SAP HANAに合わせたアーキテクチャーの再構築 -在庫およびMRP-
作成者:小野山 忍 投稿日:2016年5月19日
4月に発行したブログ“SAPの次世代ERP SAP S/4HANA Enterprise Management”にて最新リリースである1511の特徴について触れてきました。SAP S/4HANAは、長年ERPのリーディングカンパニーである弊社が、SAP HANAにERPを最適化することで、大量データを高速かつシンプルに扱える次世代のERPとして開発した製品です。前回のブログでも触れた通り、SAP S/4HANAの主要なイノベーションは以下の3点に分類されます。
- HANAに合わせたアーキテクチャーの再構築
- ユーザが業務を遂行しやすい設計
- 周辺からコアに機能を統合
今回のブログでは、1.の「HANAに合わせたアーキテクチャーの再構築」について、在庫管理とMRPを例に従来のERPと比べてどんなイノベーションが起こったかを詳細にご紹介してきたいと思います。
在庫管理
SAPが目指す在庫管理は、モノと情報が一致して、真のリアルタイム在庫に近づけることです。ところが従来のERPによる在庫管理では、日々大量の入出庫処理が発生する場合、以下の原因で真のリアルタイム在庫に至っておりませんでした。
原因1. 複数テーブルの更新(明細テーブルと集計テーブル等)
原因2. 入出庫処理によるテーブルロック
原因1の理由は、従来のERPの仕様では、伝票だけでなくレポーティングや集計目的で多数のテーブルを更新することで、在庫の照会レポート等のレスポンスを上げる工夫をしておりました。一方で、大量の入出庫取引を更新した際に、パフォーマンスの低下にも繋がっておりました。また、原因2の理由は、入出庫処理に応じて在庫の集計・履歴関連の情報を更新する仕様であり、その際に品目マスタをロックしておりました。日中の同タイミングに大量に同一品目の入出庫処理をした際、品目マスタのテーブルロックに起因して、入出庫処理を妨げるリスクがありました。この2つの原因により、例えば完成品の実績計上に伴うみなしでの構成部品の出庫(バックフラッシュ)は、入出庫処理に影響がない夜間にしか実施できないケースがありました。
S/4HANA Enterprise Managementでは、上記の2点の問題を解消し、真のリアルタイム在庫の実現に向け、イノベーションを起こしております。原因1の“複数のテーブルの更新処理”については、資料1のようにデータ構造をシンプル化しております。入出庫処理は単一のテーブルに記録されるのみで、在庫の照会はこの単一のファクトテーブルから即座に集計されて表示するよう開発されました。このような大胆なテーブル構造の見直しを可能にしたのは、SAP HANAによる処理パフォーマンスの大幅な向上により、集計テーブルなしでもリアルタイムで集計し、レポーティングが可能になったためです。
資料1:集約・履歴テーブルの削減(例:在庫管理)
また、原因2の“入出庫処理によるテーブルロック”については、入出庫情報のみをテーブルに書き込み、品目マスタを都度更新しないようロジックを変更しました。その結果、テーブルロックがなくなり、入出庫処理がいつでも可能になりました。
上記のSAP S/4HANAのイノベーションにより、例であげたバックフラッシュのジョブ実行時においても入出庫処理に影響がないため、夜間にしかできなかったバックフラッシュが日中でもできるようになりました。結果として我々が目指す真のリアルタイム在庫管理が実現可能となっております。
MRP
SAPが目指す生産計画は、需給のズレに対し迅速かつ的確に改善策を打つことで、精度が高い計画を維持し続けることです。MRPはその見直し案を提示するうえで、迅速な回答が求められます。ところが従来のERPによるMRPでは、日々大量のデータを対象とした計算を実施した際に、MRPで必要な読み込みをシーケンシャルにて実施することが原因で、迅速な回答を提示するに至っておりませんでした。結果、大量データによる読み込みに時間がかかり、高頻度で計画処理を実行出来ませんでした。
S/4HANA Enterprise Managementでは、迅速な計画実行に向けイノベーションを起こしております。SAP HANAの特徴である読み込み能力を最大限活用することで、いままではシーケンシャルだった読み込み処理が、資料2のようにパラレルでの読み込みが実行できるよう開発しました。その結果、多くのテーブルを同時に読み込みができることで、いままでに比べて読み込みにかかる時間を大幅に短縮可能となり、多頻度でのMRP実行をもとに計画調整が可能となりました。
資料2:MRP実行の高速化
需給調整の迅速化に向けて
従来のERPでは、日中にMRPを実行しても上記で記載した通りリアルタイム在庫でなく、かつMRP計算も時間がかかるため、夜間バッチ処理にて計画を実行し、翌日結果を確認する運用が一般的かと思います。また需給のズレに伴うアラートの確認と調整についても、日中発生した入出庫処理が全て反映されていないので、マニュアルでの対応のケースもありました。
S/4HANAでは、MRPで参照する在庫情報をリアルタイム在庫に近づけることで、正しい情報にもとづいて需給バランスの監視がリアルタイムに行えます。また需給のバランス調整についても、製品の需要変動に対して、日中に複数のMRPシミュレーションに基づき、構成品の将来にわたる需給バランスと手配状況を比較/分析しながら、構成部品の手配数を調整できます。結果として、過剰在庫の抑制や部材の納期遅延等の対処を早め、在庫を適正化するための対策を迅速に実行することが可能となります。
さらに製造現場との情報連携を高めることで、現場も含めた更なる需給バランスの調整と変化対応の強化に貢献できます。同内容については、次週(5月26日)公開予定のブログにてご紹介致します。お楽しみに。
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