SAP S/4HANA時代に求められる製造管理システムとは?
作成者:朝井 由記 投稿日:2016年6月2日
SAPは昨年11月に次世代ERPとしてSAP® S/4HANA Enterprise Managementをリリースいたしました。本リリースではSAP ERPの会計以外の領域も含め、全体をSAP HANAに最適化したものとなっています。本リリースにおける主要イノベーションに関しては、こちらを参照頂ければと思いますが、今回は製造領域における影響を見ていきたいと思います。
読者の中にも苦労された方はいらっしゃるかと思いますが、旧来のERPにおけるパフォーマンスでは、部材や完成品の入出庫、バックフラッシュ等の大量情報処理の為にシステムに高い負荷がかかったり、MRPを回す為に多くの時間が必要だったため夜間バッチで処理せざるを得ないという状況があったかと思います。その為、製造現場においても製造実績をリアルタイムで計上するメリットは限られており、在庫レポートを出力する前やMRPを回す前までに、1日に一回決められた時間までに手入力で実施したり、エクセルで情報入力したものをファイル形式でUpdateするといった対応でも十分にビジネスニーズを満たすことが出来ていました。
こういった状況から、これまでは製造現場で求められるMES要件において、統合性はあまり重視されず、製造実績のレポーティングや分析といった現場の可視化や製造履歴のトレーサビリティの実行といった現場管理の要素が重視される一方で、基幹システムとの連携といった統合性があまり重視されない傾向がありました。
しかし、在庫管理における諸業務やMRPのスピードがSAP S/4HANAでは大きく改善されてきており、製造現場においてもそれに合わせた対応を取ることで更に以下のようなビジネスメリットが享受出来ると考えます。
・製造リードタイムの短縮
・在庫回転率やサービスレベルの向上
・設備稼働率の改善
・MRPの精度向上
・MRPの実行による問題対応アクションの最適化
例えば、製造ラインにおいて半製品の製造が完成した際にそれらの情報がSAP S/4HANAにつながり入出庫処理が迅速に行われれば、その半製品を使用する製品の製造をERPはいち早く指示する事ができ、MESを通じて迅速に製造を開始することにより、トータルでの製造リードタイムの短縮に繋げると共に現場のキャパシティの有効活用や設備の稼働率の向上に繋げることが出来ます。また例えばMRPの高速化により、夜間バッチでなく通常業務時間内でのMRPの実行が可能になれば、現場機械の故障によるキャパシティの減少や納期遅延による部材の不足といった情報をリアルタイムに反映したMRPを実行し、その結果に基づいた対応策を取ることが出来ます。
実際これまでは製造エリアにおける機械の故障や急な人員の欠員、サプライヤからの部品の納期遅延等の問題に対しては、本来であればMRPを実行し対応すべき必要があるようなものでも、時間が掛かりすぎるという点から、MRPは実行せずに現場の方の判断のみで対応していたケースも多々あるかと思います。今後は、これまで人が勘と経験のみに基づいて判断していたものに対して、更にシステムによる対応策の提案等のサポートに基づいた意思決定が可能となり、より適切な判断を迅速に下す事が出来るようになります。
資料:部材の過不足状況のシミュレーションとシステムによる対応案の提示
これらのメリットを最大限享受する為には、これからは製造現場においても今まで以上に基幹システムに対しての実績計上等や現場情報のUpdateにおけるリアルタイム性が益々重要になって来ると考えられます。一方でSAP S/4HANAやMESがどんなに情報を迅速に処理できたとしても、両者をつなぐインターフェースに問題があり実績計上に時間が掛かっていては、これらのメリットを享受することはできません。その為、これからは製造現場で求められるMES要件においても統合性は非常に重要な要素となってくると考えられます。
SAPが提供している製造現場可視化・統合システムであるSAP Manufacturing Integration and Intelligence (SAP MII)と製造実行管理システムであるSAP Manufacturing Execution (SAP ME)ではSAP S/4HANAとの標準連携が可能であり、IDOC/BAPI連携により、品目マスタやBOM、作業手順マスタ等の生産関連マスタだけでなく、製造実績や歩留、検査結果、在庫移動等の生産関連のトランザクションデータに対しても標準インターフェースを通したリアルタイム連携を実現しています。
現在進行中のIoT/インダストリー4.0においてマスカスタマイゼーションは大きなキーワードの一つになっていますが、マスカスタマイゼーションを支えるロットサイズ1の世界においては当然発行される製造指図やBOM情報の増加に伴いERPとMES間のマスタデータやトランザクションデータのやりとりは大きく増えると考えられます。この様にERP-MES間で今後益々大量の情報がやり取りされる様になっていく状況において、SAP S/4HANAとSAP ME/SAP MII間のリアルタイム連携は益々その価値を高めていくと考えられます。
また、SAP MIIとSAP MEは製造現場機器とのインターフェースを保有しており、PLCやSMT、SCADA、DCS、Historian等の現場機器や制御装置から、グローバルで標準的な現場機器との接続における標準規格であるOPCをはじめ、Socket通信やFile連携等様々な方法で直接情報を吸い上げることが出来ます。これにより現場機器からSAP ME/MIIを経由してSAP S/4HANAまでを連携させることが可能となり、製造現場と経営のシームレスな統合を実現します。
例えば製造現場から吸いMES上げたデータを元にSAP ME/SAP MII上で稼働率分析やSPC等の統計分析を行い、その結果をリアルタイムでUpdateしその情報を元に修理等のアクションが必要であれば、SAP S/4HANAから購買発注やサービス指図の発行を行いサプライヤや設備保全業者の迅速なアクションを促すことで、設備の稼働率や品質を含めた総合的な効率化を実現する事が出来ます。特にプロセス産業では設備の生産性が業績に大きな影響を及ぼす為、この様に現場設備から経営システムまでを一気通貫で統合することが出来れば業績の大きな改善が見込めます。
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