新たなビジネスの方程式 I=ux3とは?そこから導かれるDigitization、IoT、Cloud、BigData、Design Thinkingの本質


I=ux3とは

I=ux3はかの相対性理論、E=mc2をもじったもので、私の勝手な造語です。その意味するところは、Innovation=UX3ということで、昨今話題のUX(User Experience、利用者体験)を考えることがこれからのInnovationには欠かせない、というよく聞く話にも聞こえるものなのですが、さて3乗は一体何を意味するのでしょうか?ここに今回のブログでの一番のメッセージが込められています。

UX、という言葉を聞いた時、多くの方はアプリケーションまたはWebサイトの画面やその使いやすさをイメージされるのではないでしょうか?そして良いUXはアプリケーションやWebサイトなどのITを通じて利用者、主に自社の顧客に対して良い体験を提供する、という意味に限定してとらえていませんか?しかし、当たり前のことですがUXという概念それ自体はITとは何の関係もなく、あらゆる財やサービスを顧客に提供する際にもいえることです。つまり、UXをITだけのものとして考えることはIT×UXという一つの平面(ux2すなわち平面)を切り取って見ているだけに過ぎず、本当は前半は変数であって様々な値を取る高さであると考えることができます。そしてITに限らずあらゆる高さを含めて顧客のUXを考えること(=ux3、すなわち立方体)が、これからのInnovationの1つのカギになってくると思います。別の言い方をすれば、利用者によりそったソフトウェアをITによって実現することはUXを構成するほんの一部であり、本来はITを含む(含まない場合もある)全体のビジネスを、顧客の体験を中心に考えることがイノベーションをおこす上で必要な考え方なのではないか、ということです。

(ちなみに、利用者という言葉は例えば自社社員など本来あらゆる意味を持ちますが、ここでは利用者=顧客という想定で話を進めます。最終的な利用者である顧客の理想の体験を考えることにより、演繹的に他の部分が決定され得るからです。)

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Digitization、IoT、Cloud、BigData、Design Thinkingの本

ではこの立方体と副題に挙げている「Digitization、IoT、Cloud、BigData、Design Thinking」はどのように関係してくるのでしょうか。まず、Digitization、IoT、Cloud、BigDataについてですが、これらはあくまでI=ux3を実現する手段の1つ、すなわちIT平面上での点に過ぎない、ということです。あるべき理想の利用者(顧客)体験を考えた時に、それに対して例えばIoTが利用できそうであればそれを利用すればよいだけであって、IoTを起点に、さてそれを自社にどう活用しようかと考えることでアイデアが生まれると期待することはナンセンスです。新しい技術を起点として新しいモノやサービスが生み出されることはもちろんあり、否定はできませんが、その場合には往々にしてこのUXの立方体の中の限られた平面上でのアイデアに思考が留まってしまう可能性が高いからです。

それに対して利用者の理想の体験とは何か、ということを起点にして考えることは、そのような思考のとらわれを回避することができます。そしてそれを考えるための方法論がDesign Thinkingです。Design Thinkingでは利用者のトータルな体験を観察(必ずしもインタビューではない)し、制約を設けずに多様な人間のアイデアを組み合わせ、その場でプロトタイピングをしてすぐに利用者のフィードバックを繰り返す、という流れを繰り返します。それにより新しい角度から課題を定義し、あらゆる可能性を議論の俎上にのせ、理想の利用者体験、UXを生み出すための思考フレームワークです。これが、I=ux3を実現するためにSAPが注力している方法論です。SAPの各拠点にはDesign Thinkingのエキスパートが在籍し、全社を挙げて推進しています。

ところで、Design Thinkingという方法論はもちろんITを含むすべての平面を通貫するフレームワークですが、SAPはあくまで企業向けソフトウェアの会社です。そこでSAPがSAPらしくビジネスアプリケーション、ビジネスITという平面からInnovation=ux3を生む基盤として提供しているのがSAP HANA Cloud Platformです。ux8


 

I=ux3実現のためのSAPのテクノロジー

さて、ビジネスアプリケーションによるUXの実現に必要なものは何でしょうか?抽象的に言えばそれはあらゆる情報をとらえ、瞬時に処理し、それを最もふさわしい形で利用者とインタラクトさせる仕組みだと私は思っています。そしてその新しい仕組みを構築する基盤がSAP HANA Cloud Platform(以下HCP)です。ここから具体的なソリューションの話に移ります。

HCPはビジネスアプリケーションを開発する上で必要なあらゆる種類のサービス(機能)を含んだSAPのPaaS(Platform as a Service)です。今回は数多くあるHCPのサービスの中から、DB層、インテグレーション層、UI/Webアプリケーション層という形で分けて、いくつかの代表的なサービスについてお伝えしたいと思います。

【DB層】

DB層の代表的なサービスとして挙げられるのがSAP HANAのDBサービスです。インメモリーやカラム型といった技術を利用し、トランザクションシステムとそこで蓄積されたデータを分析するシステムが単一のDB上で稼働することが可能になり、リアルタイムに膨大な量のデータの利用/分析が可能になりました。これは当たり前のことのようですが、従来のDBの性能では実現することができませんでした。瞬時に膨大な情報を処理する能力は、UXの可能性を広げる大きな要素の1つです。

【インテグレーション層】

HCPでは、HANAだけでなく他のDBやシステム、Webサービスなどを一つに統合する仕組みが備わっています。その中心をなすのがODataと呼ばれるREST形式のWebプロトコルになります。ODataはデータのクエリに優れたプロトコルで、SAPを初めMicrosoft, IBM, Citrixなどが標準化を進めています。データのプロトコルをODataに統一することで、様々なシステムを組み合わせた柔軟なWebアプリケーションの構築を可能にします。実際にその役割を担うものにはHANA Cloud Integration(HCI)やIntegration Gateway(後述のHCPmsに含まれる)、SAP Gatewayなどがあります。

また、広い意味ではHCPのもつIoTサービスも含まれます。数多のデバイスからの情報をリアルタイムに収集し、形を整えてDBに格納していく仕組みを迅速に構築することができます。

【UI/Webアプリケーション層】

そして最後に、DB層、インテグレーション層を利用して最終的に利用者とのインタラクションを提供するUI/Webアプリケーション層です。

この層に対してSAPはSAPUI5と呼ばれるHTML5、JavaScript、CSSのライブラリ/開発フレームワークを提供しています。ビジネスアプリケーションにとって必要な既製のコントロールを豊富に含み、また、単一のコードでPC、タブレット、モバイルといった全てのデバイスに対応する機構を備えています。

またその統合開発環境として、SAP WebIDEをHCPのサービスの1つとして提供しています。SAP WebIDEの最大の特長は、クラウド上でアプリケーションの開発から拡張、テスト、デプロイまでを面倒なインストールなしに行えることです。また、豊富なSAPUI5テンプレートを利用した開発や、Gitとの連携、WYSIWYGエディタなどの機能も搭載しています。これらの特長によって、UXの実現に不可欠である短サイクルでのアプリケーション構築とユーザーフィードバックを行うことを可能にします。なお、SAPUI5はEclipse用のSDKを提供しており、またOpenUI5という形でオープンソース提供もしています。

SAPUI5やWebIDEを利用して一次的に開発されるアプリケーションはあくまでブラウザ上で動くWebアプリケーションですが、モバイルデバイスのネィティブ機能(プッシュ通知やカメラ連携、連絡先連携等)や、モバイルデバイスならではの機能(オフライン機能等)を実装する必要があるケースもあります。そのような場合には、HCP Mobile Services(HCPms)を利用することで実現が可能となります。

さらに、よりUXを実現しやすくするツールとして、SAPではBUILDと名付けられた、誰でも利用可能なUIプロトタイピングツールをWeb上で提供しています(2015年12月1日時点ではベータ版)。これは画面の紙芝居を作るようなイメージのもので、例えばDesign Thinkingによって紙に描かれたUIの図面を取り込み、その上にコントロールや画像を配置したり、画面遷移などを実際に再現させたりすることができるツールです。さらに、作成されたプロトタイプをURLで配布し、ユーザーが正しく処理を行えたかどうかや、処理を終えるのにかかった時間、どこを頻繁にクリックしたかなどのユーザーの調査を自動で行うこともできます。これらの3つの層を備えることにより、SAP HANA Cloud PlatformはビジネスアプリケーションのUXを実現するための柔軟性を提供しています。

さて、ここまでの議論の中で、ERPという言葉がほとんど出てこなかったことにお気づきでしょうか。つまりSAP=ERPだけ、という認識は既に過去のものであり、SAPはITという平面を通じて、Innovationを実現するための強力な方法論(Design Thinking)と技術(PaaS)をすでに備えています。しかしもちろんのことながらそれを構成する要素の一つとして、ERPはこれまでにも増して一層重要なものになります。

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まとめ

UXという言葉はIT、ましてやアプリケーションの画面にだけ適用されるような概念ではありません。そしてあらゆる平面にまたがる1つのUXを考えることが、既存の枠組みを突き破っていくInnovationに繋がっていくのではないでしょうか。そしてこれはどのような業種であっても関係なく追及すべきテーマであり、Digitizationに象徴されるように、ERPにとらわれないビジネスIT全体という平面からSAPはそのInnovationをお客様とともに追求し続けています。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。