旭化成メディカルの取り組みにみるグローバル経営を支える進化するBI活用のモデルとは?
作成者:高橋 正直 投稿日:2015年12月21日
こんにちは、SAPジャパンの高橋です。ビジネスのグローバル化が加速する中、BIを活用した地球規模での計数管理や分析に基づく迅速かつ精度の高い意思決定は、もはやグローバル経営の「常識」となっています。この課題に早くから着目してきた旭化成メディカル株式会社では、2001年にSAP Business Warehouse(SAP BW)を導入して以降、バージョンアップを重ねながら、2014年にはSAP BW Powered by SAP HANAへの移行を実現。激しく変化する市場のスピードに負けない超高速な「データの可視化基盤」を構築しました。
SAP BWで構築した「データの可視化基盤」に予想を上回る反響
総合化学メーカーである旭化成グループの中でも、医療機器・医療材料技術分野の事業を担う旭化成メディカル株式会社。特に繊維・ケミカル技術を応用した血液医療分野では常にトップレベルのシェアを維持し、その優れた技術力は日本国内にとどまらず、北米、ヨーロッパ、アジア中近東などのビジネスにおいても高く評価されています。
同社が旭化成グループに先駆けて、SAP BWを導入したのは2001年のことです。すでに1999年に SAP ERPを導入していたことから、より効果的なデータ活用を目指してSAP BW の導入を決定した同社でしたが、そこで進めたデータ可視化の反響は当初の予想を上回るものだったといいます。経営統括総部 情報システム部 部長の上野公志氏は、次のように振り返ります。
「SAP BWのバージョンアップを重ねる過程で、Webポータルを用いた経営陣への情報提供を試みたところ、社内でのデータの分析活用に対する関心が大きく高まりました。また、その後のSAP Business Warehouse Accelerator(SAP BWA)導入によってパフォーマンスが向上した結果、SAP BWの業務への利用が一気に拡大しました」
海外ビジネスの拡大に伴い、さらなる情報基盤の強化が課題に
SAP BWで構築した「データの可視化基盤」が徐々に社内に定着し、利用者数もアクセス数も増加する一方で、新たな課題となったのがより一層の処理能力の強化と安定性の向上でした。そこで、旭化成メディカルはビジネスの未来を支えるさらなる情報基盤の強化に向けて、SAP BW Powered by SAP HANAへの移行を決断します。2013年に下されたこの決断の背景には、業務の現場からの声だけでなく、海外市場での業績拡大に伴う経営的な要請もありました。
「SAP BWの導入・運用と時期を同じくしてビジネスの海外比率が高まる中、連結経営を支援する情報基盤もSAP BWを使って整備を進めていくことになりました。そこで、まず2008年に各拠点で発生するデータをすべてSAP BWに集約し、分析する仕組みを構築したのが始まりでした」(上野氏)
この結果、①在庫の見える化、②会計連結、③製販バランスの調整といった重要な課題をグローバル規模で実現するという大きな成果を上げることができました。しかし、多くの拠点からデータを集約すればするほど、データの可視化基盤には高い安定性や信頼性が求められ、また一部のレポートではSAP BWAによる高速化が適用しにくい、あるいは夜間バッチ処理に膨大な時間を要する、バックエンドでの運用管理の負荷が高いといった課題のウェイトが大きくなり、その解決策としての決断がSAP BW Powered by SAP HANAへの移行でした。
新たな情報基盤のプラットフォームとしてSAP HANAを選択した理由について、上野氏はSAP ERPとのシームレスな連携を挙げます。
「SAP ERPのデータを可視化する際に、双方のデータを“つなぐ”作業は最小限の労力ですませたい。構築・運用の効率化を考える上で、データの一貫性/一体性は非常に大切なことです。その点、SAP BW Powered by SAP HANAはまさに最適解でした。加えて、製品がグローバルでの大きな導入実績と明確なロードマップを持っていることも重要な評価ポイントとなりました」
SAP BW Powered by SAP HANAが高速処理と運用の効率化を可能にする
SAP BW Powered by SAP HANAがもたらした劇的なパフォーマンスの向上
2013年8月のプロジェクト開始からから10カ月を経た2014年5月、旭化成メディカルはSAP BW Powered by SAP HANAへの移行を完了。ここで得られた主なメリットには、「パフォーマンスの向上」「多言語対応」「安定運用の実現」といった、どれもグローバルビジネスに重要な項目が挙げられます。しかし上野氏は、それら以上に大きな成果は「情報基盤全体のスピードアップ」だと強調します。
「高速化がシステムの一部に限定された状態では、全体の機能の仕分けや設計、パフォーマンスなどを個別に考慮しなくてはなりません。しかし、今回はSAP HANA化することで、プラットフォーム=基盤全体が高速化されています。そこではシステム内部の個々の仕分けなどを考える必要はなくなりますので、開発・改修の際も検証や設計の負荷が大きく軽減されます」
また、過去のSAP BWのデータや運用ノウハウなどもすべて継承できており、それらの資産がSAP HANAという超高速のプラットフォームに乗ることで、今後は分析基盤としてのより大きな効果が発揮されることを期待しています。
もちろん、個々のデータ処理を見てもSAP HANAによる高速化の効果は大きく、たとえば分析レポートの表示レスポンスにおいては、SAP BWの2~5倍にスピードアップ。さらにSAP BWAの効果が出ていなかったレポートでは、10倍から最大360倍という表示速度の劇的な改善が実現されました。
劇的な処理パフォーマンスの向上が実現
運用面での改善効果も著しく、これまで夜間の時間いっぱいで稼動していたバッチ処理が3分の1から最大100分の1程度の時間で完了できるようになりました。社内で管理に当たっている経営統括総部 情報システム部の大弥洋輔氏は、「ERPのような変更頻度の少ないシステムは外部に運用を委託していますが、情報分析基盤のようなユーザーのニーズによって変更頻度の高いシステムは、自社要員で運用を行っています。そのため、以前は少しでもバッチ処理が滞ると、すぐにユーザーから問い合わせがきていました。SAP BW Powered by SAP HANAによって基盤全体が高速化されてからは、たとえばロールアップ処理で1つのキューブを生成するのに30分もかかっていたのが1分で終わるようになるなど、自社要員が夜間処理の遅延や変更作業によって費やす時間が大幅に削減されました。また、ユーザーの要求レベルに沿ったスピード感でデータを提供できるようになったことで、バッチ処理の遅延などによる問い合わせはほとんどなくなっています」と語ります。
夜間バッチ処理も最大で100分の1程度の時間に短縮された
運用面での余裕を活かし、より本質的な情報活用の取り組みに挑戦
上野氏は、今回のSAP BW Powered by SAP HANAへの移行によって、今後のデータ活用を質的にも大きく向上させる足がかりができたと考えています。
「旧システムでは『情報の見える化』を達成した一方で、その裏側にあるシステム運用が大きな負担となっていました。それらがSAP BW Powered by SAP HANAによってほぼ解消され、ITによるビジネスニーズの支援を企画・実現、その他経営や事業への貢献といった、情報システム部という組織が本来担うべき価値提供にエネルギーをシフトできるようになりました」
大弥氏も「SAP BWAからSAP HANAに移行して、大幅に運用負荷が減りました。また、ロード処理の待ち時間やエラーが発生するたびに手動でリカバリしていた時間もすべて削減されました。ここで生まれた余裕を、システムの改善や提案に活かしていきたいと考えています」と抱負を語ります。
旭化成メディカルでは今後も、新たな情報分析基盤であるSAP BW Powered by SAP HANAのより効果的で多彩な活用を目指しています。たとえば、現在は部署内で手作業によって作成されている定型レポートを、業務に細かく適用させたデータの表現や仕様を検討してSAP BW上で実現していくといった、きめ細かな活用法なども検討中です。
「とはいえ、データの分析活用も最後は人の力です。システム強化を進める一方で、そのシステムを使う人間の分析力を向上させる取り組みも並行して進めていかなくてはなりません。また将来的には、データの関連性をAI(人工知能)で提示するような仕組みにもトライしてみたいと考えています」と語る上野氏。SAP BW Powered by SAP HANAの導入で、また1つ大きな情報活用の可能性を拓きつつある旭化成メディカルの今後のチャレンジと成果に、ぜひ注目です。