コマツに続く企業は現れるのか? IoTで日本企業は今後の成長戦略をどう描くべきか。


インダストリー4.0を国家戦略として掲げるドイツを中心に、世界ではIoTを軸としたデジタルトランスフォーメーションが着実に進んでおり、先進的な企業はすでに具体的な成果を生み出しつつあります。2015年11月12日にザ・プリンス パークタワー東京で開催されたSAP Forum Tokyoの基調講演では、 「最大、最後の好機到来。第四次産業革命で日本は成長戦略をどう描くべきか」と題したパネルディスカッションを実施しました。

モデレーター:
日本元気塾 塾長/一橋大学イノベーション研究センター 教授 米倉誠一郎氏

パネリスト:
株式会社小松製作所(コマツ) 代表取締役会長 野路國夫氏
SAPジャパン 代表取締役会長 内田士郎

SAP Forum Tokyo 2015_K1-2

モノ作りの力が必要とされるIoTは、日本に与えられた最後のチャンス

ディスカッションに入る前に、米倉氏は日本企業の置かれている現状を分析し、「本当に見たい未来」について問題提起が行われました。これまで公共事業によって需要を喚起し続けてきた日本は現在、債務残高が1,000兆円を突破し、戦後最大の借金を抱えています。また、自殺率の国際比較において世界の上位となるなどの事実を受けて、米倉氏は「これが本当に見たかった私たちの未来なのか?」と問いかけます。

しかし、日本は相変わらず巨大で高価なモノに投資を続けており、本当の未来を見通せてはいません。米倉氏は「水素自動車やリニアモーターカーが本当に必要なのか?」と再び問いかけました。コネクテッドカーができて自動運転が実現すれば、大型車などは不要になるでしょう。人口減が進む中で、電車の役割も移動手段だけではなくなりつつあります。LCCで交通費を節約して、高級ホテルに宿泊したり、贅沢なマッサージを受けたりする人が増えているように、価値観の変化も現れています。世界を見れば、自動車配車サービスのUberの登場により、既存のタクシー会社は危機感を募らせています。このように、ハードウェアではなくソフトウェアが世界を変える時代が到来する中で、残念ながら日本はその競争から取り残されているように見えます。「だからこそ、モノ作りの力が必要とされるIoTは、日本に与えられた最後のチャンス」と米倉氏は力を込めました。

製造業が強いドイツでは、国策によってインダストリー4.0が始まり、アメリカでもGEがインダストリアルインターネットという概念を掲げて変革を試みています。日本でもIoTやインダストリー4.0を耳にする機会は増えていますが、まだまだ自社のビジネス課題として捉えている企業は多くありません。米倉氏は「日本はすでに第四次産業革命の真っただ中にいるといってもよい状況です。その中で10年前からIoTに着手して、成功している企業がコマツです」と、同社の野路氏を紹介しました。

経営トップ自らの意思決定で実現したコマツのIoTビジネス

遠隔で建設機械の稼働状況を管理する「KOMTRAX(コムトラックス)」で知られるコマツは、2008年に「無人ダンプトラック運行システム(AHS)」を世界で初めて実用化しました。AHSは、超大型無人ダンプトラックとそれ以外の有人車両、鉱山全体をオペレーションする運行管理システムで構成され、鉱山の状況に応じて、少ない人数で現場をコントロールすることができます。野路氏は「今から20年前からAHSの構想はありました。鉱山は非常に過酷な現場で、お客様からできるだけ現場の作業員に負担をかけない方法で作業を行いたいという要望が多く聞かれました。そこで、私たちはダンプトラックを単純に売るだけでいいのか、もっとお客様を理解した上で、これらの課題を解決するべきではないかと自分たちに問いかけ、トップがAHSの実現に向けた意思決定を下しました。このように、大切なことは経営トップが10年、20年先の将来の方向を見据えて、ビジネスのシナリオを書けるかどうかです。AHSはコマツが長年抱いてきた構想がITの進化と融合して生まれたものなのです」と語ります。

また同社は2015年2月に、ブルドーザーや油圧ショベルの動きを自動化したICTブルドーザーやICT油圧ショベルを活用して、安全で生産性の高い未来の現場を実現する事業「スマートコンストラクション」をスタートしています。具体的には、人手だと2人で1週間かけてせいぜい10mおきに千ポイントしか測量できないところを、ドローンを使って15分で2~3㎝おきに1千万ポイント以上の高精度の測量を行い、3次元データを作成します。測量から施工計画のシミュレーション、施工、検査までを行い、従来コマツが関わるのは施工の部分だけでしたが、一連の工程を通じて効率化することを可能にするものです。

野路氏は「スマートコンストラクションも、施工の工期を短縮したい、コストを削減したいといった顧客の問題解決を見据えて始めたプロジェクトです。特にインダストリー4.0やIoTを意識していたわけではありませんが、顧客の作業工程を上流から下流まですべて調べて、どのようにすれば効率化に貢献できるかを考えた中からスマートコンストラクションの構想が生まれました」と強調します。

コマツの2つの事例紹介を受けて、米倉氏は「日本にはコマツのようなIoTの先進的な取り組みがあるように、優れた技術が眠っています。それをうまく活用できていない理由はどこにあるのか?」と問いかけました。これに対して野路氏は、「何より経営トップによる意思決定の早さが重要です。海外では、これだと思えばすぐに資金や技術者を投入します。それに比べて日本の経営トップは意思決定が遅く、なかなか動き出しません」と、経営トップのリーダーシップについて言及しました。

自社のプラットフォームを構築し、そこからビジネスを拡大することが重要

また、日本は何でも自前主義で、自社で抱え込むことも問題だといいます。自社の技術をどこまでオープンにし、どこをクローズにして、どのようなプラットフォームを作るか。他社に技術を取られるのを恐れてクローズにする傾向が強い日本企業に比べて、欧米企業はもっとオープンです。

この点について、米倉氏は日本企業がIoTで勝つためのアイデアをSAPジャパンの内田に求めました。これに対して内田は、「世界を見ると、IoTでデジタルトランスフォーメーションを実現している事例はいくつも見られます。ドイツのケーザーというコンプレッサーメーカーは、予防保全のビジネスを経て、圧縮した空気を売るビジネスに転換し、成功を収めています。オートバイ専業メーカーのハーレーダビッドソンは、マスカスタマイゼーションで納品までの期間を従来の21日から6時間に短縮しました。ドイツ最大の貿易港であるハンブルグ港湾局では、敷地の拡張がこれ以上できないという制約の中で、港湾全体の交通量をソフトウェアでインテグレーションして貨物取扱量のキャパシティを3倍まで拡張しています。アメリカの農機具メーカーのジョンディアは、農機具に付けたセンサーから土壌の情報を取得して、それをもとにメンテナンス時期や交換対象部品の事前把握、部品在庫の最適化を実現するとともに、農業全体をアドバイスするコンサルティングを行っています。アメリカの肥料メーカーのモンサントも、気象データ分析会社を買収して、最低収穫量を保証する保険の販売を始めました。このようにIoTによって異業種競争が始まっている事実を、日本企業も受け止めるべきではないでしょうか」と世界の先進事例を紹介しながら、日本企業の課題についての認識を示しました。

IoTを駆使した事業で先行するコマツでも、すでに既存のビジネスモデルの変革を見据えており、ジョンディアと同様に顧客と密な接点を持ちながら、サービス型のビジネスを始めています。「ただし、こうしたビジネス変革にはリスクも伴うため、経営トップの判断が重要で、さらに自社のプラットフォームを構築してユーザーをリードする技術があるかどうかが勝負になります」と野路氏は分析しています

破壊的イノベーションは、ある日突然やってくる

コマツがスマートコンストラクション事業でドローンを使った測量や設計の効率化を図っているように、顧客のビジネスを理解すればするほど、そこで抱えている課題も明らかになっていきます。しかし、このことは既存のサービスを提供している事業者、例えば測量会社や設計会社の既得権益を壊すことも意味します。米倉氏は「既得権益に遠慮していたら、日本は永久に変わることはできない」と語ります。それを受けて野路氏は「破壊的イノベーションは、実は大企業には難しい部分もあります。日本発の破壊的イノベーションが起こせる可能性が高いのは、しがらみのない若い世代のベンチャー企業かもしれません」と答えました。あるいは、日本企業としがらみのない外資系企業のプラットフォームを利用して、なかば強制的にイノベーションを起こすといった手法も考えられます。

続けて野路氏は「IoTによるビジネス変革は急速に進んでいますが、テクノロジーの機能自体は特別新しいものではありません。各技術要素を集めてどのようなサービスを生み出すか、経営トップが10年先を見据えて意思決定することが勝負になります」と強調します。それに対して米倉氏は「経営トップが変えることができないなら、自分で会社を作るしかない。新しいプレーヤーとして参加する企業が出てこなければ、日本の構造改革は間に合いません。そこでは、ベンチャーキャピタルの支援も必要になる。私たちもそうした若い方たちを応援します」と呼びかけました。

一方、コマツも異業種の農業にこれまでと全く違った切り口でアプローチしています。野路氏は「これまで建機・鉱山ビジネスで培ったICTの技術を使って、農業における生産コストを半分にするという目標を掲げています。現在は最初から最後まで工程をすべて追いかけ、その中に改善のアイデアがないかを調査している段階です。やはり、一部分だけを見るのではなく、お客様の現場すべてを見てからでないと本当のアイデアは生まれません」と語ります。

こうした新規ビジネスに参入する場合、既存の企業が最大の抵抗勢力になるのが常です。参入側もそこに遠慮してしまいがちですが、いつまでも停滞している状況が続くと、いずれはまったく異なる業界や海外から参入者がやってきて破壊的なイノベーションを起こしてしまうかもしれません。そうなったら既存の業界はたちまち破滅に追い込まれてしまうでしょう。野路氏は「直接の競争相手にだけ勝てばいいというものではありません。とにかくお客様の生産性を上げることが大切で、そこからビジネスを広げていくことを最優先すべきです」と呼びかけました。最後に米倉氏は「今こそ、日本が変わるラストチャンスです。私たちも第四次産業革命を契機に、変革を試みようとする企業を応援していきます」と語り、ディスカッションを締めくくりました。