自動車業界特有のビジネスプロセスでSAPソリューションの価値を高める勘所


Seattle, Washington State, USA --- Mechanic looking in tool box --- Image by © ColorBlind Images/Blend Images/Corbis

グローバルビジネスの拡大で、ITの重要性がますます高まりつつある自動車および自動車関連業界。着々とシステム化を進めているメーカーは多くありますが、同業他社の情報を知る機会は多くありません。実際に、他社はシステムをどのように導入し、どのように生産性を高め、業務を効率化しているのかについて、具体的な導入事例を知りたいという要望が寄せられます。そこで、2015年8月5日に開催されたSAP Automotive Forum Nagoya 2015では、日本におけるSAPのユーザー会であるジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)の自動車部会から、三菱自動車工業株式会社と日本発条株式会社の2社が、それぞれ調達システム(SAP SRM)とSAP ERPの導入事例について講演しました。

自動車部品サプライヤーのSAPソリューション導入時の勘所

冒頭では、JSUG自動車部会の部会長を務める三菱自動車工業の和泉敦子氏から「自動車関連メーカーが多く集まる名古屋の地で、昨年初めて開催されたSAP Automotive Forum Nagoya。2年目の今年は、昨年のアンケート結果を踏まえて、事例を詳しく紹介することにしました」と背景を説明しました。

続いて、日本発条 企画管理本部 情報システム部 部長の鈴木潤一氏が「自動車部品サプライヤーのSAP導入の勘所」と題して、同社のSAP ERPの導入事例を発表しながらポイントを語りました。鈴木氏は自動車部品サプライヤーがSAP ERPを導入するポイントとして、業界特有の検討ポイントを外さないこと、SAP ERPの幅広い機能を使うこと、時間をかけずに導入することの3つを指摘しています。

自動車部品サプライヤーの業務は、①EDI→②内示→③受注→④購買→⑤生産→⑥納入→⑦管理というプロセスを踏んで流れるのが基本です。そして、それぞれの企業がお客様に合わせた業務処理プロセスやロジックと、効率化・最適化されたプロセスをすでに持っています。そこで課題となるのが、システムに関わる人材や技術の継続的な維持と、グローバルに拡大するビジネスやIT活用の進歩への対応です。日本発条では、これらの課題を解決するためにSAP ERPを2000年に導入し、以来15年間にわたってEDIから内示、受注、購買、生産、納入、管理までのプロセスをシステム化してきた歴史があります。今回の講演では、それぞれの工程についての説明が行われました。

① EDI

SAP ERPには受注・内示データの受け口とそれを書き込むプログラムはありますが、EDI受信機能自体は標準機能にはありません。そのため、受信(通信)機能およびお客様のコードを自社のコードに変換する仕組みを用意しなければなりません。日本発条では、これらの要求事項に外部のEAIシステム側のアドオンで対応しました。鈴木氏は「SAPのアドオン対応も可能ですが、変換テーブルをSAP内でコントロールできる反面、実装の難しさと運用コストが高くなってしまうため、外付けとした。」とその理由を明かします。

② 内示

MRPの有効活用に欠かせない内示情報ですが、日別の内示データの書き換えはデータ量が多く複雑で、データ変更を確実に行う方法が難しいといいます。そこで日本発条は、製品種類・生産方式に応じて、月次・週次にまとめる、あるいは外付けシステムに日別データを管理する機能を加味してMRPの独立所要量をコントロールする仕組みを構築しました。

③ 受注

客先品番から社内品番への変換はSAP ERPの「得意先品目コード」マスターで対応。かんばん納入品については、外付システムなどの出荷実績データから受注伝票を作成し、出荷伝票の作成と出荷実績計上を実施しています。また、同期生産対応もアドオン対応により実現し、業界特有の処理に対して効率化・省力化を図っています。

④ 購買

日本発条では、1日多数回指示・納入対応をアドオン機能で実施しました。ただし「単純なアドオンは禁物で、自動車部品業界のノウハウがあるSAPのコンサルの支援を受けたり、購買ソリューションのSAP SCMを活用する案もあります」と鈴木氏はアドバイス。かんばん仕入の仕組みは標準機能にあるが、それがうまく使えるかは業務プロセスに依存します。基本機能は生かしながら、かんばん枚数計算やかんばんの印字についてはアドオンもしくは外付けシステムを使用。外部システムからの購入実績連携データをもとに、アドオンで発注データを作成して入庫を実施しています。また、業界で必要性の高かった単価遡及処理については、自動車部会からSAPへの要求により機能追加が実現され、伝票特定して遡及処理の対応ができるようにしたといいます。

⑤ 生産

SAP ERPの生産管理システムは、管理会計システムとの結びつきが強く、指図をうまく使えば部品出庫予定の可視化と在庫削減に結びつきますが、うまく使えないと未完指図の山となりMRPが無効化される危険をはらんでいます。中間仕掛品が発生する工程で仕掛管理を行うためには、仕掛中間品番の設定が必要になることもあり、オペレーション複雑化との兼合いで苦心するポイントです。一方で、生産現場関連システムでもSAPソリューションでできることは増えてきており、ラベルプリンターや、パーソナル向けのラベルライターへの直接出力で生産系の帳票を安価に出力しています。また、ハンディーターミナル(HT)によるSAP ERPへの入力やリアルタイム検索も可能で、日本発条でもHTとSAP ERPとの直接連携を実現しています。

⑥ 納入

納品書、ラベル印刷は、データ渡しによる帳票印刷専用システムからの印字、帳票印刷が定番でしたが、現在はSAP ERPの標準機能であるADSシステムの活用により、ダイレクトに出力して効率化されています。

⑦ 管理

SAP ERPでロット管理することで、データアーカイブを含め、統合的な管理が可能になります。反面、品質ロットのサイズも製造指図単位となるため、ロット分割やロット変更・形成が必要な工程では利用が難しい面があります。簡単ではありませんが、ロット附番ロジックの見直しを含めて、採用を検討すべきとといいます。SAPロジスティックスの管理は基本的に計画データと実績データの比較によって行われます。そのため、紙かんばんなど、計画となるデータがシステム上にない場合は、実績データを比較すべき対象がなく、標準的な管理ツールが使えなくなることへの理解と対処が必要です。

ポイントはライブラリーと標準機能を使い、時間をかけずに導入すること

鈴木氏は、自動車部品サプライヤーがSAPソリューションの導入で心がけるべきこととして「パートナーの会社の大小ではなく、業界特有のビジネスプロセスの理解と経験を確かめることが重要。ただし、導入の勘所はそう多くはないので、方針を決めたら設計で迷わないことです。そして、SAPのAutomotive向けに用意されたライブラリー(SAP ACS)や、実績のあるコンサルタントのライブラリーを積極的に活用してください」と語りました。そして、自動車部品サプライヤーがSAP ERPを導入していくうえでは、プロセスごとのポイントを踏まえ、時間をかけずに標準機能をなるべく活用し、ユーザートレーニングや移行に力を入れるべきとアドバイスしました。

SAPの購買調達ソリューション「SAP SRM」による見積授受の電子化とグローバル展開

続いて、三菱自動車工業 経営企画本部 ビジネスIT 部 エキスパートの井上晴生氏が、同社の調達システムの導入と展開について紹介しました。三菱自動車工業は、2012 年に日本国内にSAPの購買ソリューションであるSAP SRM を導入し、2014 年には海外子会社でも稼動させています。その背景を井上氏は次のように語ります。

「2011 年~2013 年の中期経営計画で『成長と飛躍』を掲げる中、グローバルレベルでのコスト競争力向上と為替・材料価格変動の経済環境に左右されないコスト体質強化を目標にしていました。しかし、当時の調達システムは導入から20年が経過し、業務を支援する十分な機能を有していませんでした。」

そこで同社は、グローバルでの見積授受による情報収集の拡大と、業務遂行状況の見える化による処理の効率化、海外拠点への展開による拠点間の情報共有化の3つを目的に、新調達システムを導入することにしました。

調達システムにSAP SRM を選定した理由を井上氏は「SAP SRM は見積授受や業務統制に必要な機能を満たし、コスト構造を階層的に保持することが可能でした。さらに、Webベースのシステムで、国内も海外も関係なく利用できることがポイントになりました。」と語ります。

購買調達システムの構築はサプライヤーの協力がカギ

SAP SRM の導入で三菱自動車工業が実現したことは以下の5つです。

①単価変動要因保持による、変動要因分析精度の向上・効率化
②材料価格変動に対応するシミュレーション
③見積フォームの統一化
④単価マスタ管理の効率化
⑤海外拠点各システムとの連携容易化

井上氏はプロジェクトを振り返り「難易度の高い調達システムの導入は、関係者の協力の下に実現できました。中でも見積回答をシステムに入力する役割である、サプライヤーの協力が不可欠でした。」と語り、講演を終えました。