先行事例から見えてきたSAP S/4HANAがもたらす効果


2015年11月に発表されたSAP S/4HANA(以降S/4HANAと記載)ですが、その後の導入は、予想を上回るペースで進んでいます。2016年6月時点で既に稼働を迎えているお客様は、216社に上ります。現在プロジェクト中のお客様も合わせますと、なんと1,017社にもなります。もちろん、国内のお客様でも導入は順調に進んでおりまして、プロジェクト中のお客様も含め25社となっています。お客様や導入を担当するベンダー様が、抜本的な業務プロセス改革を目指すS/4HANAのコンセプトやメリットについて、しっかりとご理解頂けた証かと思います。現時点では、新規のお客様がメインになっていますが、今後は現在SAP ERPをご利用中のお客様からの移行も増えてくることが予想されます。
さて、今回はそんな数ある導入事例の中から5月にアメリカ オーランドにて開催されましたSAP最大級のイベント、SAPPHIRE NOW 2016の中で紹介された2つの事例 New York Life(米国)社とSiemens(ドイツ)社をご紹介したいと思います。どちらも興味深い事例となっていますが、New York Life社の事例は、現在SAP ERPをご利用中かどうかに関わらず参考になると思います。一方、Siemens社の事例は、SAP ERPからのマイグレーションをテーマにしており、現在SAP ERPをご利用中のお客様にとって、とても有益な内容かと思います。

New York Life:S/4HANAを活用した新セントラル会計システムの整備

New York Lifeは、ニューヨークに本社を置くアメリカ最大の保険会社です。プロジェクトのテーマは、“瞬時の洞察を可能にする会計システムへの変革“。同社 の置かれている経営環境は、マーケットの動きや法規制の変化に極めて敏感です。 間接業務の効率を上げ、経営の意思決定を支援する情報提供をタイムリーに行う ためには、現行の業務プロセスやコード体系を見直した上で、新システムへの移行が必須であると判断し、2014年にプロジェクトがスタートしました。
実は、SAPとのお付き合いは比較的古く1999年に最初のSAP ERPを会計システム(GL機能)として導入しています。そして、17年間使い続けた結果、勘定科目コードは、14,000、部門コード5,000、配賦ルールに至っては、125,000にもなっていました。また、レポーティング業務は、ほぼエクセルを使った手作業で、経営からの分析指示要求などへの対応は、数週間も掛かっていました。当然、このままS/4HANAへ移行してもプロジェクトの目的は達成できません。まずは、業務プロセスやコード体系の見直しなどを進めました。その結果、勘定科目コードは、4,000、部門コード1,800、配賦ルール1,5000と大幅な スリム化を達成しました。プロジェクトの最初のスコープとしては、総勘定元帳機能と配賦機能、予算策定機能(SAP Business Objects Planning and Consolidation:以降BPCと記載)、レポーティングツールとしてSAP Business Objects Analysis for Microsoft Office(以降Analysis Officeと記載)を採用しています。
レポーティングまでのプロセスは、総勘定元帳へ記録された実績データとBPCで収集される予算・見通しデータをS/4HANAの配賦機能を利用して処理し、それをAnalysis Officeで出力するというものです。ここに、彼らが実感したS/4HANAのメリットが3つ存在します。Captureまず1つ目は、全体的な処理速度です。インメモリ型データベースHANA によって、転記処理、配賦処理、レポーティング処理などあらゆる処理が改善されています。(今回はコード数や配賦ルール数を大幅に削減しているということから新旧のベンチマーキングの提示はありませんでした)
2つ目は統合性です。BPCやAnalysis Officeは、S/4HANAに存在するデータに直接アクセスできるため、従来型のようなマスタや関連データの連携が不要になります。このことは、BPCで収集した予算値をS/4HANAで配賦したり、多次元でのレポーティングをAnalysis Officeで実現しようとしていた彼らには、大きなメリットであり、無駄なシステム連携やハードウェアなどの削減にもつながりました。
そして最後の3つ目は、Analysis Officeでのレポーティングの容易性です。Analysis Officeは、エクセルをユーザーインターフェースとした定型もしくは、非定型レポートの作成に利用することができます。先述で彼らの課題にレポーティング業務が手作業であるということを紹介しましたが、S/4HANAでは、総勘定元帳内で管理される制度会計・管理会計データは、1つのレコードに統合されており、レポート作成や分析(例えば、損益計算書から売上原価の原価構成分析や販管費の部門別分析をダイレクトに行うなど)には、とても好都合なデータ構造になっています。従来はSAP Business Warehouseというデータウェアハウスへデータを連携させて行っていた作業を直接リアルタイムで行え、また、分析やレポート要件が変わった際の対応もとても容易になっています。彼らの事例でもこのような点をメリットとして挙げられています。
2015年7月にプロジェクトは順調に本稼働を迎え、現在、債務管理や固定資産管理領域などの追加導入を進められており、2017年には予算管理(BPC)領域の更なる拡大や連結領域などをご計画されています。
なお、システムの保守運用は、SAP HANA Enterprise Cloudをご利用頂き、システムの安定運用を維持しつつ、IT部門としての更なるイノベーションにも取り組まれています。

Siemens:SAP ERPからSAP S/4HANAへのマイグレーションに関する考察

Siemensは、言わずと知れたドイツの大企業です。グローバル190か国に拠点を持ち、売上高は9兆円に上ります。事業領域は、ライフサイエンス、エネルギー、輸送、ソフトウェア、IoT関連など多岐に渡りますが、基本的には社会インフラ事業を生業としています。今回の事例テーマは、“ERP6.0からSAP S/4HANAへのマイグレーションに関する考察(Proof of Concept)”です。Siemensでは55のSAP ERP(ERP on HANA)を事業や地域の単位で保持し、160,000のユーザーが日々利用しています。会計機能面ではClassic GLという複数帳簿に対応していない総勘定元帳機能を利用しており、今後の事業変革に備え15年から20年近く経ったプロセスやシステム機能の見直しにも迫られていました。そこで、まずはグループの1社を対象にS/4HANAへマイグレーションした場合のメリットや障害について考察を行うPoCプロジェクトが実施されました。今回のPoCでは、4つのプロセス改革の検証が盛り込まれています。
1つ目は、Classic GLから複数帳簿に対応した総勘定元帳機能(NewGL)への移行です。NewGLでは、複数会計基準に基づき複数の総勘定元帳を保持できるため、IFRSなどへの対応手段として広く利用されています。(なおS/4HANAではClassic GLはサポートされないため、NewGLへの移行は必須となります)
2つ目は、会計伝票のオンラインスプリットという機能の実装です。これは、セグメント別や部門別貸借対照表を作成する際に使われる機能で、費目の発生部門別に未払金などの相手勘定科目を部門別などで自動的に按分することができます。Classic GL時代は基本的に夜間バッチにて行う必要がありましたので、オンラインで処理できれば帳簿管理の効率化が期待できます。
3つ目は、決算プロセスの効率化です。バッチ志向の処理をオンライン型に移行することができれば、仕事を前倒しで行うことができますし、システムの運用も軽減されます。今回のPoCでは、エンジニアリング事業特有の工事進行基準(通常は月末・期末の夜間バッチ処理になることが多い)に関するシステム処理について検証が行われました。
そして最後の4つ目が、IT的な側面での効率化です。長期に渡るシステム運用でアドオンプログラムは、肥大化しておりS/4HANAへの移行によって、その数を削減できるかについても期待が寄せられていました。また、マイグレーションにおけるシステムのダウンタイムも気になる点です。何度もシステムを停止することは、難しいため1回のダウンタイムで処理できる手法の検証も行われました。そして、下記がPoCの検証結果になります。事例資料の一部を抜粋し翻訳したものです。結果としては、非常に有益な考察が得られており、S/4HANAへのマイグレーションについての障害は高くなく、更には業務プロセスを効率化できるということが証明されました。Capture2特に目を惹くのは、プロセスの簡素化と多次元でのリアルタイムレポーティング・分析の実現性です。この2つは、先のNew York Life社の事例でも同様のことがメリットとして挙げられており、S/4HANAの有効性が証明されています。また、アドオンプログラムのコード数も大幅に削減できることが証明されました。なんとERP6.0では218,000ラインもあったプログラムコードが134,500ラインに圧縮できるということです。約38%の改善になります。これは、S/4HANAのデータ構造が極めてシンプル(財務会計と管理会計伝票が1つのレコードに統合)になったことにより、わざわざレポートの開発をする必要がなくなったり、プログラムロジックを簡素化できるといったところが大きかったようです。更に、各業務領域においても改善率が提示されています。こちらも事例資料の一部抜粋になります。特に固定資産や工事進行基準対応、決算の領域において高い効果が出ています。何れもこれまでプロセスでは、バッチ処理中心となっていた領域ですので、やはりS/4HANAによるリアルタイム化(いつでも処理できる)には、業務プロセスを効率化し、改革を促進するポテンシャルが証明されたと言えます。

今回のPoCでは、S/4HANAへのマイグレーションについて検証、考察が行われましたが、次の検証テーマとして、S/4HANAのセントラルファイナンスによる効果測定が予定されています。セントラルファイナンスは、グループ各社が保持する会計システム(SAP & Non-SAP)から会計伝票を明細レベルで収集し、グループの統合GLとして総勘定元帳を管理する仕組みです。収集した伝票データを活用してKPI管理や連結処理、予算編成、不正取引分析など多様な経営管理テーマに対応しようというものです。残念ながら今回のPoCでは、次計画の発表のみでした。国内においてもセントラルファイナンスの実装プロジェクトが実施されており、日本企業においても関心の高さが伺えます。こちらは、続報が入り次第、改めてご紹介 させて頂きたいと思います。

さて、今号のブログでは、2つの事例をご紹介させて頂きましたが、如何でしたでしょうか?いずれの事例もこれまでのSAP ERP時代のアーキテクチャでは、実現できなかった効果をあげられています。テクノロジーによって業務プロセスを進化させる良い事例だったのではないかと思います。冒頭でもご紹介しましたが、S/4HANAのプロジェクトは日々その数が増えており、続々と稼働を迎えています。ご検討を頂くのに“まだ早すぎる”という時期は、既に過ぎ去ったと言えるかも知れません。

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SAP Forum Tokyo
Reimagine Business for the Digital Economy  

≪開催概要≫
【日 時】2016年7月29日(金) 10:00~19:30
【会 場】グランドプリンスホテル新高輪
【主 催】SAPジャパンジャパン株式会社
【参加費】無料・事前登録制
【対 象】SAP及びSAP製品にご関心のある全ての方
【詳細・お申し込み】http://forum.sapevent.jp/
【併 催】
■7月28日開催
・SAP HR Connect
・SAP Ariba Commerce Innovation Forum
■7月29日開催
・SAP Tech JAM
≪プログラム≫
第4次産業革命における日本企業が描くべき成長戦略について、またそのために必要なデジタル変革・事業変革を主要テーマとし、国内外の有識者ならびにSAP本社ボードメンバーを迎え、SAPの戦略や新製品、サービス、および先進事例を発表します。本フォーラムでは、パートナー企業とともに多数のセッションや展示を通じて、ITで現実社会を変革するためのヒントをお届けします。