元JSUG会長がSAP Forum 2015で実感した第四次産業革命に向けた日本企業の取るべき道とSAPへの期待とは?
作成者:SAP編集部 投稿日:2016年1月29日
SAPジャパン最大のイベントであるSAP Forum Tokyo 2015が11月12日、東京のザ・プリンス パークタワー東京で開催されました。「Discover Simple 今日の願いを明日の躍進へ」をテーマに掲げたイベントでは、SAPジャパンから今後の戦略や新製品などが発表されるとともに、セッションや展示を通じてパートナー企業のさまざまなコンテンツも紹介されました。「第四次産業革命」への対応が迫られる中、フォーラムに足を運んだ2,000人を超える参加者たちはここから何を得ることができたのか? その成果を振り返るため、ジャパンSAPユーザーグループ(JSUG)の元会長で、現在はJFEシステムズ株式会社の取締役を務める都築正行氏に、イベント全体の感想とインダストリー4.0やIoTに向けた日本企業の本気度について伺いました。
変革を推進するためには経営トップの意思決定が不可欠
まずはじめに、都築氏は、イベント全体を振り返り、次のように感想を話します。
「40以上のセッションと、30を超える展示があり、会場は2,000人を超す参加者であふれていました。それだけの盛況であったにもかかわらず、イベントの運営は非常にスムーズでした。広い会場が確保され、導線がわかりやすかったことと、セッション間のインターバルに30分の余裕を持たせたプログラム構成も効果的だったと思います」
今回のSAP Forumでは、第四次産業革命(インダストリー4.0)、IoTといったデジタル変革に関連するセッションを中心に聴講したという都築氏。なかでも、日本元気塾 塾長/一橋大学イノベーション研究センター 教授の米倉誠一郎氏と株式会社小松製作所(コマツ) 代表取締役会長の野路國夫氏などによるパネルディスカッションは出色の内容だったといいます。
「野路会長のお話の中で私が最も印象に残ったのが、『経営トップ自らが自社の未来のシナリオを社員に見せることが重要』という言葉です。日本のIoTを最先端でリードするコマツのKOMTRAXは、トップ自らが10年先、20年先の将来を見据えて決定したもので、トップが現場を知り尽くしているからこそ実現できたものだという思いを強くしました」
コマツのような先進的な企業がある一方、日本企業にはデジタルに対する危機感の薄い経営者が依然として多いのも事実です、彼らがデジタル変革を阻害する要因になっているという声も聞こえてきます。米国では企業内のリソースで70%のIT技術者が担保されている一方、日本は大部分を外部のベンダーに依存し、企業の中には25%しかいないという調査報告もあり、日本ではトップを支える体制面でも十分とはいえないかもしれません。しかし、こうした状況下においても、日本企業からはデジタル変革を積極的に採り入れていこうとする、意欲的な姿勢が見られるようになってきていると都築氏は語ります。
「2015年は雑誌、新聞、テレビなどで第四次産業革命(インダストリー4.0)、IoTが盛んに紹介されたこともあって、感度の高い企業のトップは何らかの施策を打とうと、それぞれ準備を進めているはずです。通信機能を備えたIoTデバイスや、SAP HANAのようなビッグデータ分析基盤が重要な役割を果たすことも認識しているでしょう。特に製造系企業のトップの多くは、今までやりたくてもできなかったよりレベルの高い予防保全や品質管理などができることに期待を膨らませています。ただし、これからインダストリー4.0を始める企業が、10年、20年かけて進めてきたコマツの域にまで一気に到達するのは、やはり無理があるでしょう。コマツでは取引先を巻き込んでビジネスのプロセス自体の変革も進めています。日本企業もまずはビジネスモデルを足元から見直すことが重要です」
SAPの強みを生かした外部からの変革に期待
しかし、こうしたビジネスモデルの変革を、ボトムアップで企業の内側からだけで起こしていくことは容易なことではありません。だからこそ、SAPのようなベンダーが、外部から情報を発信しながら変革を促していくことも重要ではないかと、都築氏は期待します。
「SAPはデジタル変革やIoT関連の豊富なソリューションを持っているだけではなく、数多くの事例を通じて顧客のビジネスや業務に精通しています。SAPジャパンの営業担当はトップと接する機会が多いでしょうから、海外や国内の事例を紹介していくことで、トップの投資意識も高まると思います。SAPジャパンには是非ともその役割を果たしていただきたい。ただし、IoTはソフトウェアだけでは解決しない領域なので、SAPジャパンから積極的に機器メーカーなどのビジネスパートナーに声をかけて協力体制を築き、ユーザー企業にふさわしい提案をお願いしたいと思います」
現在の段階では、製造業のニーズは設備保全などが中心だと思われますが、基幹システムで実績を積んだSAPの強みを活かして、例えば設備保全から自動発注までをシームレスに実現するような、新しい仕組みを提案して欲しいと都築氏は力を込めます。
「SAPの最大の強みといえば、やはりバックオフィスを作る部分でしょう。ですからIoT関連のソリューションだけでなく、それを基幹システムとつなぎ合わせて、新たなビジネスモデルが生まれるような仕掛けの提案に期待しています」
営業やコンサルタントばかりでなく、組織としてのSAPジャパンの役割も重要だと考える都築氏が注目しているのが、SAPジャパン社に10月に発足した第四次産業革命を推進する専任組織「IoT/IR4」(Internet of Things/Fourth Industrial Revolution)です。
「日本企業の競争力強化に向けて、顧客やパートナーとともに取り組む専任組織とのことですので、営業やコンサルタントとの連携を密にして、提案型で進めて欲しいですね」
また、展示会場でSAPジャパンの特設ブースで紹介していた「デザインシンキング」にも期待を寄せています。デザインシンキングとは、人間中心の発想により、人々の潜在ニーズにこたえるための新しいアイデアを創出するための方法論です。
「デジタル変革を実現するための多くのアイデアが、企業の内外に埋もれています。こうした潜在的なアイデアを見つけ出し、ビジネスとして育てていくことは容易ではありません。それを実現する方法として、デザインシンキングの発想は面白い。日本企業もSAPからデザインシンキングの手法を学んでいただき、積極的に採り入れて欲しいと思います」
「こだわり」と「割り切り」のためにオープンイノベーションの推進を
米倉氏と野路会長によるパネルディスカッションにおいて、都築氏がもう1つ印象に残ったというのが、オープンイノベーションです。
「システム構築では『こだわり』と『割り切り』が重要で、その切り分けをトップ自らが決断することです。こだわりとは他社との差別化要因であり、競争力の源泉になる部分。今回のパネルディスカッションでも野路会長は、自社の優位性を高める部分は金をかけてでも自分たちで作るべき。一方、バックオフィスのシステムなどの割り切りができる部分は、外部の力を取り入れるオープンイノベーションが大切で、システムについてはパッケージやSAP ERPを上手く活用することが重要とおっしゃっていました。おっしゃるとおりで、日本企業にはこの方針で対応いただきたいと思います」
「デジタル化」の実現にはトップも含めた新しいテクノロジーへの理解が必要
都築氏がパネルディスカッション以外で興味深かったと語るのは、SAPボードメンバーのミヒャエル・クライネマイヤーによる基調講演です。講演では、SAP S/4HANAの最新版であるSAP S/4HANA Enterprise Managementが日本で初めて発表されました。
「会計機能のSimple Financeに加えて、営業、サービス、調達、製造、マーケティング、人事などのビジネスプロセスをカバーするSAP S/4HANA Enterprise Managementは、今回のSAP Forumが開催される十数時間前にグローバルで発表され、それが初めて日本でアナウンスされたことから、会場は一気にどよめきました。それだけユーザーの関心が高く、期待の表れであることは間違いないでしょう。これからはSAPを導入するならSAP S/4HANA Enterprise Managementという流れになることは間違いなく、既存ユーザーも早い段階で移行して、メリットを享受したほうが良いでしょう。」
また、ミヒャエルが講演したSAPのクラウド製品を含めたデジタルフレームワーク構想については、次のように述べています。
「デジタル化は今後の戦略を考える上で当たり前という認識があるので、改めて驚くことはありませんが、デジタル化に向けて次々と新しいテクノロジーが出てきています。こうした新しいテクノロジーをどう活用していくべきか、経営トップも含めて理解し、戦略に組み入れていくことが不可欠です。ぜひ、SAPジャパンの福田社長や内田会長には、各社のトップに対して、引き続きこういう視点も含めた革新的な提案をしていただけたらと思います」
■略歴
都築正行(つづき・まさゆき)
JFEシステムズ株式会社 取締役。慶應義塾大学フォトニクス・リサーチ・インスティテュート研究支援アドバイザー。
名古屋大学を卒業後、1971年に三菱商事に入社。基幹システム開発室長、経営企画部 情報化担当部長、CIO補佐などを歴任。2004年からの4年間はJSUG会長を務め、SAPに対するJSUGのインフルエンス強化に貢献した。三菱商事を退職後は、JFEシステムズの社外取締役のほか、慶應義塾大学 フォトニクス・リサーチ・インスティテュートの研究支援統括者を務めるなど、産学の視点から日本経済の発展に寄与する活動を精力的に続けている。