略的購買」の中でネットワークの重要性を改めて確認できました。バイヤーもサプライヤーも一方通行のコミュニケーションで終わるのではなく、お互いが意見を交換しながら情報を共有化し、一元的なつながりが実現するネットワークを作ることが大切であり、Aribaがそれに貢献できるソリューションであることを改めて実感しました。本日はありがとうございました。

※去る7月1日・2日の2日間にわたり、ホテル椿山荘東京にてエグゼクティブ向け招待イベントであるSAP Selectを開催し、1,000人を超えるお客様がご参加いただきました。
当イベントは、「日本の稼ぐ力」を取り戻すために日本企業が描くべき成長戦略、変革をテーマに据え、多くの有識者や企業経営者の皆様による討議や講演が行われました。
本記事は、SAP Selectにてご講演いただいた内容をインタビュー形式に編集して掲載しています。

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