SAP S/4HANA Sourcing and Procurement による新しい調達・購買改善

作成者:服部 雅介 投稿日:2016年8月19日

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SAPは次世代基幹業務システムとしてのSAP S/4HANAをリリースしました。

SAP S/4HANAでは、SAP HANAデータベースが持つインメモリー技術に最適化し高速性を活かしたアプリケーションが提供され、ユーザーインターフェースにはオープン技術であるHTML5をベースとしたSAP Fioriの利用が増えていきます。また、Ariba Networkに代表されるSAPが提供する企業間連携の為のビジネスネットワークとネイティブ接続をサポートしています。

当寄稿では、このようなSAP S/4HANAを従来のSAP ERPと、調達・購買業務の観点から対比しながら業務ユーザーにどのようなメリットを提供するかお伝えしたいと思います。

SAP ERP MMからSAP S/4HANA Sourcing and Procurementへ

従来、SAP ERP (Enterprise Resource Planning)が調達・購買業務に従事するバイヤーの方々に提供していた機能は主に、MM (Material Management)モジュールを中心に構成されていました。発注機能や仕入先マスターです。

SAP S/4HANAでは、それと従来機能拡張用に利用されてきたその他のSAPソリューションを含めてSourcing and Procurementと呼んでいます。呼び方の違いからもお分かりいただけるように、SAP S/4HANA Sourcing and Procurementは従来のSAP ERPが本質的にカバーする業務エリアから大きくその範囲を広げようとしており、調達・購買業務従事者に提供する機能・価値を広げています。

SAP S/4HANA Sourcing and Procurement

SAP S/4HANA Sourcing and Procurement

 

従来では、調達・購買業務従事者が日々の業務で必要なあらゆる機能を構成しようとした場合、SAP ERP MMに加え、SAP SRMやSAP SLCといった種々の拡張ERPソリューションを組み合わせて実現する必要がありました。

[ SAP ERPに加え、調達・購買業務を支援する拡張ERPの代表例 ]

  • SAP SRM (Supplier Relationship Management) : より広い現場部門からの要求を集約し集中購買化を進める拡張ERP
  • SAP SLC (Supplier Lifecycle Management) : SAP ERPが持つ仕入先マスターの情報を調達・購買業務従事者の視点から拡張し、グループ・グローバルでの統合的なサプライヤーデータベースを構築する拡張ERP

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementでは、テクノロジー面での進化を活かしながら、上記のような拡張ERPが担っていた業務カバレッジとそれぞれが提供する機能の良い所を取り込み、調達・購買従事者が本来基幹業務システム上に必要とする機能と価値を提供します。

 [ SAP S/4HANA Sourcing and Procurementのテクノロジー面での進化 ]

  • SAP Fioriによる新しいUser Experienceの提供
  • SAP HANAデータベースに最適化された機能
  • Airba Networkとのネイティブ連携

それでは、従来と比較し、どのような進化がSAP S/4HANA Sourcing and Procurementで行われているか、具体的に紹介いたします。

SAP Fioriが調達・購買従事者のロールとニーズに合った業務環境を提供します

SAP Fioriは、HTML5を基本技術としたSAPが提供する新しい標準ユーザーインターフェースです。SAP S/4HANAの成長と共に提供される新しいSAP Fioriアプリケーションは増えており、それはSourcing and Procurementの領域でも同様です。

SAP S/4HANA Sourcing and ProcurementではじめにリリースされたSAP Fioriの活用シナリオは、Self-service Procurementと呼ばれる一般従業員による購買申請・承認・供給元の特定割当・発注に至る、いわゆる間接材購買の為のワークフロープロセスです。

間接材購買では一般に、生産計画と直接連動せず、多様な従業員が、多目的で、多様な品種の資材を、多様なサプライヤーから購買するという特徴があります。直接材購買と比較するとその支出ボリュームが少ない割に相当量の業務トランザクションが発生する為、幅広い一般従業員に利用され業務定着化が図られなければ、これらの情報を統一的に管理、捕捉できません。捕捉できなければ、結果として無用な支出とコンプライアンス違反を誘引してしまうのが課題です。

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementではこういったニーズ・課題に対し、SAP Fioriを活用したユーザーインターフェースの刷新を行うことで解決するアプローチをとっています。

具体的には、ウェブブラウザ上でスムースに機能する申請画面やステータス画面、内部・外部で提供される商品カタログリポジトリとの連携、またその横断検索機能の提供によって利便性の圧倒的な向上を図っています。SAP Fioriはあらゆるウェブブラウザ上で起動する為、結果として手近にあるあらゆるデバイスで利用することができ、一般従業員だけでなくサービスエンジニアや工務部門担当者などの様々な利用者による都度の購買申請の実行が、時と場所を選ばずに行えるようになります。自分が必要とするアイテムは、内外のウェブカタログと連携したSAP HANAの検索機能を利用し瞬時に必要なものを見つけ出すことができます。一般従業員は手元のスマートフォンで、検索・カートにチェックイン・申請登録と3ステップで必要なものを購買申請できるといった具合です。

SAP FioriとAriba Catalog 活用したSelf-service Procurement

SAP FioriとAriba Catalog 活用したSelf-service Procurement

 

従来、このシナリオをSAP ERP MM上に実装する為には、SAP SRMを追加インストールしパラメーター設定を行う必要がありました。もしくは、独自にウェブアプリケーションを開発し、SAP ERPとシステムインターフェースを行っていたユーザーも多くいました。SAP S/4HANA Sourcing and Procurementでは、それらはもう必要なく、SAP SRM連携で必要とされたたマスターやトランザクションの連携・二重持ちも必要なくなります。

SAP Fioriを活用したもう一つのシナリオはContract Managementです。

契約条件の管理・更新業務は直接材購買・間接材購買の双方において、適切な価格条件の徹底とコンプライアンスの徹底の観点から重要な業務テーマです。しかしながら、従来のSAP ERPでは、契約条件一覧を表示するまでにクエリーと複数画面遷移を経る必要があり、更新処理にはまた別の画面を利用する必要がありました。調達・購買業務従事者の管理効率を十分に引き出せていなかったと言えます。

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementでは、自社がサプライヤーと取り交わしている購買条件を契約伝票として保持します。これは従来のSAP ERP MMと変わりませんが、これらの契約伝票が情報として持つ数量消化進捗、有効期限などの情報を一覧性と直感性の高いコックピット画面上でバイヤーに提供できるようになっています。SAP Fioriにより、ユーザー自身がモニターすべき契約伝票・契約条件が常に可視化され、更新タイミングへの気付きと容易な更新処理機能を提供することで、Insight to Actionのサイクルを加速できるようになっています。

SAP FioriによるContract Management Cockpit

SAP FioriによるContract Management Cockpit

 

[ ココがポイント! ]
・ SAP Fioriでは、業務ユーザーが期待する処理の流れに合わせた操作性を提供しています。

SAP HANAが調達・購買従事者のニーズに合ったKPIを瞬時に提供します

調達・購買業務従事者は、企業全体の支出低減を効率よく実践していく為に様々なKPIを日々モニターしていますが、多くの現場で見られる実態はKPIをモニターしているのではなくKPIレポートを一生懸命作っているということです。

従来、調達・購買業務従事者が見たかった各種指標・KPIは、基幹業務システムから見たい切り口で、見たいタイミングに見ることができませんでした。これは、調達・購買実績を基幹業務システムから一旦DWHソリューションに移管し、そこで作られたレポートではじめて閲覧できるといったアプローチをとっていたからです。

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementは、DWH機能を別途設けることなく、SAP HANAが持つ高速性を活かすことで基幹業務システムとしてのSAP S/4HANA上で即座に情報を集計し、その分析画面を調達・購買業務従事者に提供する事が可能になっています。

ここまでお話してきたように、SAP S/4HANA Sourcing and Procurementは、従来と比較し幅広い調達・購買業務をサポートできるように機能再配置されていくことで、直接材購買だけでなく間接材購買も取り込み、従来よりも包括的なサプライヤー情報の管理などが行えるようになっていきます。扱える業務エリアの広がりとともに、より包括的な情報蓄積と可視化がSAP S/4HANA Sourcing and Procurement上でワンストップで実現します。

[ ココがポイント! ]
・SAP S/4HANAに蓄積された情報を業務ユーザーが期待するタイミングで即座に集計して可視化できるため、KPI管理を省力化し洞察を容易にします。

SAP S/4HANAに組み込まれた分析機能とKPI の可視化

SAP S/4HANAに組み込まれた分析機能とKPI の可視化

 

Supplier Networkとの連携が調達・購買従事者のサプライヤー政策にスピードを提供します

従来、調達・購買業務従事者は、企業内部のオペレーション自動化や効率化に取り組んできました。その後、業務改善の範囲はサプライヤー側との連携処理にも及び、EDIやいわゆるウェブEDI、自動メール連携などの方法でサプライヤーとの独自の連携基盤を構築してきました。しかしながら、いずれも十分とは言えないというのが実態です。

例えば、基幹システムとメールやFAXの連携活用が一般には広がりましたが、必ずしも効率的とは言えずセキュリティに課題感をもつ企業もいます。自前のウェブEDI環境を構築した企業では、運用が継続できず時間と共に置き換えが発生しその都度サプライヤー側の理解を得る為の工数を割くといった維持の難しさを抱えています。業界標準EDIは一時大きな普及の可能性を感じさせましたが、産業間の壁は時代と共に薄れつつあり“業界で”標準というコンセプトが今では十分なものとは言いづらくなってきています。

これらのような従来型の企業間連携の課題を解消するのが業界横断でオープン化されているSupplier Networkサービスの活用であり、グローバルでの連携技術のトレンドです。SAP自身も、接続企業数が220万社を越える世界有数のSupplier NetworkサービスであるAriba Networkを提供しています。

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementでは、このAriba Networkを介したサプライヤー各社との受発注連携をデータ変換などの中間処理無く行えます。世界最大規模のSupplier Networkサービスに接続出来ることで、調達・購買業務従事者に、ITシステムが足枷とならないサプライヤー政策(取引の維持、新規取引の開始、サプライヤーの切り替え、取引の停止といったサプライヤーとの受発注連携を含めた戦略)の実行環境を提供できます。

特に、Ariba Networkには非常に多くの登録サプライヤーがいるだけではなく、まだ取引のない潜在サプライヤーとの取引開始に至るまでの手続きを効率よく処理していく為のアプリケーションが用意されている為、自社にとって最も良いQCDを提供するサプライヤーを効率よく見つけ出し、取引が開始できるコンディションに移行させる(受発注連携環境にオンボードさせる)ことが可能となります。

[ ココがポイント! ]
・オープンな企業間受発注連携サービス (Ariba Network)との接続により、スピーディな取引関係の構築、サプライヤーの柔軟な切り替え、コミュニケーションの効率化を図ることができます。

SAP S/4HANA(バイヤー企業) -AribaNetwork-サプライヤー

SAP S/4HANA(バイヤー企業) -AribaNetwork-サプライヤー

 

また、従来のSAP ERPでは、Ariba Networkとの間で行われるデータ変換にはEDIサブシステムとしてのSAP PO (Process Orchestration) / SAP PI (Process Integration)を準備・構築するなどの必要性がありましたが、SAP S/4HANAではそれが必要なくなり、TCOの観点からも効率性が改善しています。

まとめ

当寄稿では、SAP S/4HANA Sourcing and Procurementが新しいテクノロジーを活かし、どのように従来のSAP ERPで提供できなかった価値を提供できるようになったかをお伝えしてきました。

  • SAP Fioriにより業務ユーザーのロールとニーズにマッチした操作環境を提供します
  • SAP HANAの高速性を活かし、業務ユーザーのInsight to Actionを向上します
  • Ariba Networkとのネイティブ接続により、サプライヤー連携工数を縮小し、サプライヤー政策に機動力を提供します

SAP S/4HANA Sourcing and Procurementは、従来の調達・購買従事者が抱えていた痒いところに確かにリーチできる調達・購買ソリューションであり、次世代基幹業務システムです。

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