ゲオホールディングスの取り組みから見える、現場の経験を加味したビッグデータ活用の秘訣とは
作成者:SAP編集部 投稿日:2016年1月26日
現在、あらゆる企業が市場変化のスピードに負けない新たなビジネスモデルの構築に力を注ぐ中で、ビッグデータの分析活用は競争力強化を支えるもっとも重要なキーワードの1つと考えられています。2015年11月18日に開催されたSAP Forum Osakaでは、SAPのビッグデータ分析基盤SAP Predictive Analyticsを活用し、着実に成果を築きつつあるお客様ならびに専門家をお招きしたパネルディスカッションで、各社の取り組みや成功の秘訣について語っていただきました。
<パネリスト>
株式会社ゲオホールディングス 代表取締役社長 遠藤結蔵氏
アビームコンサルティング株式会社 デジタルトランスフォーメーションビジネスユニット ビジネスインテリジェンスセクター長 プリンシパル 執行役員 室住淳一氏
<モデレーター>
株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏
ビッグデータ分析を活用した市場の変化に柔軟な販促手法の再構築
今回パネリストとしてご登壇いただいたのは、映画コンテンツなどのレンタル・販売大手であるゲオホールディングスの遠藤結蔵氏、ならびにデータ分析の導入・活用のコンサルティングで多くの実績を持つアビームコンサルティングの室住淳一氏のお2人です。またモデレーターは、日本におけるデータ分析のパイオニアであるブレインパッドの草野隆史氏につとめていただきました。
冒頭で草野氏はSAP Predictive Analyticsについて触れ、「従来の解析ソフトは、データ分析についての一定の学術的な知識や経験がないと使えないものでした。しかし、SAP Predictive Analyticsは分析対象となるデータがどういうものかさえ理解していれば、あとは簡単な操作で分析が行えます。まさに分析業界に革新をもたらしたソフトウェアといえるでしょう」と説明します。
SAP Predictive Analyticsにいち早く着目して自社の業務改善プロジェクトに導入し、ビッグデータ分析による業務改善を急ピッチで進めているのが、ゲオホールディングスです。遠藤氏はビッグデータ分析への取り組みの背景について、市場の変化に合わせたマーケティング手法の再検討が直接のきっかけになったと明かします。
「従来のマーケティングや販促では、テレビCMやチラシ配布などを通じてマスに訴えかける手法が主流でした。しかし娯楽が多様化し、消費者がテレビの視聴に費やす時間も減少しつつあります。さらに40代くらいまでの人が新聞を取っていないといった世の中の変化が進んだことで、マス媒体を介した訴求はますます難しくなっています。この中で私たちの店舗の存在感をどうアピールするかが課題となっていました」
幸い同社には、年間約1,600万人の有効会員の登録情報が蓄積されています。これらの精度の高い個人情報とレンタル実績とを紐づけることで、会員の嗜好を詳細に把握することができます。
「価値あるデータがすでに手元にあることをあらためて認識し、これを深掘りしていくことで、お客様に対する効果的なアプローチを探って行こうと決めました」(遠藤氏)
熟練スタッフも気づかない商品の相関関係が見えてくる
ゲオホールディングスがデータ分析プロジェクトのツールにSAP Predictive Analyticsを選択した経緯について、遠藤氏は「小売業である当社において、統計/解析のノウハウを備えた人材は非常に限られています。そこでSAPに問い合わせたところ、提案されたのがこの製品でした」と振り返ります。
もちろん、同社の販売現場には豊富な経験を持つスタッフが数多く在籍し、長年の経験値に基づく販促プランや店舗づくりを行ってきました。しかし分析ツールを導入した結果、これまでの視点や店舗スケールでは見えなかった新しい事実が見えてきたといいます。
その好例が、商品の相関関係です。SAP Predictive Analyticsでは、ソーシャルネットワーク分析機能によって、商品や顧客の相関関係の可視化が可能です。「Aという映画コンテンツを借りた人が、どれくらいBという作品も借りているのか?」といった相関関係は、高度な分析を行わなくても理由が明確なケースもありますが、一見しただけでは関係が把握できない意外な事実も隠されています。
「そこでさらに精査してみると、同じ俳優や声優が出演していたり、作品のテイストが似ているといった共通項が見えてきました。そこで、このような相関関係をもとに、お勧め商品を割り出していく取り組みを始めました」
この成果を受けて同社では、2016年2月に開始予定のビデオオンデマンドのサービス「ゲオチャンネル」でも、SAP Predictive Analyticsによるビッグデータ分析を活用していく計画だと遠藤氏は語ります。
さまざまな企業で、すでにビッグデータ分析による業務改革が進行中
一方、アビームコンサルティングの室住氏は、これまでデータ分析の導入を積極的に提案してきた経験の中から、実際の企業における導入成功例をいくつか披露しました。その1つが、今もっとも話題を集めているIoTの活用事例です。この事例では、国内の大手電機メーカーがリース顧客を対象に、他社への乗り換えなどいわゆる「離反客」の傾向分析に取り組みました。
「分析の結果、自社製品からの乗り換え率が慢性的に高い地域があることがわかり、この地域のデータをもとに分析を進めました。分析項目としては機器情報や保守実績、利用実績、さらに営業担当者や販売チャネルまでを幅広く収集し、最終的に3つのビジネスルール=乗り換えが起こる条件を導き出すことに成功しています。具体的には、『通常の3倍の確率で乗り換えが生じる兆候を発見したら行動を起こす』『契約内容に特定のオプションがついている場合に離反するので、契約内容自体を見直す』といった行動指標が示され、期待通りの業務改革が実現しました」
データとビジネスの双方の視点から取り組むことが成功のポイント
セッションの後半は、参会者3名によるディスカッションが行われました。まず室住氏からの「日本の経営者は自己の成功体験を過信するあまり、データを見ようとしないケースが珍しくないが、御社ではトップダウンでデータ分析を進められたのか」という質問に対して、遠藤氏はむしろ現場の危機感が原動力になっていると説明しました。
「娯楽コンテンツは顧客層の変化の激しい商材です。このため、従来からの施策の手応えが悪くなってしまった、さあどうしようという危機感が日常的にあり、そのつど顧客データをもとに次のアプローチを探ることの繰り返しです。当社ではこうした現場からの危機感を原動力に、常にお客様の声に耳を傾けながら次の手を考えていく姿勢が欠かせません」
またディスカッションでは、データ活用とビジネスの両輪をバランスよく回していくことの重要性にも言及しました。草野氏は「データを最大限に活用するためには、データには表れてこないビジネスの現場の観点も必要となります。たとえば、ある商品の組み合わせがよく売れる理由が売上データからではわからなくても、現場の販売スタッフに聞いてみると、色やテイストに共通点があるなど、データ化しにくい部分に理由があることも珍しくありません」と語り、分析だけでなくビジネスそのものの知識や経験値の重要性を強調します。
これを受けて室住氏も、「データサイエンティストがビジネスのデータ解析を行おうとするときに、まず統計学の限界を知っておくことが大事です。その上でデータに現場での経験値を加味していけば、より課題の本質に迫る力を持ったビッグデータ分析が可能になるでしょう」と語ります。
さまざまなテーマが議論される中、草野氏はこれまでの日本の業務改善は効率化やコスト抑制という、従来からあったものの“守り”が主な目的だったと指摘します。反面、データ分析はこれまでになかった新しい知見や施策をもたらしてくれる、いわば“攻め”の施策です。「そうした意味でも定形処理できる部分はツールにまかせて省力化しながら、スモールスタートで着実に目標に向けて進んでいくことが成功のポイントだと思います」と草野氏は展望を語り、ディスカッションを締めくくりました。