変革者が語る、2020年に向けた日本のビジネスとITの未来とは


社会のデジタル化が一層進み、ビジネスの世界にもデジタル変革の波が押し寄せてきています。ある調査ではこうしたデジタル化によって、Fortune500の企業のうち、40%は生き残れないとも言われています。こうした中、日本企業が勝ち残っていくためにはどのようなマインドで変革を進めていくべきでしょうか。2015年11月に開催されたSAP Forum Tokyoでは特別講演として、経営者や有力企業のCIO、コンサルタントなどさまざまな立場のエグゼクティブをお迎えし、「日本のビジネスとITの未来」について語っていただきました。

パネリスト:
株式会社ヨドバシカメラ 取締役副社長 藤沢 和則 氏
株式会社LIXIL 執行役員 CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬 浩之 氏
武蔵野大学大学院 特別講師 近安 理夫 氏
アビームコンサルティング株式会社 代表取締役社長 岩澤 俊典 氏

モデレータ:
SAPジャパン株式会社 代表取締役社長 福田 譲SAP Forum Tokyo 2015_S-1_1

グローバルビジネスの共通言語としてのデータ活用の意義

モデレータを務めたSAPの福田は冒頭で、「2020年に向けた日本のビジネスと ITの未来という大きなテーマに、皆様の本音で語っていただきたい」と切り出しました。最初のテーマは、「日本企業が今まさに直面しているグローバル化において、データを活用する意義は何か」です。これに対してLIXILの小和瀬氏は、グローバル経営とはすなわちデジタル経営にほかならないと語ります。

「日本ではいわゆる阿吽の呼吸=同じカルチャー、同じ市場で話が通じますが、お互いに人種や文化が異なれば、ものの考え方も大きく違ってくる。そうなるとお互いにとっての基準になるものはデータしかなくなります。グローバルビジネスの場では、やはりデータをベースにしたコミュニケーションは非常に大切になってきます」(小和瀬氏)

またビジネスのグローバル化において、データ活用を進めるにはデータおよびその運用体制の標準化が欠かせません。LIXILでは2011年の4社による経営統合の結果、各社のシステムの混在が続いており、これらのシステム統合を急ピッチで進めています。小和瀬氏は、統合にあたってはSAPを軸にした標準化と展開を基本コンセプトにしていると明かします。

「すでにSAPを導入している海外拠点のベストプラクティスを使って日本に SAPを導入し、そこで得られた新たな成果を再び海外に展開していくというプランを考えています。最終的には、世界が同一の基準でデータを扱える体制を目指していくべきと考えています」

また、グローバル規模のデジタル経営が拡がる中で、小和瀬氏はIT部門の重要性を再認識したといいます。ビジネスの現場に導入されているコンピュータは、すでに人間の思考プロセスそのものに迫ってきており、この結果、従来は熟練者の経験や勘でしかなしえなかったことが、データをもとに誰でも実践できるようになってきています。デジタル経営において、テクノロジーとビジネスは不可分です。それだけに双方に精通したIT部門こそが、より具体的なイノベーションを起こせる場所にいると指摘します。

「テクノロジーをビジネスにうまく取り込めなかった会社は、今後は市場から撤退するしかなくなるでしょう。ではそれを誰が実践するのかというと、その役割を担えるのはやはりIT部門しかないと私は考えています」

「統合と多様性の両立」をキーワードにグローバル化を推進

HOYA株式会社でグループCIOを務めた経験を持つ武蔵野大学大学院の近安氏は、同社の海外事業の売上比率拡大に対して、それまで事業部ごとに独立していた情報システムをグローバル規模で統一したと語ります。

「HOYAは事業ごとに独立採算制を敷いていますが、ITも同様で事業部の数だけCIOと情報システム部門が存在していました。世界中の拠点がネットワークもプロバイダーもバラバラで、これはさすがに効率が良くないと考えて改革したのです」(近安氏)

さらに、CIOに就任した当時、近安氏がもっとも注力した取り組みの1つがグローバル人材の確保でした。HOYAの強みである堅実にものづくりに取り組む姿勢だけでは、グローバル化に対応できません。これまでとはまったく違う発想や過去の創造的否定といった、新たな視点とスキルが要求されます。

「ここでは積極的に外国人を採用していきました。たとえばシンガポールのCIOにはスリランカ人を採用しました。彼はさまざまな場所やビジネス領域での経験を持ち、日本人の部下との円滑なコミュニケーションもできました」

こうしたグローバル化を業務の現場に浸透させるため、ネット会議などのツールを積極的に取り入れ、外国人スタッフも交えたチーム内のコミュニケーションを日常的に行うといった試みも行いました。日本企業が世界に打って出る上では、こうした国籍や文化、個人の経験の多様性を意識して取り入れていくことが重要な鍵となると近安氏は語ります。

デジタルによるデータ活用がビジネスの「常識」を変える

続いて福田は、SAPが支援しているサッカーチームの試合分析の動画から、「普段は自己主張の強い選手でも、試合の状況をシンプルにわかりやすく、データとして見せて説明すれば納得してくれます。こうした事実が、データでコミュニケーションすることの重要さを私たちに示唆してくれます」と語りました。

これに対して藤沢氏は、「小売業の接客でも、販売スタッフ各人のスキルや考え方を組織で共有するには、やはりデータが必要です。たとえば他のスタッフの実践しているサービスを聞いて自分でもやってみたら、非常に有効だったというようなことがあると、やはり私たちの店舗にもそうしたデータによる共有といったプロセスが必要ではないかと思います」と同意します。

さらに藤沢氏は、ネットによるタクシー配車サービスについて、「これまでタクシードライバーはお客様を獲得するために大通りを走るのが一般的でした、タクシー利用者も裏通りではタクシーは拾えないと考えるのが常識でした。それがデータを活用することで、いつでもどこでも乗車できるようになってきています、これもシンプルなデータ活用から生まれるイノベーションであり、従来のサービスの常識を変えた好例」と述べました。

変革の道筋はあくまで顧客の声から生まれる

さらに福田は、Googleが住宅内部の温度をリアルタイムで検知、操作する仕組みの開発に取り組んでいることに触れ、今後はたとえばGoogleがLIXILのような住宅機器メーカーの競合となる可能性に言及しました。小和瀬氏も「LIXILも住宅のスマート化という視点でさまざまな可能性を模索しています。そうした意味では、これまで住宅機器とはまったく別領域と考えられていたIT企業が、私たちの競争相手になることはあり得るのかもしれません」と語ります。

近い将来訪れる競合関係の変化という点では、今後AmazonのようなECに対して実店舗を主体とする小売業が、どのように対抗するのかといった関心を持つ企業は少なくありません。これに対して藤沢氏は、変革の道はあくまで顧客の声の中にあると話します。創業当時のヨドバシカメラは問屋でしたが、個人のカメラ愛好家の求めに応じて小売も手がけていたことが評判を呼び、ついには小売専業に転じた歴史があります。

「お客様と対面で接していると、お客様が何を欲しているのかがストレートに伝わってきます。それは現代のデジタルの時代になっても変わりません。お客様の声をどうとらえるかが、今後の自分たちのビジネスのあり方を考える重要な指針になります」

ひるがえって見れば、私たちの考えていることと実際にお客様が考えていることの間には必ず何らかの乖離があるはずで、そこをテクノロジーの活用によって埋めていく取り組みこそが、10年、20年先の顧客とのより良い関係構築につながると藤沢氏は強調します。

変革の推進には危機感の醸成が必要

福田は、市場も競合相手も大きく変化していく中、日本企業が活路を拓くために、変革への道筋について、出席者にアドバイスを求めました。これに対して岩澤氏は、「変革のベースとなる方法論」と「企業のカルチャー」とのすり合わせを入念に行うことが重要だと話しました。つまり変革の基本となる考え方を、自社の個性や考え方と比較検討して、どれくらいの時間がかかるのか、どういうステップで進めていくのかを加味した上で、企業自身が変革しやすい形にプランを作り上げていくことが実践的な変革のポイントになります。また、変革の過程では、チームの危機感が十分に醸成されたタイミングで具体的なIT活用のソリューションを投下することが大切ですと指摘します。

「単純にITを投入すればいいのではなく、その前にまず何が課題かということをきちんと組織全体が理解しておかなくてはなりません」(岩澤氏)

さらに岩澤氏は「データのリアルタイム性」の重要さにも触れます。サッカーを例にとると、従来は試合のデータを収集・分析して監督が指示を行うまでに2~3時間かかっていました。しかし、それではデータの持つ生々しさが損なわれ、選手のレスポンスも弱まってしまいます。まさに現代のビジネスにおけるデータ活用も同じで、「リアルタイムで判断や指示が飛んでくる。それらに迅速かつ敏感に応える組織や人材づくりがキーワードになってくるのです」と岩澤氏は語ります。

大きな夢や信念、志をもって未来に立ち向かう

ディスカッションではグローバル化やシンプルなデータ活用、リアルタイム性など、さまざまなキーワードが挙げられましたが、2020年へのブレイクスルーを担う上でやはり重要な要素は、従来の常識にとらわれない“イノベーション”を実現できる人材です。そうした人材育成のヒントを求める福田に対して小和瀬氏は、「ビジネスパーソンというのは、どんな仕事であれ、やはり夢や信念、志といったものを持つべきだと思っています。しかも、自分のためでなく会社のためにできることを見つけて、単なるHowではなく信念や夢から来るWhyをしっかり持ってやっていけば、やがて周りからも評価されるようになります、グローバルな市場においても夢や信念を持って臨めば、必ず世界に通ずるものがある」と、自身の海外経験に照らして力強く語りました。

さらに各出席者からは、「リアルタイム時代に負けない意思決定のスピードアップを」(岩澤氏)、「さまざまな立場からお互いをリスペクトし、新しいアイデアを出し合うことが大切」(近安氏)、「10年後もお客様に愛される企業であり続けるためにデータ活用を」(藤沢氏)といったメッセージが挙げられました。これに対して福田は「皆様のお話を伺っていると、まだまだ日本はいけると感じる一方、そのための課題も多いとわかります。SAPもぜひその解決のために尽力していきたいと願っています」と語り、80分にわたるディスカッションを締めくくりました。