SAP ERPのグローバル展開における課題と対策について、名古屋を代表する3社がディスカッションを展開


グローバル競争が激化する中、海外メーカーに打ち勝つためには、グローバルに積極的に打って出なければなりません。そして、IT部門にはスピーディーにシステムを展開し、早いタイミングで効果を具体化することが求められています。それは規模の大小や業界に関係なく、どの企業にも共通している課題です。2015年8月5日に名古屋で開催されたSAP Auto Forum Nagoya 2015では、トヨタグループの総合商社である豊田通商のシステム開発を手がける豊通シスコムと、名古屋市に本社を置く電子機器メーカーのタイテック、SAPジャパンの3社合同によるパネルディスカッションが開かれ、グローバル展開の共通課題について議論が展開されました。

リージョンごとにインスタンスを作成し、国内で一括管理する豊田通商

パネルディスカッションには、豊通シスコム グローバルIT事業本部 グローバルシステム部 部長の安達正浩氏と、タイテック システム事業部 ERP事業推進課 エキスパートの佐藤浩氏の2名が登壇し、モデレーターをSAPジャパン CFOソリューション推進室 シニア・マネージャーの関口善昭が務めました。参加が予定されていたJSUG中部フォーラムのフォーラム長で、日邦産業 コーポレート本部 情報システム部長の大橋伸啓氏が都合で出席できなくなり、日邦産業の状況を関口が代わりに紹介する形で議論が進められました。

最初に、豊田通商、タイテック、日邦産業のSAP ERPのグローバル展開の現状について紹介されました。
豊田通商は海外に数百の関連会社があり、規模の大きな拠点を中心にERPシステムが導入されています。現在、16カ国、26拠点への導入が終了し、2拠点への導入プロジェクトが進んでいるほか、追加導入も計画されています。SAP ERPで構築したシステムは、グローバルで4つに分けられ、それぞれが販売、購買、会計、BWのモジュールを導入しています。開発機はワンインスタンスとし、本番機はリージョンごとに4サーバーで構成され、日本国内で一括して管理しています。ロールアウトは日本と現地法人の共同で実施し、費用は現地法人が一括で負担する形です。保守や問い合わせ要望については、ユーザーが利用料を支払う形の従量課金制を採用しています。

電子機器メーカーのタイテックは、SAP ERPの会計、販売、購買、生産のモジュールをAWS上にワンインスタンスで構築し、日本本社と中国の関連会社の2つで利用しています。
また、電子制御部品と樹脂加工部品メーカーの日邦産業は、アジアを中心とする8つの生産拠点と4つの営業拠点を持ち、その内の2つの生産拠点にSAP Business Oneを導入し、現在2つの生産拠点にSAP Business Oneを導入中です。

グローバルテンプレートを用い、業務をシステムに合わせることで納期を短縮

ひととおりの3社の導入状況が説明された後、グローバル展開の課題と対策として、①納期、②言語、③標準化、④総コスト、⑤人材育成の5つのテーマが挙げられ、順次議論が進められていきました。

まず①納期については、豊通シスコムの安達氏は「現在、新規導入は最長1年、最短4カ月程度」と説明しました。「基本的には現地で要件を確認し、テスト、移行というタスクをたどります。その際、グローバルテンプレートを用いて業務をシステムに合わせる方針を徹底しているので、すでに導入済みの国に新規の拠点を設立したり、分社したりするなら短納期での導入が可能です。多くの要望が出された場合は必要に応じて親会社の豊田通商とともに現地の会社に理解を求めています」(安達氏)

タイテックでは、中国も日本でほぼ同じ業務プロセスを採用しているため、横展開は時間がかからず、現地に対しても「日本と同じシステムです」と説明することで理解もスムーズに得られると佐藤氏は語りました。

日邦産業も、原則として既存工場の業務プロセスを横展開する方針としていますが、必要に応じてテンプレートをアップデートしながらロールルインすることで、テンプレートをブラッシュアップしているといいます。

データの移行については、豊通シスコムは移行ツールを用いていますが、拠点によってはマスターを移行するのみで、残りは運用でカバーするケースもあるといいます。タイテック及び日邦産業もExcelシートを使ってバッチで移行するツールを利用してスムーズな移行を実現しているようです。

ユーザーのトレーニングについては、豊通シスコムは英語のドキュメントを用意して、パワーユーザーとエンドユーザーに対して教育を実施。タイテックでは日本語が理解できる現地のキーマンにトレーニングを実施し、キーマンからエンドユーザーにトレーニングするステップを踏んでいます。日邦産業では、エンドユーザーにトレーニングをする時間を確保してもらうのが難しいとする一方で、臨場感を持つために実マスターと実画面を使い、実戦と同じように操作するトレーニングを行ったことが本質的な理解につながったといいます。

バイリンガル社員の採用で、言語の問題はクリアも退職リスクが発生

②の言語については、豊通シスコムでは海外向けシステムは日本で開発するため、詳細設計や基本設計は日本語でできる反面、展開時に翻訳コストが発生するといいます。

「現地とのやり取りもメールが中心で細かい内容は把握がしづらく、スピード感に欠ける場合があります。トラブル対応や機能の追加要件については現地駐在の日本人スタッフが間に立つ場合もあります」(安達氏)

タイテックはバイリンガルの社員が対応するため言語の悩みはないものの、担当者の退職リスクに備えて、業務の標準化とマニュアル整備を進めています。また、日邦産業ではバイリンガルの現地ベンダーや現地社員がマニュアルを作成していますが、できるだけ写真や図を多用して理解を助ける努力をしているといいます。

③の標準化については、豊通シスコムではグローバルワンシステムで海外展開をしていることから、基本的な業務プロセスは標準化が維持されています。「例えば、SAP ERPをある国の統括会社に導入し、同じ国の配下の企業も同じERPシステムを導入する場合があります。その場合は、システムの中身が理解できているので、教育支援、運用支援、連結データの収集、監査などの対応がスムーズに実施できます」と安達氏は説明します。

タイテックは、日本のシステムをそのまま横展開しているので、自動的に業務プロセスの標準化が進んでいます。また、マスターや品目BOMの整備を現地に任せると個別化が進んでしまうため、日本で一括してメンテナンスし、常に標準を維持するようにしていると佐藤氏は語りました。日邦産業でもタイテックと同様、業務プロセスの横展開で標準が維持されているといいます。

標準の維持とアドオンの抑制が総コスト削減のカギ

④の総コストの抑制についてですが、豊通シスコムでは標準機能を維持し、アドオンを抑制することでコストの高騰を抑えています。また、アドオンを受益者負担とすることで、アドオンを抑制する効果が働いているといいます。その他にもマスター登録やカスタマイズ登録などの自動化を推進して開発コストを削減したり、現地作業を要件定義とユーザーテストなど必要最低限に絞り、出張コストを削減したりしています。「オフショアや現地ベンダーの活用も有効ですが、ローカルの安価なパッケージと比較するとSAP ERPは高額となるため、海外展開ではある程度、日本がトップダウンで進めていくことが重要」と安達氏は語ります。

タイテックでは、中国への導入は自社要員で実施しています。「SAP ERPには既存のインスタンスに会社コードを追加するだけなので、総コストは抑制でき、インフラもすべて日本に集中させているため運用担当者を置く必要がありません」(佐藤氏)

日邦産業でも国内要員による自前主義が原則ですが、コストを抑えるため、導入は日本のベンダーに依頼せず、現地ベンダーを活用しています。

最後の⑤人材育成も、海外展開に関わる重要な要素です。人材育成について、豊通シスコムでは新規採用と中途採用で社員を集めていますが、SAPソリューションが理解でき、なおかつ英語がわかる人材の採用は難しいため、SAPか英語のどちらかがわかる社員を採用し、時間をかけて育成しています。また、若手は海外に1年程度、研修生として派遣し、スキルの向上に努めているといいます。「若手の選抜基準は?」というモデレーターからの質問に対して安達氏は「打たれ強さ、適応力、コミュニケーション力の高さを評価します。言語力の優先度はさほど高くありません。英語は現地に行けば自然と習得できますが、打たれ強さやコミュニケーション力はすぐ育つものではないからです」と答えました。

タイテックでは中国での即戦力を求めています。「それまでも日本語が話せて、SAPのスキルがある人材を中国で募集し、採用してきましたが、時にはすぐに辞めてしまうこともあり、苦労が絶えませんでした」と佐藤氏はそれまでを振り返りました。

議論はここまでで終わりましたが、これからSAP ERPのグローバル展開を強化していく企業の皆様は、三者三様の事例を参考に検討してみてはいかがでしょうか。