CFOに期待される新しい役割は「経営と財務をつなぐ力」


2016年3月8日(火)、日本CFO協会の主催による「エグゼクティブ・フォーラム特別号」が開催されました。本連載では3回にわたり、当日の内容をダイジェストでお伝えしています。最終回は、パネルディスカッション「海外成長戦略を支えるグループ経営管理体制の強化」の模様をお伝えします。

パネリストには、元武田薬品工業株式会社 コーポレートオフィサー経理部長/EY税理士法人 シニアアドバイザーを務める高原 宏氏、スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役副社長執行役員を務める昆 政彦氏、SAPジャパン株式会社 代表取締役最高財務責任者を務めるアレシャンドレ・カルヴァリャウの3名が登壇。またモデレーターは、日本CFO協会 主任研究委員、またIAFEI(国際財務幹部協会連盟)のINTERNATIONAL TREASURY COMMITTEEメンバーであり元アジアエリアプレジデントである大田 研一氏です。

グローバル化に向けグループ統合とガバナンスを強化

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大田 研一氏

ディスカッションの冒頭で、大田氏は「本日はグローバル戦略における経営管理とCFOの視点から、組織、人材、システムの3つの切り口でディスカッションしていきたいと思います。その中で、私たちの基本認識としてはっきり言えることは『グローバル化によって経理・財務の役割が大きく変わった』ということです」と話され、これからのCFOに求められる能力は何か、環境の変化(パラダイムシフト)に対してどのような変革(トランスフォーメーション)を起こしていくべきかについて、パネリストそれぞれの経験を基に、意欲的な議論を交わされました。

 

最初のテーマとなったのは、日本企業がグローバル化を進めていく上で必要な組織の変革です。高原氏がまず挙げたのは、グループ全体の包括的な経営視点の重要性でした。

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高原 宏氏

 

「欧米企業がそうであるように、日本企業のファイナンス組織も経営計画に関わる権限を持つようになるべきです。経理と事業戦略、そして広報部門がそれぞれ独立・分散している現在の体制を変え、将来に向けた提言や企画を行える部署として、機能を統合していく必要があります。また、買収した海外企業の管理は現地に任せる傾向がありますが、グループ最適化の視点から見ても、やはりCFOがグループ統合の経営視点を持つべきです」(高原氏)

 

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昆 政彦氏

長く外資系企業でCFOを務めてこられた昆氏は、欧米企業では経営管理、経理、財務の部門が三本柱となってCFOを支えていく組織形態が多く見られると語りました。これらの各部門は持つべきスキルや視点がまったく異なっているために、同じ組織として扱うのではなく、それぞれの力を発揮できる部署を設けて責任を与え、それをCFOが管理していくことで効果の最大化が期待できると言います。

「いずれも企業の意思決定を支える重要な部門ですが、これらすべてを経営者の直下に置いてコントロールするのは無理があります。そこでCFOが間に入り、経営者と各部門をつなげるのがアメリカでは主流です」(昆氏)

新しい人材を育て組織を変革するストラテジーが必要

“”大田氏は指摘します。日本企業における最大の課題の1つである海外企業のM&Aに際して、これを遂行するための人材をどう育成するべきかと問いかけられた高原氏は、失敗を恐れず部下に現場経験を積ませることが有効だと、みずからの経験を振り返ります。

「当時の武田薬品工業にはM&Aの専任部署があり、大きな案件の際には経理部から優秀な人材を抜擢してそのプロジェクトに送り込みました。実地経験を経て彼らも知識を拡げ、自信をつけていったのです。また、必要であれば外部委託も積極的に行うべきです」(高原氏)

“勇将の下に弱卒なし”、つまりリーダーみずからが明確なビジョンを持っていれば部下も育つという例を挙げ、恐れずに修羅場の経験を積ませるスタンスがCFOには必要だと高原氏は語りました。

M&Aを推進する上では、いかにグローバル規模で業務の効率化とコスト抑制を実現するかも重要な課題です。大田氏はその有効解としてシェアードサービスセンターを挙げ、「フォーチュン500企業の多くは、シェアードサービスセンターで大幅なコスト削減を実現しています。M&Aでは単に企業を買うだけでなく、こうした仕組みも活用しなくてはいけません」と指摘します。

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アレシャンドレ・カルヴァリャウ

これについてカルヴァリャウは、SAPのシェアードサービスセンター構築は、トライ&エラーの繰り返しだったと明かします。

「シェアードサービスモデルに移行することでコストを削減し、自動化によるシナジーを得ようと考えて構築を始めましたが、グローバルの標準化にはプロジェクト開始から5年ほどかかり、何度も困難に直面しました。多くの時間を費やしましたが、結果として事業部門からの大きな信頼を獲得できるものに仕上がったのも、こうした試行錯誤から得た経験値があったから。失敗を恐れずに挑戦することが必要です」(カルヴァリャウ)

昆氏もまたスリーエム ジャパンでの経験に触れ、「当社では“コスト削減”ではなく“センター オブ エクセレンス”、つまり単なる節約ではなく優秀な人やリソースを集めてそれらに学び、みんなで利益を上げていく方向を目指しました」と語ります。そのため“シェアードサービス”という呼び名を“ビジネストランスフォーメーション”へ変え、ビジネスそのものの変革と定義したと言います。

「会社全体としての一大方針にできるかどうかが成功のカギ」と、昆氏はポイントを示唆します。

システム統合はM&Aを成功させる重要なキーワード

最後のテーマであるシステムについて、大田氏は「グローバル戦略を進めていく上で、日本企業の多くは経営管理システム、とりわけ財務マネジメントシステムの構築が大きく遅れています」と指摘。加えて、クラウドなどによる大きなトランスフォーメーションをどのように活用していくかが克服すべき課題だと述べます。

高原氏はM&Aに伴うシステムインテグレーションの問題に触れ、「システム統合が実現できないと、既存システムごとに発生するメンテナンス費用が膨らむだけでなく、互換性のないデータでは収集タイミングの遅れも発生します」と指摘します。まさにシステム統合は、M&A実施後のポストマージャーインテグレーション(PMI)の重要なテーマだといえるでしょう。

一方、昆氏はシステム導入を「気づき」のきっかけに活用できたエピソードを紹介されました。スリーエム ジャパンではグローバルで標準化されたERPを導入したことにより、それまで個別に運用されていたシステムやサービスが最適だったのかを考える機会になったと言います。

「そうなると『昔からこうだから』では通用しません。こうした気づきの体験がトリガーとなって、人材も育っていきました」(昆氏)

システム統合による直接効果、間接効果の話題を受けて、カルヴァリャウはベンダーの立場から日本企業が海外に出ていく際のシステムの障壁に言及しました。

「日本国内で実装されたシステムがグローバルの要件に合わないケースは、少なくありません。SAPのERPは、世界各国でのシステム構築実績をたくさん持っています。日本の企業が今後グローバル化を進めていく際には、こうした私たちの経験や製品ノウハウを役立ていただけるよう、SAPでは常に体制を整えています」(カルヴァリャウ)

CFOは経営改善をトップに提言する重要な役割を担う

ディスカッションのまとめとして、大田氏は改めて「グローバル化した経理・財務部門のトランスフォーメーションにおけるCFOの役割とは」とパネリストに問いかけました。

これに応えて高原氏は、「静的な経理部長から、能動的なCFOへの変化が求められる」と述べ、かつての会計中心の経理業務だけでなく、トップの意思決定を支援する重要な役割を担うことが必要だと語ります。

「つまり、①トップに提言をして数字を改善 ②その成果を IRを通じて外部に発信 ③ROE改善のためのグローバルな効率化のプロセス発動 といった、経営層へのサポートや外部とのコミュニケーション、組織間のリレーションの能力が求められてくるのです」(高原氏)

昆氏はCFOの持つ役割を、異なった観点から2つ指摘しました。1つは、経営者の視点と財務の数字をつなぐ能力です。優れた経営者は、他の人には見えにくい市場やビジネスの可能性が見えると言います。この視点を共有して財務という数字に落とし込んでいける能力があれば、より期待される存在になると昆氏はみずからの経験を語ります。

「もう1つは、組織全体の財務リテラシーを向上させることです。すべての社員が数字の見方や、その施策がどう利益に反映するか理解できるようサポートできれば、自社のビジネスにおける経理・財務部門の価値は大きく向上するでしょう」(昆氏)

そしてカルヴァリャウは、企業を改革し、変化に対応させていくことが重要だと強調しました。困難な変化にあえてチャレンジするところに、日本企業のブレイクスルーがあると言います。

「SAPもわずか4年前には誰もクラウドの話をしていませんでした。それが今では世界のクラウドリーダーとして大きな成長を遂げています。市場の変化のスピードよりも、自分たちの変化を加速しなくてはならないのです。私たちは変革を求める日本企業のチャレンジを、精一杯支えていきたいと願っています」(カルヴァリャウ)

最後に大田氏が「自分たちのノウハウを蓄積してきたと思う既存のシステムに固執するのではなく、それらを取捨選択して成長を促す新しいシステムに切り替える試みが必要です。そうした体験を重ねることが、グローバルに通用する組織への変革を可能にするでしょう」と提言を行い、パネルディスカッションを締めくくりました。

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・ 高原宏氏による基調講演「事業展開とガバナンスのグローバル化に伴うCFOの課題」

・ アレシャンドレ・カルヴァリャウによる事例講演「SAPのグローバル成長を支えるファイナンス組織とその変革の軌跡」

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