「デジタル化」と「オムニチャネル」がサプライチェーンモデルを変える ~今メーカーに求められるパラダイムシフトとは~
作成者:田中 義幸 投稿日:2016年7月28日
最近は「デジタル化」とか「オムニチャネル」というキーワードを聞くことが多くなりました。こういったキーワードは、小売業界ではとても身近ですが「サプライチェーン」との関係を考えた事がある人は意外に少ないかもしれません。しかし、実際は大きな変化が起きようとしているのです。今回はその辺を深掘りしてみたいと思います。
「デジタル化」と「オムニチャネル」が企業と消費者間の距離を近くした
アナログ時代は、企業から消費者に情報を一方的に発信(アウトバウンド)が中心であり、顧客からの反応(インバウンド)は、店舗など「対面チャネル」を持つ企業に集まっていました。しかし、これらの反応情報は断片的であり、しかも情報をシステムに登録するのに膨大な時間もかかるため、顧客分析の品質もそれほど高いものではなかったわけです。反応情報はタイムリーに収集出来なければ、日々変化する消費者ニーズに対応した商品提案も難しく、結果として、どの消費者にも「同じ内容」を「同じタイミング」で発信する「マス広告」に頼るしかありませんでした。それでも多くのメーカでは少しでも多くの「顧客の声」を集め、商品開発や需要予測を行うために、フォーカスグループの構築や製品アンケートを実施したり、小売や流通業との強いパートナーシップを構築していたのは皆さんご存知の通りです。
そんな時代に登場したのが「デジタル化」と「オムニチャネル」でした。これらがもたらしたイノベーションは「業種を問わず、企業と顧客の距離を近くできること」にありました。「デジタル化」は「消費者から鮮度の高い情報をリアルタイムで収集」するだけでなく「情報を双方向でやりとりすること」も実現可能にしました。また「オムニチャネル」は、情報の伝達をデバイスやチャネル、個人、組織、企業、国の壁をいとも簡単に突破することを実現可能にしたのです。 このブログを読まれている方も無意識で行っていると思いますが、消費者が欲しい商品をWebで検索するとき、消費者は小売りとか、メーカだとかの壁を意識しているでしょうか。Webではそうした壁をいとも簡単に飛び越え世界中のWebサイトを簡単に飛び回ります。そして商品情報、競合製品との比較、価格の比較、実際利用しているユーザの口コミなど、必要な情報をいとも簡単に収集しているのです。こうした消費者の動きは「カスタマージャーニー」と呼ばれています。
カスタマージャーニー:
顧客は必要な商品を購入する際、どのタイミングでどのチャネルから情報を得ればよいかを知っています。また収集した情報は個人で利用するだけでなく、興味を持っているネット上のオーディエンスにソーシャル等を通じて共有されます。チャネルを超え、デバイスを超え、会社を超え、国さえも超えた情報共有をいとも簡単に実現します。
これもデジタル化とオムニチャネルによる革新です。
「デジタル化」と「オムニチャネル」はサプライチェーン構造も変化させている
こうした「デジタル化」と「オムニチャネル」の技術革新は、サプライチェーンにも大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。サプライチェーン上に存在する企業が顧客との距離を縮めていくということは、サプライチェーンのモデルが上流から下流に流れる「直線的なチェーン」から、顧客が中心にあって企業が周りを取り囲む「包囲的なチェーン」に変化することを意味しています。
このようなチェーンモデルの変化によって、従来サプライチェーンでは顧客から遠い位置にいた「メーカ」が顧客との距離を縮めることになり、結果として小売業と同様の鮮度の高い顧客ニーズをリアルタイムで収集可能になったのです。これがメーカにどれだけ大きなメリットになるのかを考えてみたいと思います。
例えば、鮮度の高い顧客ニーズを利用したメーカでは、以下のようなメリットがあると想定されます。
- 商品の研究開発投資の最適化
- 需要予測の精度向上
- 小売りチャネルとの関係強化
- 消費者向けサービスの利便性向上、顧客エンゲージメントの強化
- 企業、業界間を横断したアライアンス促進
しかし、同時に以下のような経営課題に対応していく必要も起こりえます。
- 新しいチェーンモデルを活用したビジネス提案が出来る「組織」の設立や「人財」の育成
- 新しい経営評価指標の検討
- チェーンモデルや顧客ニーズの変化に柔軟に対応出来るITプラットフォームの整備
- 膨大な顧客情報を「蓄積」から「活用」に変える顧客分析や予測分析(機械学習)の検討
- 顧客情報の管理を超えて絆(カスタマーエンゲージメント)を構築するための施策実施
これらの課題はリスクではなく、企業が「正常進化」する際に必要な「経営資源」になるわけです。
「デジタル」と「オムニチャネル」がもたらす製造業メリットの具体例
ここでは「鮮度の高い顧客ニーズを利用した時のメリット」の1つである「消費者の利便性向上、顧客エンゲージメントの強化」に関して、具体的な例を利用して掘り下げていきたいと思います。
例として、まず商品を下記の図のようなカテゴリ分けをしてみます。
商品販売には様々な訴求ポイントがありますが、最初に考えることはコストと時間をかけて販売するべき商品か、ITを活用して出来るだけコストや時間をかけないで販売するべき商品であるかの検討です。
「デジタル化」と「オムニチャネル」を活用するべきポイントとしては、現時点では後者が向いていると思います。なぜなら、小売りの世界ではO2O(Online to Offline)のように、デジタルの世界で顧客と接点をつくり、そこから店舗に誘導して人が対応するといった事もよく行われています。しかし、店舗を持たないメーカの場合は、小売り側へ誘導するか、オンラインに特化した戦略が必要になるからです。
次に考えることは「デジタル化」が有効な商品カテゴリを見極めることです。今回の例では、顧客視点で見た場合、特価品や日用品などは「いかに安いか」「いかに便利に購入できるか」が差別化ポイントであって、商品自体に深いこだわりが持たれないと想定できます。つまり人が対面で対応する必要性が低いということです。こうした取り組みに活用されているのが「B2B向け EC」です。メーカ直販で定期的な利益を得られるだけでなく、顧客企業の購買担当と絆(カスタマーエンゲージメント)を構築することで、潜在的な顧客ニーズの把握も可能になり、必要に応じて営業が直接訪問して高額商材の提案機会も得られる可能性も出てくるわけです。
補足として、SAPではメーカが素早く「B2B向け EC」を立ち上げるために「アクセラレータ」(SAP hybris commerce accelerator)というECテンプレートも提供しております。メーカに求められる標準的な機能が盛り込まれているため短期導入も可能になります。一般的なECシステムの場合、フロントの注文は受け付けても、バックオフィス側の在庫管理や出荷処理、会計処理などは連携する仕組みを構築する必要がありますが、SAPが提供するECの仕組みはSAPのERPと連携させる仕組みも標準でご提供可能になっています。
「デジタル化」時代に対応させるSAPのデジタルコア”SAP S/4HANA”とは
今までのご説明から「デジタル化」や「オムニチャネル」による革新で、サプライチェーンの構造にも変化をもたらし、企業と消費者の距離を近くすることが可能になりました。しかし、メーカが顧客の利便性を考慮した「新しい取り組み」を行う場合、顧客接点を見直すだけでは片手落ちになる可能性があります。フロントの仕組みであるECで手軽に購入出来たとしても、そのバックオフィスで出荷や請求、会計処理などが連携され、最終的に滞りなくお客様に商品やサービスが提供されないと「顧客サービスレベル」は向上させることは出来ません。そして従来からこうしたバックオフィス処理にはERPが利用されてきました。これを「デジタル時代に対応させた仕組み(デジタルコア)」が、次世代のERP「SAP S/4HANA」なのです。
SAP S/4HANAは「デジタル化」最大のメリットである、デバイスや個人や組織、企業間の壁をいとも簡単に突破できる力を最大限に活かすため、様々な技術の見直しがされています。SAP S/4HANAでは、従来からERPで提供されてきた機能のリアルタイムに加え、クラウドやオンプレミス、メインフレームなど様々なチャネルから収集したトランザクションを含む「膨大な顧客情報」(ビッグデータ)を蓄積することが可能になっています。こうした「ビッグデータ」はHANAのインメモリ技術で高速に処理されるだけでなく、蓄積されている情報を「活用」から「資産」変換するためにOLTP/OLAPなどの分析エンジンも標準で統合されているのです。このため、分析にかかるプロセスまで自動化が可能になっています。技術的な実現手段に関してはこちらのブログに投稿されています。
SAPは企業のデジタルトランスフォーメーション支援に関して、フロントオフィスからバックオフィスまでEnd to Endでソリューションを展開しております。今後の進化にも是非ご期待下さい。
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