SAP S/4HANAのビジネスメリットをより深く理解するために


本記事は、2015年11月30日にSAP HANA Blogに掲載されたSAP共同創業者Hasso Plattnerの記事を抄訳したものです。
 【元記事】 How to Understand the Business Benefits of S/4HANA Better 
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ドイツ、米国、英国/アイルランドで行われた年次ユーザーグループミーティングで明らかになったのは、S/4HANAがビジネスにもたらすメリットを見出せていない中堅・中小企業が依然として多数おられることでした。S/4HANAに移行しないという選択も、もちろん悪いことではありません。しかしその理由が、S/4HANAに関する情報不足や誤解によるものであってはなりません。

自社と同規模のお客様の導入事例をもっと知りたいというご意見もありました。理解できるのですが、そこが問題です。すでに大企業ではS/4HANAの大規模導入が進んでいますが、プロジェクト完了までにはもう少し時間がかかるでしょう。これらの企業の間で大半を占めているのは、将来的な保守コストを抑え、ビジネスプロセスの効率化を図るために、SAP Business Suite内で自社独自に行った拡張の再評価を行っていきたいというご要望です。他方ではまったく新規のお客様も増えており、S/4HANAの技術的優位性や所有コストの低減が評価されていますが、そうしたお客様はまだユーザーグループに加入いただいていない場合もあります。

S/4HANAのロードマップに関するご質問もありました。当社の答えはシンプルです。まずは業界ごとの仕様を含めてECC 6.0が備えている機能を満たした後、お客様やユーザーグループとの協力のもとで新たなアプリケーションコンポーネントを追加していく計画です。

好調なセールスや、導入時間の記録的な短縮、お客様の生産性向上といった数々の成果を上げた今もなお、S/4HANAについてこうした意見が聞こえてくるのは残念でなりません。SAPではS/4HANAの解説本を出版してアプリケーションシナリオの新規開発/改善点について多数ご紹介してきたほか、世界中で関連イベントを展開し、Webサイトでも多くの成功事例を取り上げています。最近ではS/4HANAを導入した中国のアパレルメーカーがMRP2を24時間から2時間未満に短縮したという驚きの成果も報告されたばかりです。SAP Business Suiteをお使いの中堅・中小企業のお客様は、こうしたアーリーアダプターの動向にもご注目ください。今や導入事例は各種業界で2,000社に達する勢いです。

SAPを長年お使いいただいているお客様に、ERPシステムに今後何を求めますかと訊けば、さまざまな答えが返ってくるでしょう。たとえば、運用コストの削減、ユーザーインターフェースの改善、保守の簡素化、他のアプリケーションとの統合性の向上、クラウドでの主要サービス提供、MRP2の迅速な実行、顧客とのコミュニケーションや顧客サービスの改善に向けた新たなビジネスプロセス構築などに加え、可能な限りのシンプル化を求める声は特に大きいはずです。S/4HANAはこうした期待のすべてに応え、期待以上のメリットを提供する製品です。また、2015年第3四半期の業績を見れば、S/4HANAの好調は明らかです。しかし、このように数々の前向きなフィードバックをいただいた今もなお、確信を持てないお客様がおられることも事実です。

そこで改めて、他社のデータベースやERPシステム上で稼動する既存のビジネススイートを凌駕するS/4HANAの主な優位性をご紹介したいと思います。

S/4HANA:既存のSAP Business Suiteに代わる選択肢

従来のSAP Business SuiteのECCバージョンは、今後10年間にわたり、さらなる開発と保守が進められます。SAP Business Suiteは多くのエンタープライズシステムの中心となって世界中で活用されており、SAP HANAデータベースの導入により、さらにその性能を発揮することが可能です。S/4HANA向けに新たに開発されているソリューション群の中には、SAP Business Suiteであっても導入可能なものがあります。その好例が、SAP Fioriのセルフサービスシナリオです。近い将来にわたってSAP Business Suiteを使い続けていただいても、まったく問題はありません。

ただしこれは、SAP Business Suiteに代わるシステムは存在しない、という意味ではありません。インメモリーデータベースの SAP HANAによって、まったく新しいアプリケーションアーキテクチャが実現し、データモデルを新たな視点からシンプル化することができます。SAP Business Suiteのビジネス機能の大部分はS/4HANAに移行可能ですし、S/4HANAでは新たなワークフローや、大量のトランザクション処理、トランザクションデータのリアルタイム分析、極めて柔軟なレポーティング変更、ビジネスシナリオのリアルタイムシミュレーションといったこともできます。しかもS/4HANAでは、修正や拡張にまったく新しいUIとフレームワークを用います。S/4HANAは今後も、デジタル世代のニーズに即したスピードで開発が続けられます。

SAPはSAP Business ByDesignにより初めて、ハイブリッドデータ管理、ディスクベースのリレーショナルデータベースを用いたトランザクション処理、カラム型データストアを用いたデータインメモリーの冗長コピーとレポーティングを導入しました。この試みは一定の成果を上げましたが、将来的には、カラム型データストアに単一のコピーを持つことですべてのデータをメモリーに格納し、トランザクション処理を劇的にシンプル化できるシステムが必要であることも明らかになりました。

S/4HANAの完成度

S/4HANAの導入企業がS/4HANA導入の長期的なプランを策定する理由の1つは、製品としての完成度です。SAP Business Suiteが持つ豊富な機能を再構成するのは簡単なことではありませんが、現在では会計、セールス、ロジスティクスの各業務で活用可能となっており、業種別ソリューションも間もなく発表されます。SAPは各業界向けのソリューションに一層の独自性を持たせることで、不整合が起きる可能性を減らしたいと考えています。またECC 6.0からS/4HANAへの移行については、個々のケースで評価を行う必要がありますが、インストールベースでは大部分がすでに評価済みです。当面、両者が混在する状況が続くのは、クライアントによってはECCのほうが完成度の高いソリューションである場合もあるためです。と言ってもS/4HANAが劣っているわけではなく、むしろこれはSAP Business Suiteに対する賛辞と受け止めるべきでしょう。ビジネスウェアハウスをS/4HANAに移行してSAP HANAを活用、あるいは製品調査やIoTシナリオなどを含む新規サービスのためのまったくの新規プロジェクトを開始する企業も多数あります。

S/4HANASAP HANA上のみで実行可能

SAP HANAは、S/4HANAのための唯一のデータベースです。クラウドベースアプリケーションの急速な成長を考えれば、基盤となるテクノロジースタックはシンプルなものでなければなりません。Oracle、Salesforce、Workday、Netsuite、Microsoftといった強力なライバル企業各社も、基盤とするデータベースは1つしか提供していません。インメモリーデータベースは大きな可能性を秘めており、これを最大限に活かすことによってエンタープライズアプリケーションの設計手法を見直すと同時に、複数のデータベースを基盤とした最小公倍数で妥協することを避けなければなりません。こうした観点から、アプリケーションコードの劇的なシンプル化を実現しました。SAP HANAデータベースファミリーは、エンタープライズアプリケーションが抱える現在と未来の課題をまったく新たな方法で解決します。そのようなデータベースを基盤とするS/4HANAシステムは、競合製品に大きく勝っていると言えるでしょう。またSAP HANAは、S/4HANAのほかにもビッグデータアナリティクスや学術的調査、IoTアプリケーションなど数多くのアプリケーションをサポートします。データ連携により、SAP HANAと他のデータベースとのシームレスな統合も可能です。

S/4HANAのハードウェアコスト

ハードウェアコストが法外だという指摘を中小企業のお客様からいただくことがありますが、これにはぜひ反論させていただきたいと思います。S/4HANAは標準的なIntel x86サーバーまたはIBM POWERサーバーで運用されます。データフットプリントは10倍以上の縮小が可能で、その内訳はカラム型データストアで5倍、集計データの削除と一時データテーブルの再構成で2倍以上となっています。またSAPでは、トランザクションデータを実データと履歴データに区分することも推奨しています。履歴カテゴリーにデータをオンライン保存する期間は、業種によっても異なるでしょう。古い履歴データはHadoopに容易に格納可能ですし、それらの格納データにSAP HANAでアクセスすることもできるので、オンラインフットプリントはさらに縮小できます。つまり、10TBのERPシステムを1TB以下まで縮小可能なのです。これにより、実データのバックアップ/リストア時間を10倍以上短縮化して、単一のCPUボードでのすべてのコアからの高速データアクセスを実現できます。大企業であっても、実データ用に拡張を行う必要はないのです。

開発/テストシステム向けには、実データのコピーがあれば十分です。ただし私は、実際のデータセットでのテストを推奨しています。実データと履歴データに区分することで、トランザクションデータの格納作業は非常にすっきりと解決できています。古い区分データは、法的要件に則ってHadoopに格納すれば問題ありません。

データベースのスピードの重要性

S/4HANAがビジネスにもたらす最大のメリットが、シンプルなデータベースレイアウトです。これによりデータエントリーがさらに高速化され、レポート作成が著しく効率化する上に、外部の階層を用いた柔軟なレポート作成も可能となります。外部階層は、データベースに変更を加えることなくいつでも(企業再編、買収などのタイミングで)変更可能です。新しいUIは分かりやすくなっただけでなく、SAP HANAのスピードを生かしたまったく新しいプロセスも可能となっています。テーブルのどのフィールドでもインデックスとして使えるため、一層シンプルな運用ができ、データベース管理者も必要ありません。また本システムは、新たなデジタルワールドの柱として、これからさらに機能を高める計画となっています。

経営会議でビジネスの現状を見渡す生データを使ったり、予測分析やシミュレーションによってリアルタイムで未来をシミュレーションできるのも、データベースの圧倒的なスピードのおかげだと言えるでしょう。デジタルボードルーム機能は、最新データを使った100%インタラクティブなものになります。現在では、組立工程後の「原材料のバックフラッシュ」や大量のデータ入力といったあらゆるボトルネックが解消され、バッチプログラムはトランザクション処理され、レポートは秒単位で作成可能になり、期末の締処理も100%効率化されています。

クラウドか、オンプレミスか?

クラウドシステムには多くのメリットがあります。しかし地理的な条件からオンプレミスでの運用が必要なら、コスト要因は変わってくるものの、もちろん可能です。ただしクラウド運用のほうが、新機能導入に大きなメリットが得られます。たとえば新たなオンラインセールスを立ち上げる場合の収益創出と認知度向上に向けたシナリオについて考えてみましょう。企業の多くはこれらの機能をただちに導入したいと考えるはずであり、迅速な導入を可能にするのはS/4HANAだけです。SAPが提供するクラウド内のECC 6.0システムへのテスト移行を行った後、お客様は本番システムでの運用を決定することができます。

S/4HANAの革新性

S/4HANAであれば、すべてのマスターデータ/トランザクションデータを移行し、すべての従来のビジネスプロセスを活用しながら、分かりやすい新しいUIを活用し、何よりもアプリケーション設定が継続利用できます。ユーザー向けの操作設計に際しては、長年のSAPのお客様に多数ご協力いただいています。デザインシンキングの原則を適用することで、エンドユーザー、コンサルタント、特定分野のエキスパート、開発者が相互に協力して、最も包括的なソリューションを追求しました。S/4HANAシステムでは定義済み集計データ(総計、インフォキューブなど)がすべて排除され、ビジネスデータの極めて高度なレポーティング/分析が可能となっています。

S/4HANA導入プロジェクトの第1歩として行うべきことは、クライアント独自のモディフィケーションや拡張を含まずに、本番データセットを用いたシステム評価でしょう。新たな機能を多数追加することにより、モディフィケーションが不要になる場合もあります。これまでのERPリリース変更に要していた作業量やトレーニングは、S/4HANA導入プロジェクトには当てはまりません。S/4HANAへのデータ移行完了後は、すべてが高速化されるはずです。またオンプレミスやホスティング型導入なら、以前のUIを使ってよりスムーズに移行フェーズを遂行することも可能です。

S/4HANAは大企業専用か?

興味深いことに、S/4HANAの普及速度には地域差が見られます。同様の状況は、1992年3月のSAP R/3リリース時にもありました。その頃のR/3システムは中小企業向けでしたが、真っ先に飛び付いたのは、大企業と超大企業だったのです。しかし今回は、中堅・中小企業のほうがより大きなメリットを得られると私は確信しています。システムへのモディフィケーションの多くが不要となるため、結果的に総所有コスト(TCO)を削減でき、大幅にユーザーの生産性が向上し、これまでにないビジネスインサイトを獲得することが可能になります。

複雑性の低減

お客様からは長年、SAP Business Suiteの複雑さに対する不満とシンプル化への要望をいただいていましたが、現在はシステムの大部分を見直すには、コストも時間もかかるだろうという懸念が広がっています。しかし、S/4HANAではUIのシンプル化が現実のものとなり、本番利用の初日から時間の節約が可能となるはずです。また、トランザクションの機能性はそのままに、効率性は非常に高くなっています。

劇的にシンプル化されたデータモデル、データ選択時にどのフィールドもインデックスとして使える利便性、そしてかつてないほど短縮された応答時間により、アプリケーションの開発サイクルは格段に高速化します。SAP HANA Cloud Platform(HCP)ではS/4HANAシステムの拡張も、まったく新しいアプリケーションの開発もスムーズです。S/4HANAは実証済みのコアビジネス機能を統合し、ほぼ全世界ともいえる多くの言語に対応している上、これまでにないアプリケーションの開発に臨むことも可能です。このような機能性こそ、ビジネスプロセスがかつてないスピードで進化する中で不可欠です。コアエンタープライズシステムをポイントソリューションで単に補完するのではなく、さまざまな変化に対応できるものでなくてはなりません。こうした複雑性の低減はまた、中小企業におけるS/4HANAへの移行の敷居を低くする役割を果たすでしょう。

セールス、カスタマーサポート、製品開発の新たなコンセプト

セールス、ロジスティクス、会計領域の主要アプリケーションのシンプル化を終えた今、新たな機能開発が始まっており、これから矢継ぎ早にリリースを予定しています。幸いSAPとそのコミュニティでは、一切の不安定性を生じさせることなく、短いリリースサイクルを効率的に実践することが可能です。S/4HANAでは、データモデルの複雑性の低減と、トランザクションデータの排除により、堅牢性を著しく高めることに成功しています。基盤となるプラットフォームがSAP HANAに集約されていることで、より優れたアプリケーション開発も実現できます。他のプラットフォームとの適合性を考慮することなく、SAP HANAの技術的優位性を活かせるからです。このような単一のプラットフォーム提供は、非常に優れた戦略であり、前述したように他のクラウドサービスプロバイダーにおいても採用されています。

新しいシステムをクラウドとオンプレミスで運用する際、1つのソフトウェアバージョンでこれを実現できるのはS/4HANAだけだとSAPは考えています。これによりTCOを削減し、将来的に必要になる多くのステップを短時間で実施できます。データ入力、標準レポート作成、アナリティクス、予測、デジタルボードルーム、マルチチャネル型顧客対応といったあらゆるアプリケーション領域それぞれが、世界規模のコンポーネントとなるはずです。この点だけでも、S/4HANAへの早期移行を検討する材料となるのではないでしょうか。

SAP HANAでは、SAP HANA VoraやHadoopといった他のデータベースへのアクセスが可能であり、そのためERPシステムへのデータコピーを行うことなくIoTシステムとの統合や、天候/地理/統計情報などのデータとの統合を実施できます。SAPは先日バルセロナで、新たなロジスティクスコンポーネントやビジネスプランニング、セールス管理機能の再統合をはじめとし、S/4HANAの最新機能を発表したばかりです。

S/4HANAへの移行プロセス

最初の一歩はやはり、SAP HANA上でのECC 6.0の導入でしょう。SAPは、既存のクラウドERP 6.0システムのS/4HANAシステムへの移行を支援するサービスもご用意しています。移行プロセスでは、データをすべて移行し、データベースの不要な指標や集計テーブルを削除して、オブジェクトクラスターを標準のテーブルに統合し、EDIプロトコルのような一時データを除く全テーブルをカラム型データストアに変換します。これらの工程には、顧客データの拡張ももちろん含まれます。新しいS/4HANAアプリケーションは、お客様側で行った拡張やモディフィケーション領域以外では瞬時に運用できなければなりません。また、新しい拡張フレームワークを用いた再評価と、場合によっては再導入も必要になるでしょう。他のカスタマーアプリケーションとのインターフェースのチェックを行い、多くの場合は最適化も実施しなければなりません。SAPでは、Hadoopを使用したアーカイブ化など、データ階層を持つデータフットプリントの最小化もサポートします。また、S/4HANAの標準システムにモディフィケーションを加える場合は、徹底的なテストを事前に行います。S/4HANAにはFioriベースの新しいUIが用意されていますが、ユーザーがシステムの移行をスムーズにできるよう既存のUIを使うことも可能です。

まとめ

S/4HANAは、SAPが提供するERPシステムの最高峰です。hybrisやSaaSアプリケーションのSuccessFactors、Ariba、Fieldglass、Concur、HANA Voraを用いたIoTシステムなどと組み合わせることで、スピーディな導入と運用が可能な、独自の製品スイートを提供します。SAP HANA Cloud Platformなら、他のソフトウェア製品やカスタムアプリケーションと統合するための拡張も容易です。つまりS/4HANAは、相対的に低コストで明確な競争優位性を提供できるシステムと言えるでしょう。2015年第3四半期現在、S/4HANA導入プロジェクトが劇的に増えている中で、製品に関する情報不足や保守的な傾向によってS/4HANAの導入をためらうお客様がまだおられることは残念でなりません。S/4HANAへの移行は今日のような大きな変化の時代において、多くのメリットをお客様にもたらすはずです。